寒さが緩み始めた、ある晴れの日
・登場人物紹介
・アルハル・ゲール
元帝国人、ニャーヂェン族の女性、領民になることを決めて、帝国の仲間へ連絡を取っている、セナイとアイハンと仲が良く護衛役
・チャイ
鷹人族の雛、サーヒィとビーアンネの息子、他の卵より少し早く孵った、産まれたばかりとは思えない程に賢い
結局あれから森人族達は、暴れたりすることなく大人しく獣人国の森へと帰っていった。
まぁー……モント達が少しでもおかしな動きを見せれば即処罰してやると、敵意に満ち溢れた見張りをしていたし、この関所には少し前にマヤ婆さんがかけてくれた、魔法を防ぐ魔法? 魔除け? が、かけてあり、動きたくても動けなかったのだろうなぁ。
盗賊達を森まで送るためライキリ達も帰っていき……それを見送ったペイジン・ド達は、神殿への礼拝をしてから帰りたいと、神殿へと向かっていった。
ついでに街道の様子を改めて確かめ、獣人国からの客を選ぶ際の参考にするそうだ。
……そんなことがあって数日後の昼過ぎ、そろそろのはずだと関所の中央広場で帰還を待っていると、まるで放たれた矢が起こすかのような風切り音が聞こえてきて……関所の壁を駆け上った何者かが、歩廊から広場へと飛び降りてくる。
濃い紺色の、特別製の……ペイジン・ドから作り方を教わった特別な服に身にまとったその人物はアルハルで、アルハルはこっそりライキリ達の後をつけて、本当に盗賊を森まで送り届けたのか、しっかり仕事をさせるのかの確認をすると獣人国に侵入……いや、出かけていた。
言ってしまうとその行為は、良くないことというか、露呈したなら大問題となる行為なのだが……セナイ達がこれからも草原で自由に安心して遊べるようになるため、しっかり確認しておく必要があると、アルナーやアルハルの強い意見があって、実行することになった。
獣人国の住民であるペイジン・ドまでが、
『そりゃぁ絶対にやった方が良いでん、うちでも念の為に何人か送る予定だけんども、ディアスどん直属の部下がやるってのも大事なことだでん。
何なら良い休憩所や、我が家の行商達が休む家や宿も教えますんで、そこらを利用すると良いでん。
……ただ、人間族が行くのは問題があるから獣人の誰かにお願いしてみると良いでん』
なんてことを言い出してしまい、その通り実行されることになった。
獣人で身軽で、戦いの心得があって、潜入などの経験があって……ついでにセナイとアイハンと仲が良いという、頑張ってくれる理由のあるアルハルが実行役となって……血無しに似た姿のアルハルが、そのまま獣人国に入るのは問題があるからと、全身を隠すような服を用意した……という訳だ。
耳や尻尾は外に出し、肌が見えている部分は徹底的に隠し……そして例の鈴の力を受けたアルハルは、特に怪我もなく、無事に帰ってきてくれた。
「ディアス、連中はちゃんと森に帰ってこき使われてたぞ、国の名誉を傷つけたとかで少し哀れになるような扱いだった……あれなら放っておいても問題ないだろ。
……という訳でそろそろ鈴の力を解いてくれ、これのおかげで誰かに見つかったり追跡されたりすることはなかったけど、ここまで来たらもう必要ないと思うし……。
ああ、いや、反動が来るだろうから、着替えなんかを済ませてからかな……いつ寝ても良いような状況になったら頼むよ」
そう言われて私は、手にしていた鈴を振りかけるが、途中でその手を止めてから頷く。
……この鈴の力はあれから色々と実験した結果、誰かの身体能力なんかを強化する力があると分かった。
対象は鈴の音が聞こえる範囲にいる、私が指定した人物となり……音が聞こえさえしたなら、かなりの大人数にも効果がある。
それでいて指定は大雑把でもよく……たとえばジョー隊とロルカ隊が取っ組み合いの演習をしていたとして、どこに誰がいるのか分からない程に入り乱れていても、私がジョー隊にと念じて鈴を振れば、鈴の音が届いたジョー隊全員に効果があり……鈴の音が聞こえていてもロルカ隊には効果がない。
音が聞こえればそれで良いという訳でもないという点が、なんとも奇妙であり……便利でもあった。
ちなみに強化を受ける当人が音を聞くことが重要なので、耳の良さにも影響されて……耳が良い犬人族は、かなりの遠距離にいても効果を受けることが出来る。
逆に風の音などで五月蝿くなるらしい空を舞い飛ぶ鷹人族は、すぐ上空にいても効きにくいという欠点もあり……使い方には気をつける必要があるだろう。
そしてどれくらい強化されるかというのは……鈴に込められた魔力の量に影響される上に、個人差があってなんとも言えない部分はあるが、かなりのものだ。
