今後の話し合い その2
翌日、昼過ぎにジュウハが到着した。
馬に相当無茶をさせて駆けてきたようで……こっそりと安産絨毯を使った上で、その馬の世話はアイセター氏族に任せることにした。
そして話し合いは皆で行うつもりだった……のだが、ジュウハがその前に私と一対一で話し合いたいというので、まずは2人で話し合いを行うことになった。
酒場の奥の会議室で机を挟んで向き合って座り……机に肘をどんと置いたジュウハは前のめりとなって口を開く。
「エルダン様は軍を起こすつもりだ」
こういう風に前のめりとなったジュウハは戦争中に良く見かけていた。
私と意見をぶつけ合った上で絶対に譲るつもりはないぞと、そういう時にジュウハはこれをやってきていた。
「馬鹿なことを言うな」
ならばと私も腕を机に置いた上で前のめりとなって言葉を返す。
「言っちまうとな、前々からそのつもりだったんだ。
古い時代からの脱却、俺様好みの国作り、獣人の立場の改善、新も旧もない新しい教えの成立、メーア教って都合の良い宗教が隣領で生まれたと聞いた時にはこれぞ天啓、利用しない手はないと喜んだもんだ。
エルダン様が建国王、お前がメーア教の開祖、お互いを利用し盛り立てて持ちつ持たれつ、良い関係じゃないか。
古代の再現、新たな建国王伝説の再来……なぁ、それで良いだろう?」
「……本気で言っているのか? そんな夢みたいな話がジュウハの口から出てくるとは思ってもいなかったがな。
そんな理由で同じ国の者同士で戦うなんて、認められる訳がないだろうが」
「お前はそう言うがな、情勢はそんな甘い考えを許してはくれんぞ。
誰が好き好んで戦争を起こすもんかよ、だがそれでもやらなきゃならん時ってのはあるもんだ。
……言っておくがお前に反対されようがこっちはやるからな、やらなきゃならん、エルダン様には守るべき妻達と子供、領民達がいるんだ、まさかそれらを諦めろとは言わんだろう?」
「……ジュウハとエルダンなら他の手をいくらでも考え付けるだろうが。
家族や仲間を諦めずに別の手段を探せないのか」
「そんな手があるんなら最初からそうしているってぇの。
……まさかお前、俺様が好きでこんな道を選ぼうとしているとでも思ってんのか?
誓って言うがそんな道はもうねぇぞ、俺様達がそうしたんじゃない、他の連中がそうしちまったんだ。
大体何なんだよ、聖地って……そのふざけた代物を飲み込むまで、俺様でさえ時間が必要だったんだからな?
そんな存在のせいで弾圧されるかもしれない、奪われるかもしれない、殺されるかもしれない、滅びるかもしれない。
そんなの誰が受け入れられるってんだ。
もう一度誓って言うがな、こんな状況じゃぁもう俺様一人で反対したって無駄だよ、無駄。
それどころか利敵だのなんだの言われて人間族の俺様は殺されちまうっての……もうそういう状況になっちまったんだよ」
「……本当に他に手はないのか?」
「そりゃぁ全くないとは言わないがな、最善の道から外れるとなれば、相応の被害が出ることになる。
……お前は自分の甘い理想のためだけに皆には被害を受け入れてくれと、そんなことを言えるのか?」
そう言われて私は黙り込んでしまう。
他に道がなく、その道を選びたくない理由は私の中の理想だけ、それで皆に死んでくれなんてことは……口が裂けても言えないだろう。
しかしだからと言って折角平和になったこの国に、また戦乱を巻き起こすなんてのは……。
「仮に俺様達が何もしなかったとしても、戦乱は起きる、向こうが起こす。
もちろんそれを待つという手もあるだろう、大義名分って意味じゃぁそれも悪くはねぇ。
だが軍を起こすと決めておいてそんなグズグズした真似、ありえねぇだろうが。
お前にもそれは分かっているはずだぞ、なぁ? 救国の英雄。
分かって言ってるなんて、そんなことはねぇだろ? その辺りの判断は抜群だったもんなぁ。
……やるしかねぇんだ、もちろん小メーアとの話し合いや聖地の力でなんとかするってのもあるんだろうがな。
