開戦を前に
久々登場キャラ解説
・スーリオ
獅子人族の若者、男、ディアス相手にやらかして再教育を受けることになり、それからちょくちょくメーアバダルに来るようになった
・グリン
猪人族の若者、男、スーリオと同じくやらかした、同じく来訪したメーアバダルで大メーアの奇跡を目にし、それからは敬虔な信徒に、よく神殿でベンディアの説法を聞いている
――――マーハティ領のある平野で エルダン
着実に開戦のための準備が進む中でエルダンは、複雑な思いを抱えていた。
憧れた英雄ディアス、隣に立って戦ってくれるだろうと思っていた友人……しかしディアスの決断は参戦をしないというもので、それはエルダンにとっては心を揺さぶられる出来事だった。
どうにか説得出来ないか、どうしたら良いのか、あれこれと考え悩んでいたが……しかしディアスは敵対した訳ではなく、心情としては味方をしてくれていて、敵対しないことと食料などの支援を確約してくれていた。
ならばそれを喜ぶべきなのだろう、メーア教という新しい道を作ってくれたことに感謝すべきなのだろう。
そう考えて日々を過ごしていたエルダンの下にある日届いたのは、ディアスの手紙に関する報告だった。
各地に送られた手紙とその影響……武力ではなく対話による敵になったかもしれない勢力の切り崩し。
それがこれ以上ない形で成功したとなってエルダンは、本当に何とも言えない気分となることになる。
自分の隣でそれをして欲しかった、隣に立って欲しかった。
そうしたなら悩むことなく真っ直ぐに突き進んでの快勝が待っているはずなのにと、思わずにはいられない。
しかし今回の決断はディアスらしいものであり、だからこそ手紙が今回のような効力を発揮していて……都合良くどちらもという訳にはいかないのだろう。
ならば飲み込むしかないのだろう、これから自ら行く道を思えばそれくらいは飲み込める男でなければ話にならないのだから。
そんなエルダンは今、平野で軍を前に堂々と立っていて……そしてエルダンを前にしてマーハティ軍は今日のための鍛錬の成果と、自分達なりに考えた軍の編成を披露していた。
エルダンの右にはジュウハの姿があり、左にはカマロッツの姿があり。
そんなエルダンの軍には一つの課題があった。
それは各獣人を別々に運用するか、混成として運用するかという議論に決着がついていないことだった。
各獣人ごとに運用する方はシンプルだ、それぞれが得意とする場を任せて状況によって使い分ける。
混成の方はそう簡単にはいかないが、全く別の力を持った獣人が連携することで生まれる新たな力、戦法というものがある。
どちらにも利点と欠点がある……どちらが優れているかを何度も演習をすることで結論づけようとしていたが、現状時間が足りず結論には至れていなかった。
ジュウハは別々に運用する方を支持していた、人間族だけの軍でも歩兵、槍兵、弓兵、騎兵と分類し運用するものだ、獣人だからと言ってそれを無理に変えるのは危険だろうと考えていた。
更には時間が足りない、混成軍という新戦術を試すにはまだまだ演習が必要で、今回の戦いに使うには未熟過ぎるとも考えていた。
カマロッツや各獣人の族長達は混成を支持していた、多少の困難があるとしてもその方が獣人だけの強さを得られるはずだと考えていたし、獣人亜人に対する差別撤廃を目指すエルダンの思想にも合致していた。
そうなればエルダンが決断しなければならない、どちらかから批判されるのだとしても、それを受け入れて選ばなければならない。
こういう決断の際にもディアスがいてくれたらと思うが……それは自らの弱さなのだろうとエルダンがその思いを飲み込んでいると、ジュウハが声をかけてくる。
「ディアスならばスパッと決断をするのでしょうな。
ただの直感で、深く考えず……そしてそれは大体の場合正解なんすがね、時たま失敗することもあるんですよ。
だけどもディアスはそこで終わらない、失敗したならすぐさま立て直そうと自ら動き……そうして結果として正解だったということにしちまうんです。
失敗を失敗のままでは終わらせない、一度選んだ以上はその責任を取り切る……その覚悟が出来るかどうかという話なんでしょうな」
「……分かったであるの。
……では今回はジュウハ殿の案を採用するであるの。
だけども混成案も一部採用するであるの、先行偵察、奇襲、撹乱などを目的とした混成部隊を特別に編成して、試用と言う形で運用することで実戦の中で確かめていくことにするであるの。
混成部隊の指揮はカマロッツが、主軍の指揮はジュウハ殿が。
各族長については希望する側の補佐として頑張ってもらうことにするの」
ジュウハの言葉を受けてエルダンが出した結論は、そういった内容だった。
これをジュウハは満面の笑みで受け入れ、カマロッツは粛々と受け入れ、また耳を立てて話を聞いていた、少し離れた位置で待機していた族長達も頷く。
これから起こる戦いがどうなるかは、エルダンにもジュウハにも読めなくなっていた。
その理由はディアス。
圧倒的に不利だったはずの状況を有利に傾けてくれたディアスだったが、その動きは全く予想外のもので……協力を拒否した以上は積極的に動かないと思っていたディアスが動き続けているというのが、予測を難しくしていた。
このまま味方でいてくれるのか? 良い結果ばかりをもたらしてくれるのか? もしかしたらどこかで凄まじいことをやらかすんじゃないか?
そんなことを思わずにはいられない。
……ああ、それで思い出したとエルダンが口を開く。
「一つ、これは全員、兵士1人1人全員に伝えておく必要がある話をするであるの。
規律は絶対重視、破る者は即死罪とするであるの。
……ディアス殿がこれからの戦いに興味を持っている現状で、規律を無視した行動をすればその途端、ディアス殿とメーアバダル、メーア教が敵に回る可能性があるであるの。
ディアス殿の逸話を知らぬ者はいないと思うけども、この話と同時に再度知らしめておく必要があるの。
ディアス殿の怒りを買ったならば最後、我が軍はどんな手を打とうとも敗北するしかなくなるであるの。
スーリオとグリン、メーア教の教えを受けている2人はその辺りの統制をお願いするかもしれないであるの。
……メーアバダルと縁深い2人に大きな権力を与えることでメーアバダルへの誠実さを示したいと考えているであるの」
それを受けてカマロッツはただ頷き、ジュウハはアゴに手を当てて少し悩んでから頷く。
カマロッツは主人の言葉にただ従い、ジュウハは規律重視自体はありがたい話で反対する理由もないと考えてのことだった。
そして各族族長は……それぞれ、好意的な反応が大半だったが一部は顔をしかめている。
これを機に差別感情の激しい地域にやらかしてやろうと考えていたのだろうか、そんな表情の変化をエルダン達は見逃さず……特に注意すべき種族をしっかりと把握していくのだった。




