使者からの贈り物
あれから数日が経った。
メーアモドキの言葉通り、草原のあちこちに更に多くの白い草が生えて……メーアを始めとした皆がごきげんとなってくれた。
食べても食べても食べ尽くせない量だとかで、以前から生えていたものも含めて、相当な量になったようだ。
結果、草原の光景がまばらになって、あちこちに白が交じる少し不思議な光景となってしまったが、それはそれで趣があると誰もが喜んでいて……問題らしい問題はないようだ。
そして木の実。
これは翌日の早朝、アルナー達が竈場に向かうと見覚えのない樽がいくつも並んでいて、その中に入れてあったようだ。
ナルバント曰く、
『気味が悪い程に精巧な作りをした樽じゃのう……一切の歪みも傷も汚れもなく、木材からして見たことのないような質の高さじゃのう』
という感じらしい樽の数は全部で20個。
その中には様々な、東の森で見かけるような普通の木の実がたくさん入っていて……チャイが貰った物とも言えるので、全部の樽を鷹人族に……と、思っていたのだけどチャイとサーヒィ、鷹人族の長ホーラオから『訳が分からないことを言わないでくれ』などの反対意見が上がって、樽一つだけを鷹人族に、残りをイルク村に、ということになった。
一つだけでもかなりの量であり、食べきるには鷹人族総出でもかなりの時間がかかるとかで……残りはまぁ、アルナーに預けて料理に使うなり、そのまま出すなりしてもらうことにしよう。
そしてメーアモドキがくれた袋、これにはなんとも意外なことに乾燥させた果物が入っていた。
親指くらいの大きさで楕円形でくすんだ赤色、乾燥したことで皮にシワが寄っていて、持ってみるとまぁまぁ硬い。
今まで散々とんでもない物を渡されてきただけに普通の食べ物ではないはずだと思わず警戒した……が、サンジーバニーの時のようなおかしな警告もなく、どう使えという指示もなく……袋を受け取ってすぐに、もしかして嗜好品としてくれたのだろうか? と、思って一つ摘んで食べようとした、その時だった。
『ギャァァァァァァァァァ!!!!』
という今まで聞いたことのない悲鳴を上げながらエイマが飛び込んできて、私の手からその果物も袋も奪って、それらをかばうようにして抱きかかえながら物凄い勢いでの説教をされてしまった。
曰く、その果物はデーツという伝説上の果物であるらしい。
伝説上の存在ながら古代の頃には実在していたとかで、砂漠に伝わるおとぎ話によく登場していて、砂漠にあるという遺跡に残された壁画などでその姿を良く知っていたエイマは、どう考えても食べるものじゃないだろうと、栽培して増やせという意図で渡してきたに決まっているだろうと、そんなことを涙まで流しながら訴えていた。
乾燥させてしまった果物から芽が出るとも思えなかったが、エイマ曰くそのくらいなら問題なく芽が出るし、メーアモドキがわざわざ渡して来たのだから、芽が出て当然だろうとのことだった。
『デーツはですね!! 伝説では乾燥と暑さにとても強いとされているんです! 更には塩害にも強いんです!!
つまりですね! 荒野の岩塩鉱床の周囲や入江の周囲でも育てられるんです!
一度にたくさん収穫できて栄養たっぷりで、育てば10年20年、100年経っても実を残すとされていて、どう考えても荒野開拓のために託してくれたものなんですよ!
それを食べようとするなんて! 食べようとするなんて……! シャァーーーー!』
最後には威嚇までされてしまった。
袋はそれなりに大きく、10個かそれ以上の実が入っていたので一つくらいは……なんてことを思ったりもしたが、エイマの勢いは物凄く素直に謝るしかなかった。
それからデーツの実は荒野に植えられることが決定し……セナイ達に頼もうかとも思ったのだけど、入江はもちろん岩塩鉱床にしてもイルク村からかなりの距離があり、セナイ達に任せるのはどうだろう? ということになり……ひとまず鷹人族に頼むことになった。
鷹人族ならば空を飛んであっという間に大入江まで行くことが出来て、日帰りも可能ということで適任だろうとなった訳だ。
植える場所は3箇所、トカゲ川の水源の周囲と、岩塩鉱床の周囲、それと大入江の周囲で……複数に分けたのはどこが栽培に適しているかを確かめるためと、いざ定着してくれたなら、複数箇所にあったほうが便利だろうということで、分散することになった。
分散しておけば、大入江との行き来の際にそこで食料補給が出来るようになるし、遭難者が出た際などの希望にもなるし、荒野の広範囲に動物が戻ってくるかもしれないと……良いことがたくさんあるらしい。
ということでもらった翌日に鷹人族に頼んで地面を軽く掘り返してもらった上で、セナイ達が作った葉肥石などの粉末を撒いた上で植えてもらい……芽が出るだろう数日後にどうなったか様子を見に行ってもらうことになっていた……のだけどもその翌日。
