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領民0人スタートの辺境領主様  作者: ふーろう/風楼
第十七章 大きな変化

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新たな施設

登場用語解説


・ハルジャ種

 馬の一種、獣人国から手に入れた馬で、とにかく大きく怪力で大食い、性格は大人しめでよく言うことを聞くため、鬼人族の女性達に大人気


・洞人族

 背が低く、体ががっしり、樽のような体格をしていて男女共に立派なヒゲを生やしている、鍛冶や大工仕事、細工などが得意


・ゴブリン族

 サメの魚人族、古の名高いサメから取ったゴブリンという名を名乗っている、実直かつ正直で、勇猛さを何より尊ぶ一族、領民ではなく友好的な取引相手、または客人


登場人物紹介


・オリアナ・ダレル

 人間族 女性 

 王都で暮らしていた貴族の夫人で、礼儀作法などを教えるためにやってきた。なんだかんだこちらの暮らしに馴染んでいる


・ゴルディア

 人間族 男性

 ディアスの孤児仲間、酒場の主人で、互助組織ギルドの長


・エイマ・ジェリーボア

 大耳跳び鼠人族 女性

 眼鏡をした、大きな耳を持つネズミと変わらない姿をしている、小柄ながらとても賢く、村の教育係だったり、軍師だったり、ディアスの外付け記憶領域だったりする、すっかり古参


・ヒューバート

 人間族 男性

 元王城務めの内政官、生真面目かつ慎重派だが、実地研究や冒険が好きで、新しい出来事ばかりのイルク村ではワクワクしながら日々を過ごしている。


 翌日。


 朝食を終えて鍛錬を終えて、さて、今日はどんな仕事をしようかと頭を悩ませていると、そこにズザザザと何かを引きずるような音が響いてくる。


 その音はかなりの力強さで響いていて……何事だろうかとそちらに足を向けると、鼻息荒く地面を踏みしめこちらに歩いてくるハルジャ種の姿が視界に入る。


 白黒毛の一頭、確かオスで……アルナーが世話をしている子だったか。


 そんなハルジャ種には革を主に使った、鉄で補強された首輪? のようなものが装着されていて……その首輪からは鎖が伸びていて、鎖の先には大きな木材を乗せたソリの姿がある。


 首輪というか肩輪というか、人間で言う所の肩に引っ掛けて積荷を引っ張るためのものらしいそれは、壊れることなく歪むことなくしっかりと鎖を引っ張っていて……鎖もソリも、そしてハルジャ種も、大きく重いはずの木材相手でもなんのその、平気な顔でこちらに歩いてくる。


 恐らくあの木材はゴブリン達が海から持ってきてくれたものなのだろう、それをあのトカゲ川の水源辺りで受け取り、ここまで曳いてきたと。


 これまでもかなりの量の木材が運ばれてきてはいたが、今回のは特別大きな木材で……あの木材を余裕で挽いてしまえるハルジャ種の力には驚かされてしまうなぁ。


 村まで運んだなら、手綱を握っていたアルナーの手によって鎖が外され、首輪も外され何人ものアイセター氏族達が駆けてきての世話が開始される。


 体を痛めていないか、蹄鉄は壊れてないかなどの確認が行われたなら体をよじ登ってのブラッシングが開始され、同時にニンジンや野菜、岩塩や砂糖などの褒美の品がたっぷりと振る舞われる。


