過日、丘陵地帯の逆転劇 その2
・現在の王国軍
北と南で前進中
中央後方となるディアス達は前進せず陣地で待機中
1000人の兵士達は、いくつかの部隊に分かれて行動をしていたようで……そのいくつかの部隊は大きく3つに分かれており、その3つをまとめ上げる3人の男がいた。
「おう、アンタがディアスか」
何の意図か髪の毛を全部剃り、鎧を着ずに上半身はほぼ裸、かなりの大きさの大剣を背負っていて……かなりの力自慢であるらしいことがその体格から分かる。
「……あなた達が作った陣地、作りも想定も甘すぎるのでは? 案自体は良いと思いますが……」
薬液か何かで青みがかった髪をきっちりと固めて、分厚いレンズのメガネをかけた細身の男……得物は腰に下げた細剣であるようだ。
「陛下の命令通り着任しました……が、まだこんな地点にいたのですか? あなた方が真面目に励んでいればもっと前進出来たのでは?」
鎧をきっちり着込み、兜もしっかりかぶり、得物である槍をがっしりと持ち、ピシッと背筋を伸ばしし……真っ直ぐに伸びた赤毛の眉がそのキッチリとした性格を示しているかのようだ。
そんな3人は露骨に私達……私とジュウハとクラウスへの不満を示していて、どうやら平民出身で兵士で何者でもない私達の下につくのが気に食わないらしい。
……私はともかくジュウハは元王城勤めで、クラウスは今も正規兵なんだがなぁ……。
「ま、陛下が直々に集めて鍛錬をさせ、武器防具を与えて指示を出した精鋭だ、無駄にプライドだけが大きくなってんだろうよ」
彼らを見ての第一声は、ジュウハのものだった。
それを受けて3人はいかにも怒ったぞと、そんな顔をし、中には武器の柄へと手を伸ばす者もいて……それを受けてジュウハが更に声を上げる。
「そんなに不満があるなら実力を示せ、そこの大剣使いはディアス、細剣使いは俺様、槍使いはクラウスとやり合え。
それで勝てば指揮権も何もかもお前らのもんだ。
……やり合い方は何も暴力に頼らなくても良いぞ、知力……計算でも論戦でもなんでもござれだ」
それを受けて大剣使いは、大剣を引き抜き……槍使いも槍を構える。
細剣使いは武器ではなく、知力での勝負を望むようでメガネの位置をクイッと直しながら前に進み出る。
そして私達が何かをやろうとしているのを聞きつけた仲間達がやってきて、合流した正規兵達と一緒になって私達を囲む円を作り出し……わいわいと歓声を上げる中、勝負が始まった。
「……うん、腕力も体力も大したものだが、体格の割に大剣が大きすぎるのではないか?
振り回されてしまって無駄に疲れているだけのように見えるぞ」
大剣使いは私と数度打ち合った後、手が痺れてしまったのか、大剣を持てなくなり落としてしまい……それで決着となった。
私のそんな助言も耳に入っているのかいないのか……地面に手をついて項垂れ、微動だにしない。
「せめて王城書庫にある本を全て読むくらいでないと、話にならんぞ。
読んだ上で諳んじてようやく知恵者の入口に立てるってもんだ、貴族様も陛下も、会議中に書庫で調べてきますなんて言った日には失笑を返してくるからな」
ジュウハの方も決着となったらしい。そう言われた細剣使いはひどく動揺した様子で、汗でくもってしまったらしいメガネを懸命に拭いている。
「……え? 俺より二年も前から王城で働いていたんですか?
