光
登場人物紹介
・クラウス
元王国正規兵のメーアバダル筆頭騎士、東側関所の主、人間族、男、妻に犬人族のカニス。
最近は犬人族との連携強化に力を入れている
・モント
元帝国軍人、西側関所の主、人間族、男。
帝国首都勤務経験があり、帝国貴族の女性を多く見てきたので、女性への認識が少し偏っている
「メーアバダル公は、地脈というものをご存知ですか?」
ダレル夫人の旦那さん……エグモルト・ダレルが持ってきたという、大量の荷物を船から下ろしていると、頬を赤く腫らしながらもニコニコ笑顔のエグモルトがそんな声をかけてくる。
「えぇっと……確か地下水の道だったか、以前隣領でそれを利用しているとか聞いたことがあったな」
私がそう返すと、エグモルトは今する話ではないでしょと肘で脇腹を打つダレル夫人のことをさらりと無視しながら言葉を続けてくる。
「流石の博識で。
……では魔脈というものはご存知で?」
「マミャク? いや、初めて聞いたな」
「魔力のような不可視の力もまた地下を地下水のように流れているとされています。
そしてその流れには法則性があり……魔脈の先には魔穴と呼ばれる力の噴出孔があるのだとか。
この流れや噴出は魔法や魔法を利用した道具の性能に大きく影響するだけでなく、風や雨といった自然現象にも影響を与えるとされています。
そんな魔脈の上には必ず大都市が存在します、何故かと言えば魔脈の周囲は必ずと言って良い程に発展するからです。
しかし魔脈そのものが発展を促している訳ではなく、魔脈のある土地には良い風が吹きやすく良い雨が降りやすく、それらのおかげで過ごしやすいがために人が集まり、発展するという間接的な理由からだったりしますが。
そしてですね、そこの水源池ですが……恐らく魔穴ですね、それも特大の。
皆様気付かれていないようですが、溢れ出る水に魔力が溶け込んでいて……海まで流れているようです。
しかもその魔力はとても上質……いえ、特上質とでも言いましょうか、正直言ってワタシもこんなにも上質な魔力は初めて目にします。
上質過ぎて魔力とはまた別の力ではないか? と、思わず誤解したくなると言ったら良いのか……神がかり的とでも言いましょうか、いっそあの水源池を作り出したのは神々だと言われた方が納得出来る程ですな。
……ああ、その顔、何故水に魔力が溶け込んでいることを知っているのか? との疑問を抱いていますね? その答えは簡単で入江の方でしこたま水を飲んでしまった時に体内の魔力が活性化しまして、もしや? と、思い持ってきたいくつかの品で検査をして確認をしたがきっかけで―――」
なるほど?
私としては神々が関わっていると、見事指摘したことに驚いていたのだけど、どうやらエグモルトは私の表情の変化は読めても、皆みたいに何を考えているかまでは分からないらしい。
……いや、もしかしたら分かろうともしていないのかも? 恐らくだがエグモルトは、自分が興味のある学問以外のことにそこまでの関心はないのだろう。
そんな人が高名な行儀作法の先生であるダレル夫人と結婚出来たんだ? なんてことも思ってしまうが……逆に考えてみると、ダレル夫人でなければ彼の奥さんは務まらなかったのかもしれない。
もちろんお互い想い合っての愛あってのことだとは思うが、それ以上に周囲が彼には夫人しかいないと強引に推し進めたのだろうという邪推が出来てしまう。
と、そんな風に私があれこれと考える中もエグモルトの話は続いていて……なんとか要約するに、エグモルトが研究してきたことの一つに魔力と魔脈があるそうだ。
そしてその利用方も研究していて……これだけの魔穴があれば多分きっと何か凄いことが出来るかもしれない……らしい。
たとえば大きな魔力の壁を作り出して悪意ある魔法を防ぐとか、モンスターを遠ざけるとか、そんなことが……相応の時間と人手と予算をかければ出来る可能性があるらしい。
「―――実際ですね、そういった魔脈の使い方をしている場所があるのですよ。
それが神殿です、神殿には瘴気が近付けません、モンスターも近寄りたがらないようです。
更に一部の魔法は行使不可能か、効果が発揮されることがなく……今の王都が大神殿側に遷都したのも、その力による防護を期待してのことだという説があるくらいです。
神殿の連中がもっと協力的ならその詳細などが分かるはずで、神殿を守る力の活用や再現も出来るはずなのですが……愚かな彼らは神秘性が薄れるからと、ワタシにそれをさせないのですよ。
……ですがこの地であれば思う存分研究が出来そうで、今から胸が高まりますな!
