長い耳の3人 その1
前話から3日が過ぎた辺りの日の話で、31話「馬車の中で蠢く者達」のキャラの視点です。
「助けてくださーい……ここから出してくださーい……」
ここに閉じ込められてから1週間が経ち……もう限界だと必死に声を上げます。
「誰かいませんかー……ここから出してくださーい……」
ボク達……砂漠の民は水をしばらくの間飲まなくても平気なんですけど……流石に1週間となると堪えるものがあります。
こんなことになるなら、あの時素直にドラゴン殺しのディアスさんに助けを求めていれば良かったです……。
「誰かー……誰かいませんかー……」
声を上げながら、もしかしてこのままここで死んでしまうかも……とそんなことを考え始めた時、僅かな、小さな人の気配がここに近付いてくるのを、そばだてていた両耳が感じ取ります。
「だ、誰か居るんですかー!
助けてくださーい!ここから出してくださーーい!」
声を上げるだけでなく、爪でカツカツと壁を叩き、精一杯にその気配に訴えかけます。
これで……これで駄目だったらもうボクは駄目です、耐えられません……!
だからお願いです、お願いだからボクがここに居るって気付いて!!
『……やっぱり何か聞こえるね?』
『そうこのなかに、なにかいるのかな?』
や、やった!気付いて貰えた!
「こっちでーす、この木箱の中にいまーーす!
木箱の蓋の上に荷物を置かれちゃったせいで、ここから出られないんですー!」
一層激しくカツカツカツカツと爪で壁を叩きながら、そう声を上げると……声の主がこちらへと近付いて来てくれて……ボクをここから助けだそうと行動し始めてくれます。
『……アイハン、これ重い、1人じゃ無理』
『まって、セナイ、じゅんばんにやらないと……』
声の主は2人で、声からすると幼い女の子のようです。
二人の女の子達は一生懸命にボクを助けようとしてくれていますが、聞こえてくる声と作業音から察するに……どうやら力が足りずに苦戦してしまっているようです。
「あ、あの、無理はしないで大人の人を呼んで貰えると嬉しいかなって……。
……ディアスさんが、近くにいらっしゃるんでしょう?」
『大人は皆、忙しいから駄目!』
『みんな、おしごとちゅうだから、いまはだめ』
「ううっ……そうなんですか。
……あのっ、怪我をしちゃったら一大事ですから、こういう危ない事は大人の人に任せたほうが良いですよ。
ボクのことなら大丈夫です、大人の人が暇になるまでなら待てますので……。
とりあえず今は大人にボクがここに居ることを伝えて貰うだけでも十分―――」
『もうちょっとで終わるよー』
『あとちょっとだからー』
ボクの言葉を途中で遮ってそう言った2人の気配は、懸命に……息を荒らげながら作業を進めてくれます。
ズズズと何かを押し、ゴトンと何かを落とし……うん、だいぶ乱暴にやっちゃってる感じですね。
後で大人の人に怒られちゃうんじゃないかな、その乱暴さは。
『これで最後ー!』
『もー……これおもいー……』
そんな声と共にボクを閉じ込めていた最後の荷物が、ゆっくりと木箱の蓋の上からどかされていきます。
そしてようやく木箱の蓋が開くようになって……両手を突いて、蓋を押し開けると新鮮な、爽やかな外の空気が箱の中へと入ってきます。
「はっー……ありがとうございます、助かりました!
ここに閉じ込められて1週間……本当に、本当に辛かったんです……!
あなた達は命の恩人です!」
大きく息を吸い、この豆だらけの木箱から解放されたのだという実感を胸いっぱいに溜め込んで……私を助けてくれた女の子達に万感の思いを込めたお礼を言うと……目の前の双子と思われる女の子達が、目をキラキラと輝かせながらボクのことを見つめてきます。
「私はセナイっていうの。
とっても小さいアナタはだぁれ?獣人さんなの?男の子なの?女の子なの?」
「こんにちは、はじめまして、わたしはアイハンっていいます」
「えぇっと……はい、はじめまして。ボクは獣人の大耳跳び鼠人族のエイマ・ジェリーボアといいます。
こんなナリですが、一応女で……こんな小さな体でも大人なんですよ」
しばらく洗っていないせいで薄汚れてしまった男物の服を撫でながらそう言うと……セナイちゃんとアイハンちゃんは目の輝きを強くしながら、わーわーと歓声を上げ始めます。
どうやら2人はボクの一挙一動が面白くてたまらないみたいですね。
一通りに声を上げて騒いだ後は、恐る恐ると言った感じでボクの耳につんつんと指先で触れてきたり……ボクの尻尾を触ろうとしてみたり……好奇心を抑えきれない感じが、なんとも子どもらしくて微笑ましくもあります。
乱暴にしないのであれば構わないと2人の好きにさせてあげると、思う存分にこれでもかと撫で回してきて……そうして満足するまでボクを撫でたかと思えば、今度は好奇心のままに、思いつくままに質問攻撃をしてきます。
故郷のこと、家族のこと、結婚しているのか、恋人がいるのか、などなど。
故郷は砂漠で、家族は居なくて、結婚もしてないし、恋人もいないなどと答えると、今度は砂漠ってどんなところ?と始まり……その後も次から次へと質問が湧き出てきます。
「ねぇねぇねぇ、エイマはどうしてここに閉じ込められてたの?」
「エイマはわるいことをして、おしおきされてたの?」
そんないくつかの質問の後に、2人は何気なしに、その質問を投げかけてきます。
……なんとも恥ずかしくて答えにくい質問ですが……相手は命の恩人、しっかりと答えないといけません。
