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領民0人スタートの辺境領主様  作者: ふーろう/風楼
第十五章 雪原を駆ける

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それぞれの今後

・登場キャラざっくり紹介


・ヤテン・ライセイ

 獣人国の参議で、テン人族の男性、脅迫などなどなんでもござれの交渉で国内を安定させてきたが……最近は求心力が低下していた。

 大きな野心を抱えてはいるが、獣王には忠実


・ペイジン・オクタド

 ペイジン商会の商会長でフロッグマンの男性、ペイジン達の父親、ディアスにはかなり好意的で、すっかりとよき理解者で協力者となっているが……同時にディアスの力を上手く利用してもいる。


・ニャーヂェン族の若

 帝国の軍人で男性、黒い鎧を着込んだ武官でもある、帝国人ではあるが帝国に忠誠を誓っている訳ではなく……一族の将来のために将来性のある主に従おうと色々画策中


 



――――獣人族西方の屋敷の離れで ヤテンの息子達



 広く大きく……ちょっとした小山に建てられ、それ自体要塞のようになっている豪華絢爛、宝石や金箔まで使って作られた屋敷の離れで、ヤテンとよく似た服を来た2人の男……息子達を前にして、胡座に座ったヤテンが小さなため息を吐き出すと、足を綺麗に折りたたんで座った息子達は、一体何事だろうかとその毛を逆立たせる。


 この離れは小さく狭く、余計な装飾や収納が一切なく……誰かが隠れ潜むことはまず不可能な作りとなっている。


 周囲にはガラス混じりの小石が散りばめられて、近寄るだけで音が立ち、植物など余計な匂いを漂わすものもないので、近寄れば獣人の鼻にその体臭が届くといった、侵入や盗み聞き対策がなされていて……ヤテンが密談を行う時に使う建物だ。


 ほとんど立ち入ったことのないそこに呼び出されたかと思ったら、なんとも不機嫌な父がため息を吐き出してきたという訳で……息子達は気が気でなく、弟に至っては今にも泣き出してしまいそうな心境となっていた。


「……陛下からお褒めのお言葉を頂戴した」


 唐突なヤテンの言葉、予想もしていなかったその内容に息子達は目を丸くし……ならば何故不機嫌なのだろうかと、そんな疑問を抱きながらもまずはと口を開く。


「それは祝着至極に存じます」

「おめでとうございます、父上」


 それを受けてヤテンは、これ以上なく冷たい目をし……もう一度小さなため息を吐き出してから、中々聞くことのない荒々しい……ヤテンらしくない口調で、不機嫌な理由を説明し始める。


 獣人国の王である獣王よりお褒めの言葉を頂戴したのは事実だが、それは本来ヤテンが受けるものではなかった。


 受けるべきは商人ペイジン・オクタドで……オクタドが見事に成して見せた内乱鎮圧の手柄をヤテンに譲られた形だったのだという。


 どこからどうやって手に入れたのかオクタドは、大量の食料を民に配り、更に多くの私財を投じて、民心を安定させた。


 言葉や武力で内乱を起こすなと迫るのではなく、職を与え腹を満たさせることで内乱勢力から徴兵された民を引き抜き……内乱勢力の兵力を一気に削り取ってみせた。


 更には謎の勢力が内乱勢力の砦を荒らし回り……それらにより内乱は未然に防がれることになった。


 私財を投じ、かなりの尽力をし……それ相応の見返りを求めるべき立場のオクタドは、そういったことは一切せず、全てヤテンの指示で行ったことだと、そんな嘘の報告をし……今時期自由に動ける商人を上手く使って見せたということで、失態続きのヤテンはその評価を一転させることになった。


 それについてヤテンは何故? とは思わなかった。


 オクタドは生粋の商人ではあるが外道ではなく、国内が荒れるような商いを好んではいなかった。


 戦の中で悪どく稼げばいくらでも銭を積み上げることが出来るが、それをよしとはせず、平和な日々の中で少しの安定した稼ぎを積み上げることを好む商人だった。


 そんなオクタドであれば内乱を防ぐことも、その手柄を譲ることも躊躇なく行うことだろう。


 ……そしてヤテンは謎の勢力が、そんなオクタドの依頼で動いただろうディアス達だと勘付いてもいたが……証拠がある訳でもなし、確信はしつつも口外せずに心のうちにしまっていた。


