サンセリフェ王国の今
改めてこの国、サンセリフェ王国の勢力を整理するとこうなる。
まず最大権力者は国王で、最大戦力も国王直下の正規騎士団となる。
元々はそこまでの戦力ではなかったらしいのだけども、あの戦争で戦力増強が行われ、戦後リチャード王子の改革もあって騎士団直轄領なども整備されて、軍事的にも経済的にも最大の勢力となっているそうだ。
同時に戦争で全くの役立たずだった貴族の領地は厳しく削り取られて、軍事的にも経済的にも困窮しているんだとか。
また王宮に仕える兵士達もいて、これは騎士団とはまた別の軍事力となる。
クラウスが所属していたのはこれになり、もしクラウスが順当に出世していたら騎士として騎士団に入団していたのだろう。
これは主に王都の警備や防衛、治安維持を目的としているので余程のことがなければ王都を離れないそうだが、先の戦争ではほとんどが王都を離れていて……騎士団に次ぐ戦力となっている。
国王の次に権力があるというか偉いのは、王子王女ではなく八大公爵となる。
私やエルダン、サーシュス公爵を含む8人の公爵が偉いということになっている……が、このうち4人が先の戦争の失策、不参戦などで相当な罰則を受けたとかで、勢力としてはかなり弱体化しているらしい。
エルダンも父親の不参戦でそうなるはずだったが、ドラゴン素材の献上などで上手く対処して罰せられず、逆に勢力を増加させて公爵の中でも一番か二番の勢力となったが、それでも騎士団の半分程の軍事力でしかないそうだ。
エルダンか、帝国領土の多くを手に入れたサーシュス公爵のどちらかが一番で、逆に私は一番下となる。
最近一気に領民が増えたが、それでも各公爵に比べれば街一つ分にもならない数で、1人1人が強いと言っても限度があり、公爵より下位の侯爵や伯爵よりも更に下、男爵相当の勢力ということになるようだ。
こんな感じで公爵と言ってもかなりの落差がある状態だが、それでも公爵と言う爵位は特別な力を持っているので、侮れないらしい。
公爵より下となると単純な比較は難しいらしい。
凄い伯爵もいれば駄目な侯爵もいる、特に戦争という一大事を乗り越えたばかりの今は爵位による序列もあまり機能していないとかで……という訳でここからは各地域ごとに勢力を考えていくことになった。
まずは最西部。
これは言うまでもなく私達、メーアバダルのことだ、更に西部と言えばエルダン達のマーハティも含む。
そして西部と言えばエルダンの父親達が作った西方商圏という、独自のルールでの商売をしていくための、同盟のような約束で結ばれた関係となるそうだ。
自分達のルールで行える商い程に儲かるものはない……とのことで、国内随一の経済力となっているそうだ。
しかしその資金全てが自由に使える訳ではなく、儲けの大半が投資に回されていて、資金があるからと十分な軍事力があるという訳でもないようだ。
だけども裕福で、その財を守るための戦力はしっかりあって。
西方商圏という大きな枠で見て、その戦力全てを合計すると正規騎士団と互角程度の戦力があるらしい……が、商売で協力しているからといって軍事で協力出来るかはまた別の話で、普段から仲が良いとも悪いとも言えない複雑な関係となっている辺りを見るに……まぁ、軍事協力は難しいのだろうなぁ。
次に北部。
北部の代表はシグルザルソン伯爵、第二王女ヘレナと組んであれやこれやとしていた人物で、芸術の守り手として有名な人物だ。
文化芸術での振興を是としている同盟を組んでいて、これは西方商圏と違って結びつきが強く、実質的に軍事同盟のような形となっているようだ。
厳しい環境で生きる人々だからこそ手を取り合って協力していこうという想いがあるのかもしれない。
この北部同盟が全力で動けば一大勢力となり、正規騎士団をも上回る勢力となり得るが、北部同盟のどこもそんな欲は持っていないし、北からやってくるモンスター対策を最優先しなければならない土地柄からもありえない話で、凄まじい勢力だけども他所には手を出してこないと確信を持って言える勢力なんだそうだ。
東部はサーシュス公爵が盟主。
第一王女イザベルと組んで最近は王国内部よりも帝国に目を向けている……とかなんとか。
この東部という言葉がやや面倒くさいのだが、元々は王都辺りのことを東部と呼んでいたようだ。
正確に言えば東部の西寄りに位置していたのが王都だったらしい、しかし帝国の領土を得た今、王都は中央部に分類すべき位置となっている。
だからなんだという話ではあるのだが、年嵩の者達にとって『東部』と言えば『王都』なので、時たま変な誤解が生まれてしまうようだ。
