世代交代の波 その1
――――鬼人族の村で 鬼人族達
ディアス達がドラゴンとの戦いを優位に進める中、鬼人族達は苦戦を強いられていた。
村を隠蔽魔法で覆い隠し、ゾルグ達が遊撃隊として村の外で戦い……隠蔽魔法で姿を隠したり現したりと、相手を翻弄するという戦術を展開し、いつものように対応していたのだが、ドラゴンの数が多すぎるがためにゾルグ達の体力も魔力も消耗してしまっていた。
ドラゴン素材で作った弓矢があり、ディアス達から譲ってもらった魔石があり、十分対応出来るはずだったのだが、常識外の数が相手ではそれも上手くいかず……十分な準備をしたつもりだったが、結果としては準備不足を露呈する形となってしまった。
決して油断をしていた訳ではないが、鬼人族の村の中にはマヤという老婆の占いを信じない人物も多く、そういった村人からの協力が得られないだけでなく、ちょっとした妨害もあったことが大きく影響していた。
ただ占いを信じていないだけでなく、ゾルグが族長候補として頭角を現していることへの反発もあっての妨害は、族長のモールが怒り叱り飛ばす程のもので……そんな中でもゾルグやその部下、ゾルグを手伝っていたルフラは腐らずに準備を進めたのだが……いくらなんでもこの数は想定外にも程があった。
そんなに苦戦しているのならさっさとイルク村に人を送り、援軍を頼むべきだったのだが……そうしてはいけないことを知っているゾルグとルフラは援軍を頼むことなく、自分達の力だけでどうにかしようとしていた。
……老婆の占いのことを知ったゾルグとルフラは、すぐに事情を聞くためにイルク村に向かっていた。
そこで老婆と直接顔を合わせ……そして3人だけの密談を行うことになり、そこで老婆からこんなことを言われたのだった。
『坊やに援軍を頼んでも良いけども、それはアンタ達のためにはならないよ。
どんどん力をつける坊やに頼り切りでは族長としての器が疑われるし、鬼人族の将来にも影を落とす。
……将来ちょっとした揉め事があった時、交渉しなければならないことがあった時、村を守ってやっているんだから、ドラゴンを倒してやっているんだから、譲歩しろと迫られたらアンタ達はどうするんだい?
鬼人族の誇りと独立を守りたいなら、やれるだけのことをおやり……それでも、どうしようもない時は坊やの力を頼っても良いけど、まずは自分達でやってみせなきゃぁ助け甲斐もないってもんだ。
……坊やがそっちに行くのは最後の最後、こちらの領土を守りきってからじゃぁないと、誰に対しても筋が通らなくなっちゃうんじゃないかねぇ』
返す言葉もなかった。
鬼人族がイルク村に力を貸したことは何度もあったが、それは鬼人族にとっても利のある話……この草原と誇りと独立を守るために必要なことでもあった。
十分過ぎる程の対価も受け取っていて……他の様々な面でも世話になっていることを考えると、貸しよりも借りの方が大きいくらいだ。
『……神様がイルク村にばかり現れているっていうのも、そっちにとっちゃ大問題だろう?