 当然息子達にも教えることはない、若く未熟な彼らはどこかであっさりとそれを口外するに違いないのだから。


「―――そういう訳でオクタドには大きな借りが出来てしまった。

 なんらかの形で払拭せねばならん……が、身共は都を離れる訳にはいかん、よってお前達に動いてもらう。

 オクタドへ用意した金品を持っていき、深く頭を垂れて心底から感謝の言葉をひりだしてこい。

 アレはそんな態度を見ればすぐに寛大な態度を見せてくれるだろう。

 ……それとこれを持っていけ、持っていってオクタドを手伝った者に渡せと、そうオクタドに伝えろ、そうしておけばオクタドの方であやつに届けてくれるだろう」


 と、そう言ってヤテンは、自らの背後に置いていたらしい漆塗りの箱を息子達の前に置く。


 一つはそれなりの大きさで、オクタドへ贈るもののようで大量の金貨が入っている。


 もう一つはかなりの大きさで……蓋を開けるまでもなく、それに家宝が入っていることを知っていた息子達は、ごくりと喉を鳴らしてから正気なのかとヤテンの方を見やる。


「……連中にはそれだけの借りがある。

 商人を動かし、物資を融通してもらっただけでなく……厄介な外交問題まで引き受けてもらった。

 これくらいはしなければ顔が立たん」


 これの詳細も息子達にも言えないことだった、動いた商人がオクタドの手の者ではなく、隣国の商人やキコの息子達であることもあえて伏せていた。


 そして……ディアス達が引き受けてくれた外交問題とは、海に漂着した東にあるという帝国の獣人を、獣人国の軍人が捕虜として捕らえてしまったということだった。


 その上で手酷く扱い……彼女の言葉に一切耳を貸さず、長い間軟禁してしまった。


 そんな報告を受けた時、ヤテンはたった一人の漂流者、さっさと始末してしまえば良いと考えていたが……詳細を聞いて考えを改めた、なんでも彼女を獣人国に連れてきたのは海に住まう魚人達だという。


 仮に彼女を始末し口を封じたとしても魚人達の口を封じきることは簡単ではない。


 数が多く、海を自由に動き回り……一度海に逃げられたなら捕らえることはまず不可能だ。


 しかも海は帝国と繋がっている、魚人達はいつでも帝国に行くことができ……彼女を獣人国に引き渡したと、そんな報告が出来てしまう。


 そうなったら当然帝国は、彼女はどうしたと問いただしてくるだろう、病死したと返すか、そもそも漂着していないと返すか……どれも悪手に思える、どんな国かも知らない相手に下手な手を打つ訳にはいかない。


 彼女が残していった品にはいくつかの高級品もあるとかで……遠距離航海が可能な船に乗っていたことからも、それなりの立場の人物のように思える。


 そんな人物を始末したと露呈したなら……最悪、国外との戦ということになってしまいかねない。


 かといってヤテンの手で保護して国に帰してやるというのも簡単ではなく……相応の手間と資金が必要になってくるだろう。


 厄介極まりない面倒な案件……それを何を思ったか、ディアスが引き取ってくれたようで、そのことを知ったヤテンは心底から安堵することになった。


 彼女がこれからどうなるかは分からないが、どうなったとしても責任はディアスと王国にあり、こちらにはない。


 何かがあったとしてもこちらはしっかり保護していたが、ディアスがやらかした―――なんて言い訳も立つ。


 そんなことをわざわざしてしまうお人好しのディアスだ、ここで家宝の一つでも贈っておけば今後役に立ってくれることは違いなく……そう考えたヤテンは、久しぶりに小さな笑みを浮かべて……それから口を開く。


「古くはあるが、何の役にも立たん品だ、誰に譲ったとしても痛くもない。

 倉庫の肥やしにしておくくらいなら、誰かに贈って役に立てた方が良いだろう。

 ……渡す際には、これがいかに貴重な品で、我が家にとってどれだけ大切なものであるか、とくとくと語り……惜しむようにして渡してこい」


 そう言われて息子達はただ頷き、頭を垂れてその通りにしますと返す。


 ここで下手な事を言ってヤテンの機嫌を損ねたくないと、言葉の中に隠れた真相を探ることもせず、深く考えることもせず、ただただ言葉に従おうとの態度を見せる。

 

 具体的にどんな言葉を紡げば良いのか? とか 2人のうち誰が代表としてオクタドに会えば良いのか? とか……他にすべきことはあるのか? とか、そういった問いをヤテンが好まないことを知っているから何も言わない。


 そんなことは自分で考えろと、そんな答えが返ってくることは明白なのだから……。


 そうして兄弟は立ち上がり、目の前の箱を大事そうに抱えて……それから再度頭を下げてから、離れを後にするのだった。



――――同じ頃 帝国のある港町の船着き場で ニャーヂェン族、族長



「若! 若! 密書が届いたようです!」


「大声で密書とは何事だ!」


 ここは船着き場、漁師や船員達の姿がちらほらとあり……そんな中でのまさかの大声に、焦ったニャーヂェン族の族長は思わず、足を地面に打ち付けてドンッと音を立てながらそんな声を返す。


