新たな領民
・登場キャラざっくり解説
・フェンディア
人間族、女性、神官。今はベンの補佐をしていて……ダレル夫人と仲が良い、またパトリック達の上司的な立ち位置でもあり、パトリック達はフェンディアに頭が上がらない様子
冬が深まり、寒さがどんどん厳しくなってきた頃、領民が一気に増えることになった。
まずはアルハル、今までは客人扱いだったが正式に領民になりたいとのことで、受け入れることになった。
仕事はセナイとアイハンの護衛。
正面から戦ったならクラウスに勝てないアルハルも、不意打ちなどがありならクラウスに勝つこともあり……身軽で柔軟で、驚く程狭い場所に入り込める上に同じ女性ということで、パトリック達が入れないような場所での護衛をやってもらうことになった。
既にセナイ達との仲は驚く程に良いし、帝国で勉強していたのか、貴族式のマナーにも詳しく、貴族だらけの場所でも問題なく護衛をやってくれることだろう。
帝国式と王国式ではマナーに違う部分もあるが、そこはダレル夫人から習うことでなんとかなるそうで……基礎がしっかり出来ているだけに習得までそう時間はかからないそうだ。
次に領民になってくれたのは鷹人族の男性3人と女性2人。
前々からイルク村で働いてもらっていた面々で……イルク村での仕事で金貨や干し肉をこれでもかと稼ぎ、十分な蓄えはあるそうなのだが、更に稼ぎたいというか……色々なことを経験してみたいからと、こちらに移住してくれるらしい。
王国の色々な街に手紙を届けたり、帝国にまで届けたりとし、今まで見たことのない景色を見て、会話したことのない人々と会話をして……そういった経験を一度してしまうと、静かな巣での暮らしには戻れなくなってしまうらしい。
逆にサーヒィはイルク村でゆったりと過ごす方が好みらしく、サーヒィが好まない領外での仕事を主にやってもらうことになりそうだ。
……そして次にサーヒィの子供、温めていた卵から雛が産まれたことで更に鷹人族が増えることになった。
鷹人族の子供は本来であれば、春か初夏頃に孵化するものらしいが、何が影響したのか、かなりの早い孵化となったようだ。
それでも体は十分に育っていて健康で、特に問題とかはないそうで……チャイと名付けられたその子は、サーヒィの愛を……溺愛が過ぎると言いたくなる程に深い愛を一身に受けている。
アルナーやマヤ婆さんが確認したところ、他の卵の孵化はまだまだ先……魂の成長具合などを見るに予定通り春か初夏になるとかで、早生まれはチャイだけとなり、親の愛を独占出来ていることをチャイ自身は喜んでいるようだ。
「どうだぁ? 可愛いだろ~、このクチバシとか翼の模様とか、オレそっくりでさ~」
網籠にメーア布を詰めて、自分の羽を敷き詰めて、そこにチャイを座らせて、その籠をしっかりと両足で掴んで……村中の皆に見せて回った後に私の前へとやってきて籠を私に持たせてから私の腕に止まり、そんな声を上げるサーヒィ。
「……いや、うん、可愛いよ、ニワトリとかと違って雛とは思えないくらいにクチバシも羽も脚もしっかりしていて、鷹人族の子だってはっきり分かる姿ながら、赤ん坊らしい無邪気な表情をしているし、まん丸の瞳がとても可愛いと思うが……。
……その、なんだ、ついさっき見たばかりだから、わざわざ見せてくれなくても良いぞ?」
私がそう返すとサーヒィは、
「いやいや、違うって、さっきより成長してるから全然違うって、可愛さが!」
なんて言葉を返してくる。
親バカもここまで行くと凄いというか……仲間を大事にする犬人族もびっくりな溺愛っぷりだ。
「ディアスしゃま、ごめんなしゃい、おとうしゃまはちょっとへんなのでしゃ」
そして小さなクチバシを懸命に動かし声を上げたのは雛のチャイだ、男の子らしいがその声はとても高く美しく……鷹人族の雛は皆こんな声なのだろうか?
大きさは手に乗る程で、姿形はほぼほぼ鷹人族そのままで……羽毛がふんわりとしている辺りはとても雛らしい。
「いやいや、構わないさ、我が子を大事にするのは良いことだしな」
と、そう返すとチャイは、私が言わんとしていることをちゃんと理解した上で、こくりと頷く。
……賢い、チャイはとても賢い。
孵化した翌日には言葉を話し始め、今では大人と普通に会話が出来るレベルだ。
クチバシがまだまだしっかり動かないせいで、発音が未熟な部分はあるが、それ以外はほぼ完璧で……本人曰く卵の中で学んだ結果らしい。
両親の会話や漏れ聞こえてくる村人達の会話、産屋に移動してからは神殿での会話や学び舎での会話を聞いていたようで……結果がこの賢さらしい。
それにしては賢すぎるというか……犬人族のように鷹人族にも賢い子が生まれるものなのだろうか?
「そう言えばディアスしゃま、他のたかひとぞくが、西の関しょにしゅみたいといってましぇ。
関しょの見張り塔の屋根の上が遠くまで見えて綺麗で巣作りしたくなるそうでしゃ」
関しょにしゅみたい……? 関所に住みたい、だろうか?