だからね、ここらで一つ、神様に頑張っている所を見せたら良いんじゃないかい』
老婆がそう続けたことでゾルグとルフラは納得し、頷き……そうして自分達の力で村を守るために十分な準備をした……はずだったのだが、結果はこの通りだった。
ゾルグは襲来し続けるドラゴンを倒しきれないと悟り、とにかく村から引き離そうと動きを変え始め、ルフラは村の中で混乱する村人達を宥めながら隠蔽魔法を維持し……どうにかこの苦境を乗り越えようとする……が、ある男が魔力を失い、倒れたことで状況が一気に悪化していく。
その男はゾルグに反発していたうちの1人の青年で……ドラゴンなんて来るはずがないと決めつけ、準備をせず魔力を溜め込まず、それどころか昨夜深酒をし、体調は最悪の状況。
その酒を買ったのはイルク村で、酒を買うための銀貨を稼がせてくれたのはイルク村で、だと言うのにイルク村からもたらされた情報に反発してその有り様……。
その男が担当していた隠蔽魔法が消失し、近くにいた者が慌ててその分を負担しようとするが、負担しきれず……その事態に気付いた女性が慌てて隠蔽魔法を展開したが、一瞬……ほんの一瞬、僅かな範囲で隠蔽魔法が途切れてしまい、それが空を舞い飛ぶウィンドドラゴンの大きい目に映り込んでしまう。
瞬間、そのウィンドドラゴンが迫ってくる、慌てた者達が矢を放つ。
しかし普通の矢だったために命中してもその甲殻を貫くことが出来ず、下手に大量の矢を放ってしまったものだから、何もない所から突然大量の矢が現れるという、そこに何かがあることを露骨に示す光景を他のドラゴン達に見せつけてしまう。
『落ち着きな!』
それは族長モールの声だった、魔力で震わせ、隠蔽魔法の内部にだけ届くよう調整された声。
直後族長がユルトの中から現れ……その老いた体に不釣り合いな大きさのドラゴン素材の弓でもってドラゴン素材の矢を放ち……見事迫るウィンドドラゴンを討ち取る。
『隠蔽魔法の精度を上げな! 放つ矢も隠してみせな! 出来ないことじゃないはずだ! 真面目に修練してりゃぁ出来るはずだ!』
更にそう言ってモールは、親族の女性に手伝ってもらいながら次の矢を番え……そしてこちらを睨み、警戒感を顕にしているアースドラゴンの目を見事な手腕でもって射抜いてみせる。
それに奮起して各ユルトから老若男女が飛び出し、弓を構えドラゴン素材の矢を借り受け、次々に矢を放っていく。
狙いを定め、隠蔽魔法をしっかりと練り上げ……高級な素材を使った矢を使うことに躊躇する者もいたが、村が滅んでしまってはどんな高級素材も意味がない上に、それらの元がそこらに転がっているのだからと、すぐに躊躇しなくなり……凄まじい数の矢が放たれていく。
ゾルグ達に反発し、何も備えていなかった者達も心を入れ替えて参戦するが……守るべき拠点の位置を相手に悟られたのが致命的で、鋭く空を舞い飛びながら、あるいは仲間の死体を盾にしながら、ドラゴン達が村へと迫ってくる。
多くのウィンドドラゴンとアースドラゴン、フレイムドラゴンの数は少ないが、一体いるだけでも致命的だ。
それらが迫る光景は終わりを……滅亡を感じさせるもので、それでもルフラは奮起し、隠蔽魔法を維持し続けるが……心折れる者も当然出てきてしまい、隠蔽魔法が薄れていく。
それを受けモールは決断する、村を捨て逃げることを。
なぁに、過去に一度やったこと、二度目だってやれるはず……そう自ら鼓舞しようとするモールだったが、一度目の辛い記憶が、過酷な日々が記憶の底から浮かび上がり……誰もが予想だにしなかった、族長の心が折れかけるというまさかの事態が起きてしまう。
逃げろと声を発することが出来ない、全てを捨てろと命令することが出来ない、せめてユルトの中で震えている子供達だけでもメーア達だけでもと思うが……その想いが言葉に出来ない。
また皆にあんな辛い目に遭わせるのか、また何もかも失った所から立て直すのか……もう自分にはそんな気力も体力も寿命も残されていない、族長として声を上げなければいけないのに、それがどうしても出来ない。
揺れるモールの瞳を見てその心中を察したルフラがモールの代わりに声を上げようとした―――その時だった。
何かが飛んできてフレイムドラゴンの翼を斬り裂き、フレイムドラゴンがなんとも哀れな恰好で地面へと落下していく。
フレイムドラゴンの翼を切り裂いた何かは、飛んで来た方向へと帰っていって……そしてまた飛んできて次々に空中のドラゴン達を切り裂いていく。
更には矢まで飛んできて……その矢は斬り裂かれたドラゴンにしっかりとトドメを刺していく。
