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領民0人スタートの辺境領主様  作者: ふーろう/風楼
第三章 領主様、奮闘す

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街の酒場でくだを巻く男達の与太話

投稿間隔が空き気味で申し訳ありません。

ペースアップを心がけていきたいです。


今回は三人称視点となります。


 カスデクス領西部に位置する街メラーンガルにある総大理石の領主屋敷のすぐ側にある街一番の酒場は今夜も大勢の人で賑わっていた。

 領主が代替わりをしてからというもの、明るい話題が尽きないこの酒場では誰もが笑顔で酒を楽しんでいて、その笑顔が陰る様子は全く見られない。


 テーブルについて仲間と語り合うか、カウンターについて酒場の店主と語り合うか、あるいは酒場をうろうろと歩き回り新たな出会いを求めながら語り合うかして、人々は様々な話に花を咲かせている。


「おい、聞いたか?

 エルダン様が今度王都に行くって話。なんでも王様に会って正式に領主として認めて貰うんだってよ」


「ああ、聞いた聞いた。

 そん時にドラゴン殺しから貰ったアースドラゴンの魔石を持っていくんだってな。

 王都の連中、あれを見たらぶったまげるんだろうな~」


「魔石を献上すりゃぁ王様の覚えもめでたいことだろうし、そうなればカスデクス領はますます安泰ってもんだぁなぁ」


 人間族だけで無く犬人族、水鹿人族、獅子人族などの多様な種族が集うこの酒場には、様々な話題が飛び交っていて、客が増えて酒場の賑やかさが増す程に話題の種類も増えていく。


「噂で聞いた話なんだがドラゴン殺しは亜人の妻のことを深く愛しているそうでよ、その愛は人前で乳繰り合う程だって話だぜ」


「ああ、それ本当の話だぜ。

うちの兄貴がカマロッツさんの護衛なんだが、ドラゴン殺しはカマロッツさんの前で奥さんと抱き合ってベタベタしていたそうだ」


「……マジかよ、すげぇな、ドラゴン殺し」


 その話題を聞いていた男達があのカマロッツさんの前でかよ、と顔を強張らせながらの身震いをしていると、その折に一人の黒尽くめの格好の男が酒場の中へと入ってくる。


 顔も体も黒い布で覆い隠す異相の男の登場に酒場内の人々は一瞬言葉を失う……が、そんな男のことよりも美味い酒の方が大事だと男への興味をすぐに失って……酒場に先程までの賑やかさが戻っていく。


「あー……それで何の話をしてたんだっけ?」


「アレだよアレ、ドラゴン殺しはすげぇなって話。

 あのカマロッツさんの前で奥さんと乳繰り合ったりな」


「ああ、その話か。……まぁでも実際ドラゴン殺しは大した男のようだぜ。

 護衛の仕事で疲れている兄貴達の為にって、手ずから幕家を建てて歓迎してくれたり、自分が食うのと同じ食事を分けてくれたり……ああ、あと目を剥く程上等なぶどう酒を差し入れてくれたりもしたそうだ」


「それもまたすげぇなぁ。

 亜人を妻にするくらいだから亜人への偏見も何もねぇんだろうが……とても人間族の貴族様とは思えねぇな」


「……確かドラゴン殺しは東部の出身なんだろ?

 亜人嫌いの東部の人間族がなんだってまたそんな……」


「兄貴の話によると、ドラゴン殺しはつい最近まで亜人の事を見たことも聞いたことも無かったそうだぜ。

 で、そんな状態のドラゴン殺しが初めて会った亜人が奥さんな訳で……そのまま奥さんに一目惚れしたドラゴン殺しは、ついでに他の亜人のことも好きになったと、そういうことらしいぜ」


「ぶははは、ドラゴン殺しも女には勝てねぇってか!

 ならよ、エルダン様とドラゴン殺しが友誼を結んだのも、その奥さんのおかげってことになるよな?

 おいおい、それならドラゴン殺しの奥さんには感謝しねぇとだなぁ!

 おい、お前ら乾杯だ!ドラゴン殺しを一目惚れさせた奥さんにかんぱーーい!」


 そう言って木製のコップを手に持つ男が音頭を取り始めると、話を聞いていなかったであろう連中も一緒になって乾杯!乾杯!と騒ぎ立て始める。

 ひとしきりに騒いで、ひとしきりに酒をあおって……そうして男達は再び酒の肴にと噂話に興じ始める。


「あー、それでドラゴン殺しの奥さんってのはなんて種族の亜人なんだ? 獣人か?」


「……兄貴が言うには角を生やした亜人らしいんだけど……詳しい種族名は聞かなかったな」


「角? 角があるってーと……まさかサイか? 犀人族か?

 人間族がアレに惚れたのか?

 おいおい、マジですげぇなドラゴン殺し……」


 獣人なのに体毛が無く、代わりとばかりに厚く硬い皮膚でその身を覆った犀人族の女性を思い浮かべて男が身震いをしていると、たまたま近くで話を聞いていたらしい犀人族の女性がその鼻先にある角を突き上げながら現れて、


「相手が犀人族だったら何か問題でもあるの?

