それぞれのドラゴン狩り
ドラゴン討伐について皆に話を聞こう……と、いうことになって始まった朝食の時間。
広場に何枚かの絨毯を敷き、座卓を並べクッションを並べ、そうして出来上がった食事の場で、ある程度食事が済んだ折を見計らって声を上げる。
「皆、少し良いか? 実はルフラが皆に相談したことがあるそうでな―――」
そんな前置きをしてから私が事情を話すと、誰よりも早くセナイとアイハンが元気な声を上げる。
「バリスタ! バリスタが良いよ! 凄く簡単だから!」
「ねらってうてばいい、ふれいむどらごんも、かんたんだった」
確かに以前の襲撃でセナイ達はフレイムドラゴンをバリスタで見事撃ち抜いていた。
こちらにバリスタという武器があることもしっかり理解した上で空を自由に舞い飛び、次にどう動くかなんてまず予測出来ないはずのフレイムドラゴンの動きを読み切っての全部命中。
確かにアレが出来れば効果的な対策になるのだろうけども……アレはセナイ達にしか出来ない芸当だろう。
あれからエイマやヒューバート、それとナルバント達はセナイ達の技術をどうにか一般化出来ないものかと色々実験していたようだが、なんとなくとか、直感でとか、感覚的な部分が多すぎて難航してしまっているようだ。
結局、セナイ達の技術を真似るよりも、バリスタを改良した方が良いとなって……セナイ達の指示を受けてすぐに狙いを変えられるように、分かりやすい指示が出来るようにという改良が始まったようだ。
歯車を特別な物にし、角度や方角を5段階だか10段階だかで設定出来るようにし……上に3歯車を回せとか、左に2歯車を回せとか、そんな風に数字での指示を出せるようにしているらしい。
それが完成したなら犬人族でも角度を変える操作が出来るようになるらしく……関所の上に設置されたバリスタでもって、そんな命中精度の射撃をされたなら確かにドラゴンもひとたまりもないだろう。
しかしそれが鬼人族に向くやり方かと言われるとなんとも言えず、重いバリスタと一緒に村を移動させるというのもどうなのだろうなぁ……。
ルフラも同じ考えのようで、私の近くの席でそれは無理かなぁという苦い顔をしている。
「……ナルバント達は何か無いか?」
と、私が促すとナルバントはヒゲを撫で下ろしてから口を開く。
「もちろん洞人族流のドラゴン狩りは存在しているがのう、他種族には真似出来んと思うぞ。
……どんな方法かと言えば、まずとても頑丈で分厚い全身鎧を着込むんじゃ。
その鎧の表面にはドラゴンの鱗すら貫くトゲと言ったら鈎爪と言ったら良いか、とにかくそんなもんが無数にあってな……次にそれを着込んだ戦士達を投石機でぶん投げるんじゃ。
命中したなら表面のトゲが刺さり抜けなくなりドラゴンに密着出来るからの、その状態で専用の武器でもって攻撃を加え続けて落下させたなら、待ち構えた仲間達で袋叩きよ。
アースドラゴン相手には落とし穴なんかも使うのう……まぁ、普段から用意しておらんと、緊急時には使えんかもしれんのう」
うん、無理だ、真似出来るはずがない。
ルフラの顔色は悪くなっていて……自分が投石機でぶん投げられる想像でもしたのだろうか。
「えぇっと……アルハルはどうだ? 故郷の討伐法とかはないのか?」
と、私が問いかけると話を振られるとは思ってもいなかったアルハルは、手にしていた食器を落としそうになりながら声を返してくる。
「うぇ!? こっちに聞く!?
そんなこと急に聞かれてもなぁ……非常識の巣窟みたいなここで言えることなんかねぇよ?