噂の草原にも良い魔脈があると良いのですが……ああ、そうだ、ワタシの仮説が全くの無根拠ではないことを示すため、一つ魔脈を利用した魔法をお見せしましょう!
ご安心を! こう見えてワタシ、かつて偉大なる魔法使いに師事したこともありまして……先生程ではないですが、魔力の扱いは中々のものなのですよ。
……では早速、魔脈を利用した防衛魔法をば、ご披露いたします」
と、そう言ってからエグモルトは水源池の方へと歩いていって、そこで跪いて何やら呪文のようなものを唱え始める。
……どうにもよく分からない話ばかりだったが、とりあえず何かを防ぐような魔法を使ってくれるようだ。
それ自体は全く悪いものではないと思うし、ありがたい魔法だとは思うのだが……それは果たして効果が目に見えるものなのだろうか? 何かの根拠となるようなものなのだろうか?
……いや、ここまでくどくど語ったからには何かがあるのかもしれない。
なんてことを考えながらエグモルトのことを見ていた私は……魔法の詠唱に時間がかかるらしいことをその様子から察し、荷下ろしを再開させる。
船から積荷を下ろし、それからまた船に乗り込み……そうしながらエグモルトのこともちょくちょく確認して、どんな魔法が使われるのか、どんな風に効果が現れるのか見逃さないようにする。
そうやって大きな荷箱を3箱、船から運び出した時だった、突然水源池が光始め、その光が川に沿って広がっていき……それだけでなく、池から北の方にも広がっていく。
どうやらエグモルトの言う魔脈とやらが北……草原にも繋がっていたようだ。
そうやって広がっていった光は、ゆっくりと形を成し始め、半透明の……半球の壁のようになっていき……かなり大きな、この辺りどころか荒野も草原も包んでしまいそうな、半透明の壁を作り出す。
……と、その直後、壁がふっと消えて光も何も見えなくなり……それが魔法成功の合図だったのか、エグモルトが立ち上がり、
「あー! 成功してよかった! 久しぶりだったからなぁー!!」
なんて声を上げる。
そしてそれを聞いたダレル夫人はスタスタとエグモルトの側まで歩いていって……先程張った頬とは逆の頬を、これまたなんとも良い構えでもってひっぱたくのだった。
――――一方、その頃、東側関所では モント
金の無心にやってきた神官達に対してクラウスは取り付く島もなかった。
関所の門を開くことはなく、出迎えることもなく、歩廊の上から見下ろしての対応をし、必要以上の会話をせず、率直に帰れとだけ伝える。
無礼極まる対応だがクラウスの今の立場は『公爵の筆頭騎士』であり関所の主。
神官を見下ろしても無礼な態度をとっても許される存在であることは確か……なのだが、それを知らないだろう相手は、どんどん顔を赤くしていく。
代表者であるらしい老人だけでなく、11人の同行者達も同じような顔をしていて……ついには我慢が出来なくなったのか罵倒を始める。
金の無心をしにきておいて罵倒とは呆れるばかりだが、神官達の誰もがそのことに気付きもせず罵倒を続けていて……愚かなのか傲慢なのか、それが治まる様子は見られない。
そうして呆れ果てたモントが、さてどうするか? と、頭を悩ませていると……同時に二つの光が起きてモントは混乱することになる。
一つは後方……草原の方からだ、木々の隙間から漏れての一瞬だが、強い光があった……ような気がする。
確信が持てないのは同時に目の前……神官の老人からも光が放たれ、それに自らが包まれてしまったからだ。
それはなんらかの魔法であることは明らかで……モントは咄嗟に腰に下げていた剣を引き抜こうとする。
引き抜き投げつけて神官の集中を乱せば魔法を止められると思ったからだったのだが、更に別の光が混ざってきたことでモントの混乱が大きくなってしまい、その咄嗟の行動は未遂に終わってしまうのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はその後のクラウスやらディアスやらです




