表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
領民0人スタートの辺境領主様  作者: ふーろう/風楼
第十九章 一つの真実

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

555/562

新たな日常



 エルダン達が帰った日から、色々なことが動き出した。

 

 その中で一番大きな動きが、ついに多くの人が関所と街道を通ってイルク村にやってきたことだろう。


 これまでは特定の商人としか商売をしてこなかったが、いつまでもそういう訳にもいかない。


 エルダン達が支援してくれる物資を運んだりゴブリン族と取引をしたり……様々な形で人が行き来する必要があって、そのための流れが出来上がりつつあった。


 エルダンとジュウハがそう働きかけて私達が受け入れて……関所と街道、そしてユルトを並べた臨時の隊商宿はあっという間に賑やかになった。


 酒場にも宿があるのだけど、そこで受け入れられるのは一部の客だけなので、ユルトを増やして対応した形だ。


 場所はイルク村の南東、村人との区別化をするため少し離れた位置に建てて……基本的に宿泊はタダとした。


 まだまだ受け入れ状態が整っていない中で金銭を取るのはよくないだろうと考えての一時的な対応だ。


 食事も最低限はタダ、しかしより美味しく滋養があるものが有料かつ高価、その結果はほとんどのものが有料の食事を頼むという形で、宿が揃うまではそちらで収益を上げる形となる。


 そうした村にとって皆にとって大きな変化は……思っていたよりも皆に歓迎されることになった。


 子供達は純粋に色々な人と出会えることを喜んでいるし、大人達は稼ぎが増えることを喜んでいる。


 そして誰よりもこのことを喜んでいるのがアルナーだった。家事全般の責任を負っている立場なため、誰よりも忙しくなることになったのだけど……そんなこと構うものかと笑顔で駆け回っている。


 アルナーがそうやって喜んでいるのにはいくつかの理由があった。


 そもそもとして旅人達がたくさん来てくれること自体が喜ばしいことだった。


 これは以前から言っていたことだが、旅人は大事なお客様であり情報源であり商売相手でもある。


 それがたくさん来てくれるのだから嬉しくなるのは当然と言えて、貴族としてもたくさんの客が来てくれることは誇らしいことであり……更に料理を売ることでハッキリとした収入が得られるのも嬉しいことだったようだ。


 食材や料理にも当然それなりの価値があるのだが、身内で消費している間は直接現金になることはない。

 

 それを食べた家族が頑張って働いて間接的に現金になることはあるかもしれないが……しかしそれが客相手の販売ならば、なんとも分かりやすく直接的な収入を得ることが出来る。


 そうやって財を溜め込めば余裕を作り出すことが出来るし、余りがちの食材を美味しく料理したなら大金になって、それで在庫が少ない食材を買えたなら家族の舌を楽しませることも出来るし……その機会があるかないかでは大きな違いがある。


 そして人が行き来したなら情報も動く、情報がたくさん手に入れば世界のことを知ることが出来る、賢くなることが出来る。


 それらがあれば子供達をより強く賢く育てることが出来る。


 これまでのように門を閉ざして出入りを制限することで皆を守ることも出来るだろうし、私やクラウスや領兵達が力を振るうことで皆を守ることも出来るだろうけども、そうやって子供達を強く賢く育てるというのも皆を守るためには大切なことで……それが出来ることがアルナーにとっては何より嬉しいことだったようだ。


 忙しいし他人が近くにやってきているし、辛く思うことも苦しく思うことも不安に思うこともあるけれど、それ以上に嬉しさが勝っているようだった。


 そしてそんな思いを受け取った子供達は、その目で耳で鼻で魔力で行き交う人々を感じ取り……信じて良い人なのかそうではない人なのか、近付いて良い人なのかそうではない人なのかを学んでいくことになった。


 鷹人族の目、犬人族の鼻、セナイ達の魔力、エイマ達に子供が出来ればその耳で、色々なことを学んでいくに違いない。


 そうやって人が行き交うことは良いことばかりではなく、当然犯罪なんかが発生するという可能性もあることなのだが……そういった問題は今のところ起きていない。


 元々エルダン達の旗振りで行われていること、というのも理由だが……関所その他をしっかり整備したことも大きく影響しているようだった。


 関所は立派、そこから伸びる街道も立派、街道の左右には柵が用意され草原を踏み荒らすなとの看板があり、要所要所には休憩所があってそこに用意されたものは無料で使うことが出来る。


 過不足なく完璧な準備がされているということが見て分かる、触れて分かる。


 不満を抱くことなく旅が出来るし……犯罪にも当然完璧な準備で対応してくることが明白でもある。


 空を見れば鷹人族、街道のあちこちには犬人族、軍馬に乗ったクラウスやジョー、ロルカ、リヤンによる見回りも行われていて……たとえエルダン達の紹介がある相手であっても積み荷の検査は徹底的に行われて隙を見せないようにもしている。


