ペイジン家
登場キャラ簡単解説
・イービリス
ゴブリン族の冒険者、男性。これから始まる冒険のためにイルク村に滞在中、今からワクワクが止まらない
・ピゲル
隠居の爺さん、男性。普段はメーアの世話をしているか、誰かの相談に乗っているか
隣領に行っているエリーからの連絡が、鳩人族のゲラントの手で届けられ……隣領から使者とやらが到着するまでの間、ペイジン達にはイルク村に滞在してもらうことになった。
その使者の目的は獣人国への詫びで……今後交易をしていくには大事なことなんだそうで、ペイジンには獣人国への案内役を務めてもらうことになるそうだ。
隣領からはジュウハが率いる交渉団がやってくるそうで、ここでペイジンと合流した後は仲介役のエリーと共に獣人国に旅立つことになっているらしい。
……隣領というか、王国の人々が今までやらかしてきたことを思うと、私達からも詫びの使者を出すべきなんだろうか? なんてことを思ったりしたのだけど、私達は既にその段階を通り過ぎているというか、それ以上のことをしているからする必要はないんだとか。
獣人国とあれこれと取引したり、投資を受け入れたり……公には出来ないけども、ペイジン達の要望であちらに行ってみたりと、詫び以上のことをしてきた……とかなんとか。
そもそもとして最初の、鉱山への投資を受け入れた時点である程度の関係改善は出来ていたんだそうで……改めてエリーには感謝をしておかないとなぁ。
そのおかげで獣人国との関係が改善し、鉱山が本格稼働……色々な鉄製品が出来始め、そのおかげでゴブリン達との交易が出来ていて、冒険なんて話にも繋がって……あの時にそういう決断が出来ていなければ、今のこの状況は無かったという訳で……うん、エリーの頑張りのおかげと言えるだろう。
ちなみにだがあの投資のおかげでペイジン達も随分と儲けているようだ。
あの時の投資は名目上は獣人国からとなっているが、そのほとんどを代理という形でペイジン商会が負担していて……そうやって負担したのだから当然、鉱山投資の見返りとなる鉱石やメーア鋼製品の儲けのほとんどがペイジン商会のものとなる訳で、それはもう結構な稼ぎになっているようだ。
ただ商会長であるオクタドは、今回のような独占的な大儲けはあまり好いていないらしく……その稼ぎのほとんどを寄付だとか慈善活動に使っているらしい。
去年はなんだかんだと食糧不足になりかけたからと、畑の開墾費用なんかを支援したり、孤児院の経営を始めたり、関所近くの……今までこちらのせいで荒れていた地域への支援なんかも積極的にしているらしい。
そういった活動に使った金額は結構なもののようで、中には無駄遣いが過ぎるなんてことを言う人もいるようだが……荒れていた地域が立ち直ったならそこに新たな市場が生まれるし、交易の際の安全性が増すし、ペイジン商会への印象もうんと良くなるとかで、全然無駄遣いではないらしい。
今より明日、自分より子や孫達へ。
ペイジン・オクタドという商人は、思っていた以上に善人というか……性格も気前も、何もかもが良い商人であるらしい。
「ま~……孫の数が五十を超えるかもとなれば、未来のことをあれこれ考えるのも当然だでん」
荒野の水源まで行ってから数日が過ぎて……昼食後の休憩時間に、今日は何をするかなとぼんやり考えていた所で、話しかけてきたペイジンがそんな声を上げてくる。
先程までオクタドについてのあれこれと話していた流れで出てきた言葉で……どうやら聞き間違いをしてしまったらしいと手をひらひらと振った私は、軽い調子で言葉を返す。
「5人の間違いか? それとも15? ま、まぁ5人でも結構な数だと思うが……」
「……んん? いや、なんも間違えておらんでん、今すぐにという訳でもないけんど、数年後には50人を超える孫達に囲まれることになるでん」
広場に敷かれた絨毯の上に並んで腰を下ろしたペイジンが、首を傾げながらそんな言葉を返してきて……私は冷や汗をかきながら指折り数え始める。
