過日、丘陵地帯の逆転劇 その1
・志願兵時代、黄金低地終了時のディアスの戦力
・主力:ディアス
・その補佐:クラウス
・軍師:ジュウハ
・各部隊長:ジョー、ロルカ、リヤン、他
全体兵数1200前後
物資や装備、馬は敵から奪ったので余る程
さて、去年の黄金低地のようにまた戦場での話をすることになったのだが……今回は以前と違い、吹雪の中という訳でもなく、他の村人達も話を聞けるという状況にあり……村で暮らすほとんどの人が話を聞きたがるという事態になった。
ジョーを始めとした戦友達は当事者ということもあって、そこまでの興味を示していないが、それ以外の人は漏れなく……という感じで、学び舎や神殿で話すには人数が多すぎるということで、産屋近くの一帯にそのための場所を作って話す……ということになった。
地面には毛皮を敷き、柱を立てて簡単な屋根を作り……クッションや椅子を並べて席を作り。
クッションは主に犬人族が好み、椅子はマヤ婆さん達が好み……サーヒィ達のための止まり木や、メーアのために毛皮を重ねて敷いたりもしている。
そこに皆が大集合、ゴルディア達による酒や簡単な食事の配膳が終わったところで、フェンディアがそろそろお話を……と、促してくる。
「あー……あれは、黄金低地の戦いの後の話だったか。
……皆はセナイ達から黄金低地の話を聞いているよな? あの後の数ヶ月、農作業をしながら体を休めた私達は更に敵地へと進んで―――」
――――過日 帝国領内を進みながら ディアス
数カ月間、私達が畑を耕したり狩りをしたりしている間に、進軍が遅れていた王国軍が遅れを取り戻すかのような勢いで進軍したとかで、前線が一気に動き……いつのまにか遠くなり、前線までの距離は結構なものとなっていた。
そうなったら当然、私達も前線に向かう必要があるのだけども、私達ばかりに手柄を上げて欲しくない王国軍は、ゆっくり来いとか、もう数ヶ月休憩していろだとか、そんなことを言ってきていて……私達はその言葉の通り、ゆっくりと進軍することにした。
私達の目的は戦争に勝つことであって手柄を上げることではない、他の軍が戦って勝ってくれるなら文句もなく……ゆっくりゆっくり、ジュウハの指示に従って陣地を作りながら進んでいく。
あの低地はすっかり王国のものとなって、あそこまでの道が整備され、王都からの物資が運び込まれるようになり……運び込まれた物資の保管庫を数ヶ月の間に作っていたらしいジュウハは、それの縮小版というか、小型保管庫のようなものを進む先のあちこちに作ることにしたらしい。
ちょっと進んで、小型保管庫を作ってそれを囲う陣地を設営して、何十人かの仲間をそこに残し、物資の管理や防衛をさせることにして……保管庫を満杯にしたら先に進み、また保管庫を作る。
陣地の中には水車や燻製小屋なんかも作られていて……物資として運ばれたり、周囲の村々から買い付けた麦をそこでパンにしたり、狩った獣肉を燻製にしたりしていて……それらを私達の下に運ぶための部隊もわざわざ編成したようだ。
そうすると必然それらに結構な人数が割かれて、前線部隊の人数が減ってしまう訳だが……私達の仲間は元々、そのほとんどが兵士としての訓練経験のない平民ばかりだ。
長い戦いで肉体的にも精神的にも、疲れがたまってしまっている者も多く……そんな状況にある者達を無理に前線に連れていっても、良い結果にはならないだろう。
そこでジュウハはそういった戦いに向かない者達に陣地の守備や、食料生産を任せることにしたようで……元々そういった仕事が本業の仲間達ははりきって働いてくれて、そのおかげで私達が食料で困ることは少なくなっていった。
周囲で買えなくても狩れなくても陣地から運び込まれるから安心といった感じで……十分な食料を食べて養った体力で陣地を作って少し進んで……と、私達はかなりの時間を使いながら前線へと向かっていった。
ゆっくりじっくりかなりの時間をかけて。
ジュウハが言うには前線まで一年とか二年とか、それくらいかけるつもりらしく……こんなことしていて良いのか? と、不安に思う程だった。
そんなゆっくりとした進軍中に戦闘になることはなくはなかった。
