聖なる都は
吸い込まれた扉を通って階段を上がって……黒い箱から出て振り返り、皆が無事に出てくるかを見守る。
そうやって最後の1人となった伯父さんが出てくると、黒い箱が崩れ落ちていく。
砂のようにではなく、切り刻まれた紙のようになって……崩れて地面に溶けて消えてなくなる。
いつも唐突に消え去っていた小メーアだったが、こんな感じで消えていたのか……。
……しかし凄い話を聞かされてしまったなぁ、過去の話、人の話……神々の話。
正直な所、信じて良いものか迷ってしまうような話だったけども、伯父さんの態度を見るに事実……なんだろうなぁ。
……んん? 事実だとすると……うん?
「なんだ、その顔は」
と、伯父さん。
「いや……聖地での話が事実だとすると、新道派の大義は……」
私がそう返すと伯父さんはやれやれといった様子で頷き、口を開く。
「そう、的外れだ。
そもそも連中が掲げておる人間族至上主義の根底が崩れてしまっておる。
……神殿にも神器があるが、それを扱える者は一人も残っておらん、つまりは連中の中に人間族は存在せん。
だと言うのにそんな題目を掲げて差別をし、大々的に動こうとまでしておる。
……いずれ神々の怒りを買うだろう、実在する神々に喧嘩を売り続けておるようなもので、そうなれば王都は大荒れとなるだろうな」
「……やっぱりそうなるかぁ。
だからと言って出来ることはないし、そもそも何かしてやる義理もないしなぁ。
……しかしそんな神々がいるのなら、あの戦争にも介入してくれたら良かったのに。
モンスターを倒すことが目的なら戦争なんてない方が……」
「言っただろう、決議が必要だと。
戦争に対する介入という大きな決断となれば当然決議が必要となり……その決議には王国と帝国内部の者達が、それぞれの立場で決議に参加をすることになる。
そして他の者達は火の粉が飛んでくるのを恐れて決議を棄権し……不成立。
そもそもとして神々の中には戦争をよしとする神もおるからなぁ……簡単にはいかんだろう」
「戦争を……? 戦いの神でもいるのか?」
「争いの中で成長する者もあれば、洗練される技術もある……とか、そんな理屈だ。
儂は間違った考え方だと思っておるが、お前がドラゴンを狩れているのも戦争での経験があったからだろうと言われれば反論はしにくいだろうよ」
「……なるほど、そういう感じの神か」
……反論しにくいというか、否定しにくいというか……ドラゴンとの戦いもまた争いと言えば争いで、それを悪いこととして止められたら困ってしまうからなぁ……。
……しかし戦争とはまた別だと思うのだが……。
「ディアス、深く考えすぎだ。
自らを自然の一部と考えれば良い、そうしたらあれこれ悩む必要はなくなる」
と、隣で話を聞いていたらしいアルナーは、笑みを浮かべて言葉を続けてくる。
「自然の中で生きる者達は奪い奪われる。
そこに正邪はない理屈もない、生きるための行いだ。
そして私達もその一員として奪い奪われている、自分達だけが特別だなんて思い込むと、あの生命を感じない世界の住民になってしまうんだ。
特別じゃないんだ、所詮は自然の一部、生きるために必死になって戦い抜くだけの存在だ。
自分達も一部だと考えるからこそ相手への敬意が生まれる、必要のない殺戮をしなくなる、守るべき心が生まれる。
……あんな風に好き勝手やって世界を歪めるような連中は、自然を見下し自分達だけが特別と考えていたに違いない、その末路と思えば哀れにもなるが……滅んで当然だったとも思う。
そんな連中のことで悩むなんて馬鹿馬鹿しい、忘れてしまえ、あんなものは」
そう言ってアルナーは竈場の方へと向かっていく、どうやらアルナーにとっては聖地と神々は、すぐに忘れてしまう程度の存在でしかなかったようだ。
そんなアルナーの言葉を受けて伯父さんが苦笑をしている中、パトリック達神官達はまるで感銘でも受けたかのように震えていて……何を思ったかアルナーの後を追いかけていく。
フェンディアは思案顔で空を見上げていて……エイマとヒューバートは、特に気にした様子もなく、ただただお互いの記録を突き合わせての確認をしているようだ。
「ま、お前も言っていた通り滅んだ連中だ、気にしても仕方ないだろ」
