ニャーヂェンの予測
――――荒野で夜警の合間に ソマギリ
「ふ、ふふ、ど、どうだ、やはり俺の判断は間違っていなかっただろう?」
「若、声が震えていますぞ」
夜目が効くからと任された夜警の休憩時間、荒野にあるトカゲ側水源近くに生えたデーツの木を見上げながらソマギリが震える声を上げると、幼い頃からソマギリに仕えてくれている従者がそんな言葉を返してくる。
「……ふ、震えもするだろう。
メーアバダルに仕えて間もなく神々の使者が現れ、その上この奇跡だ……。
まるで狙ったようなタイミングだが、それも大量のドラゴンを討伐したことへの報酬だと言うではないか。
……おかげで部族内に燻っていた反王国感情や、急な移住に動揺する声が綺麗さっぱり消えてくれて、全く……ここまでとは思いもしなかったぞ」
「衣食住を保証してくれた上で、十分な給金とドラゴン装備の支給を約束してもくれましたからな。
……いきなり分散しての居住を命じられたのには驚きましたが、今にして思えばそういった判断が出来る強かさがあるという証明でもあり、逆に安心感に繋がりました。
女達はしっかり保護してくれていて不当な扱いもなく、子供達には高度な教育を受けさせてくれてもいる。
他民族との融和を掲げている帝国以上に良い扱いをされるとは、本当に予想外でしたな」
「……獣人亜人排斥を掲げている王国でこんな扱いとは予想出来る方がおかしいだろう。
しかしまぁ、その意図は分かる……アルハルから聞いたが隣国の獣人国では俺達のような外見の獣人、血無しと呼ばれている者達が不当な扱いを受けているとか。
そんな血無し達を受け入れたいと考えているメーアバダル公にとって、俺達を厚遇することは、俺達の忠誠心以上の見返りがあるという訳だ。
隣国への圧力、血無し達への誘いかけ……かなりの効果があるはずだ。
これからこちらに更に多くの血無し達がやってくるらしい上に、隣国への輸出なども積極的に行っていくとか……そんな中、俺達がこれだけの厚遇を受けているのを見たら、隣国では一体どんな反応があるやら、今から楽しみだ」
「血無しの方々は主に行商を担当するのでしたな……外見はよく似ていますが、得意としていることは違う様子。
夜目が効くのが我らだけだったのは幸運でしたな……特に鷹人族の方々まで夜目が効いてしまったなら、夜警まで彼らの仕事になっていたでしょうからなぁ」
「昼は鷹人、夜はニャーヂェン……そして犬人の鼻に、鼠人の耳もあって、優秀な魔法も揃っている……と。
俺達が全力を尽くしてもまず侵入は不可能だろうな……仮に侵入したとしても、あっという間に見つかるのがオチだ、どうにもならんな。
逆に言えばそれだけ安心して日々を過ごせるということでもあるのだがな……。
心配していた食料の問題も、この分なら問題ないのだろう……何しろ神々が味方なのだからな」
と、そう言ってソマギリは、デーツの木の幹をペシペシと叩く。
神が作りし川の水源側に生える、神が育てたデーツの木。
二度奇跡が起きたこの場所は、すっかりと聖地のような場所となっていて……神殿と同じくらいに領民達が足を運び、祈りを捧げる場所となりつつある。
翌朝になれば犬人族が駆けてきて、鷹人族が飛んできて、ラクダを始めとした家畜達もやってきて、賑やかな空気に包まれるのだろう。
不毛な荒野であったはずのこの場所で、飢えと乾きを癒せるこの場所は、これからも愛される場所になるのだろう。
と、そう思いを馳せたソマギリは、先程とは違って重々しい声をゆっくり上げる。
「……帝国にはこんな場所はなかったな。
……神々が不在なのか、それとも……俺達の働きでは神々の寵愛を受けるには足りなかったのか……」
「……さて、どうなのでしょうな。
あるいは……我らの前に現れていないだけで、帝国にも神々は現れていたのかもしれません」
「……うん? どういうことだ?」
「陛下……いえ、皇帝の前には現れていたのかもしれません。
そして神々の寵愛を独占していた皇帝は、更なる寵愛を求めて大陸統一とモンスターの駆逐を夢見たのではないかと、ふと思ったのです」
「……それは、確かにあり得るかもしれんな。
メーアバダル公の話によれば、使者様はドラゴンを倒す度にやってくると言う。
つまり神々の目的はモンスターの駆逐で……それに報いれば相応の品が下賜されると知って、そのための戦力を手に入れようとしての大陸統一か。
……確か皇帝はもうかなりの高齢だったな? あらゆる病を治す薬草、あらゆる攻撃を防ぐ鋼、家畜を健やかにする草に、滅びたはずの果実……。
そういった品々をくださる神々ならば若返りの妙薬を持っていてもおかしくはない……。
老いて迫る死を恐れ、神々に救いを求めての開戦か……。
しかし結果は敗戦……敗戦以来寝込んでしまったとのことだったが、それも当然だな」
「避けられるはずの死が避けられないとなって、心が折れましたかな。
……しかし、なるほど、ここまでの予想が当たっていたのなら、神々は皇帝を見放したのかもしれませんな。
皇帝ならばモンスターを駆逐出来ると思っていたが、そうではなくなり、その原因とも言えるメーアバダル公に目をつけた、とか」
「公によれば、大メーア様はずっとこの地を守っていたということだから違うはずだが……大トカゲ様はどうだろうな……?
しかしその予想は中々面白い……もしそうだとするなら、この地は帝国に負けないくらいの勢力の中心地になる可能性がある訳だ。
もしそうなったなら俺達は、多少出遅れはしたものの、古参と言って良い地位に就けることだろう。
これから懸命に働き、公の道を支えたなら……歴史に残る大名家になれるかもしれんぞ」
と、そう言ってソマギリはすっかりそのつもりなのか、拳をぐっと握り……覇気に満ちて輝く笑みを浮かべる。
「そうですな……そうなれば若の名前は歴史書に刻まれることは間違いなく、我らの子孫も繁栄の道を辿ることでしょう」
そして従者がそう答えるとソマギリは、笑みを浮かべたまま頷き……ならばまずは真面目に夜警だと、大股でもって歩き始める。
ただでさえ安全なメーアバダル領内の中でも、特別に不審者などがいるはずのない荒野の夜警がソマギリ達の今夜の仕事だったが、それでも油断せず周囲を輝く目でもって見回す。
ニャーヂェンの目はわずかな光さえあれば、その光を集めて輝き夜闇を見通すことが出来る。
水源だけでなく岩塩鉱床も、その周囲も……デーツの木もしっかりと見回って、そうやって朝が来るまで警備を続けた2人は、夜が明けたならイルク村へと戻り……早速その忠誠心を示すために、ディアスの下へと駆けていくのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回はディアス視点に戻ってのあれこれです。