「は、ははっ……申し訳ねぇです。

 と、とりあえずこれを……例の船に乗っていたアルハルからの手紙のようです」


「身内からの手紙を密書と呼ぶやつがあるか!!」


 一族の中でまだまだ若く、教育が行き届いていない目の前の兵士をそう叱った族長は、兵士の手からひったくるように手紙を奪い……封筒に書かれたアルハルとのサインを確認してから開き、中の手紙を確認する。


 静かに、誰かに盗み見されないよう気をつけながら慎重に読み進め……そしてすぐに目を見開き、兵士に声をかける。


「こ、この手紙を届けてくれた御仁は今どうしている!?」


「はっ……今はオレの家で休んでもらってます!」


 まさかそんな返しが来るとは思っていなかったのだろう、族長は顔を真っ赤にしながら手を振り上げて、兵士が被っている兜をスッパァンと力強く叩く。


「いったぁぁぁ!」


 叩かれて思わず兵士が悲鳴のような声を上げるが、しっかりとした兜なので実際には対して痛くはない。


 痛くはないが叩かれたという事実と鋭すぎる勢いが思わずそんな声を上げさせていて……逆に骨が折れたかと思うほどの痛みを手に受けることになった族長は、兵士のように悲鳴を上げることなく痛みをぐっと飲み込み、言葉を口にする。


「今すぐ俺の屋敷に移動してもらえ! そして家の者達に賓客として遇するように伝えろ!

 きっとお疲れだろうから、負担をかけないよう最大限の配慮をするようにとも伝えておけ!

 それとアルハルの家族に彼女の無事を伝えろ……駆け足!!」


 すると兵士は反射的に背筋を伸ばし、胸に手を当てての敬礼をしてから弾かれたように駆け出す。


 それを見送った族長は、手紙を紛失しないようしっかりと懐にしまってから……やっぱり自分の読みは正しかった、備えをしておいて良かったと、過去の自分のことを誇り褒めてやり……本格的に行動開始だと、そんな決意を胸に宿すのだった。



――――そしてイルク村では ダレル夫人



 諸々の忙しさが過ぎ去り、皆が落ち着きを取り戻してきた、ある日のこと。


 ダレル夫人が赤ん坊の世話をするために忙しなく駆け回っていると……先日産まれたばかりの赤ん坊達を体に張り付けた状態で荷物を倉庫へと運んでいるディアスの姿が視界に入り込む。


 張り付けたという表現は正確ではなく、目が開いて四つ足で歩き回るようになり、溢れんばかりの好奇心のままに動くようになった子供達が、ディアスの服に爪を立てて張り付いている訳だが……それでもその光景は、まるでアクセサリーのように赤ん坊達を張り付けているように見えて、それがダレル夫人にはたまらなく羨ましく思えてしまう。


 ディアスも赤ん坊の世話を頑張ってくれているが、ダレル夫人の頑張りに比べれば微々たるものだろう。


 だと言うのに犬人族の赤ん坊達はディアスによく懐いていて……父親や母親よりもディアスと一緒にいることを好み、ああして服に張り付いてしまうのだ。


 無理に引き剥がすと泣き出し、誰が宥めても聞く耳をもたず……だというのにディアスが宥めるとまだまだ言葉も分からないはずなのに、素直にそれに従う。


 なんでディアスだけ、そんなことが出来てしまうのか……自分だって赤ん坊達に張り付かれたい、赤ん坊達を上手く宥めたい、赤ん坊達と一緒に遊んで時を過ごしたい。


 そんなことを考えてダレル夫人は、柔らかな笑みを浮かべながらぐっと歯噛みをする。


 そうしてダレル夫人は、歯噛みしながら負けてたまるものかと闘志を燃やし……赤ん坊達に、犬人族達に好かれる為に頑張ろうと産屋へと足早に向かうのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回はディアス視点に戻って、産後のあれこれです

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― 新着の感想 ―
[一言] 人間ベビーカーに転職したディアスw
[一言] 久し振りの腹黒ヤテンさん。 相変わらずの腹黒ですねぇ。 オクタドとディアスどんに手柄譲られてプライド傷付けられて不機嫌で何やら腹いせを考えて使えない"家宝"をディアスどんに送り付けて相殺を狙…
[良い点] 夫人の気持ちも分かるけど、領主と言う最大級のボスだから本能的にやってるような気がするよ・・・。 ああもしかしたらあの絨毯の影響も有るかな。
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