遠征班の……
「い、隠蔽魔法を利用するという案自体は素晴らしいのですが、バレなければ良いという点については問題がありますね。
具体的に言うとディアス様は嘘をつけない方なので……仮に獣人国への侵入に対しての詰問があった場合にあっさり事が露呈してしまうという問題です。
……姿を完璧に隠し一切の証拠も残さず事を行ったとしても、こちらがやったのではないか? という詰問があった時点で破綻するというのは……危険性が高すぎますね」
しばしの沈黙を破ったのはヒューバートのそんな言葉だった。
それを受けてアルナーが「あ、そうかぁ」と言いたげな目を丸くした顔をしていると、モントが声を上げる。
「とは言え悪くはねぇ話だ。
ペイジン商会に悪影響が出るとこまで内乱が大きくなって取引が出来なくなる、なんてことになったらこっちとしちゃぁ大損害だ……獣人国が荒れちまって難民がやってくるかもしれねぇ、なんて問題もある訳だからなぁ。
内乱を起こそうとしている馬鹿の邪魔を程々にしてやって、内乱を起こさせないか内乱をさっさと潰すかしたなら、ペイジン商会に大きな恩を売れるに違いねぇ。
……ディアスが無理なら、俺達だけで行くってのも全然ありだろう。
鬼人族の隠蔽魔法を使ってこっそりと侵入、馬鹿野郎の軍をかき乱すなり、物資を奪うなりして……戦闘能力を奪っちまえば良い。
もちろんそれだけじゃぁなくて食料支援もやってもらう訳だが……そっちはセキ達に任せちまって良いだろうな」
そう言ってモントはエリーやゴルディアの方を見る。
するとエリー達は元々そのつもりだったと頷いてみせて、それを受けてモントはくしゃりと笑って言葉を続ける。
「元獣人国民かつ参議に縁のあるセキ達がそういった表の支援を行い、裏で俺達が暴れに暴れるって訳だな。
詰問に関しちゃ……ま、あれだ、俺達が具体的に何をしたのか、ディアスに詳細を教えなきゃぁ良い。
知らんことを知らんと正直に言うくらいはディアスでも出来るだろう……いっそディアスはセキ達の活動を表立って手伝ってりゃぁ良いんじゃねぇか?
関所に行って目立つ形で支援の陣頭指揮を執ってりゃぁ、向こうもあれこれと言いにくくなるだろうさ」
そう言ってモントは実際に行くとしたらどんな編成で行くかと、そんなことを口にし始める。
指揮官はモント、ゾルグを始めとした経験豊富な遠征班に手伝ってもらい……関所を空にする訳にはいかないので新婚のジョーとロルカを中心とした半分以上を関所に残し、リヤン隊を主戦力にする。
連絡役としてサーヒィ、周囲の警戒役としてマスティ氏族の戦士を3・4人連れていき……馬は連れていかず、どうしても必要なら現地調達をする。
「―――あとはどこから入り込むか、だが……コレに関しちゃぁペイジンに手伝ってもらうか、ペイジンにすら秘密にするならゴブリン達の手を借りて海からってのもありだな。
そもそもその馬鹿野郎の領地がどこなのかって問題もある訳だが……ここから馬鹿正直に陸路で行くよりかは、素早く秘密裏に行くことが出来るはずだ。
帰る時も海に出さえすればそこに船持ってきてもらえば良い訳だしなぁ」
「……そうなると不安なのは魔力の量だねぇ。
向こうにいる間ずっと隠蔽魔法なんてのは、相当な負担になるはずだよ。
アルナーちゃん達が魔力を溜め込むのが得意な種族だからって、何日も何十日も魔法を使い続けるのは厳しいんじゃないのかねぇ」
そんな声が上がったのはまさかのマヤ婆さんだった。
こういう時は大体、黙って静かに会議を見守っているのがマヤ婆さんなのだが……今回は妙に積極的だ。
……そう言えばマヤ婆さんはアルナー達に魔法を教える程魔法が得意なのだったなぁ。
得意だからこその意見……ということだろうか?