 するとハルジャ種は嬉しそうに鼻を鳴らしてから食事を開始し……木材の方は駆けてきた洞人族達がどこかへと運んでいく。



 それを見送っているとハルジャ種を存分に労ったアルナーがこちらにやってきて、声をかけてくる。


「あれはしばらくの間、乾燥させるらしい。

 乾燥させると良い木材になるんだとか……この辺りや荒野はこの時期、乾いた風が吹くから乾燥には向いているんだそうだ。

 そういう訳で工房近くの材木置場で早速何本もの木材の乾燥が始まっていて……程々に乾燥した小さな木材なんかは早速建材への加工が始まっているようだ。

 もちろん荒野でも乾燥させていて、どちらの方が良い仕上がりになるのか、今度の夏に確認をしてみるとか言っていたな」


「はぁー……なるほど。

 確かに山近くでは木材をただ並べているだけの場所なんてのを見かけたが、アレは乾燥目的だったのか。

 ……海を渡ってきたとなれば尚更しっかり乾燥させないといけないんだろうなぁ。

 ……乾燥させてからは何に使うつもりなんだ?」


「色々だ……どうやら鉱山開発が一段落したことで、洞人族の手が余り始めたようでな、暇でしょうがない連中が何か作ってやろうと動き始めたらしい」


 と、そう言ってからアルナーは私がいない間に聞いたという話をしてくれる。


 鉱山開発は一段落ついた、掘るべき場所を掘り終わり、崩落防止の補強なども終わり、後は鉄鉱石を掘り出していけば良い。


 余った人手で一気に掘り出すことも可能だが、そうなると崩落やら排水やら色々な問題が出てくるとかで……少ない人数でゆっくりと採掘を進めていくことになるらしい。


 鉄の精錬施設なども大体が出来上がり、鍛冶場も順調……そうなると当然人手が余るが、鉱山周辺でやれることはもうないに等しい。


 という訳で鉱山で働いていた洞人族達は作業を求めてイルク村へと戻ってきたんだそうだ。


 道具と木材があれば木を切りたい、ハンマーと鉄があれば釘を打ちたい、雨が降っていても風が吹いていても、どんな天気でもそうするのが洞人族の原風景であり、鉱山開発で忙しかったことが変に洞人族達の労働意欲を刺激してしまったそうだ。


 その上、イルク村には酒場もある訳で……働けば働いただけ酒が飲めるという環境も洞人族達のやる気を増させているらしい。


 そういう訳で早速、建築にも取り掛かっているようで……それは結構な範囲で行われているようだ。


「まずは予定通りに領主館を二つ、一つはイルク村に、もう一つは迎賓館の近くだ。

 イルク村の領主館は大事な書類なんかを保存する実用性重視のもので、迎賓館の近くのは来客に見せつけるための外見重視のものになるらしい。

 それといくつかの家……各種族のための話し合いの場とか交流の場とか、そういう建物を作っていって、それから希望する者のための個人の家も作っていくそうだ。

 そして薬草小屋……今まで私やセナイ達でやっていた薬草栽培をもっと本格的に、規模を大きくしてやっていくためと、薬の研究や調合をしていくための建物を作ってくれた。

 領主館はオリアナが、交流の場はゴルディアが、薬草小屋はセナイ達とエイマが設計を手伝ったようだ。

 全体の指揮はヒューバートだな……薬草小屋はほぼ出来ていて、セナイ達の知恵を借りながら早速いくつかの薬が出来ていたぞ」


 そう言えば以前、領主館とかを作るとかなんとか言っていたっけ。


 そして皆の家も必要で……薬草小屋もまた必要なのだろう。


 サンジーバニーがあるからと言ってなんでも頼り切りでは問題がある、いつ枯れるかも分からない代物なのだから、それ以外の手段を今から用意しておくべきだろう。


「なら今日はその薬草小屋を見てこよう。

 大事な施設なんだろうし……必要なら色々道具も買ってやらないとな」


 と、私がそう返すとアルナーはにっかりと笑って、薬草小屋へと案内してくれる。


 薬草小屋があるのは村の最北……北端と言って良い場所だ。


 セナイ達の畑や倉庫からも遠い不便な場所だけども、綺麗な水が手に入りやすい上流の方が良いからと、そこになったらしい。


 薬草小屋の周囲にはまず畑があって、そこで薬草を育てているのだろう


 更には洞人族の工房も近くにあって、今もそこにある複数の煙突からモクモクと煙を上げている……あそこで建物に必要な建材でも作っているのだろうか?


 そして倉庫用なのかユルトがあって……地下への入口があるのを見るに地下貯蔵庫もわざわざ作ったらしい。


 主役の薬草小屋は……どういう意図なのか、不思議な構造になっていた。


 まず家に足があった。


 足というのは正しくないかもだが、建物の床が地面に接していないようで、太い何本かの柱で浮かせてあるようだ。


 そのため入口までの階段がまずあって……その先には鉄で囲われた頑丈なドアがある。


 建物それ自体もそこかしこに鉄が使われているようで、洞人族達がかなり気合を入れて頑丈にしてくれたようだ。


 ……そして、一番気になるのがそんな建物のすぐ隣にある不思議な空間だった。


 えぇっと……あれはガラスで出来た建物、なのだろうか?


 窓枠のような鉄や木の骨組みがあって、それを組み合わせて建物のような形にして、骨組みには窓のようにガラスがはめてある。

 

 壁も天井も全てがガラスで……本当にガラスの建物としか言い様がない姿をしている。


 ……あそこまで綺麗かつ大きいガラスは、結構な価値があるはずだが、いつの間にこんなにも用意したのか……そして何故それを建物にしようなんて思ってしまったのだろうか??


