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領民0人スタートの辺境領主様  作者: ふーろう/風楼
第十五章 雪原を駆ける

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長子として、森人として

・森人族

 緑色混じりの金髪、長い耳の一族、森に住み森を守り……死後は種を残し、種に自らの知識などを残す。

 その種が育って木に触れたなら死者との会話が可能で、先人の知恵を借りながら先人そのものである森を守る。

 イルク村にはセナイとアイハンの父母の木があり、セナイ達はちょくちょく会話をし、その知恵を借りている。

 その知恵の中には畑に関するものもあり、セナイ達は畑を結界などで守る守護者でもある。



――――草原を跳び回る双子を見やりながら アルハル



 アルハルから見たセナイとアイハンは、なんとも風変わりな貴族令嬢だった。


 養子とは言え公爵令嬢、貴族としての義務を果たしさえすれば、どんな贅沢も我儘も許される立場ながら、全くそうした様子を見せず、慎ましく勤勉で実直。


 たとえば朝目覚めて身だしなみを整えてからまずすることは家事の手伝いで、朝食が終わっても手伝いで、それが終わったら今度は勉強。


 エイマに学び、オリアナに学び、フェンディアやベンに学び……見ていて嫌になるほど学ぶ。


 昼食を終えたら自由時間となる訳だが、それでも手伝いや勉強をしようとし……手伝うこともなく、先生達が忙しいとなったら今度は目の前で行っている戦闘訓練だ。


 相手はその日によって変わる。


 ディアスだったり犬人族だったり領兵達だったり鬼人族の女性達だったり……そしてメーア達だったり。


 今日の相手はメーア達だ、メーアの足はとても早く、人間族の倍かそれ以上の速さだ。


 そんな速さで駆け回り……鉄よりも硬い角で突かれたなら鉄鎧を身にまとっていても重傷を負ってしまうことだろう。


 村の外れ、アルハルやエイマが見守る中、そんなメーア達に本気での突撃をさせて、それをギリギリのところまで引き付けて、動きにくいだろう冬服で軽快に飛び跳ねることで回避をしている。


 回避の際にメーアの頭に片手を置いてそれを軸にして体をくるんと回転させて、そして綺麗に着地をし……そんな危ない真似を「面白い面白い」と笑って喜んでいる。


 それ程の身体能力と度胸があって、弓の腕前は超一流、その命中精度は凄まじく、弓に生きる鬼人族の達人であっても横に並ぶことが出来ない程だ。


 しかもその矢は放たれた後に曲がる、落ちる、獲物を追いかける……魔法でそうしているのか、アルハルの身軽さでも避けきるのは困難だろう。


 だが彼女達はそれで十分だとは思っていないようだ……何しろ養父たるディアスの足元にも及ばないのだから。


 セナイ達は先端を潰し、布を被せた矢でもってディアスと模擬戦闘をしたことがある。


 結果は全ての矢を避けられるか、手でもって叩き折られるか、矢を掴まれてしまうかのどれかで……2人がかりで30本以上の矢を射って一矢も命中させることが出来なかった。


 だから彼女達は懸命に鍛錬をする、犬人族と一緒に駆け回ったり、領兵から剣の使い方を習ったり……そして子供達と遊んだり。


 そうやって体を鍛えて鍛えて……ディアスを越えようとしている。


 何がどうしてそうなったのか、2人はそれが自分達の責務だと思っているようだ。


 長子として親を越えて、これから生まれるだろう弟妹を守り育てていきたいと……。


(いやまぁ、アレを越えるなんて世界がひっくり返りでもしないと無理なんだけどな。

 しかしああやって鍛えることは悪いことじゃない、鍛えるだけでなく家事の手伝いや学びも欠かしていないのだから誰も文句を言えない。

 貴族として相応しい成長をしようと努力を続けているのだから……どんな文句があるってんだ。

 一体この2人はどんな大人になるんだろうなぁ……大人になればディアス越えもあるんだろうか……?)


