ゴブリンの漁
「まさかそこまでとは……。
魚人の漁が別世界であろうことは予測していましたが……。
改めて色々お聞かせ願えますでしょうか?」
との言葉からヒューバートによる質問が始まり……イービリスがそれに答えていく。
ゴブリン族の漁とはどんなものなのですか?
個人でやる場合は銛で突く漁となり、複数人でやる場合は網を使って魚の群れを追い回し捕縛する漁となる。
網はどうやって手に入れているのですか?
人間達が海に放置したものを拾って使っている……恐らくは波なんかで流された網を使っているのだろう。
安定した量が獲れるのですか?
1年中安定した量が獲れる。
不漁になることはないのですか?
不漁という概念がゴブリンにはない。
海流とか季節とかの影響で不漁になるはずですが……?
どこかの海から魚がいなくなったとしても、魚がいる海に行けば良い話なので不漁になることはない。
時たま人間が魚が全くいない海に網を仕掛けているのをなんでだろう? と首を傾げて眺めていたが、今その理由が分かった気がする。
網でとった魚はどうしているのですか?
網のまま仲間のいる場所まで持っていって、そのまま食べる。
陸地に上げて焼くこともあるが稀で……焼くと消化がよくなるとされているので、病人などがいる場合にはよくやる。
魚以外にどんなものを食べるのですか?
カニ、貝、イカ、タコ、海藻もたまに……サメやクジラといった大きな魚も食べないこともないが、美味しくはないし手間ばかりかかるので積極的には食べない。
それらが増えすぎたなら海の安定のために狩漁祭が開かれることもある。
海の中にモンスターはどれくらいの数がいるのですか?
年に数度見かける程度、イルク村の話を聞いてその遭遇数の多さに驚いた程だ。
……ただし海は広いので、知らない海に大量に棲んでいるのかもしれない。
深い海では瘴気があっという間に無力化されるとかで、浅い海や水面で見かけることが多い。
「……なる、ほど……なるほど……。
ありがとうございます、とても参考になりました……。
……そして最後の質問なのですが……これから定期的に漁を行い、その魚をここまで持ってきて欲しいと頼んだ場合、それは可能ですか?」
用意された席に戻り、テーブルの上に並ぶ魚料理をじぃっと見やりながらヒューバートがそう問いかけると、余程に美味しかったのか口いっぱいに詰め込んだ魚料理を飲み下したイービリスが答えを返す。
「……うむ、可能だ。
もちろん相応の対価をもらうことになるが、我らからすれば漁は日常のこと、大した苦でもないな。
魚を捌いたりここまで運んだりの方が大変なくらいで……対価をもらう理由はこちらになるだろうな。
その対価も洞人族達の鉄器が貰えるのならそれで十分よ……持ち帰った鉄器の数々は早速一族の者達が愛用していてな……こんな鉄器初めてだと、興奮を隠すことが出来ない程だ」
その答えを受けてヒューバートが深く考え込む中、すぐ側で話を聞いていたエリーはぐっと拳を握り「よしよしよし!」とそんな声を上げる。
「魚料理は美味しいからなぁ、喜ぶのは分かるが……そこまでのことか?」
チーズと香辛料をかけた魚を口に運びながら私がそう言うと、エリーは力強く頷き、言葉を返してくる。
「ナルバントさん達によると鉄鉱石の埋蔵量はかなりのもの……それが大量の魚になるのなら、他所に依存していたイルク村の食糧事情が一気に解決することになるの!
鉄は売り先を慎重に判断する必要のある物資なのだけど、ゴブリンさん達に売るのなら……うん、自領の民に売るようなものだし? 海水に浸かった鉄を奪って武器にしようなんて輩もそうはいないだろうし? こんな言い方は良くないけど海で使うなら消耗も激しいでしょうし? ……本当に良いお客様なのよね。
ああ、それと網、ナルバントさん達は編み物も得意らしいから、メーア糸で網を作って売っても良いかもしれないわね。
メーア毛は貴重だから量産は出来ないけども、豊漁のためなら多少は仕方ないわよね、うん。
鉄具とメーア網……どちらもメーアバダルの産出品だから、直接食料と取引出来るのはありがたいったらないわ。」
「あー……畑が形になってきたとは言え、ペイジンやエルダンの所に世話になってばかりだからなぁ、新しい取引先が出来るのは良いことか……。
冬にたくさん氷を貯め込んでおけば、氷で冷やして運んで売るなんてことも出来る訳だし……うん、そうなると来年が楽しみだな」
氷を保存するための地下貯蔵庫は洞人族達があちこちに作っている、氷を作るための石造り溜め池なんかも作っている……今年の冬にはかなりの量の氷が作られるはずで、今までは食料……森の作物や肉を売るために使うつもりだったが、魚に使うのも悪くないはずだ。
それだけの魚が手に入るのなら更に貯蔵庫を増やしても良い訳だし……毎晩氷を作っても作り足りないかもしれないなぁ。
なんてことを考えていると、イービリスの回答を手元の紙束に書き込んでいたヒューバートが弾む声を上げる。
「ディアス様、それだけではありません。
魚は種類にもよりますが、良い油と畑の肥やしになるのですよ……!
魚を煮込み、しっかりと火を通してから圧搾機で潰し……油の元となる搾り汁をしっかりとってから乾燥させれば肥やしの完成です。
食料に油に肥やし……大量の魚が手に入るというのはそれだけで豊かさに繋がるものなのです。
逆に不漁となれば国が傾きかねない程で……実際、王国史には大不漁の年に食糧不足から争いが起きたり、街一つ分の餓死者が出たりしたとの記録があります。
……ですが、ゴブリンさん達の協力があれば不漁の心配もなく、安定して大量の魚が手に入るとのこと……。
そこまでの量の魚、手に入るのは港が出来上がってからだと思い込んでいましたが……そうですよね、水の中を自由に動けるのですから、港だの船だのは後回しでも構わないのですよね。
船や港があれば水揚げが楽になるであろうことは予測出来ますからそちらの整備も当然進めて……。
……あ、乱獲で魚が獲れなくなる心配とかは……あるものでしょうか?」
「もちろん獲りすぎたならそういうこともあるだろうが……そこまでの量となるとゴブリン族総出でも難しいというか……そもそも魚を詰め込む樽と運ぶための船が足りんだろうな。
今ある樽を倍の大きさにして千二千の数揃えたとしても、海の魚を獲り切るなど不可能だ。
海は広くその恵みは尽きることがない、我らゴブリン族もそういったことにならぬよう手を尽くしているしな……。
仮にそれだけの量をと言われても乱獲となる危険性を伝えた上で断るだろうし……心配の必要はないだろう」
イービリスがそう返すとヒューバートは満足そうな顔で頷き……それからパン生地包みを手に取って食べ……美味しかったのだろう、更に良い顔となって食事を進める。
そんなヒューバートの様子を見てかイービリスが嬉しそうに口角を上げ……そして他のゴブリン達も嬉しそうにし、早速漁に行きたくなったのか立ち上がり、追加の樽はどこだとか、船の手入れをするぞとか、そんなことを言い出し動き始める。
それを受けてエリーも樽を用意するために動き出し……食事の時間はそうやって終わり、慌ただしい時間がやってくるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はイルク村に戻ってのあれこれです。




