それぞれの思惑
登場キャラざっくり解説
・アルハル
元帝国人の女性、猫耳猫尻尾のニャーヂェン族、紆余曲折あってイルク村にやってきて、今はセナイ達の護衛に。
新参でもあるためか、セナイ達からはお世話してあげないといけない妹のように思われてる……とは本人は気付いていない
・リチャード
人間族の男性、サンセリフェ王国第一王子、次期王位を確実視される中、様々な改革を推し進め国を良くしようと奮闘中
・ナリウス
人間族の男性、ギルド所属ながらリチャードのために働いている密偵、態度は軽薄だが実力があるので重用されている
・エルアー伯爵
人間族の男性、王国貴族、ディアスに心酔し、ディアスのために王都でのロビー活動を行っている、最近になってようやくメーアバダルの皆に認められつつある。
――――村の広場で ディアス
宴の中で始まった騎士の任命式。
儀式剣をしっかりと構え、クラウスに忠誠を求める言葉を口にし、跪いたクラウスがそれを受け入れたなら、儀式剣を肩に置く。
それを数度やったならクラウスが立ち上がり、クラウスに儀式剣を預け……それをクラウスは皆に見えるように掲げて見せて、私に返したなら式は終わりとなる。
私の背後にヒューバート、懐の中にエイマと、2人の助言を受けながら……というか、2人の言葉をそのまま口にしていたので問題なく儀式が終わり、宴が再開……となった所で、セナイとアイハンが私の前にやってきて、元気な声を上げてくる。
「ディアス! アルハルも騎士にしたげて!」
「あるはるも、がんばってるから!」
その言葉を受けて誰よりも驚いたのが、皆が作り出す輪の後方に控えていたアルハルだった。
今日は裏方というか雑用に徹し、セナイとアイハンの仕事が無事に終わるようにと頑張ってくれていて……それだけでなく危険のないイルク村の中でも護衛として気を張ってくれていたようで、確かにアルハルは頑張ってくれている。
今日だけでなくイルク村に来てからずっと頑張ってくれていて……セナイとアイハンの良い友達というか友人というか、相談役のようなこともやってくれているようで助かってはいるのだが、しかしそれだけで騎士というのは……。
……そもそもセナイもアイハンも何を思ってそんなことを言い出したのだろうか?
2人のことだからそれなりの考えあってのことだと思うが……アルハルが村に馴染めるように、とかだろうか?
元帝国人で、休憩時間などは1人でいることを好み、少し気まぐれで、確かに他の皆よりは馴染めていない感があるが……。
モントと違って旧知の仲などもいないし、確かに少し浮いてしまっている……か?
そう言えばゴブリン族に故郷への手紙を預けていたはずで、故郷の家族を安心させるためにも一定の立場を与えたいのかもしれないな。
……アルハルの腕前は中々のものだ、クラウスには負けるが、それでもかなり良い勝負をしている。
潜入とか尾行に関しては領内で一番で、十分な活躍もしてくれているし、騎士に任命しても良いのかもしれない。
騎士に任命したことでアルハルもここを自分の居場所だと思ってくれるようになるかもしれないし……うん、悪くはなさそうだ。
セナイ達がどういったつもりでそんなことを言い出したのか、その詳細をここで聞いてしまっても良いのだろうけども、今そんなことをして宴の場を白けさせるのも躊躇われるし、アルハルのためにも良くない気がするし……そんなことをするよりも、領主としての決断をした方が良いのだろうなぁ。
懐のエイマからも背後のヒューバートからも反対の声はない、目の前のクラウスも満面の笑みを浮かべたまま、良いんじゃないです? とでも言いたげな様子でこくこく頷いていて……アルナーや他の皆からも特に反対意見はない。