 なんてことをアルハルが考えていると、セナイとアイハンはお互いの手を取り、握手をしながらメーア達の突撃を回避するという遊びをやりだし……それでも軽快に飛び跳ねることで10人以上いる全てのメーアの連続突撃を、見事に回避してみせるのだった。



――――とある森の木の洞の中で 森人族の長



 原初の時代、森人族は偉大なる神々より崇高な使命を賜った。


 世界に森を広げ、森を管理し……畑を広げ、畑を管理し、正しい存在を助けよ、という使命だ。


 古い長達はその使命をどう解釈したのか、人間族を始めとした他種族を助けることだとしたようで……森を広げ畑を作り、そこから得られる収穫物を他種族に無償で与え続けた。


 それにより森人族は他種族から尊敬され愛され、他種族からの助力もあってどんどん森を増やすこととなり……原初の大繁栄と呼ばれる時代を享受することになったが、しかし開明的かつ進歩的な次代の長達は、それは間違った解釈だと方針を変え、収穫物を自らのためだけに使うようになった。


 それにより森人族は、モンスターが跋扈する苦難の時代であっても更なる繁栄を享受することが出来た……のだが、いつの頃からかその繁栄は停滞し、弱まり……そして失われていくことになった。


 果たしてそうなったきっかけは何だったのか……人間族の王が大陸を統一したからだろうか? その統一国が分裂したからだろうか? それとも最初の族長の大樹を失ったからだろうか?


 いつしか神々の声は聞こえなくなり、森と畑を支配していた森人族の力が弱まり……畑の管理を諦めざるを得なくなり、森だけを管理するだけと成り果てた。


 畑があれば農作物を森の外に売って利益を得ることも出来たのだが、それが出来なくなり、支配地をどんどん失い、森を失い……仲間を失い、ある代の獣王が保護をしてくれなかったら一族が死に絶えていたかもしれない程に追い詰められた。


 ……だけれどもそんな状況をいつまでも甘受する森人族ではない、かつての繁栄を取り戻し、森と畑を大陸中に広め……森人族こそが大陸を統一し支配すべきなのだ。


 森人族にはそれだけの力がある、誇りがある、歴史がある、森人族こそが原初の種族なのだ。


 そのための第一歩として先の内乱を利用しようとした……そのために秘宝である始祖の銀の装備まで持ち出した。


 ……だと言うのに内乱はいつの間にか頓挫、何の成果も得られず参戦を決断したことが大きな失敗となってしまった。


 何か……何か手を打たなければならない。


 大きな成功でなくても良い、繁栄のきっかけとなる第一歩となるような何か……。


 それさえ上手くいったならきっと力が戻ってくるはず、神々の声が聞こえるはず、かつての繁栄を取り戻せるはず……森人族こそが大陸を統一する種族だと内外に示さなければ。


 そしてその先にあるモンスターの殲滅と、平和な森の世界の実現の第一歩を成せたなら自分の名前と大樹は未来永劫守られ、敬われ、大事にされていくことだろう。


 ……そこに転がり込んできた噂話、森人族が人間の王国の貴族に見初められ、養子となったという話を聞いて、族長は何か手が打てないかと画策する。


 まずは偵察を放ち、情報を集めてからの話ではあるが、何かが出来るはず……何かが出来てその森人族を上手く利用出来るはず。


 自分達の森以外の森人族がいたというのは驚きだが……統一国家が分裂した際に、どこかの森に潜んだ一族がいてもおかしくはない。

 

 その生き残りがいるのかもしれない……他の勢力が存続しているのかもしれない。


 そこと協力出来たなら……力を利用出来たなら……きっと何もかもが上手くいってくれるはず。


 そんなことを考えて森人族の族長は今日も頭を悩ませ……ただ一日中思案し続けるという、なんとも言えない時間の使い方をし続けるのだった。



――――鍛錬を終えて セナイとアイハン


 

 メーア達との楽しい楽しい鍛錬を終えて、白く荒い息を吐き出し、アルナーにはするなと言われている雪の中に倒れ込んでの火照った体の冷却を行い……ぼぉっと青い空を眺める。