「あー……あの家は薬草を育てるためのものらしい。

 その昔になんとかという虫好きの若者が、虫を観察しながら育てたいとガラスの箱を作ってそこに土や植物を入れて、虫が生きていけるガラスの中の世界を作ろうとしたらしい。

 ……まぁ、結局虫は死んでしまったそうでな、若者はその箱をそのまま放置してしまったそうなんだ。

 ……だが問題はそこではなくて、ガラスの中の土や植物でな、結構な間放置されても植物は枯れなかったんだそうだ。

 それどころか大きく成長したらしい。

 ガラスの頑丈さが外からの寒気や乾いた風を防ぎ、その透明さが太陽の熱を通した結果……なんだとか。

 この辺りは寒くなるが、ああやってガラスで覆っておけばそれを防げるとかで、ついでに土が乾くのも防ぐので、この辺りでは育てられない薬草も育てられるんだそうだ。

 そして手で抱えられる程のガラスの箱を作れば海の向こうからでも薬草を運んで来ることが出来て……この辺りでは手に入らない薬草をそうやって手に入れて、あそこで育てて増やすと、そういうことらしい」


 なる……ほど?


 確かにガラスは太陽の光を通すが……それだけで育ってしまうとは植物も不思議な作りをしているなぁ。


 そして植物は潮風を浴びると枯れるんだったか……それをガラスで防ぐことで海の向こうからでも運んで来られる……と。


 ゴブリン達に頼めば大陸中の薬草が手に入るかもしれず……こことは違う気候の地域の薬草でもあのガラスの家なら育てられると、そう言う事か……。


 ……なんだかとんでもないことを言っているような気もするが……まぁ、ヒューバート達が問題ないと言っているのなら、問題はないのだろう。


「……なるほど、薬草のことは分かったんだが、あのガラスはどうしたんだ? あれだけの量のガラスを買ったなんて話は聞かないが……」


 と、私がそう言うとアルナーはきょとんとした顔で工房を指さしながら言葉を返してくる。


「それならあそこで洞人族達が作っているぞ。

 エイマの眼鏡やら遠眼鏡やら、不思議な物もあるもんだと驚かされたが、詳しく聞いてみればなんてことはない、砂を溶かし混ぜ物をしたらそれだけでガラスになるそうじゃないか。

 洞人族の中にはガラス作りやガラス細工が得意な者もいるそうでな、これからは注文しておけば必要な分を作ってくれるそうだぞ」


 ……ガラスってそんな簡単なものだったか?


 いや、簡単なものが高値になるはずは……。


 と、そんな疑問が浮かんでくるが、そもそもガラスの材料とか作り方とか、そういうことを私は一切知らなかったからなぁ、ここで異論を挟むのも何か違う気がする……。


 賢いヒューバート達が何も言っていないのならまぁ、問題はないのだろうし……何かあればすぐに報告が来るはずだし、深く気にする必要はないのかもしれない。


「ガラスは植物を育てるだけでなく食料を保存するにも向いているそうでな、少し工夫をすると保存ガラス瓶なんてものが作れてしまうらしい。

 これからはそれもどんどん作ってくれるそうだから、貯蔵庫や倉庫が賑やかになっていくぞ!

 今から楽しみだな!」


 更にアルナーはそう続けてから笑顔を炸裂させて……私はよく分からないながらも、悪いことではないはずだと納得し、それから始まるアルナーの弾む声での話に耳を傾けるのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回はこの続き、薬草小屋の続きやら何やらです



そしてお知らせです

小説版第13巻が、4月15日発売で絶賛予約中です!


これからまたイラストなど出していけるかと思いますので、応援の程をよろしくお願いいたします!!

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― 新着の感想 ―
温室だ、温室出来ちゃった。 じゃあ次はガラス張りの入浴施設を作れば、寒い冬でも満点の星空の元で露天風呂が楽しめ… え、魔法で寒さ凌げば良いって?満点の星空も見飽きてるって?? …ガラス作りが得意なら…
いつもの頭脳労働はヒューバードに丸投げのディアスどんでした。 温室ですかぁ、薬草だけで無く南国の果物なんかも栽培出来ますねぇ。 アルナーは食料の貯蔵にやはり幸せを感じるんですねぇ。 色々な建築物が出来…
マジでオーバーテクノロジーだなぁ、洞人族(汗) もう蒸気機関車とか作っても驚かんよ。多分。
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