ちょこちょこと帝国軍がやってきては、私を倒そうとしたり陣地の設営を邪魔しようとしたりしてきたが……数が少なかったこともあり、苦戦することはなかった。
帝国の主力はどうやら王国主力との戦いを優先しているらしく……こちらに関しては様子見に留めているようだ。
まぁー……ダラダラと陣地を作っているばかりで、前線に来る気の無い部隊なんて、相手しても仕方ないのだろうなぁ。
「……その上、ここにはディアスがいるからな。
わざわざ蜂の巣をつつくような真似、誰もしたくねぇんだろうよ……ま、オレ様としちゃぁじっくり補給路を整えられるのは、心労が減るんでありがたいばかりだがな」
前線までまだまだあるという地点、名前も知らない丘陵地帯に作っている陣地の見回りをしていると、私の考えていることを読んだのか、ジュウハがそんな声をかけてくる。
「しかし私達だけこんな所にいて問題はないのか? 前回とは真逆というか、私達だけが遅れている形になるが……」
あの低地での戦いでは他の軍が敗退したことで、私達だけが突出した形となっていたが……今はその逆、他の軍がどんどん前進している中、私達だけが引っ込んでいる形になっている。
確か他の軍は北と南の方で戦っているとかで……中央の戦線だけが引っ込んでいるというのは、あまり良い形ではないように思える。
と、そんな事を考えてのわたしの質問に対してジュウハは、
「んなこと言われてもな……他の連中への指揮権がこっちにある訳でもなし、オレ達に出来ることはねぇよ。
意見具申したとこで相手にされねぇだろうしなぁ……どんな状況になっても良いように、対策をしておくくらいしかやれることはねぇのさ。
それにな、仮に敵の主力がこっちにやってきたとしたら、北と南からの挟撃が可能な状況と見ることも出来るからな、そこまで悪い状況じゃぁねぇよ」
なんてことを言ってくる。
「ふーむ……まぁ、そういうことなら問題はない、のかな。
まー……私に出来ることはジュウハに全てを任せることくらいなんだが……」
と、そんなことを話していると、ドタバタと慌ただしい足音が響いてくる。
一体何事だろうか? と、私とジュウハがそちらに視線を向けると、その足音の主……クラウスが慌てた様子でこちらに駆けてくる。
「た、大変でーす! 国軍から連絡で1000の兵士をこちらに預けるそうです!
いずれも新兵で、今回の戦争のために徴兵して訓練したとのことでーす! 間もなくこちらの合流するそうです!」
新兵? 今回の戦争のために……?
それは私達と何が違うのだろうか? 一応志願兵じゃなくて正規兵ということになる、のだろうか?
なんて疑問を浮かべながらジュウハの方を見やると、ジュウハはなんとも嫌そうな顔をしながら片手を額に当てて俯き……、
「はぁ~~~~」
と、大きなため息を吐き出し、そのまま口を開く。
「せっかく数を減らしたのに、一気に倍以上か……しかも無駄にプライドの高い正規軍……そいつらの食料をどこから捻出しろってんだよ。
つーか、もっと早く連絡しろ、早く早くもっと早く、数か月前にするべきだろ!!」
「あ、彼らの分の物資は王都からすぐに届けられるそうですよ、なんでも陛下が尽力してくださり捻出してくださったとかで……今後も定期的に届けてくださるみたいです。
今回の増援も陛下のご厚情あってのことだそうですよ」
ジュウハがそう愚痴ると、すぐさまクラウスがそう返し……それを受けてジュウハは顔を上げて、先程よりはいくらかマシな表情となってクラウスが駆けてきた方へと歩き出す。
「……そういうことならまぁ、オレも少しはやる気を出すとするか、陛下の尽力を無駄にはできん。
……ディアス、お前も来い、挨拶ついでに連中の無駄に高くなっているだろう鼻っ柱を折ってやれ」
歩きながらこちらに振り返ってそう言ったジュウハは、私が歩き出したのを見ると、満足そうに頷き……それからクラウスの案内で、これから合流するという新兵達の下へと向かうのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はこの続き、その2となります
ちなみにですが黄金低地程、長くはならない予定です