そんな王都よりも東に位置する、元々のサーシュス公爵領と元帝国領を合わせた一帯である東部はサーシュス公爵が厳しく取りまとめている。
サーシュス公爵は戦争で一番多くの血を流し、一番多くの資金を投じた公爵だ、逆らえる者などいるはずもなく、それでも逆らえば武力行使が待っている。
他人に厳しく、自分にはより厳しく……そんなサーシュス公爵に逆らえる者はいないとかで、実質的に東部はサーシュス公爵の支配下に置かれている。
残るは中央部だが、これは簡単には説明できない領域となっているようだ。
まずは王都と国王直轄領、これは国内で一番災害が少ない地域にあり、港も近く街道も完璧に整備されて、経済力もかなりのもの……中央部に位置してはいるがこれらは特別な扱いとすべきだろう。
そんな国の中枢に近い地域に……国内貴族の8割以上が領地、または屋敷を持っていての貴族まみれ、領地も頻繁に売り買いがされているから、地図は毎年書き換えられているそうだ。
多くの貴族が入り混じって暮らしているために、一つの勢力としてのまとまりは一切なく、毎日のようにトラブルが起きては領地と貴族としての縁までが書き換えられているとかなんとか。
そういう訳なので中央部は勢力とは見なさない、まとまりきることのない混沌……だからこそどこかの勢力に付くというのはありえないそうで、戦力として見なす必要はないらしい。
……が、ここにはそういった揉め事を商機としている傭兵達がかなりの数いるそうで、騒動が起きたとなれば、そこら中に散らばって各地の戦力となることだろう。
そして恐らくエルダンとリチャードがぶつかるのなら、その中央部が戦場となることだろう。
エルダンもリチャードも自分達の本領での戦いは望まないはずで、更には日和見に徹するだろう中央部の貴族を巻き込むためにもそこに進軍するはず。
実際に両者が進軍するのか、本当に開戦となるかは分からない、しかし新道派や聖地に至った何者かの動きから推察するに、そうなる可能性が高い。
マヤ婆さんもエイマもヒューバートもチャイもエグモルトも……そして隣領にいるジュウハもそう考えて準備を進めている。
何なら小メーアすらその可能性を否定していない。
私達が海路で、鬼人族が陸路で向かう先もそことなる。
北部や東部に手を出せば余計な敵を作るしかなく、西部は完全な味方……他にも南部と呼ばれる地域もあるのだが、そこはほとんどが王家や騎士団の直轄領となっていて、王家の弱体化などを狙うのならそこを攻撃しても良いのだが、今起きようとしている騒動は王家に責任がある話でもないので、そうすべきではないだろう。
つまりは中央部くらいしか狙える場所がないとも言えた。
そんな話し合いを、今回は神殿最奥で行うことになり、今回は代表者だけでなくゾルグも参加しての戦略会議みたいなものとなっていた。
「……本当に北部も東部も動かないのか?
そこが王子に協力したら大惨事になるんじゃないか?」
そんな会議の場で、エイマ達が先程の内容を分かりやすく、地図や肖像画付きで説明してくれた所で、そのゾルグが早速声を上げてきた。
それを受けてテーブルの上に座ったエイマがちょこんと手を上げて、私が頷くとそれを受けて口を開く。
「まぁ、動いたら動いたで困るのはエルダンさん達ですし。
ボク達はボク達のやるべきことをやれば良いんです、あちらもあちらの都合で動く訳ですから。
もちろんゾルグさん達もゾルグさん達の都合で動いて良いんですよ、こちらからどうこう強制なんてして良い訳ないんですから」
「……なるほどね、そりゃそうか。
そう言われたからって好き勝手やるつもりはねぇよ、迷惑はかけたくねぇからな。
何しろ王国の中枢に一泡吹かせる機会をもらえたんだからなぁ、鬼人族としちゃぁそれだけで十分、文句はねぇよ。
王国貴族公認で一暴れ、手に入れた物資は好きにして良くて、その後の責任も取ってくれるとなったならな、命令には従うし手下として振る舞うくらいはなんでもねぇよ。
獣人国の時のように稼げて、獣人国よりも楽しい時間が待ってるんだ、今から楽しみで仕方ねぇってな。
話を聞いて皆で話し合ったがな、誰からも文句はなかった、むしろ感謝の声が多かった……本当にお前らには感謝してるよ」
なんとも軽い調子だが、ゾルグの声には力が込められていて、本当にそう思っているだろうことが分かる。
そして他の皆もまた今回の騒動に本気で挑もうとしていて、ここからが本番だと私達は更に話し合いを進めていくのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は話し合いの続きとなります




