影響と立身
――――王国各地で
ディアスが各地に送った手紙は、ディアスが思っていた以上の影響を与えることになった。
そもそもとしてある程度の力ある貴族達は、王都の異変に気付いていた。
王の不在、リチャードの急な方針転換、ギルドの突然の活動停止、各地から放たれていた密偵の突然の撤退。
こうした情報の全てだったり一部だったりを手に入れた貴族達は、何かが起きているのだろうと察し、わざわざ危険に近付く必要もないだろうと考えて自然と王都から距離を取るようになり……それがまた新たな噂を呼び、王都から距離を取る貴族達の数は日に日に増えていっていた。
同時に王都で一体何が起きているのか、情報収集に励むようになる……が、真相が全く見えず、それがまた新たな噂を呼び起こした。
そんな状況にあっての新公爵の手紙、真相に触れるような内容ではなかったものの、その内容は明らかに王都で何が起きているかの真相を知っている前提のものとなっていて……それを受け取ったサーシュス公爵とシグルザルソン伯爵は、王都で起きている何かが予想以上の危機であるということを察する。
また同時に二人はあることにも気付いてしまう。
「なるほど、陛下はメーアバダルか」
と、サーシュス公爵。
「陛下はご無事であったか」
と、シグルザルソン伯爵。
それぞれ自室で、受け取った手紙を読み終えての独り言で……彼らは遠方のメーアバダル公爵が王都の事情を何故知っているのか? という疑問の答えを、逃げ出した王が伝えたのだろうと、そんな閃きを得ることになる。
それは事実からはそれなりにズレている内容だったのだが、国内のどこを探しても王が見つからないという事実と、船で逃げたという噂が真実であるとの補強をしてしまい……更に情報収集に励むと、メーアバダルに出入りをしている商人から似た顔の老人を見たとの情報が入り込んできてしまい、2人にとっては事実であるとの確定が成されてしまう。
「……薬か魔法か」
サーシュス公爵はそう考えた、何らかの力でリチャードが傀儡となったのだろうと。
「……人質か」
シグルザルソン伯爵はそう考えた、逆らえない何かを握られたのだろうと。
同時に2人はそういうことなら王都には手を出さないようにしようと決めて、自らの派閥の貴族達に手紙を送り始める。
主犯は新道派、卑怯卑劣な手でもって王を操り人形にしようとしたが、それを察知した王は信頼出来る貴族の下に逃亡、後を引き継いだリチャードがその手に落ちた。
これが王であったなら救出の義務が発生するがそうではなく……被害に遭ったのは立太子した訳ではないただの王子。
それでも救出はするべきなのだろうが、今優先すべきは王家の血を絶やさないようにするということで……それぞれ保護しているイザベルやヘレナの下で団結すべきだ。
よって今は下手に動かず自重するように、特に王都には近付かないように、王都周辺からの誘いや協力要請は無視するように。
と、そんな内容の手紙を。
2人にとってリチャードの失脚は利であって損ではない、それぞれ王家正統の血を引く王女を擁しているのだから願ったり叶ったりである。
ディアスの想定とはかなり違った形になってしまったが、結果はディアスの望んだ通りとなり……これで北部と東部の不干渉が確定となった。
エルダンが物資をかき集め、軍を編成し、どこかに出撃しようとしているという情報が入っても2人が動くことはなかった。
若い公爵が王子を助けなければという正義感に逸ってしまったのだろうと見なして、不干渉を徹底した。
この頃から王都の兵士や騎士団直轄領を統治する騎士から、王都やリチャードの様子がおかしいから調査をして欲しい、助力をして欲しいと要請が入るが、こちらも無視する形で不干渉を徹底した。
たかが兵士や騎士の要請に耳を貸す理由はなく、事情を察しながらも徹底した。
王族を擁する二大勢力のその動きに、他の貴族達も事情はよく分からないが、そうした方が良いのだろうと追従する形となり……結果として兵士や騎士達は途方に暮れることになる。
リチャードの様子がおかしく、王が不在……貴族は頼りにならず、各地の公爵は不干渉、一体どうしろと言うのか……。
こうなったら恥も外聞もないと相手を選ばず各地に要請を行い……しかし期待していた答えはなく、王都は少しずつ混乱に包まれようとしていた。
首脳陣が機能停止しつつあり、王都の各所を支えていた貴族が一気に数を減らし、治安にすら悪影響があり、人心はどんどん乱れていく。
兵士も騎士もなんとかしようと動き回るが統制がとれていないので上手くいかず、誰もがどうにかしてくれと、そんな熱望をしていくことになる。
そんな時に現れたのが第三王女ディアーネだった。
何をどうやったのか2000を超える兵力と共に凱旋、あっという間に治安を回復し実質的な城下町の主として手腕を振るい始めた。
内政などについては未熟な上に見当外れ、褒められたものではなかったが、足りない部分は部下達が補い、治安維持など指揮能力が必要とされる場面では大活躍。
ディアーネはここにきて王都における一大勢力へと成り上がっていった。
……しかしディアーネは決して王城には近付こうとしなかった。
野生の勘なのか、それとも噂を聞いていたのか……あるいは自分を見捨てた家族を嫌ってのことなのか。
とにかくディアーネは王都にあれど王城には近付かず、王族としてではなく一人の将として振る舞い、崩れかかっていた王都を見事に立て直していった。
そして意外なことではあるが、時たま王城から下される命令にも素直に従ってみせた。
どこそこに賊がいる、モンスターが現れた、貴族に反乱の兆しあり……それらに対処せよ。
そういった命令が届くとディアーネは素直に従って出陣、見事に戦果を上げていくことになる。
それでも、褒美が出るとなってもディアーネは王城に近付くことはなく、部下をただ派遣するのみ。
その意図はどこにあるのか、一体何が目的なのか、それは王都で暮らす人々にも王城で働く人々にも、ディアーネの下で働く部下達にも分からないことだったが、それでもディアーネの力は王都に欠かせないものとなっていく。
そうして自らの居場所を作り上げたディアーネは、その時が来る時まで力を溜め込み続けるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
覚醒ディアーネ。
続きはエルダン達視点になる予定です