試しにジョーにかなりの魔力分の強化をしてみた所、見るからにクラウスよりも強くなり、私にあと一歩で勝てるかも……という強さを獲得することになり、効果がある間は疲労感もないとかで、ずっと効果を受け続けても良いと思う程に、体がよく動くようになるようだ。
……が、そんな風に体を動かせば当然のように反動があり、強化を解除した瞬間、とんでもない疲労感が一気に襲ってくるし、体に負担をかけていれば酷い痛みが起こるし、筋肉痛のような症状で数日間立ち上がれない、なんてことにもなるようだ。
まー……その痛みや症状は安産絨毯で癒やすことが可能なので、そこまでの問題ではないのだが……疲労のたまり過ぎで病気になったり命の危機があったりしても困るので、使う際には気をつける必要があるだろう。
「アルハル~!」
「おかえり~!」
着替えをしようとアルハルが関所の内部……私達用の部屋などがある一画に足を進めようとすると、中からセナイとアイハンが駆け出てきて……アルハルの手を取り、中へと駆けていく。
食事やらを一緒にするつもりなのだろう、アルハルもセナイ達に従って関所の中に入り……それと入れ替わりになる形で、少し成長して大きくなった鷹人族の雛、チャイがテテテとこちらに近寄ってくる。
どうやら今までセナイ達に構い倒されていて、アルハルと交代する形で解放となったようだ。
「ディアスしゃま、以前おはなしした、ここに住みたがってる仲間のことで、報告がありましゃ。
モントしゃまの了解をいただいて、すでに巣作りをはじめておりましゅ。
何人かとお会いになったと思いましゅが……改めて紹介させてくださいましぇ」
そしてチャイはそう話しかけてきて……以前よりもハキハキと喋れるようになったその様子に喜びながら私が、
「そうか、手間だろうがよろしく頼むよ」
と、返すとチャイは嬉しそうに頷き……ピピピピと甲高い鳴き声を上げる。
すると、どこに隠れていたのか、一斉に鷹人族がこちらへと降り立ってきて……チャイの横に一列に並びながら名乗り、挨拶をしてくれる。
「よろしく、よろしく、私はディアスだ、よろしく頼む、よろしく……って、多いな!?」
そんな鷹人族1人1人に挨拶を返していた私はその数に驚き、思わずそんな声を上げる。
すると鷹人族達はからからと笑い、小さく笑ったチャイがクチバシを開く。
「全部で20人いましゅ、皆領民になってここに住みたいそうでしゃ。
今回おかしな事件がおきたそうでしゅけど……ここにいる皆がいたらもうそんなことにならないと思いましゃ。
ディアスしゃま、どうか皆を受け入れてくだしゃいましゅよう、お願いしましゃ
先日、他の卵……兄弟達も無事孵り、安全に子育てが出来るこの地のことは鷹人族でも話題なのでしゃ」
チャイのそんな言葉を合図に、鷹人族達が一斉に頭を下げて……私はそれを受けて笑顔で言葉を返す。
「こんなに大勢の鷹人族、こちらから領民になってくれとお願いしたいくらいだ。
住処に関してはモントと相談して貰う必要があるが、移住も大歓迎だ。
モント達と協力してこの関所を守ってくれ……よろしく頼む」
すると鷹人族達は一斉に笑顔となってバラバラに「はい!」とか「分かったぜ!」とか、そんな言葉を返してきて……そうして新たに20人もの領民が増えることになるのだった。
・第十五章リザルト
領民【248人】 → 【333人】
アルハル
犬人族の赤ん坊 53人
鷹人族31人
・内訳
先に領民になった鷹人族 5人
チャイ 他雛達 合計で6人
後に領民になった鷹人族 20人
【メーア】の赤ん坊が12人産まれた。
32人 → 44人に
(夫婦メーアはまだ客扱い)
【獣人国】から詫びの品として大量の【物資】や【美術品】が届いた。
中には切れ味鋭い、獣人国の【剣】もある。
バリスタや始祖の銀を使った【防衛施設】があちこちに作られ始め、稼働を開始した。
施設【神殿】は改築や拡張され、規模が拡大しつつある。
施設【西側関所】に魔法防護がされ、鷹人族の巣が出来上がり、防衛力が増強した。
客人【ゴブリン族】が何人か滞在している。
客人【野生のメーア】が何人か滞在している。
冬が終わりに近付き、暖かい風が吹き始めた。
3年目の春が近付いている……。
お読み頂きありがとうございました。
次回からは新章となります。
そして以前お知らせしたかど忘れしたので再度お知らせです
書籍版第12巻の発売日が9月13日に決定しました!
書籍作業はほぼ完了しており、今回もキンタさんの素敵なイラストがたっぷり掲載されています!
既に予約開始されているところもありますので、興味がありましたらチェックしていただければ幸いです