……これで? え? 王城の警備ってこんなものなんですか?」
クラウスにそう言われてしまった槍使いは片膝をついて、生真面目にクラウスへの謝罪の言葉を口にしていて……動揺もせず、悔しがりもせず、そう出来ているのは素直に凄いと思う。
ともあれそんな風に3人の挑戦が失敗したことで、他の面々……残りの正規兵達も態度を改めたようで、居住まいを正したり近くにいる志願兵達に挨拶をしたりと、こちらへの敬意を示してくれる。
そうやって新たな戦力が合流することになった私達は……それからしばらくの間、正規兵達を鍛え直したり連携を見直したりと、戦力の立て直しに注力することになるのだった。
そして……20日程が過ぎた頃。
北と南の正規軍の戦況が大きく動いたとの連絡があった。
王様は私達だけでなく、北と南の正規軍にも援軍と物資を送っていたらしい。
それを受けて両軍とも勢いを増して、更に前へ前へと前進していったそうなのだが……どうもそれが良くなかったようだ。
連携不足の鍛錬不足、そこに帝国軍がこれ以上進ませるものかと必死になって食らいついたようで……北も南もほぼ同時に敗北してしまったらしい。
と、言っても軍が壊滅してしまったとか、多くの死者が出てしまったとか、そういうことではなく……一時的に士気が崩壊して後退、立て直し中と、そんな状況にあるようだ。
そんな報告を持ってきてくれた伝令には休んでもらうことにし、そんな状況にどうしたものかと話し合うことになり……私、ジュウハ、クラウス、ジョー、ロルカ、リヤン、それと正規軍の3人が話し合いに参加することになった。
話し合いは陣地の中央で、木材で雑に作ったテーブルを囲んで行われることになり……まず細剣使いが声を上げる。
「敗戦は残念ですが、戦力が失われなかったのは何よりです。
戦力の立て直しが終われば反攻も可能なはずで……すぐに戦線を押し戻してくれることでしょう」
それを受けて大剣使いと槍使いが頷く中……ジュウハが渋い顔をしながら声を上げる。
「どうだろうな……。
戦力の立て直しっても、どこで立て直してるんだか……急遽作った雑な陣地で立て直しなんてやったら、そこを急襲されたり脱走兵が出たりで混乱が続くかもしれん。
豊富だった物資も敵に奪われたなんてことになったら、仇となる訳で……場合によってはここから連戦連敗なんてこともあり得るぞ。
俺達みたいに丁寧に陣地構築してりゃぁ話は別なんだがなぁ……。
ディアス、念の為敗戦が続いた場合の対処を今からしておくぞ」
「そ、それはいくらなんでも考えすぎなのでは!?
対処をしたとして無駄になったらどうするおつもりで……!?」
ジュウハの言葉に細剣使いが噛みつくが……ジュウハは半目となって言葉を返す。
「良いじゃねぇか、無駄になったらなったで。
無駄になるってことはつまり味方連戦連勝、快進撃を続けてるってことなんだからな。
備えってのは無駄になってこそ価値があるんだ……よく覚えておけ」
「ぐぅ……」
ジュウハにそう返されると細剣使いは何も言えなくなって黙り込む。
大剣使いも槍使いも異論はないのか黙ったままで……私やクラウス、ジョー達が頷くとジュウハは、その対処と備えについてを語り始める。
それはまたなんとも突飛というか、私達からすると狙いの見えない、的外れにも思える案だったが……私達はただ頷き、ジュウハに従うことにする。
ここで変に質問をしたり、あれこれと意見を言ったりしてもジュウハの足を引っ張るだけだということは、これまでの経験でよく知っている。
とりあえず従っておけば間違いはなく……ジュウハがもし間違うようなことがあったとしても、ジュウハ程の人物が間違うのなら、それは仕方のないことなのだろうと思う。
「よしよし、お前らはそうじゃねぇとな。
じゃぁディアス、とりあえずお前は後方の陣地にこっそり移動して―――」
しかしまぁ、なんと言うか……本当にジュウハの言うことは突飛で、それがどうして対策や備えになるのか、付き合いの長い私達でもよく分からない。
私もクラウスも、ジョー達も首を傾げながらジュウハの声に耳を傾け……そんな私達の態度を見てか、正規軍の3人はこれ以上なく顔色を悪くし、不安そうな……怯えた子供のような目をしてくるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はこの続き……帝国軍視点となります
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