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領民0人スタートの辺境領主様  作者: ふーろう/風楼
第三章 領主様、奮闘す

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酒と二度目の宴

前話のサブタイトルを『新しい領民と宴と』から『新しい領民と宴支度と』へと変更させて頂きました。

よくよく考えてみればまだ宴は始まってなかった……。

 

「どうだ、ディアス、驚いたか?」


 にっこりと微笑むアルナーが、集会所の入り口で立つ私に、そう声をかけてくる。


「……まぁ、うん、驚いたよ。いつの間にこれだけの準備をしたんだ?」


「馬が手に入って、畑作りも上手くいって、エイマや犬人族達という領民が増えるとなって……これだけ吉事が重なったのだから宴をしてはどうかとマヤ達が言い出してな。

 丁度その時のディアスは忙しそうだったから……私の独断で勝手に準備を始めたんだ。

 いつの間にというなら、ディアスが手紙を書いていたりしている間に、だな」


 独断で勝手に、という部分をやたらと強調するかのようにそう言うアルナーに……どう答えて良いか分からずに私が固まってしまっていると……アルナーは私の言葉を待つこと無く、言葉を続けてくる。


「まぁ、ディアスも私に相談もしないで、勝手に酒を隠したりしていた訳だしな。

 ……これでおあいこだろう?」


 微笑んだまま、にこやかにそう言うアルナーに、私はただ唸るばかりで言葉が返せない。


 王国法では酒を飲んで良いのは18歳から、ということになっている。

 酒には中毒性と、病気を引き起こす力があるんだそうで、身体が出来上がり、それらへの耐性を得るまでは飲まない方が良い、という理由からだ。


 また18歳になれば成人だとされているので、責任感と自制心を抱く18歳になってから、との理由もある。


 鬼人族の掟でどうなっているかは知らないが……アルナーはまだ15歳だ。


 自ら酒豪だと言う程に、酒を飲んだ経験があるらしいアルナーの身体のことが心配で、酒のせいで病気にならないかと心配で……私は酒を隠したり、酒を処分しようと犬人族達に振る舞ったりしていた。


 ……が、そうした私の行為が、どうやらアルナーを怒らせてしまったようだ。


 どう言葉を返したものか、と悩み……ただただ謝るしか無いだろうとの結論を出して、私が口を開こうとすると、それよりも早く、ふっと柔らかく笑ったアルナーが口を開く。


「そんな親とはぐれた赤ん坊のような顔をしなくても、私は別に怒っている訳じゃないぞ。

 ……どうせディアスのことだ、私のことを心配して、私の為を想ってそうしたのだろう?

 もう長い付き合いなんだ、そのくらいのことは私にも分かる。

 ……ただ私達は夫婦なんだから、もっとちゃんと相談をして欲しいと思ってな。

 宴の準備を無断で整えたのは……そのことに対するちょっとした意趣返しだ」


 と、落ち着いた淡々とした声でそう言うアルナー。

 

 ………私は一体どんな顔をしていたのだろうか。

 思わず自分の顔に触れて、自分がどんな顔をしているのかと確認する私を見て、アルナーはぶはっと吹き出す。


 微笑んだり、笑顔になったり、軽い笑い声を上げるアルナーを見たことはあったが、そうやって笑うアルナーを見たことは無かったな……なんてことを考えながらアルナーのことをじっと見つめていると、アルナーは何故か頬を赤らめて……そうした後に表情を引き締める。


「犬人族だとか、エイマのことだとか、そういったことは逐一相談してくれるのに、なんで……と思うと悲しくもある。

 私の事が心配だというなら、そう言って欲しい……そして二人で、夫婦の……二人のことをもっとちゃんと話し合おう」


「……ああ、分かったよ。

 これからはそうするよ、すまなかった。

 ……それでだ、宴をするというなら早速、酒のことについてなんだがな……」


 真剣な表情で、真剣な声色でそう言ってくるアルナーの言葉をしっかりと受け止めて、力強く頷いて……。

 そうしてから私が酒のことと、王国法について話し始めると、途端にアルナーは渋い顔をし始める。

 

「酒が体に悪いなどと何を馬鹿なことを言っているんだ、ディアス。

 酒は体に良いものだぞ? 鬼人族が愛飲する馬乳酒という酒は、滋養もあって病を祓う力もあることから、馬を持つ家は乳離れをした子供に飲ませて―――」


「あ、赤ん坊に酒を!?

 い、いやいや、流石に駄目だろう、それは。

 赤ん坊に飲ませたりなんてしたら死んでしまうんじゃないか!?」


「そんな訳無いだろう!?

 むしろ飲ませない方が病気になったり、急死したりで危険なんだ!