そっちに関しちゃぁお前達の仕事だろうさ、俺様達の仕事じゃぁねぇ。
それともまさかエルダン様とやり合おうってんじゃないだろ?」
「……そんな訳ないだろうが……」
「だよな。
まぁ、そうやってお前がお前のままでいてくれるってのはこっちとしてもありがたい話ではあるんだよ。
野心も野望もなく仲良しで食糧生産地になりつつある後方に支えて貰えるんなら、かなりの楽が出来るからな。
……それに俺様達には切り札がある、獣人国からの援軍だ」
そう言われて私は顔をしかめる、ジュウハが何を言っているのか訳が分からなかったからだ。
獣人国の援軍? なんだってそんな考えになる? 獣人国が援軍を出す理由も利点もないだろうに。
「いや、あるだろ、理由も利点も。
お前結局ネハ様から頂戴した金の指輪を使わなかったな? あれはネハ様の血筋を示す重要なもんなんだよ。
あれを見せた上でお願いすりゃぁ、援軍でもなんでも出してくれるだろうさ。
獣人国としても人間族至上主義の台頭なんてのはごめんだろうからなぁ。
援軍を出すのではなく今が好機と戦争中の後背を突こうにもここにはお前がいるし、立派な関所やら何やら防衛設備まであると来た。
俺様なら素直に援軍を出して貸しを作っておくねぇ、ついでに王国内情の偵察も出来るんだ、他の手なんて選ぶはずがねぇ。
こっちは援軍を得られてありがたいし、お前達だってそのついでに援軍の兵士達にメーア教の布教が出来るだろ?
この策は誰も損しねぇ最高最良の一手だと思うがね。
もちろん反対してくれても良い、他の良い策があるってならそれを提案してくれても良い。
俺様達は対等の仲間だ、たくさん話し合おうじゃねぇか」
私の考えを読んだのかそう言ってきてからジュウハは、腕を組んで背中を反らせる。
……前のめりだった姿勢をやめた、これ以上押し込むつもりはないということだろう。
言いたいことを言って一歩退いた、つまりは譲歩するつもりもあると言うことだろう。
譲歩するから協力しろと、そう言いたいようで……私は前のめりのまま言葉を返す。
「……結論はここでは出さない、皆と一緒の話し合いの席で出すことになるだろう。
それでも私の考えをここで言っておくなら……私は協力しない。
獣人国に渡りをつけるくらいはしよう、援軍がここを通るのも許可しよう、食料だってそっちの領民が飢えないよう融通する。
しかし一緒には戦えない。
あちら……リチャードか、リチャードに味方するつもりもない、そちらには食料だって譲らないつもりだ。
……私達は私達で動く、少なくとも私はそのつもりだ」
エルダンの気持ちは分かるがやはり戦乱を起こすことには賛成出来ない。
しかし今まで助けてもらったのだから可能なことで助けることはすべきだろう。
リチャードに味方する理由は一切ない、その状況、信条からしても仲間にはなれないだろう。
では状況を放置するのかと言うと……そういう訳にもいかないだろう、あまりにも無責任過ぎる。
何しろ私は公爵だ、王族がやらかした時にはしっかりと叱るのが仕事だ、それから逃げる訳にはいかない。
……だから動くとしたら私達は私達で、自分達の考えと信条に従って動くしかないだろう。
そんな私の考えは態度と表情に出ていたのだろう、ジュウハは冷や汗を垂らし、それから口を開く。
「……これが一年前ならそんな馬鹿な考えと笑えたんだがな、今じゃぁそうでもなくなったな……。
……今後の話し合い次第なんだろうが、そうだな、お前がそのつもりならそうなるんだろうな。
……なら好きにすると良いさ、俺様達も好きにするからよ。
……だが協力は最大限、参戦と見なされないギリギリの所までやってもらうからな」
と、そう言ってジュウハは大きなため息を吐き出し……そうして二度目の話し合いは終了となるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は皆との話し合いです