岩塩鉱床に岩塩を拾いに行った犬人族達から驚くような報告が上がった。
それはデーツの樹が一晩で育ちきっているというもので……すぐさま鷹人族による確認が行われ、結果は事実……トカゲ川水源、岩塩鉱床、大入江付近の全てでデーツの樹が育っていたようだ。
大きく背を伸ばし、独特の葉を……硬く鋭い、手を擦ったならすっぱり切れてしまいそうな、剣のような葉を大きく広げて、何なら実まで生っている樹もあったらしい。
そんな馬鹿なと言うしかない報告だったが、落ちていた葉と実を……そのまま扇として使えそうなくらいに大きな葉と、真っ赤で美味しそうな実を鷹人族達が持ち帰ったことで、証拠まで揃い、私達は大いに驚かされることになった。
……だけども同時に、納得出来る話でもあった。
今まで散々とんでもない品々をくれていたメーアモドキが、普通の果物を持ってくるはずがなかったのだ。
植えたなら直ちに育って実をつける特別な果物、それこそがメーアモドキの贈り物で……あれだけのドラゴンを狩ったことに対するお礼ということなのだろう。
「……あの時あのまま食べていたら、私の腹からこの樹が生えていたのだろうか……。
……エイマは命の恩人だなぁ」
「いや、どうでしょう……噛み砕かれたら流石に芽がでないと思いますけど……多分」
トカゲ川の水源近く、ようやく暇が出来たということで確認に来た私が、大きく育ったデーツの樹を見上げながら声を上げると、頭の上のエイマがそんな言葉を返してくる。
私の背丈の2倍か、それ以上か……大きく育ったデーツは、その天辺から生えた枝を大きく広げていて……いや、あれは枝なのだろうか? もしかしたら大きな葉が直接生えているのかもしれないな。
樹の頭にしかそれが生えないというのはなんとも独特な姿で、そんな葉の下には数え切れない程の実をつけた枝? が、垂れ下がっている。
一つのそれには実が30か40か、それ以上ついていて……そんな実の塊が5か6か、そのくらいあり……一度の収穫でとんでもない量の実が採れてしまうらしい。
「ちなみにですけど、あそこに成っている実をそこらに植えても一日で樹が出来上がったりはしないようです。
多分ですけど、使者様にいただいたあの袋の中にあった実だけが特別なもので、成ったものは普通の実なんだと思います。
それから芽が出るかはこれから次第ですが……まぁ、きっと芽は出てくると思いますよ。
……思い返してみると葉肥石とかはこの荒野で拾える石な訳でして、もしかしたらこの荒野の土って、とんでもない可能性を秘めているのかもしれませんねぇ……」
と、エイマ。
目の前の光景に驚き疲れてしまったのか、私の頭の上で両手両足を投げ出す形で倒れ伏していて……いや、子供の頃から知っていた伝説を目の前にして感動しているのかもしれないな。
そして荒野の土か……確かにここらで葉肥石が拾えるなら、それが自然に風化して土の中に混ざっているというか、溶け込んでいてもおかしくはないのか。
実際水源の周囲には青々とした草が生えていて、セナイとアイハンが撒いたらしい花の種も芽を出し、ものによっては早速花を咲かせていて……以前の荒野とは比べ物にならない程、鮮やかな光景を作り出している。
水さえあれば、乾燥した大地さえなんとかしたなら、この辺りの大地は一気に緑に包まれるのかもしれないなぁ。
「……とりあえずあの実の試食をしてみないか? 見るからに美味しそうだし、伝説の味を確かめてみたいだろ?」
と、私がそんな言葉を返すとエイマは元気を取り戻し、しっかりと立ち上がった上で「はい!!」と力強い返事を返してきて……私は腰に下げていた手斧を投げて、いくつかの実を地面へと落とす。
それを拾い上げてエイマに渡し、それから自分の口に運んでみると……リンゴのようにシャキシャキしていて程よく甘く、そして渋い味が口の中に広がる。
……美味しくはあるが、絶賛する程ではない味というか……うぅん、渋みが邪魔になるなぁ。
「デーツの実は、あのまま放置しておくとどんどん乾燥していって、渋みが抜けて甘みが増すそうです。
恐らく使者様にもらったあのシワの寄った状態、乾燥しきるとあの状態になるはずで……それから収穫するものなんだそうですよ。
……これはこれで美味しいですけど、本番はそうなってからということなのでしょうね。
……ボクはこのままでも全然好きですけど、今は味見くらいに留めておきましょう。
イルク村に持ち帰るのも、味見くらいの数にしてくださいね」
と、そう言われて私は、再び手斧を構え直し、アルナーとセナイ達と、それと子供達の分だけ持ち帰ろうと、二度目の投擲を放つのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回はニャーヂェンやら何やらの予定です
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