聖地に至れり
聖地に向かうということが村中に伝えられて、行きたい者がいるのなら全員連れていくとも伝えられた……が、同時に子供達は絶対に駄目だという伯父さんの決定も伝えられた。
伯父さんが言うには本当にひどい場所らしく、ソレを見てしまうと子供の心の成長に悪影響があるとかで……セナイやアイハン、チャイも駄目となって、その3人からは抗議の声があったりもしたが、決定が覆ることはなかった。
また洞人族は種族全員が興味がないと不参加を表明、犬人族達もそれより仕事をしていたいからと不参加、皆が行きたがるものと思っていたが、結構な数の不参加の声も上がって……最終的にはこんな形となった。
私、伯父さん、アルナー、エイマ、メイゾウ、サーヒィ、ヒューバート、エグモルト、ダレル夫人、ソマギリ、フェンディア、パトリック、プリモ、ピエール、ポール。
以上。
……思っていたよりも少なかった、サーヒィはチャイの代理で、ダレル夫人はエグモルトを暴走させないための参加と、本人の意思ではなかったりもして、なんとも意外な結果だったなぁ。
神官達は当然の参加、と言うか聖地に行けると聞いた瞬間泣き出してしまい、あんまりにも泣いたものだから喉が嗄れてしまう程で……神官達にとって聖地とはそれ程のものなのだろうな。
とにかくそういう面々で行くことになり、翌日。
一応何があっても良いように全員がしっかりと装備をし、武器を携えて伯父さんが待つイルク村の南へと向かうと、伯父さんは更に南に向かうようにと促してきて、荒野に向かっている街道をある程度進むと、そこから道を外れての移動。
どれだけ歩いたか、道がだいぶ遠くに見えるなという所に行くと、初めて目にする不思議な物体が地面から生えていた。
黒い箱。細長くて人が3人か4人くらい入りそうな大きさのそれには大きな四角い穴が空いていて……穴から中を覗くと地下への階段が続いている。
「……こんなものいつの間に……」
戦斧を構えながら穴を覗いた私がそう言うと伯父さんは、
「質問はなしだ、切りが無いからな……黙って移動だ、向こうについたら必要なことは説明をしてやる」
と、そう言って先に進むように促してくる。
他の皆も色々と聞きたそうにしていたが、切りが無いというのはその通りで、質問だらけでいつまでも聖地に行けないでは意味がないので黙り込み、階段を降りる私に続いてくる。
……階段は、なんとも不思議な作りだった。
石でも木材でもない、不思議な何かで出来ている。
硬すぎず少しの柔らかさを感じて、靴でこするとキュッと音がする。
そして階段の先端と言うか、段の角には鉄製の板のようなものが貼り付けてあって……恐らくは滑り止めなのだろうなぁ。
足を滑らせて階段から落ちてしまわないようにとの工夫、特殊な素材だからそんなものが必要になるのだろう。
壁もまた不思議な作りだった、見たこともない紙? 布? が貼り付けてあって、押すとしっかり硬い。
ぐっと押しても凹んだりはせず木材などではないようだ。
そして天井、不思議と明るい……火もランプもないのに不思議な白い光で階段全てを明るく照らしていて、むらがないというか明かりが届いていない場所がなく、魔法なのだろうか?
