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領民0人スタートの辺境領主様  作者: ふーろう/風楼
第十八章 華麗なる交易卿

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交渉の続き

・現在判明しているマーハティ領の獣人達


・犬人族(大型種)

・獅子人族

・熊人族

・水鹿人族

・象人族

・鳩人族

・兎人族

・犀人族

・鼠人族(大耳跳び鼠人も含む)





――――ジュウハの執務室で エリー



 数え切れない程の書物と書類、絵画などの芸術品が押し込まれた一室で、冒険投資に関する話し合いを終えたエリーは、そんな部屋にあって唯一整理整頓されている一画……接客用らしい机と椅子が置かれた場で背を伸ばす。


 以前からジュウハという男は、全くの悪意なしで面倒な仕事を押し付けてくるのが常だった。


 約定はきっちり矛盾なく、後世に変な騒動を残さないために徹底した検証と話し合いをした上でまとめ上げるべき……だとかで、余計な解釈を残さない文章を好んでいるらしい。


 付き合いも長くなってきたので流石にもう慣れたが、最初に話し合いを行った際には、それはもう戸惑ったもので……普段からこの男を相手している者達の苦労は察せられるものがあった。


「ああ、そういやそろそろ獣人国に正式な詫びをするつもりだから、その際には仲介を頼むぞ」


 そんな面倒な話し合いの終わり際に突然そんなことを言われてしまってエリーは、表情には出さず、服の中でじっとりと冷や汗をかきながら言葉を返す。


「……それは獣人国との交易再開に向けてのものと考えてよろしいのですか?」


「ああ、そんな所だな。

 ディアスんとこの街道や関所が整って、こっちも安定してきた……冒険に投資するだけでなく、外との交易をやって稼ぎたいとこなんだが……ここは随分と前から奴隷売買なんてもので稼いで来た土地だからな、まずは詫びから入らねぇとな。

 エルダン様のやったことではないとは言え、実父のやらかしな上、その地盤を引き継いでるんだからなぁ、筋は通しておくべきだろう」


「……そういうことであれば、獣人国参議のキコ様、またはヤテン・ライセイ様にご紹介するくらいはさせていただきます。

 ただしそれ以上のことは、いくら仲介をと頼まれても出来ませんよ? 外交担当にはなりましたが、私の本懐はあくまで交易……そこまでの重責は負えません」


 本気でやろうと思ったならペイジン家などの助力を得つつであれば可能なのだろうが……流石にそこまでする義理はないと、内心で呟くエリー。


 そんなエリーの内心を読んでいるのかいないのか……顎をくいと上げておかしな笑みを浮かべたジュウハは、


「ああ、それでかまわねぇよ。

 あくまで仲介……いや、紹介か、それで十分だ。

 あっちの事情を考えればややこしいことは人間族よりも獣人族に頼んだ方が良さそうだしな。

 ……とりあえず、あちらの事情や立場なんかは以前届いたディアスからの情報で大体察しているからな、悪い結果にはならねぇはずさ。

 詫びが終わったらいよいよメーアバダルを横断しての交易開始だ、そっちとしても悪くねぇ話だろ?」


「……えぇ、まぁ、そうですね。

 そのために街道と関所を整備し、マーハティ程ではないとは言え宿泊や休憩のための設備も用意しているのでお役に立てるのなら嬉しい限りです。

 マーハティ領の人々であれば気心もしれていますし、初めて迎え入れる交易商人としてはこれ以上ないお相手でしょうね」


 整備にも維持にも凄まじい予算と人手をかけている、いつまでも無用の長物という訳にもいかないのでありがたい話ではあるが……果たして獣人国がそう簡単に許してくれるのだろうか?


 ペイジンやキコなら受け入れてくれるかもしれない、交易も許可をし、実際の商売をしてくれるかもしれないが……国としてそれを受け入れるというのは全く別問題となってくる。


 多くの被害者やその家族、遺族までいるに違いない現状……少なくともエリーにはどう詫びたら上手く行くのか、想像もつかなかった。


「こういうのはまず行動するのが大事なんだよ。

 完全な解決は無理かもしれねぇが、まず大事なのは行動すること……そして妥協することだ。

 あちらさんだって長年、外交だなんだで国体を維持してきたんだ、そのくらいのことは分かっているはずで……妥協の重要性も心得ていているはず。

 なら二、三度ぶつかってみりゃぁ意外な程に良い結果に繋がるに違いねぇよ。

 なんならこれ幸いと、オレ様達という敵を作り出すことで国内をまとめようとするかもしれねぇな。

 相手は国家の大敵、だが今は我慢の時だーとかなんとか言って交易を続けていくうちに、敵意の風化や緩和を狙う……ディアスという防壁があるのはお互い様って訳だな。

 何ならオレ様達は大敵かもしれないが、あのディアスはそうじゃねぇとか屁理屈をこねて、あくまで交易しているのはディアスであって王国じゃないとか、そんなことを言い出すかもしれねぇな。

