聖地
一目惚れからの良い仲となってエイマとメイゾウは、色々なことを語り合いながら時間を過ごしたようだ。
メイゾウもエイマに負けず劣らず賢いようで、エイマが今まで書き記してきた記録を読むことで様々な発想を得ることが出来たとかで……逆にメイゾウの発想を受けてエイマもまた様々なことを考えるようになり、2人は本当に楽しそうだった。
そしてそんな2人のために、2人だけになれる家を作ってやる必要があるだろうということで、私達のユルトの側にエイマ達のための家が建てられることになった。
家を支えられる太さの立派な柱を建てて、その上に箱を置くような形でエイマ達の家を配置。
それら全てを覆う形で、扉付きの大きな木箱を配置、これは風よけ雨よけのため、だそうだ。
そんな柱の上に家があって出入りが大変なのでは? と思ったが、エイマ達の身体能力なら登るのも飛び降りるのも苦ではないらしく、逆に虫などが入り込んでこなくなるので、快適なんだそうだ。
その家はお祝いということで、セナイ達が選んだ一番良い木材を使い、ナルバントとオーミュンが造り、中に置く家具なんかも洞人族達が作ってくれた。
更に絨毯や寝具はアルナーや婦人会が作り……なんだかんだと古参のエイマの新たな日々を村中の皆が祝ってくれた。
……メイゾウのこれまでのことを思うと辛い気分になってしまうが、せめてこれからは幸せな日々を送って欲しいと思う。
そんな事態を引き起こした獣人国とは……結局今まで通りの付き合いとなるのだろう。
ペイジンやキコ、ヤテン達とは仲良く出来るだろうけども、それ以外はなぁ……意図的に戦乱を引き起こしている点だけでも仲良くはなれないだろうし、それをこちらにまで持ち込まれては大迷惑で、一定の距離を取るべきなのだろう。
エリーやゴルディア達は、ナルバント達が懸命に作っている新型トロッコで、獣人国との行き来も快適にするつもりだったようだが……それも見送る必要があるだろうなぁ。
まぁ、鉱山や荒野、隣領との行き来が楽になるだけでも十分で、今後はそちらに力を入れていくことになるんだろうなぁ。
新型トロッコが完成したなら、荒野や入江周辺の開発も始めるようだし、それで十分……皆が苦労せず過不足なく暮らせるようになるはずだ。
安定した、と言って良いと思う。
特に海と繋がれたことが大きく、海の恵が皆の腹を満たしてくれていて……イービリス達の出会いは、どんな宝物にも劣らないものだったと思う。
なんてことを考えながら村の中を歩いていく。
元気な声と賑やかな音が常に響いていて、あちこちを駆け回り飛び回る子供達の姿が見えなくなることもない。
そんな光景は見ているだけで楽しむことが出来て……そうやって時間を過ごしていると、トンッと誰かが肩に乗ってくる。
誰かと言っても、こんなことをしてくるのはエイマくらいなのだが……と、視線をやるとやっぱりエイマで、エイマはそのまま小声で話しかけてくる。
(ディアスさん、少しご相談が……。
メイゾウさんと、色々なことを話していて血無しについても話すようになったんですけど……そこで色々と思う所ありまして、ここは一つ事情を知っていそうな人に詳しい所を聞いてみたいんですが、協力していただけませんか?)
(……うん? 協力くらいは別になんでもないが……私に出来ることなんてあるのか?)