「えぇっと……ペイジン・ドの子供がドシラドで、ペイジン・レとペイジン・ミにも何人か子供がいるとして……それで50? いやいや、まさかそんな……。
……兄弟にとんでもない子沢山でもいる……のか?」
「……んん、あっしはそこまでの子沢山ではないだけんど、他の兄弟はそうでもないでん。
まんずこっちじゃぁ基本的に長子が家の後を継ぐでん……だもんであっしがペイジン商会の跡継ぎで、その更に跡継ぎがドシラドでん、これはよっぽどのことがなければ変えられないことだでん。
……ドシラドに何かあれば別の子にという話になっちゃうもんで、子が多すぎれば余計な騒動が起きかねないでん。
そういう訳だもんで、あっしはあえて子が出来ないようにしていて……出来ても養子に出すとか神殿に預けるなどなど、絶対に後継者争いが起きないよう気を付けてることになるでん。
だっども他の兄弟はそんなことを気にせんでもえぇんで、好き勝手に子作りしてるでん。
レとミは交易で出かけることが多いもんで、そこまでじゃぁねぇですけども、他の兄弟でんファとソとラは、それはもう子沢山で、成人してから毎年のように子作りしてるでん」
ファとソとラ……ペイジンの兄弟達はそれぞれペイジン・ファ、ペイジン・ソ、ペイジン・ラという名前であるらしい。
しかしそれぞれ10人としても50というのは流石に……と、そんなことを考えたが、そうか、奥さんが1人じゃない可能性もあるのか。
ペイジンの家は金持ちでここ最近景気も良い、複数の奥さんというのも……あり得るのだろうか?
なんてことを指折り数えていると、ペイジンはからからと笑ってから言葉を続ける。
「おとんはそんなこと気にもせんであっしらを作った訳だけんど、それはしっかりと目を行き届かせられる自信があったからこそ。
あっしにはそこまでの自信はないもんで、自重してるんでさぁ。
レとミはさっき言った通り交易に出ることが多くてそんな余裕はなし、残りの兄弟は水運部門、当家の水運は主に川や近海だもんで、その拠点に腰を据えて品物や航路管理をすることが多いんで……余裕が有り余ってるって感じだでん。
……まぁ、水運は事故が多い関係でいつでも人手不足っていうことも影響しているかもしれんでん」
と、そう言って目を細めるペイジン。
過酷な仕事で人手不足だから子供をたくさん作ってなんとかするというのは、随分残酷に思えるが……そうしなければならないということなのかもしれない。
しかしフロッグマンは水の中でも平気なはず……水運で事故というのはどういうことなのだろうか?
「一番多いのはマストからの落下だでん」
私の表情から疑問を読み取ったのか、そう声を上げたペイジンは……何も返せないでいる私に言葉を続けてくる。
「水の上に落ちられたなら幸運で、甲板の上に落ちたら悲惨も悲惨……身軽で器用なあっしらでもなんとも出来ない場合が多いでん。
そういう意味でもディアスどんとこの船は安全だでん……帆に頼らず進めるというのは、それだけで大きなことでん、ゴブリンどん達にはうんと感謝すると良いでん。
……そんな考え方でなくとも子供が多いというのは良いことだでん、あくまであっしの考え方だけんど、子供が増えれば増える程幸せが増えるもんでん。
……ディアスどんも早めに子作りしておくでん、領主ともなれば焦るくらいでちょうど良いでん」
そんな言葉に私が何と返したら良いものかと考えていると……村に遊びに来ていたらしいイービリスがポンと私の肩に手を置いてくる。
更にはいつの間にか側にやってきていたピゲル爺までが微笑ましげな視線を送ってくる。
気がつけば犬人族達やメーア達まで似たような視線を送ってきていて……そして話を聞いていたらしいアルナーは満面の笑みでの視線だ。
満面の笑みのままアルナーは何も言うことなくこの場から立ち去り……この日のペイジンの昼食と夕食は、いつにない豪華な内容となるのだった。




