騒がしい来訪者
いつにも増して簡単キャラ紹介
・ディアス
人間族、領主、おっさん
・セナイとアイハン
森人族、ディアスの養子、女の子
・エイマ
大耳跳び鼠人族、ディアスの側近、セナイ達の教育係、大人の女性
・アルハル
ニャーヂェン族(猫人族)、セナイ達の護衛、女性
・クラウス
人間族、関所の主、筆頭騎士、青年
・カニス
犬人族(大)、クラウスの妻、女性
・マヤ婆さん達
12人の老婆、その経験や知識、魔法技術でもって産婆をしている、お婆さん
多くの人が領内を行き交うようになって……多少はトラブルが起きるものかと思っていたけども、特にそんなこともなく日々が過ぎていった。
しっかり準備が出来ていたっていうのもあるのだろうが、特に皆が頑張ってくれているのが大きいんだろうなぁ。
だからと言って油断をする訳にはいかないので領内の見回りには私も参加することにしていて、今日は関所へとやってきていた。
私、セナイ、アイハン、エイマ、アルハルの四人で、馬はベイヤース、シーヤ、グリの三頭。
エイマはセナイと、アルハルはアイハンと一緒に馬に乗って、セナイ達は人目に付くからと隣領にいった際の外出姿、私は見栄を張る必要があるからと鎧姿で、護衛のアルハルも騎士として仕立ててもらった鎧姿。
カニスが懐妊したとの連絡を受けてのお祝いも兼ねているのでお祝いの品も持っていって……森を抜けて関所に入ると、普段とは全く違う賑やかな光景が広がっていた。
関所に入れたから一休みする者、馬や馬車の手入れをする者、食事や商売をする者……などなど。
そこに私達が現れるとまず犬人族が、それから領兵達がやってきてくれて、誰かが不用意に近付かないよう警備してくれて、ちょっとした一団となりながら奥へ。
私の鎧が目立つからか視線が集まる中、堂々と馬を歩かせていく。
セナイとアイハンも見られるのには慣れているのか気にした様子はなく、堂々とした態度……と、言うかどこか得意げで、そうやって進んでいるとクラウスとカニスが自宅の前で待ってくれていた。
「聞いたぞ、クラウス、カニス、おめでとう」
そう言いながら馬から降りて……セナイとアイハンも身軽な仕草でそれに続く。
「ありがとうございます、ディアス様。
……とりあえずお話は家の中で、ここだと人目につきますので」
「ありがとうございます、どうぞ中に!」
そしてクラウスとカニスがそう言ってくれて、立派な丸太小屋といった様子の家の中に入る。
クラウス達の家は洞人族達が作ってくれているので、かなり暮らしやすい作りになっているらしい。
草原の中と違って森で暮らすには虫やら何やらと苦労があるが、そこら辺の対策もしっかりしているらしい。
虫が嫌う花で花壇を作っているとか、木材も虫よけの力がある木材にしていて、出来上がった後には虫よけの煙で室内全てを燻してもあるんだとか。
後は暖炉で定期的にその煙を起こしておけば、まぁまぁ問題なく生活出来る、らしい。
そんな家に入るとまず正面に靴棚がある、ここでは靴を脱いで室内に入るようにしているようだ。
私はそこで靴だけでなく兜など簡単に脱げる装備も脱いでしまって……棚に預けたなら左に進むとそこが居間で、木製テーブルや椅子、ソファなどがある。
隣領で買い付けたのか絵画や小さな壺といった美術品も置いてあり、クラウスの騎士としての鎧もここに飾っているようだ。
まぁ、来客に立場を見せつけるという意味では良いのかもしれない。
ドラゴン素材で洞人族達がクラウスの騎士就任を祝って作った鎧は、エリー達が言うには軍馬数頭分の価値があるそうで、それを自慢したいという気持ちもあるのかもしれないなぁ。
そんな居間の椅子に腰掛け、セナイ達はソファに腰掛け、エイマはセナイの頭の上、そしてアルハルは一応護衛だからか、入口側に静かに立っている。
そして机を挟んで向かいの椅子にはクラウスが座っていて、そこにカニスが紅茶を用意してくれて皆でゆっくり飲みながら、何も問題ないかの確認をしていく。
特に問題はなく関所の運営は順調、十分な通行税も集まっていてクラウスがやりたいと言っていた更なる関所の改良も上手くいきそうだ。
そんな大人の話が一段落すると、ソファから立ち上がったセナイとアイハンが畑から持ってきた葉を手に元気な声を上げる。
「おめでとう、カニス!」
「おめでとー!」
それはサンジーバニーの葉で、流石に慣れたものでクラウス達は礼を言いながら笑顔で受け取り……どこかにしまっておくのだろう、カニスが家の奥へと持っていく。
「まぁ、あれだ、とにかくしばらくは安静にするようにな、そのうちマヤ婆さん達も来てくれて、色々と手伝ってくれるそうだし、時期が来れば安産絨毯も用意しておくからな」
「はい、しばらくはマヤ様達が滞在して面倒を見てくれるそうですから、それに頼ろうと―――」
私の言葉にクラウスがそう返してきた時だった、関所で何かがあったのか歓声のような声が響いてくる。
大歓声と言って良い程の何か物凄いことがあったようだ。
「何事だ?」
「分かりません」
と、そう言いながら二人で簡単に鎧を身にまとって武器を手に取る。
時間のかかる部位は装備せず最低限、アルハルやセナイ達も手伝ってくれて、さっと準備をしてから家を出ると……歓声の原因がちょうど目の前の、森へと続く大通りを歩いていた。
長く黒髪をなびかせて、クルクルと踊りながら大通りを進み、視線を向ける人々にその黒い目で視線を送り……真っ青なドレスを振り回してどこまでも踊り続けている。
「あの馬鹿……」
「格好良い~!」
「きれ~い!」
「凄い踊りですねー!」
「……あの馬鹿って?」
「あの馬鹿??」
私、セナイとアイハンとエイマ、そしてクラウスとアルハル。
そんな順番で声を上げてから、私は視線を巡らせて知っている顔を探す。
すると大通りの向こうに2人の知った顔が見つかって、2人は私に気付いて申し訳なさそうに頭を一掻きしてから頭を下げてくる。
騒ぎを起こして申し訳ないとそう言いたいようで、そして踊り続けている黒髪の女性もこちらに気付く。
すると回転が激しくなって片足を軸をにつま先立ちとなってグルグルグルグル激しく踊り始める。
そして唐突に回転を止めて両手を広げながらのポーズを取って……こちらをじぃっと見て大きな声を張り上げてくる。
「お父様ーーーーー!!!!」
それを合図に全力といった勢いで駆け出して、そのまま抱きついて来ようとする女性の頭を掴んで動きを制する。
「ぎゃぁぁぁぁ! なんでぇぇーー!!」
すると女性が悲鳴のような声を上げて、すかさず駆け寄ってきた先ほどの男性2人も駆け寄ってきて声を上げてくる。
「オヤジ、すまねぇ! 馬鹿を止められなかった!」
「すまねぇ! いきなり思い立ったらしくてコイツ、仕事投げ出してまで来ちまった!」
女性と同じような年齢、言ってしまうとイーライ達と同じ年齢。
「良いじゃないのー! 2年も耐えたんだしー! ちゃんと仕事も一段落はさせたしー! お父様に会いたかったのー!!」
と、女性。
すると周囲の人々がざわついていく。
あの王都で有名な舞台女優がまさかメーアバダル公の娘だなんて、とかそんな声を上げながら。
それを受けて私はとりあえず、クラウスに許可を取った上でクラウスの家に3人を連れていくのだった。