故郷でも普通に攻城兵器とか使ってたはずだし……ああ、でも皇帝の命令でドラゴン対策の兵器を作ろうとしてる連中がいるらしいとかは聞いたことはあるかな。
ただまぁどれも失敗ばかりだったって聞いたよ……かなりの資金を使ったみたいで、副産物はいくらか出来たみたいだけどね、ドラゴン用の毒を作ろうとして薬が出来たとか、炎を防ぐ鎧を作ろうとして新しい布が出来たとか、そんな感じ。
ドラゴン対策の武器防具は結局ドラゴン素材を使うのが一番だし、ドラゴン素材で攻城兵器でも作ってみたら良いんじゃないか?」
うーん……ニャーヂェン族だけの対策とかはないようだ。
「えぇっと、マーフはどうだ?」
こちらをじっと見つめて聞いて欲しそうにしていたマスティ氏族長にそう聞くと答えは、元気いっぱいの、
「噛みます!」
だった。
シェップ氏族、センジー氏族、アイセター氏族も大体同じ……まぁ、うん、犬人族だものなぁ。
ゴブリン族に関しては水中のドラゴンの話になってしまうし、後は……と、考え込んでいると、いつの間にやら席を離れていたアルナーが、以前私にと作ってくれた大弓を持って戻ってくる。
「ルフラ、これが私が作った大弓だ、ドラゴンの鱗も甲殻も余裕で貫ける代物だが……これを扱えるようになりたいか?
扱えるようになりたいと決めて鍛錬を続けて、体が大きくなればあるいはそういう道を進めるかもしれない……が、多くの鬼人族にその道を進むことは難しいだろう。
鬼人族のドラゴン退治と言えばやはり騎乗弓だ、騎乗弓の達人がドラゴン素材の弓矢を使えばどんなドラゴンにも負けないはずで、多くの鬼人族がその道を進めるだろう。
馬を今より増やし、より強い馬を育てあげて……ハルジャ種と今の馬の混血を作ってみるのも良いかもしれない。
……そんな風に道は色々だ、どの道を行くかを最後に決めるのはルフラ、家長のお前だ。
鬼人族の新しい道を探すという考えに至ったこと、そうやって自分で動けていること、違う考えを持つ者達に学ぼうとしたこと、どれも素晴らしいが最後の決断は自分でしっかりするんだぞ。
……よし、とりあえずこの大弓を引いてみろ、ルフラでも魔力を込めればなんとか引けるはずだ」
と、そう言ってアルナーは大弓をルフラの下へと持っていく。
それを受けてルフラは覚悟を決めた表情で立ち上がって大弓を受け取り……大弓の下部を地面に突き立てることでどうにか構えて、弦を引こうとする。
……なるほど、あの弦もドラゴン素材だったのか、ドラゴンや魔物の筋は魔力を込めることで柔らかくなるとかなんとか……。
つまりあの弓は魔力を使って引くことが前提なのに、それを私に使わせたと……。
いやまぁ、何度か練習したら引けるようになったけども、そういうことは最初に言って欲しかったなぁ……なんてことを思ってしまう。
そのうちにルフラはどうにかこうにか弦を引けるようになり……かなりの力と魔力を使っているのだろう、全身から汗が吹き出してくる。
「あらあら……魔力の使い方がちょっとお粗末だねぇ。
どれ、あたしが教えてやろうじゃないか」
と、マヤ婆さん。
「それが終わったら神殿に来ると良い。
一族の未来をと言うのなら、力よりも戦い方よりも、まずは確固たる精神と知恵を身に付けなければ話にならん」
ベン伯父さん。
「……常識人に話を聞きたいなら酒場に来たら良い、他よりはマシだと思うぞ」
これはゴルディア。
黙って様子を見ていた大人衆がぞろそろと立ち上がり、ルフラを構い始める。
……若者を構いたがる者達が揃ってしまった。
いや、ルフラが人に好かれるような器を持っていたのかもしれない……いずれにせよ、こうなってしまったらもう私の出番はなさそうで、ならばと立ち上がった私は、ルフラ構いに忙しそうな皆の分まで食器の片付けを始めるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回もまだまだルフラ君関連です
そしてお知らせです
本日コミカライズ更新日ということで、ニコニコ・ピクシブで59話
コミックアース・スターさんで60話が公開になりました!
ここまでで12巻分となり、12月は単行本作業のため休載となります
再開は来年1月となりますので、新年のコミカライズにもご期待くださいな!