 小さくとも大きくとも絶対に犯罪を許さない見逃さないという態度が、犯罪をしっかりと抑止しているようだ。


 他にもベン伯父さんの提案で、旅人達に私達の鍛錬風景を見せてやったりもしている。


 ちょっとした娯楽代わりの見世物といった感じか、それはちゃんと好評で……後で知ったことだが防犯にも繋がっていたようだ。


「ぬぅぅぅぅん!!!」


 私がそう声を上げて戦斧を全力で振り下ろすと、相手をしてくれていたアイサとイーライが全力で飛び退いてその一撃を回避する。


 全力だったため戦斧はそのまま地面にぶち当たり、轟音を上げながら地面を砕き、ついでだからと砕いた土ごと戦斧を振るう。


 牽制と目つぶしをかねてのそれを前に出たアイサが魔法なのだろう、突き出した両手から放たれているらしい魔力で持って捕まえて支配し、こちらに投げ返してくる。


 土だけでなく砂や小石もまとめて鋭く、目では捉えきれない速度で放ってきて、私の黄金の鎧が光ってそれら全てを弾き飛ばす。


 そしてそんな鎧任せな私の態度を咎めるように、低く構えて駆けてきたイーライがショートソードを突き出してきて、私はそれを受けるか回避するかと一瞬悩み、あえてそれらを選ばずに攻勢に出ることにする。


 一歩足を踏み込んで……力を込めて大地を踏んで音を響かせ相手を怯ませようとし、それはもう慣れたとばかりに怯んでくれないイーライに向かって戦斧を思いっきり横薙ぎに振るう。


 するとイーライは地面を蹴って跳ぶ、大げさに高く跳ぶのではなくギリギリの、攻撃を回避するための最低限の高さに跳んで見せて、横に走る戦斧の上を撫でるようにこちらに跳んで来ての突きを放ってきて、戦斧を手放した片手でイーライの剣を弾き片手でイーライの首根っこを掴み、そのまま体をぐるっと回転させて、その勢いでもってイーライを全力で放り投げる。


 するとイーライは空中で身を翻して体勢を整え、アイサが魔法で作った土壁でもってイーライを受け止めることで怪我することなく隙を作ることなく、地面に着地してみせる。


「イーライもアイサもやるようになったなぁ」


 それを見て私がそう声を上げると、2人は嬉しそうに笑いながら息を吐き出して、ぜぇはぁと息を荒げさせ汗を一気に吹き出させる。


「そ、その歳で更に強くなってる兄貴のがどうかしてるよ」


「……切り札の魔法なんだからせめて怯んで欲しいなぁ」


 それから2人はそんなことを言ってきて……尚も武器と手を構えてみせるが、私が腰に下げた手斧を手に取り投げようとしてみせると、これ以上は無理だと悟ったのだろう、構えを解いてそこらに腰を下ろしての休憩をし始める。


 瞬間巻き起こる拍手、すっかり忘れていたが客人達に見せていたんだったな。


 拍手をしてくれる客人達の顔は楽しそうだったり嬉しそうだったり……引きつっていたり戦慄していたり、色々な表情を見せてくれる。


 アイサとイーライは……領民の中では中の上くらいの腕前だ、2人で組むと一気に上の中くらいになるが、それでもクラウスに勝てるかどうかという所。


 単体ではジョー、ロルカ、リヤンの方が強いし……ニャーヂェン族などなど他にも強い者はたくさんいる。


 ニャーヂェン族の中ではソマギリとアルハルが飛び抜けているが、それでもクラウスには及ばないし……そのクラウスも私から見ればまだまだ成長の余地がある。


 と、こんな具合の力関係を見せつけることは、悪いことを考える者に自制を促すことに繋がっているようだ。


 鬼人族の魂鑑定もあるが、それがあるからと油断が出来ないのはもう皆も知っていること、こういったこともしっかりとやっていく必要があるだろう。


「……明日は川の中でゴブリン族とやり合っても良いかもしれないな。

 流石に水に腰まで浸かった状態だと私でも楽には勝てないからなぁ、きっと良い見世物になるぞ」


 と、そんなことを私が言うとアイサとイーライを含む周囲の皆の顔が一気に青ざめて……唯一見学者の中に紛れ込んでいたイービリス達だけが、


『ギャッハッハッハッハ!!』


 という力の込められた笑い声を上げてくれるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回はこの続きで、その後の変化やら何やらです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いやぁ、改めてバケモンだバケモン!! こんなおっかない領主が生きてる間はみんなお行儀良くするね。
アルナーの肝っ玉母ちゃん化が完璧。 いいかげん村の母ちゃんじゃなくて本当の母ちゃんになっても良いと思うんだけどな~ ディアスが躊躇するのも分からなくはないけど、結婚してからの年数数えるとかえって残酷な…
楽ではないだけで勝てないとは言ってない件 それこそ水中でも勝ち筋がありそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