あえて言うのならアルハルが目を丸くしながら首を左右に振っていたりするが……本気で嫌がっているとかでなく、ただただ動揺しているだけのように見える。
「よし、アルハル、こちらに来てくれ」
私がそう言うとアルハルは、目を丸くするだけでなく耳を覆っている毛を逆立たせ、尻尾をピンと立てて感情を顕にするが……それでも嫌がったりはせずに素直にこちらに来てくれて、そしてそんなアルハルを助けるべく、エイマが私の懐からアルハルの懐へと移動する。
そうして先程と同じように、儀式剣を掲げての任命式が開始となり……村の皆はそのことを大いに歓迎してくれて、任命式が終わるなり一段と盛り上がり、2人の任命を祝う気持ちを込めての宴が再開となるのだった。
――――王都 王城のとある一室で リチャード
王城のとある一室、多忙なリチャードが休めるようにと気を利かせた者達が用意したその部屋で、苛立ちを隠せないリチャードがなんとも荒々しく椅子に体を預ける。
春の王族はどうしても多忙となる、様々な儀式、式典へ参加する必要があり……王城前に国民を集めて去年の納税に感謝し、それを今年どう使っていくかを表明するというような、王族としての責務も欠かすことは出来ない。
本来それは王である父がやるべきことだったのだが、国民からも王城務めの役人からも改革を進め成功しているリチャードがと求められて……それを嫌々受けることになったリチャードは、王城前に集まった国民からの声にいつになく苛立っていた。
国民はリチャードが王位につくことを望んでいた、今すぐにでも王になって欲しいとそんな声を上げていた。
そういった声は今までもあった、何度も聞こえてきていた。
だが今回のそれはいつにない熱量で、本当に今すぐに……この場で王位につくと言って欲しいと望んでいるもので、そんなこと出来るものかとリチャードが内心で吐き捨てる。
リチャードの今を支えている組織は複数ある。
一つは騎士団。
リチャードが騎士団領を与えたことで忠実な……死地に赴けと命じたならすぐにでも駆けていく程に忠実な彼らは、戦力としても騎士団領を管理する官僚としても、文句のない働きを見せてくれている。
次に平民のギルド。
リチャードが志を持って行動し始めた時からの古参で、リチャードの手足となり積極的に動いてくれているが……最近は少しだけ、距離が出来てしまっている。
その理由は……もう一つの組織、神殿にあった。
宗教的な面からリチャードを支えてくれている神殿は、獣人への差別意識が強いだけでなく、平民にも似たよう意識を持っていて……最近では王族、貴族、神官からの特権を作ろうと画策までしていた。
自分達の地位を守りたいが、自分達だけではそれが不可能なので王族貴族を巻き込んでの制度改革をしようというものだ。
そうした動きが平民達の不評を買うことになり、かといって神殿との関係を切りきれないリチャードは、ギルドとの関係を少しずつ悪化させてしまっていた。
そんな状況だというのに退位を迫ることで王とその忠臣まで……今まで国を支えてきた者達まで失うなんて出来ようはずがなかった。
王の内政手腕は卓越していて、歴史に名を残してもおかしくない程のものだ。
そんな王の手足となって働いてきた者達もまた、洗練された手腕を持っていて……亡国の危機という厳しい状況を見事乗り越えた経験の深さも侮ることは出来ない。
その王が退位したなら、高齢に差し掛かっている忠臣達もそれに続くはずで……リチャードとその部下達だけでその代わりを担うのはまず不可能だろう。
そうなったら国は間違いなく荒れる、リチャードが即位した途端、国が荒れたとなったら国民はどう思うだろうか? 諸外国はどう反応するだろうか?