 ……ま、それで儲かるのなら誰も文句は言わねぇだろうよ」


 そういうものかしら? と、話を聞きながら首を傾げるエリー。


 こと商売に関しての交渉は大の得意だが、そういった感情面までは得意だとは言い切れないエリーにとっては、ジュウハがどんな交渉をするつもりなのか、そして言っていることが本当なのかも理解出来ていなかった。


 損得の話なら簡単なのに……相手に金貨数枚を譲る譲らないといった妥協ならば理解出来るのに……。


 これからは自分も外交官としてそういったスキルと感度を磨いていく必要があるのだろうか? と、そんなことまで考えて少しだけ顔色を悪くする。


「ま、なるようになるだろうから心配すんな」


 そこでジュウハがそんな言葉を投げかけてくる。


 それは獣人国との交渉のことなのか、エリーの今後のことなのか……その答えすら分からないエリーは深く考えるのを諦めて静かな微笑みを返し……とりあえずどこかで体と頭を休めるかと、ジュウハに一礼をした上でその場を後にするのだった。



――――同じ頃、エルダンの自室で



 普段はカマロッツや妻達などしか立ち入れないエルダン自室の最奥に、各獣人族の長達が集められていた。


 ここに彼らを入れるということはエルダンなりの信頼の証であると同時に、それだけ重要な話をすると暗に伝えていて……長達は緊張した面持ちで、肘置きに体を預けるエルダンのことを見やっている。


 そんな一同の顔をしっかりと見回したエルダンは、砕けた態度のまま口を開く。


「今日決まった砂漠の開拓……これは大きな意味を持つであるの。

 新たな領地の獲得とその先にある港と海路という重要施設の獲得……それが成功したならどれだけの利益が得られるのか、想像もつかないであるの。

 ……しかし成功までの道は遠く辛いものになると思うであるの……だからこそ尽力した者には相応の報酬を与えるのが僕の役目であるの。

 ……もっとも尽力した者には港の権利、それ以外の者には開拓した領地を。

 何もない砂漠とは言え、港が出来上がれば交易路の収入だけでも莫大なものとなるはず……。

 この機会にはどの種族にも挑戦する権利があり、多くの参加を期待しているのであり、近いうちに大々的にこのことを発表するつもりであるの」


 エルダンがそう言うと長達は目を丸くする。


 港が出来上がったならそれはエルダンかその子供達が所有すると思い込んでいたために、驚きを隠すことも出来ない。


 莫大な期間と予算を投じて作られる港、隣領や王都と繋がる海路、その見返りは一体どれくらいになるのか……それをもしかしたら自分が、自分の家族が手にするかもとしって、毛のある獣人達は思わずその毛を逆立たせる。


 するとそんな様子を見てエルダンは、少しだけ目を厳しく細めて語気を強める。


「……ただし欲に囚われ他者の妨害などの遅延に繋がる行為をした、関わった者からはこの権利を剥奪するであるの。

 特に夢に逸る若者達にはよく忠告し、様子を見てあげて欲しいであるの。

 時間も予算も滞りなく、不正なく行き渡らせなければ上手くいかない……僕が汚職を嫌っていたのは、こういった機会を逃さないためであるの、皆よろしくお願いするであるの」


 そう言われて長達は全員が深く頷き、自らの中で湧き上がる欲をぐっと抑えて真摯な態度をエルダンに返す。


 それを受け止めたエルダンは長達の1人……マーハティ領、最南の砦を管理していた犀人族の長へと視線をやり声をかける。


「それとアリャン、これから砂漠に手を出すとなればアリャンの砦が重要な意味を持つであるの。

 畑の警備だけだった今までとは大違いとなって多忙を極めるはず……今のうちに部下や物資を集めておいて欲しいであるの。

 砂漠に最も近い拠点を持つアリャンは当然、この砂漠開拓においてそれだけ優位に立つことになるのだけど……それは誰もが不満を持つであろう、どこよりも暇で価値の低いとされた最南の砦を、不満の声を上げることなく管理していたことへの褒美だと思って欲しいであるの。

 他の者達もその点をよく留意するように……これは命令であるの」


 その言葉を受けてアリャンと呼ばれた犀人族は深く深く、床に鼻が突く程に頭を下げて感謝の思いで体を震わす。


 それを見て他の長達はエルダンの判断を嬉しく想い、誇らしく想い、あるいは尊く、ありがたく想い……アリャンに負けない程深々と頭を下げるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回はディアス視点に戻ってのあれこれの予定です



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― 新着の感想 ―
とうとうエルダン達と獣人国の接触も間近か。これからが大変だろうけど、長い間の苦労が実を結んでよかったねぇ。 しかし、王国の西の果ての公国が揃って獣人国との繋がりを持つとなると、新道派やそのシンパがどう…
絶対に許さんぞ、絶対にだ! …までは行かないまでも、ケジメに指の一本かそこらは持っていかれそう?(無いな) 開拓も直ぐに始めるのですね、金だけ出して人手と物資の調達は種族の長に一任? 他にも仕事が…
不思議パワー満載のメーアバダル領       VS 人手&資本満載のマーハティ領 南の荒野開拓レース、ファイツ!!! ※開拓場所は微妙に違います。
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