と、返すとエイマはこくりと頷いて言葉を返してくる。
(はい、と言いますか、ディアスさんじゃなきゃ駄目なんですよ。
何しろ相手がベンディアさんなので……あの仮説に至った経緯とか、他に仮説はないか、何か知っていることがないか、お伺いしたいんですが……ボクだけでちゃんと話してくださるか分からないので、甥っ子であるディアスさんも一緒にいていただけるとありがたいんです)
(あー……なるほどなぁー……)
と、そう言って私は思考を巡らせる。
伯父さんがどういった意図であの仮説を書いて獣人国に送ったのかは読み切れないが、以前伯父さんは聖地に至ったと、そう言っていた。
聖地に至ったのであれば当然、神々の叡智にも触れたはずで……つまり伯父さんは恐らく、血無しの原因や解決方法まで知っているのだろう。
そして知った上であえて黙っている。
血無しがもしイルク村で起きたなら対策が必要になるだろうが……伯父さんはそれを防ごうだとか対策しようだとか、そういう動きをしていない。
全てを知った上で必要ないと考えているのか、それともただ放置しているだけなのか……その真意を探るくらいはしたほうが良いのかもしれない。
これからエイマとメイゾウは結婚し、子を作るのだろう……その子が将来どうなるのか不安を抱くのは当然のことで、その不安が解消出来るのならば、それくらいのことはしてやるべきだと思う。
エイマには散々世話になっているし、幸せになって欲しいとも思っている。
(分かった、私から頼んでみよう)
と、そう返してから私はエイマを乗せたまま神殿へ向かう。
中に入ると伯父さんがちょうど神殿内の掃除を犬人族の子供達としていた所で……伯父さんは私の顔を見て何か要件があると察したようだが、すぐにその要件にかかるのではなく、掃除を終わらせてからだと視線でもって手伝うように促してくる。
それを受けて私は掃除を手伝い……掃除が終わったら手伝ってくれた子供達を労い、子供達が自宅に帰っていくのを見送ってから、伯父さんと一緒に神殿の奥の相談室と伯父さんがそう呼んでいる一室に向かう。
誰かの相談を受けるための密室、石造りの神殿にあってそこは特に音が響かないような作りになっているとかで、耳の良い獣人でも盗み聞きが難しくなっているらしい。
「で、わざわざなんだ? 何かあったか?」
と、伯父さん。
「実は―――」
と、話を切り出すと、すぐに伯父さんは納得してくれたようで、なんともあっさりとした言葉を返してくる。
「なら今度、聖地に行ってみるか」
「は?」
「へぇっ!?」
私とエイマは思わずそんな間抜けな声を返してしまう。
それから少しの間唖然としてから、私は妙に沸き立つ胸を抑えながら言葉を返す。
「えぇっと……そんなに気軽に行けるものなのか?
流石に聖地巡礼のために旅立てるような余裕はないんだが……」
「ああ、心配の必要はない、日帰り出来る。
……と、言うかお前、気付いておらんかったのか? 聖地とは神々の住まう地、その神々が気軽にお姿をお見せになっておるのだから、聖地も近くにあって当然。
……そもそもとしてこの草原は、大メーア様が守る地でもある、遠方に住んでいたのでは守りきれぬこともあるだろう。
そして普段、神々がどこからお姿をお見せになるかを考えれば、聖地がどこであるかはおのずと分かるだろう?
つまりは地下だ、この草原の地中……我らの足元に神々はお住まいで、そここそが聖地よ」
「……は? え? ここが? 草原の地中が聖地??
えっと、なら何故ベン伯父さんは、何十年も帰ってこなかったので?」
と、私が返すと伯父さんは半目となって言葉を返してくる。
「聖地が地下にあると考えが至るまでに時間がかかったというのもあるが、何よりも聖地には神々の叡智が眠っておる。
それらを読み、理解するまでには当然、相応の時間がかかる……。
今をもって全てを理解しておる訳ではないしな、数十年くらいは仕方ない。
……ディアス、あそこは碌でもない場所だが、それでもお前もいつかは行かなければならん場所だ。
領主として、あいつらの子として一度は足を運び、判断を下す必要があるだろう。
それが明日でも明後日でも構わんが……儂が死んでからでは簡単にはいかなくなる。
そろそろ頃合いだろう……特に用事がなければ明日にでも行くか」
「……えっと、その準備とかは?」
「いらん、行って帰ってくるだけのことだ。
お前が叡智に触れても仕方ないだろうしなぁ……行って最低限のことだけを知れば良い」
「あの、あの、ボクも行っていいんでしょうか!」
私と伯父さんがそんな会話をしていると、エイマが手を上げながら声を上げ、伯父さんは少しだけ難しい顔をして言葉を返す。
「行く事自体は構わん、他に希望者がいれば連れて行っても良い。
……が、叡智に触れられるのは儂とディアスだけだろう、これは神々がお決めになることなので、儂にもどうにもならん。
……そして行くだけでも得られるものがある場所だが、同時に失うものがある場所でもある。
ろくでもなくおぞましい、そう言う場所だと理解した上で同行を願い出るのであれば、それも構わんだろう」
その言葉を受けてエイマは、決意したように頷き……そして伯父さんは、他にも同行希望者がいないかを確かめるためか、神殿から出ていく。
そして私は……それを追いかけるように神殿から出てから振り返り、大メーア神殿をなんと言葉にしたら良いのか分からない、複雑な気分のままじっと見つめるのだった。
・第十八章リザルト
【領民】701人 → 702人
詳細、鼠人族のメイゾウ
その他に大きな変化はなし。
【施設】領主屋敷が建設中
【施設】トロッコ道が建設中、改良中
【領地】荒野と大入江が開発中だ。
夏が過ぎて秋となる中、大きな動きがあるようだ……。
お読み頂きありがとうございました。
次回からは新章、叡智に触れる時、となります
次章からは一気に色々なことが分かってくると思いますので、ご期待いただければと思います!