悪夢が再び訪れることは間違いなく、少なくともリチャードの改革が完全な形で完了するまでは退位してもらっては困るのだ。
改革の中で、未熟な者達を育て上げ、騎士団領を更に拡大し、騎士団の中から官僚となれる人物を見出して、ようやくなんとか形に出来る……はずなのだが、その道は険しく、まだまだ道半ばだ。
しかし国民がそれを待ってくれない、神殿が自分達の欲のために国民を煽り続けている。
まったくふざけた話だとリチャードが苛立ちを表情に出し、その顔をひどく歪めた所で、側に控えていたナリウスが声を上げる。
「味方を増やすしかないんじゃないッスか?」
ナリウスはギルド所属の人間で、あくまでギルドからの派遣という形でリチャードの側に仕えていたのだが、関係が冷え始めた今も変わらず仕えてくれている。
ギルドの方針よりもリチャードとの縁を優先してのことらしく……そのことをありがたく思っていたリチャードは、ナリウスのために苛立ちを抑え込みながら言葉を返す。
「増やしたいのは山々だがそう簡単に行く話でもないだろう……それとも誰か、良い当てでもあるのか?」
「あるッス……いや、驚いたり怒ったりしないで聞いて欲しいんスけど……。
……ディアーネ様とか、どうッスかね?」
その言葉を受けて目を見開いたリチャードは、ナリウスを叱責しそうになる……が、まずは話を聞くべきかと手を振ってその理由を教えろと話を促す。
「いや、ギルドの情報網に引っかかった話で、まだ正式な裏取りはできてねぇんスけど、なんでもディアーネ様、幽閉された神殿で大活躍されたとかで……一種の将才に目覚めたみたいなんスよ―――」
なんて言葉で始まったナリウスの説明によると、ある日ディアーネが幽閉されていた神殿が襲撃されたんだそうだ。
傭兵崩れの盗賊数百人の襲撃に対し、神官兵20人、一応王族であるからと派遣された護衛の騎士が10人、たったそれだけの戦力しかなく蹂躙されるかと思いきや……壊れた牢から脱出したディアーネが指揮を取ったことで大逆転、ほとんどの被害なく防衛に成功したらしい。
それだけでなくディアーネは、戦力をまとめ上げ盗賊達を殲滅すべく反撃に打って出て……見事盗賊の拠点を発見し、殲滅に成功したんだとか。
「―――生まれ持った才能ってやつなんスかねぇ?
ディアスとやり合った時はまだそれが目覚めていなかったのか……それともあの経験があっての成長なのか。
幽閉生活の中で本とかから学んだのかもしれねぇッスけど、とにかく凄まじい活躍だったみたいッスよ?
まー、美人で王族で、それなりに腕は立つ人ッスから、やべぇって時に颯爽と現れて盗賊を蹴散らしたなら、惹きつけられるのも分かるッスねぇ……あとはその魅力でもって騎士達を率いて大暴れと。
追々、王都にも知らせが届くはずで……それを受けて変な連中が騒ぎ出す前に、リチャード様が手を回すのも悪くないと思うんスよね。
幽閉を撤回してやってある程度の金銭と戦力を与えれば喜んで従ってくれるはずってのと、辛い幽閉生活は全部神殿が悪かったってことにしたら神殿と良い感じに牽制し合ってくれるんじゃないッスかね」
その言葉にリチャードは目を丸くする。
ディアーネの成長にもだが、ナリウスの成長にも驚かされる。
都合の良い手駒としか考えていなかったナリウスからまさかそんな意見が出されるとは……と、そんなことを考えているとナリウスが更に言葉を続けてくる。
「ああ、それとエルアーとかいうおっさんが、元帝国人の登用を正式に認めるべきとか言ってるみたいッスから、それを利用してそっち方向でも人手を探したら良いじゃないッスか?
おっさんが言うには、元帝国人であっても垣根なく積極的に登用してこそ融和が進んで反乱が起きにくくなる……らしいッスよ。
いっそ帝国から何人か引き抜いてしまうのも良いんじゃないッスかね?」
エルアー伯爵のその動きはリチャードも知っていた。
そういった動きをしている理由も知っている……ディアスの下に元帝国軍人がいるからだ。
先々権力闘争に巻き込まれるだろうディアスが、そのことで責められないように先に手を打っておこうというのが、エルアー伯爵の狙いに違いなかった。
それを利用して人材を集めてしまおうと言うのは……確かに悪くない案だった。
「分かった、とりあえずはそれで行こう。
ただそれだけでは足りないだろうから……式典が落ち着いたら会議を行う。
そのつもりで備えているように、それとお前にも相応の立場を与えるつもりだ、希望があるなら考えておけ。
……貴族でも騎士でも望む立場を与えてやる」
今度はナリウスが目を丸くすることになった、目を丸くして腕を組んで悩み……そして指で丸を作り、それより金貨が欲しいとリチャードに伝えてくる。
それを受けてリチャードは苦笑しつつも頷き、相応の報酬を用意すること約束するのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は宴を終えてのあれこれの予定です