 私の家は馬を持っていないから、薬湯しか飲めなかった訳だが……私も兄弟達も幼い頃は病気ばかりして大変だったんだぞ!」


 いやいや、いや、だが私も酒で体を壊した人間を見て来たぞと、そう言おうとした時、ふいにコツンと私の脇腹が何か固いもので叩かれる。

 一体何が……とアルナーから視線を外すと、ニヤニヤとした表情で木さじを持つマヤ婆さんがいつの間にやら私達のすぐ側に立っていた。


「全く仲が良いねぇ、アンタ達は。

 ほれっ、くだらないことでじゃれ合ってないで、アンタ達も準備を手伝いな。

 酒だなんだの話し合いは、宴を楽しんでからでも出来るだろう?」


 と、マヤ婆さんにそう言われて……改めて集会所の中へと視線をやると、宴の準備が出来上がりつつある光景と、皆が私達をニヤニヤと見つめるなんとも嫌な光景がそこにはあった。


「い、いや、しかしマヤ婆さん。

 宴をするというなら尚更、その前に酒のことはきっちりしておかないと……」


 皆のニヤニヤとした視線を振り払いつつ私がそう言うと、マヤ婆さんは木さじをブンブンと振って私の言葉を遮る。


「あーあー、そんなの無理に決まってるじゃないか。

 そもそもあたし達はね、倉庫で酒樽を見つけてね、こりゃぁ良い機会だから件の犬人族とやらが来たら、皆でこの酒を飲んで騒ごうって……そうお嬢ちゃんに提案したんだよ?

 そしたらどうだい、お嬢ちゃんは犬人族が来てからじゃぁ自分が飲める酒の量が減ってしまうとか言い出して慌てて宴を始めようとしちまってね……。

 それ程の酒好きに、今更になって酒を飲むな、なんて言って聞かせるのは土台無理な話だよ」


 そんなマヤ婆さんの言葉を受けて、私がサッとアルナーの方を見ると、アルナーはサッと私から視線を逸らす。


 私にもっと相談して欲しいだとか、黙って勝手なことをしないで欲しいとかも……まぁアルナーの偽らざる本音だったのだろうけど、酒を飲みたいからというのもどうやらアルナーの本音であるようだ。


 ……うん、まぁ、うん……。

 様々な価値観が違うと気付いていながら今までちゃんと話し合いをしなかった私も悪かったのだし、今日は良いとしよう。


 ただこの宴が終わったなら……その時にはちゃんと色々なことを話し合おう。

 酒に対する認識の違いとか、文化や価値観の違いとか、そういった事を色々。


 また新しい種族が増えれば、その都度新しい文化がイルク村に入り込んでくるのだから……その時になって混乱しないよう、イルク村独自のルールを作ることなんかも考えておいた方が良いだろう。


 うん……宴が終わったら、アルナーと、村の皆と、ちゃんと話し合うことにしよう。



 そうして村人総出での宴の準備が始められて、夕方になる前には準備が整って、ここ最近の村に起こった様々な出来事を祝う宴が集会所にて開かれることになった。


 エイマを加えての宴はとても賑やかに和やかに進んでいく。

 料理は以前より多く、美味しく、酒の力もあってか皆の笑顔が止まらない。


 食事が進み酒が進み、歌と踊りの時間だとなって……集会所の中央に躍り出たフランシスとフランソワが、お互いに角をぶつけあい蹄をカッコカッコと鳴らしながら、歌をメァーメァーと歌って見せると、宴の場は大いに盛り上がる。


 いつの間に歌を覚え練習したのやら、その鳴き声に抑揚などを付けながら歌う、その歌は聞いていてなんとも聞き心地の良いものだった。


 以前フランシス達との踊りを披露したクラウスは何やら悔しげで……まぁうん、最近のクラウスはずっと鍛錬ばっかりだったしな。


 そんなフランシス達のステージに我慢しきれなくなったのか、突如セナイとアイハンが乱入して……こちらは練習をしていないのか、即興というか場当たり的で……だがそれでいて楽しげな歌声を混ぜ始める。


 そんなセナイとアイハンは半ば無理矢理にエイマのことも連行していて……エイマもそんな歌の輪に混じり、エイマも含めた5人での大合唱が始まる。



 そんな、なんとも楽しく賑やかな宴は……日が沈み、セナイ達が眠気に負ける時まで続けられるのだった。




お読み頂きありがとうございました。


次回は犬人族登場?合流?回になります。



それと書籍の準備が整う中、各種通販サイトなどで予約が始まったり、始まってなかったりしています。

そんな書籍の発売に向けて、書籍版についてあれこれ語っていきたいなと思い、しばらくの間活動報告を更新し続けようかと考えています。

本編投稿と活動報告更新は同時に行っていく予定で、今回の更新でも同時に、軽い触りだけではありますが活動報告を更新していますので、気になる方はチェックして頂ければと思います。


今回更新のその1はまだ初回ということで大したことは書けていない感じですので、本当に興味のある方だけチェックしてください。



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― 新着の感想 ―
何と言う素敵な時間。 幸せのテンコ盛り!
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