この階段だけでも驚いてしまって、なるほど聖地と言われるだけのことはある場所なのだなと納得が出来て……どれくらい降りていったのか、地下深くまで進んだ所で階段が終わり、不思議な壁が目の前に現れる。
今度は布や紙は貼り付けられていない壁、白くてツルツルしていて……金属なのか石材なのかよく分からない。
そこにはドアくらいの大きさの板が埋め込まれていて……それだけで他に何もなく行き止まりだ。
一瞬その板がドアなのかとも思ったが、ドアノブがないために、引くことも押すことも不可能で……どうしたものかと困っていると、伯父さんがその板に触れて―――その瞬間、板が動いて壁に吸い込まれる。
「ん!?」
思わず声を上げてしまう、駆け寄って吸い込まれた所に触れてみると……やっぱりさっきの板は壁と壁の間にある隙間に吸い込まれてしまったようで、細い板の側面がそこにあることが分かる。
この板について色々聞きたがったが質問は禁止、伯父さんは板の向こうにスタスタ進んでいってしまったので、私も仕方なくそれを追い……他の皆もそれに続く。
板の向こうは少し雰囲気が変わって、緑の床に白い壁、青い天井と不思議な色合い。
床は相変わらずツルツルとしてよく分からない材料で作られているようで……それが廊下のように前へと伸びていて、そこを歩いて進んでいると、最後尾を警戒していたポールが、こちら側にやってきた瞬間音がして、振り返ると吸い込まれた板が元の場所に戻っている。
全員がそれを見て驚きを隠せず、分かりやすく動揺するが……質問は禁止。
そうやって進むとまた吸い込まれる板があり、その先には広い部屋があって……目の前のは大きな横長の板を貼り付けた壁。
その壁に向かって扇形に並んだ三列の椅子があって……椅子は一段二段三弾と、階段状にもなっていて、後ろの椅子に座った人にも前が見えるようにと工夫がされているようだ。
その椅子に座って良いのか悪いのか……なんとも判断出来ずにいると、いつからそこにいたのか、部屋の隅からメーアモドキ……いや、小メーアが現れて、横長の板の前へと歩いていく。
そして前に立ったならこちらに向き直り、小さなため息の後に口を開く。
「ベンディア、全くお前は……よりにもよってここに連れてくるなんてね。
……こちらが拒めないと知っていてそれなんだから、本当に……。
……さて、ディアス、貴方には色々と説明しなければならないのだけど、普段から様子を見ていて貴方がどんな人物かは大体把握しています。
だから簡潔に説明をしていきましょう。
貴方達人間は敗北者の子孫なの、瘴気……モンスターとの戦いに敗北し、己で勝つことを諦めた。
諦めたがゆえに他者に託そうとした、そのためにあらゆる手を打ち準備をし拠点を作った、そのうちの一つがここ。
貴方達の言う聖地とは……モンスターと戦うための知恵と武器を保存するための場所。
聖地はここだけじゃなく世界各地にあります、貴方達が言う建国王が至った聖地はまた別の場所。
だけども役割は大体一緒、どこの聖地に行っても概ね同じ知恵と武器を手にすることが出来ることでしょう。
……だけどね、ここの管理者である大メーア様はもう、人間を見放したの。
守る価値がないと見なした、放っておいても滅びると判断した。
だから大メーア様は方針を変えた、人間ではなく清く正しく生きるメーア達を守っていこうと。
……だからあんまり迷惑をかけないで欲しいのよね、まずその辺りを理解して頂戴。
それでもお役目はお役目だから仕事はするわよ、ちゃんとする。今までも色々助けてあげてたでしょ? 仕事はちゃんとするのよ、これでも。
さて、何か質問は?」
突然の言葉と、物凄い情報量にどんな質問をしてしまえば良いのか分からなくなってくるが……それでも私は一番気になった部分についての問いを投げかける。
「……人間が滅びると言ったが、そんな危機が迫っているのか?」
いつ滅びるのか、どうやって滅びるのか……いくらモンスターが脅威でも人間全てが滅びるなんてことはないと思うのだが、一体神々には何が見えているのか。
そんな疑問は側に立っているアルナーや、肩に乗っているエイマとメイゾウも抱いていたようで、その質問で間違っていないとこくりと頷いてくれる。
「え? いやだって、滅びるでしょ? そう遠くないうちに。
もう生き残りがほとんどいないんだもの……そこのベンディアはもう子供作らないんでしょうし、貴方もそこの亜人と結婚するんでしょ? ならそこでもう人間の血は終わりじゃないの。
……ああ、そうか、貴方はまだ知らないんだったわね、人間の定義を。
人間はね、魔力を持たないの、魔法なんて使えないの、亜人でも獣人でもない純血種、それが人間。
……そこにいるヒューバートやダレル夫妻も見た目は人間に似ているけど人間じゃない、魔力を持った亜人か獣人の末裔。
祖先を辿ればどこかで血が混ざっていて……それはいくら薄まろうとも消えるものじゃないのよ。
……新しい子供が生まれなければ滅びるのは当然のこと、もう純粋な人間はほとんど残っていないのだから」
その言葉に私は、しばらく理解が追いつかずに黙り込み……他の皆も黙り込む中、一人だけが声を上げる。
「ま、そんなことはどうでも良い。
古い血がどうのなんてのは、今を生きる者には関係ない話だからな」
と、ベン伯父さん。
それを受けて小メーアがため息を吐き出す中、ベン伯父さんがゆっくりと前に進み出て、皆に向けての話をし始めるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回はベン伯父さん視点の情報とか真実とかになります