「んん……私としては関所に住んでもらっても構わないのだが、そこは関所の主であるモントとよく話し合って欲しい。
特に見張り塔の屋根の上となると、敵の攻撃を受けることになるかもしれないからな……巣を作っても安全なのかどうか、よくよく確認と相談をした上で決めて欲しい。
西の関所はモントに、東の関所はクラウスに、それぞれ確認と相談を頼む。
……と、こんなことをチャイに伝えても仕方ないか?」
「いえいえ、だいしょうぶでしぇ、ちゃんと伝えておきましょ」
そう言ってチャイは深く頭を下げて……小さな翼を胸に当ててしっかりとポーズを取ってみせる。
うぅん……本当に産まれたばかりとは思えないというか……親バカモードでニヤけきり、今の会話も耳に入っていないらしいサーヒィより賢く見えてしまうなぁ。
なんてことを考えていると、ドタバタと誰かが駆ける足音が響いてきて……セナイとアイハンと、エイマを手に乗せたアルハルがこちらへとやってくる。
「あー! チャイここにいたー! そろそろお昼寝の時間だって、ビーアンネお母さんが探してたよー!」
「チャイはまだちっちゃいから、たくさんねないとだよー」
そしてそう声を上げたなら、チャイが入った籠をセナイとアイハンの2人でしっかりと抱えてから、昼寝をするらしい産屋へと駆けていく。
「え、あ、ちょっ……も、もうちょっと起きてても良いだろう!?」
そんなセナイ達に大慌てとなって声をかけるサーヒィだったが、セナイ達は「だめー!」「だーめ!」と、そんな声を上げながら駆け続け、足を止めることはない。
そうしてサーヒィは慌てて飛び上がり、セナイ達を追いかけようとするが、その先にはビーアンネを始めとしたサーヒィの妻達が待ち構えていて……ビーアンネがサーヒィの体の上に乗り、翼の根本を強く掴むことで動きを奪い……そのままバッサバッサと翼を振るってサーヒィをどこかへと連れ去っていく。
「……まぁ、夫婦でしっかり話し合うと良い」
と、そんな言葉でもってサーヒィ達を見送り……それから改めて領民になってくれた面々のことを思い浮かべる。
アルハルと鷹人族達と、そしてチャイと。
去年は雪が深まった頃にはかなり静かな冬を過ごしたような記憶があるのだけど……今年は新しい領民達のおかげで、賑やかな日々が続きそうだ。
春になれば他の卵も孵化して、雛が更に増えるはずで……赤ん坊達もその頃には元気に駆け回っているだろうし、一気に賑やかになりそうだ。
と、そんな事を考えていると、セナイ達と入れ替わりになるような形で産屋の方からフェンディアがやってきて……何か用事でもあるのか、こちらへとやってきて声をかけてくる。
「ディアス様……チャイさんの卵の時の話はお耳に入っていますでしょうか?
卵の状態から言葉を学んでいるとは驚きで……それでワタクシ、思いついたことがありまして、他の卵にもたくさんお話をしてみてはどうかと思うのです。
なんでもディアス様は去年の冬に、戦争中の……黄金低地のお話をされたとか。
あのような素晴らしい英雄譚もきっと子供の好奇心を育てると思うのです。
……という訳で、今年の冬も一つ、そういったお話をしてくださいませんでしょうか?
卵だけでなく他の子供達にも楽しんでいただけるよう、お話会を開けたらと思うのです」
それは中々驚かされる話だった。
神官が戦争の話を望むのはどうなのだろうか? とか、生まれる前の子供に戦争の話か? とか、そんな疑問が湧いてきてしまって……果たしてどう返事したものかと悩んでいると、そんな話を聞いていたらしいクラウスが、物凄い勢いでこちらに駆けてきて、大きな声を上げる。
「で、あれば丘陵地帯の逆転劇の話はどうでしょうか!
あの戦いはまさに英雄譚! ディアス様とジュウハさんが活躍した戦いでしたから、きっと子供達も楽しんでくれますよ!!」
「まぁ素敵! 丘陵地帯の逆転劇! どんなお話なのでしょうか!
それはきっと胸踊るお話のはずで……今から楽しみになってしまいますね」
そしてすぐさまフェンディアがそう声を上げて……いつの間にやら決定事項みたいな空気が出来上がる。
……丘陵地帯というと、あの話か……。
まぁ、アレならそんなに血生臭くもないから悪くない……のかな?
何にせよこれから生まれる子供に聞かせる話ではないと思うが……そこら辺はビーアンネ達と話し合うことにしよう。
きっと母親なら反対するはずだし、母親が反対したなら誰もそれを覆そうとは思わないはず……。
と、この時の私はそう考えていたのだが、実際にその辺りのことを聞いてみてのビーアンネ達の回答は
「ぜひともやってほしい!」
「勇気のある子供に生まれるに違いない!」
「勇者の英雄譚に育ててもらえるなんて光栄だ!」
とのもので……そうなったらもう、いくら私でも母親達の決定を覆すことは出来ず、そうして子供達を集めてのお話会の開催が、まさかの決定となってしまうのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は……昔話やら何やらです