 そうこうしていると様子を見守っていたエイマとアルハルが駆け寄ってきて……2人で同じような苦笑をしながらセナイとアイハンを窘め、起き上がるように促してきて、そうしてセナイ達が渋々起き上がっていると、近くの雪が盛り上がり……中からボフッと、いつかに見たトカゲが顔を突き出してくる。


「……以前かけた言葉覚えているか?」


 そして突然の言葉を投げかけてくるトカゲ、その声でセナイとアイハンとエイマは、それが以前荒野に現れたトカゲであることに気付き……気付きながらもセナイとアイハンは、一体どんな言葉だったろう? と、首を傾げる。


 事情を知らないアルハルは突然のことに驚き、驚きながらも言葉が出てこないのか口をパクパクとさせ……そしてもう何度目かも分からない遭遇ですっかりと動揺しなくなったエイマが言葉を返す。


「荒野に川を引け……でしたっけ? 結果としてベンさんが貴方に川を引かせたようですけども……。

 ああ、それとその水で荒野に森を作れとかなんとかも言ってましたっけ?」


「ちゃんと覚えているな。

 ……君達は正しい森の娘だ、正しく只人を守っている、我々は君達にしか期待していない、君達にしか力を貸さない、助言をしない。

 だから君達に使命を忘れられてしまうと困ってしまうものでな、その確認に来た。

 まだまだ先の事だと思っているかもしれないが、春まではあっという間だ。

 春になったらあの辺りの土地も多少は整うだろうから……森を作り給えよ。

 無理をしてまでする必要はないが……君達が義務を果たすのであれば、我々はそれに報いよう。

 モンスター討伐に報いるアレらとは違った趣きになるが、必ず報いよう。

 ……ああ、それともし同族に会うことがあったなら伝え給えよ、正道に戻れと。

 その力が何のためなのか……何故そんな力を与えられたのか考え直せと。

 それが出来たならあるいは、彼らにも救いの手が差し伸べられるかもしれないな」


 と、そう言ってトカゲの頭は地面の中に引っ込み……慌ててアルハルが駆け出し、その辺りを調べてみるが……ただ雪に覆われた土があるばかりで、何の痕跡も残っていない。


 地面から何かが出てきたような痕跡も、地面を掘り返したような……埋め直したような痕跡も何もかも。


「え? いや、今の……え?? はぁぁぁぁぁぁ!?」


 そしてアルハルがそう声を上げる中、セナイとアイハンは何がなんだか分からないが、とにかく森を作って良いらしい、森を作ったら何かを貰えるらしいと喜び、2人で手を取り合ってどうやってどんな森にして行こうか……なんて話をし始める。


「えーと……今のが荒野のトカゲ川や、その水源となっているトカゲ池を作り出したトカゲ様です、恐らく神様です。

 それ以上のことはボクにも誰にも分からないので……どうしても気になるなら次の機会に本人に聞いてください」


 混乱するアルハルにエイマがそう説明をすると、アルハルの混乱はますます深くなり……そうして頭を抱えたアルハルを放っておくことにしたエイマは、セナイとアイハンの下へと向かい、2人の話し合いに参加するのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回はディアス視点に戻り……関所とか子供とかのアレコレとなる予定です



そしてお知らせです。

明日5月9日はコミカライズ最新55話の更新日です!

ユンボ先生考案のオリジナル回にご期待ください!


ニコニコ静画、pixivコミックなどでは54話が公開予定です!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 化け物(領主様)の化け物具合が…セナイとアイハンの将来が心配です(^^; [気になる点] 始祖の銀がメーアバタルにあるのを見たら勘違いして突っ込んできそうですね、自分たちのだから返せとか。…
[一言] 森人族、まさかそんな暗躍をしていたとは(-_-;)。 確かに大地を豊かにする権能を神から委託され、その権能を行使していけば大地の恵みは増すわけで、当然真似できない他種族からは崇められもするだ…
[気になる点] セナイとアイハンの追放されたときの状況。いやまあ、確かに多産児を獣腹と疎む風習って現実でも意外とあるよ? けど本当にそれだけなん? 実は先祖返りの森人古来の能力発揮したのも異端扱いさ…
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