と、窮屈な地下から出てきたことが嬉しいのか、空を軽く飛び回ってから、また腕へと止まりに来たサーヒィ。
「古代の世が滅んでも自然はこうしてここに在り、太陽もまた輝き続け……矮小の身では日々を生きるので精一杯。
それで良いのかもしれませんね」
と、いつの間にか私の肩に乗っていたメイゾウ。
「アルナー様は流石ですね、あれ程の世界を垣間見て尚も心揺れることなし。
……そして言葉は至言、敬意を抱かずにはいられません」
そして邪魔にならないようにしていたのか、少し離れた所で待機していたソマギリ。
特にソマギリはアルナーに感銘を受けているようだが……うぅん、あの言葉をそのまま受け入れるのも問題だったりするので、後でその辺りの話もしてやらないとなぁ。
アルナー達鬼人族の考えは自然と人は対等であるというもの。
そんなアルナー達から見ると王国人は自分達が特別と、自然より上のものと考えているように……とても傲慢な考え方をしているように見えるそうだ。
自分達は自然から、獣などから奪っているのに、奪われたくないなんて筋が通らない。
奪っているのだから飢えているものが生きるために行う略奪を非難する権利なんてない。
奪われたくなければただ力でもって応じるのみ、自然の一部として堂々と相対するのみ、それこそ対等。
つまり略奪は許される。
……という極論にも繋がりかねない考え方で、なんとも危うい。
かと言って簡単に否定出来る話でもなく、どうにか突き詰めようとすると哲学とかそういう話になってきて、最終的には……。
「儂の領域の話になるだろうな。
なぁに、神学、倫理、発展と犠牲、そういった議論は神殿の仕事だ、任せておけ。
大メーア神殿はこれからも変わらず村を見守り続け、村人を支え続け、そして新たな教えを広め続けるだろう。
……聖地に至り直接神々の叡智に触れて、人としての正しき道を教えて頂いた我らこそが正道だ、その教えは大陸中に広まっていくだろう」
伯父さんの仕事になる訳……か。
「……そう言えば伯父さんの目的っていうのは、今回のことで達成されたということになるのか?
毒を廃棄させて虐殺の心配がなくなって……それで終わりなのか? それにしてはなんだか回りくどいことをしていたようにも思えるのだが……」
「……馬鹿を言え、これからだ。
世界を救ってやったのだから相応の対価は貰わんとな。
……世界を救う決断をした領主が治める聖地に至る土地、偉大なる神々と子らが住まう聖なる都はここに在り。
時期を見て聖典を使い全てを広める、そうして新道派を叩き潰すと同時に、お前とこの土地を決して侵してはならぬものと定める。
どんな国も、どんな技術も、どんな力があっても不滅ではなかった、しかし神々の教えと聖地は不滅となれる可能性がある。
だからそれを……散々なまでに利用してやって、都合の良いように使い倒して、お前と子らの安寧を不滅のものとしてやろう。
新道派を叩き潰すついでに新たな道を作り上げる……神々よ、まさか否とは言うまいな?」
地面を睨みつけるように見やりながらの伯父さんのそんなとんでもない言葉に私が唖然としていると……小メーアの顔が地面から生えてくる。
「……だからアンタのことが嫌いなのよ、ベンディア。
アンタの言う通りにしたら我が子らも不滅の安寧を得られると、だから協力しろと、そう言いたいんでしょう?
……どうせアンタのことだ、他の聖地にも話をつけているんでしょうね。
……はぁ、まったく……最後の世代になると思っていた連中の中に、アンタみたいのが出てくるなんてねぇ。
……我欲のために聖地を利用した人間は数え切れない程いた、それが大メーア様を絶望させた。
だがアンタのそれは違う……大メーア様もそれならばお許しになってしまう。
はぁ~~~……ま、好きになさいな、それで地上がまとまってモンスターとの戦いに集中するのならアンタの言う通り、神々は邪魔はしないわよ」
そう言って小メーアは顔を地面にうずめて去っていく。
そして伯父さんはいつも通り、なんでもないといった表情で神殿へと去っていき……私はどう反応したら良いのか分からないまま、しばらくその場で立ち尽くしてしまうのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回はこの続き、その後の村の様子となります。