 良いじゃないの、人間族と犀人族のロマンス。

 私も異種族と恋愛してみたいし、あやかりたいわぁー」


 なんて言葉と共になんとも言えない視線を男達に浴びせて来る。

 そのねっとりとした視線を浴びた男達は慌てた様子で犀人族の女性から視線を逸らして……しどろもどろになりながら話題を変える。


「ど、ドラゴン殺しと言えばだ、見たか?エルダン様のお屋敷前に立ててあったドラゴン殺しが作ったっつー領民募集の看板」


「あ、あぁ、見た見た。

 確かー……種族は問わないが悪人、犯罪者はお断り、家と食事はドラゴン殺しが用意する……だったか」


「ああ、あれか。

 なんでもドラゴン殺しが部下に作らせた物を、領内の何処かに立ててくれとカマロッツ様に預けたらしいな。

 ……だがあれだけの内容じゃぁ、隣領に住みてぇってなる奴はいねぇだろうなぁ。

 家も飯もどんな物が出てくるやら」


「……いや、それが昼頃に小型種の犬人族の何人かがあの看板に釘付けになっていたんだよな。

 あの看板の何が琴線に触れたんだかは分からねぇが、あの目は本気のようだったぜ」


「おいおい、マジかよ。

 小型種の連中の考えはよくわかんねぇなぁ……。

 エルダン様のお側に居られるここを離れたいとは普通思わねぇもんだがなぁ」


 男の一人がそう言うと、周囲の男達もそうだそうだと頷いて……そうして頷きあった男達は一斉にコップの中の酒をあおる。


「っはー、エルダン様のおかげでこうして酒も好きなだけ飲めるしなぁ……。

 ああ、そうだ、小型種で思い出したんだが、あの大耳跳び鼠人族の襲撃事件の話……」


「おい、その話はするなよ。エルダン様の顔に泥を塗った馬鹿共の話なんざ酒が不味くなる」


「まぁ、聞けって。

 あの襲撃事件、黒幕が居たって話になってるのは知ってるか?」


「ああ?黒幕?なんだそりゃ?」


「それがどうも大耳跳び鼠人族達は、猿人族を名乗る輩に唆されたからドラゴン殺しを襲撃したって供述しているらしいんだよ。

 で、最初はそんなの責任逃れの言い訳だろうって誰も相手にしてなかったんだが……他にも猿人族に唆されたって連中が出てきてな」


「……おいおい。

 そいつはまた物騒な話だな。

 第一なんだ? 猿人族って? そんな獣人が存在するだなんて話、俺は聞いたことねぇぞ」


「ああ、俺も無い。だが猿人族を自称する輩が領内に居るのは間違いないらしい。

 で、その自称猿人族はなんでも黒い布で顔と体を覆った長身の男だそうで、ドラゴン殺しを殺せば大陸中に轟く程の名誉が手に入るとか、実はドラゴン殺しを嫌っているエルダン様がお喜びになるとか、後は金貨をチラつかせて大金が手に入るとか、そんな話を物騒な連中を中心にバラ撒いているんだとさ」


「……で、あの馬鹿共は、その話に乗った……と?

 全くなんだってそんな怪しい話を信じるかねぇ。

 第一全身黒尽くめって格好からしてもう怪し過ぎるだろうよ……。

 ……んあ? そういやさっき、そんな格好をした奴が酒場に入ってこなかったか?」


 との何気ないその男の一言に、ハッとなった男達は……先程酒場に入って来た黒尽くめの男を探そうと酒場の中にその視線を巡らせる。


 我らが群れの長であるエルダン様の顔に泥を塗った事件の黒幕かもしれない男。


 そんな奴が近くに居るのであれば捕らえた上で痛めつけてやってから、エルダン様に突き出す必要があると、男達は殺気立ちながら懸命に男を探す……が、そこに居たはずの黒尽くめの男の姿は酒場内に見当たらず、男達の殺気は行く宛を失って彷徨い……そうして雲散していく。


「……確かにそこに居たと思ったんだが、気の所為だったか?」


「飲みすぎて黒毛の猪人族を見間違えたのかもしれねぇなぁ」


「いや……俺はそんな見間違えをする程酔ってはねぇよ」


「警備隊に通報しとくか……?」


 と、そんな言葉を交わし合いながら男達は酒の入ったコップを手に取り、訝しがりながらに酒を飲み込んで……酒を飲む度に口をついて出る酒飲み話に花を咲かせ始めてしまう。


 そうして酒場の男達はいつしか黒尽くめの男のことなどすっかりと忘れ去ってしまうのだった。






「チッ、元々獣人なんかには期待して無かったが……動いたのがあのネズミだけってのは流石に予想外だったな。

 傭兵達も駄目で、獣人も駄目となると、どうしたもんだかな……。

 金はあるんだから奴隷達でも買ってけしかけるか? それとも浮浪者共に……。

 ああ……その前にこの格好をなんとかしないとか、酒場の噂になっているようではなぁ……」


 舌打ちのついでとばかりにそんな独り言を呟いた黒尽くめの男は、ひっそりと抜け出た酒場を離れて、近くの静かな暗い路地へと入っていく。

 路地の途中で立ち止まり、周囲に人影が無いことを確認した男は、その身を包む黒い布を剥ぎ取り、投げ捨てて……路地を奥へ奥へと進んでいく。


 そうして暗闇の中、ゆらゆらと体を揺らしながら歩く男は、時折思い出したようにブツブツと独り言を呟いたりしながらに街の中心から離れていって……街の外れにある華やかな灯りに包まれた娼館を偶然に視界に収める。


 じっと娼館を見つめて……それが娼館なのだと理解すると男は、途端にその顔を人のそれとは思えぬ程に歪めて……『アイツ』と呼ぶ何者かへの呪詛の言葉をこれでもかとその口から吐き出していく。



 そうしてしばしの間、思う存分に胸の奥底からの呪詛の言葉を吐き出し続けた男は……それで気が済んだのかスッとその顔を元の形へと戻して、何事も無かったかのように再び歩き始めて……暗闇の中にその姿を消すのだった。



お読み頂きありがとうございました。


次回も三人称視点で短めとなるはずです。

その後にディアス視点に戻ります。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何度も読み返していますが、この男の正体解りません、 カスデクスの長男でしょうか?
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