そしてナルバントが口を開く。
「魔力に関してなら、なんとか誤魔化す方法があるといえばあるのう。
魔石を持っていって、そこから魔力を引き出せば良い……魔力と瘴気は表裏一体、特に鬼人族は瘴気を吸い込んで魔力に変換することに長けておるようじゃからのう、オラ共が持っている魔石のいくつかを持っていけば、一ヶ月かそのくらいはなんとかなるずじゃのう」
……そう言えば以前鉱山でバーナイトがそんなようなことを言っていたような……。
なんてことを考えていると今度はゴルディアが。
「今回ギルドとして手伝えることはねぇだろうな。
真冬に食料買い集めようなんて金はかかる上に、迷惑がられちまって評判が落ちるばっかりだ。
セキ達の後援が精一杯ってとこか……ま、向こうに行く連中、遠征班だったか? その分の物資を揃えるくらいはしてやれるが……そのくらいならわざわざギルドが動く必要もないだろう?」
エリーは何も言わずそれに頷き……なんだかこのまま話が決まりそうになってきたなぁ。
……私としては、どうなのだろうか……反対かと言われるとそうでもない気もする。
獣人国が荒れることは望んでいないし、内乱が早く終わるにはこしたことはないと思う。
出来るだけ人助けに注力するというのなら……モント達を行かせても良い、のかも……?
と、そんなことを考えて改めて皆を見やる。
アルナーはすっかりその気で、マヤ婆さんも止める気はなく……ヒューバートやゴルディアも反対する気はないようだ。
マーフは獣人国に行ってみたいとソワソワとしていて……ナルバントもどちらかというと乗り気になるのだろう。
そんな中、エイマだけが何も言わずその眼鏡を光らせていて……そして私の視線を受けてなにか思うことでもあったのか、眼鏡に手をやり、クイッと位置を直してから口を開く。
「皆さんの意向は分かりました、ボクとしては正直乗り気ではないのですが……そういうことなら賛成しても良いと思います。
……ですが、その代わりに一つ条件をつけさせていただきます。
軍としての指揮官はモントさんで構いませんが、遠征班の班長……つまりどう動くのか、どこで戦うのかなどの大方針を決める立場はボクに任せてもらいましょう。
ディアスさんは今回の件、積極的に賛成という訳ではない様子ですし……ディアスさんの戦争や略奪を嫌う性格もよく理解しているつもりです。
そんなディアスさんの代弁者としてボクが同行し方針を決めて……いざ戦闘となったならその際の指揮はモントさんにお願いします。
外交問題にならないよう慎重かつ穏当に動く必要がある中、生粋の軍人さんに全てを任せるというのは良くないですからね。
そもそもモントさん達、獣人国の言葉にそこまで詳しくないでしょう? 国境地帯ならともかく、奥の方まで行ったら王国語がどこまで通用するか分かりませんよ?
ボクですか? ボクは以前頂いたあちらの書物でしっかりと勉強しましたので、全く問題ありませんとも!」
ハキハキとした口調でそう言い切って、鼻息をふんすと吐き出すエイマ。
それに対しモントが何かを言おうとするが……言葉が出てこなかったのか何なのか、開きかけた口を閉じて不承不承といった態度で頷き、エイマの言葉を受け入れる。
そんな様子を見て笑顔となったアルナーは、うんうんと頷いてから、
「確かにエイマに任せておけば安心だろう。
何だかんだとイルク村の古参で長い付き合いだし……同じユルトで暮らす関係で、戦場でのディアスの昔話をよく聞いているからな、いざという時にディアスならどういう判断をするかもよく知っているはずだ」
と、そう言って……こちらへと視線を向けてくる。
確かにエイマなら安心出来るというか……下手に私が行くよりも良い判断をし、良い結果に繋げてくれそうだ。
「……分かった。
エイマが班長として動いてくれると言うのなら任せたいと思う。
モントやマーフ達には苦労をかけるが、エイマの指示の下、頑張って欲しい。
……そうと決まったならまずはイービリスに細かい話をしないとだな、食料支援だけでなくエイマ達を運んでもらうとなったら船を用意したりと色々準備があるだろうし……皆もそれで構わないか?」
と、私がそう言うと皆は構わないと頷いてくれて……それからマーフが集会所を駆け出ていき、すぐにイービリスを連れてきてくれる。
そしてイービリスに細かい話をするとイービリスは、胸に手を当てて、
「本来であれば出兵の義務などないというのに、それでも隣国に出来るだけ被害を出さぬようにとのその配慮、全くもって感嘆する他ない。
我らがその助けとなれるのなら、光栄であり……全力で応えさせていただこう」
と、どこか誇らしげにそう言ってくれるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はイルク村遠征班、本格始動となります