一体何が起きているのか、何者がそれらを飛ばしているのか……ルフラやモールや鬼人族の誰もが困惑する中、ドラゴン達はその何者かを見つけたようでそれに向かって火球を吐き飛ばす。
そして無数の火球が弾けて炎の柱が上がる……が、命中しなかったのか、何者かは勢いを失うことなく、次々に何かを放ちドラゴンを斬り裂いていく。
……そして、翼を斬り裂かれて地面に落ちたフレイムドラゴンが起き上がり、何者かではなく鬼人族の村へと火球を吐き出そうとし始めた折、火球が放った煙の中から黄金の鎧が姿を見せて、フレイムドラゴンへと迫っていく。
馬はどこかに置いてきたのか自らの足で走るそれは、大きな戦斧を振り上げ、フレイムドラゴンの首を一撃で落とし、何事も無かったかのように駆け続けアースドラゴンへと迫っていく。
それを受け慌てて甲羅に籠もったアースドラゴンへと両手で握った戦斧をぶち当て、弾かれたなら片手を放して空中を舞い飛ぶ投斧を引っ掴み、また投げたら戦斧を握り直し、次なる一撃をアースドラゴンに放つ。
投斧は視界の外へと投げられていて、どう見ても適当に投げているようにしか見えないのだが、それでも不思議なことに空のウィンドドラゴンに命中し……不思議な力で投斧が戻ってきたならまたそれを掴み投げ直し……踊っているかのような華麗な姿でもって黄金の鎧は二つの斧を武器として戦い続ける。
一切躊躇がない、淀みがない、恐怖が無い、勇猛さしかない。
そしてそれを援護するかのように、先程の火球の火が燻る一帯から次々に矢が放たれて、雨のように矢が降り注ぐ中、黄金の鎧は気にした様子もなく舞い続け……あまりの光景に唖然とする鬼人族達だったが、すぐさま意識を手にした弓矢へと戻し、黄金の鎧を援護する形で矢を放っていく。
そうして状況はあっという間に逆転し、ドラゴンの数が見る間に減っていき……そして最後のウィンドドラゴンも、一段落したと汗を拭いながらの投斧投擲で討ち取られる。
「に、義兄さん! ゾルグ兄さん!! ほ、他はどうなったんですか? そちらの皆さんは無事なんですか??」
ドラゴン達が動かなくなり周囲がしんと静まり返る中、そう声を上げたルフラが黄金の鎧……ディアスと、ディアスと合流し援護していたらしいゾルグ達の下へと駆け寄っていく。
「ああ、大体倒し終わって鷹人族に草原の様子を見回ってもらっていたら、たまたま出会ったゾルグから話を聞いてな……鷹人族の偵察からも大変そうだって報告があって慌てて駆けつけたんだが……なんとか間に合ったようで良かったよ。
……マヤ婆さんの占いにはいつも助けられているけど、最後の最後まで援軍に行くなって占いは、やっぱりどうかと思うなぁ……今もギリギリだったと言うか、少しでも遅れていたら大変だっただろう?」
するとディアスは、腰に下げていたらしいタオルでもって流れ続ける汗を拭いながら……ちょっとした運動をしたくらいの表情で軽い声を返してきて、それに苦笑したルフラがゾルグへと視線をやると、ゾルグはやれやれと首を左右に振り……それから村に問題ないかの確認をするためか村へと駆けていく。
ゾルグの部下達もそれに続き……それを見送ったルフラは、他の皆に聞かれないように声を少しだけ小さくしながら言葉を返す。
「……いえ、多分それも大事な占いだったんだと思います。
色々変えていかなきゃいけないとか、時代が代わる時が来たとか、そういうのを実感するためだったんだと思います。
……鬼人族の成長のため、でしたっけ……これから義兄さん達に負けないよう、うんと頑張っていかなきゃいけないって、そういうことを占いを通して教えてくれたんだと思います」
するとディアスは、よく分からなかったといった感じで首を傾げて……それから篭手を外して、ルフラの頭をガシガシと撫でてくる。
話がよく分からなかったから誤魔化そうという意図ではなく、よく分からないがルフラが成長しているようで嬉しいという意図でそうしていることが表情から伝わってきて……ルフラはそれを本当の家族にされているかのように思い、柔らかに微笑むのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はその2となり◯◯の旅立ちとなります。
そして今回は別作品のお知らせです
WEB連載中の「転生先は北の辺境でしたが精霊のおかげでけっこう快適です」
のコミカライズ連載が始まっています。
連載はWEBかアプリの『マンガUP』にて
そして今月発売の『ヤングガンガン 2024 No.24』でも出張掲載が行われています
機会ありましたら読んでいただければ幸いです!!