「えぇっとですね……ボクは悪いことはしてませんし、おしおきされた訳でも無いんです。
ボクがここに閉じ込められた理由はー……説明するのがちょっと難しいんですけど……。
簡単に言うとー……ボクの知り合いがディアスさんに悪いことをしようとして、ディアスさん達に捕まっちゃったんです。
で、ディアスさん達が他にもその知り合いの仲間が居るんじゃないか、悪いことをしようとしてるんじゃないかって辺りを探し始めてですね―――」
1週間前の……皆と決別することになったあの日のことを、2人にも分かるようにと、出来るだけわかりやすく、噛み砕きながら話します。
「―――で、そこにたまたま居合わせたボクは、何も悪いことをして無いですし、悪いことをするつもりも無かったんですけど……でもその知り合いとボクは見た目がそっくりだから、その知り合いと一緒になって悪いことするつもりだったんだろうって、勘違いされちゃうんじゃないかって……。
勘違いされたまま、ディアスさん達におしおきされちゃうんじゃないかって思って……それが怖くて逃げ出したくなっちゃったんですね。
でも、もうその時には逃げられる場所が無くて……だから近くにあった木箱の中に潜り込んで、隠れることにしたんです。
そしたら、隠れた直後にその木箱の蓋の上に重い荷物を置かれちゃって……それでそのまま木箱の外に出れなくなっちゃった……と、そんな感じです」
なんとも情けない話ですが、そういう事情でボクは木箱の中に閉じ込められてしまいました。
まさか捜索の過程で木箱の蓋の上に他の荷物を置かれてしまうだなんて、思ってもいませんでしたよ。
挙げ句捜索が終わってもその荷物は元の位置に戻されないままですし……。
荷降ろしの時になればその荷物がどけられて、逃げ出すチャンスが出来るかもと思っていたら、ボクの居る箱と上の荷物とが一緒くたに運ばれてしまうという有様でした。
かといってその時はまだ声を上げて外の……怒っているであろうディアスさん達に助けを求める勇気も無かったですし……。
その後も何度かディアスさんや、他の人がこの木箱の近くに来ることはあるにはあったのですが……中々声を上げられずにズルズルと時が過ぎて……気が付けば1週間も箱の中です。
……いやはや……今考えると本当に何をやってるんだかって感じですね。
木箱の中には豆がたくさんあったので、餓死する心配が無かったことだけは幸いでした。
「ふぅん……。
じゃあエイマはディアスのお友達じゃないんだ?」
「ディアスとなかよくないんだ?」
「えぇっと……?
まぁ、そう……なるのかな?
確かにまだお話ししたことも無いので、ディアスさんとはお友達じゃないですね」
唐突な2人の質問に、思わずといった感じでボクがそう答えると……セナイちゃんとアイハンちゃん達はお互いの目を見合って、何かを考え込み始めます。
そうして2人は小声になりながら「エイマは悪い人じゃないと思う」だとか「エイマはうそを、いってなかったとおもう」だとか、そんなことを言いながらの話し合い始めて……しばらくした後に同時に頷きあってピクピクと長い耳を動かしてから……こちらへと視線を戻してきます。
「あのね、私達エイマに相談があるの」
「ディアス達にしられちゃだめな、ひみつのそうだんがあるの」
「えぇっと……秘密の相談ですか?
……秘密の相談をなんでまたボクに……?
秘密っていうなら初対面のボクよりもふさわしい人が居るんじゃないですか?」
「エイマじゃないと駄目ー、村の皆じゃ駄目ー」
「にんげんには、いっちゃいけないことで……あじんならいいんだけど、ディアスのことがだいすきな、アルナーにもフランシスにもフランソワにもいえないの、ディアスにいっちゃうから!」
「うぅん……?
なんだかよく分かりませんけど……まぁ、他に相談出来る人が居ないんだってことは分かりました。
それで、どんなことをボクに相談したいんですか?」
唸りながら首を傾げながらボクがそう言うと、2人は待ってましたとばかりに物凄い勢いで喋り始めます。
「ディアスがね、畑を作っててね、毎日頑張って汗だらけになっててね、毎日毎日すごく頑張ってるんだけど……」
「でもだめ、ここはすわれてるから、だめ」
「地面の力が無いから、ディアスのやり方じゃ駄目、すぐに吸われちゃうから駄目!」
「だめなのを、わたしたちなら、なんとかできるけど……でも、それはにんげんに、いっちゃいけないことなの」
「お父さんとお母さんが、森を成す力は人間に知られると悪用されちゃうから言っちゃ駄目って、力を使う所を見られちゃ駄目って」
「おとうさんと、おかあさんとのさいごのやくそく……」
「人間に力のことを言っちゃ駄目なんだけど……私達はディアスを助けたい……」
「エイマは、にんげんじゃないから、ちからのことを、おしえてもいい。
……ねぇエイマ、わたしたちはどうしたらいいとおもう?」
セナイちゃんとアイハンちゃんは懸命に必死にボクに言葉を伝えて来ますが……ボクの理解が追いつきません。
ディアスさんが畑を作っているけど、それは駄目なことで、吸われていて、それをなんとか出来る森を作る力は人間には教えちゃいけない……?
うーん……?
「……セナイちゃん、アイハンちゃん。
それだけだとちょっとまだよく分からないから……もうちょっと詳しく……その力のこととか、ディアスさんの畑のこととかを、説明してくれませんか?」
ボクがそう言うと、セナイちゃん達は元気に頷いてくれて……まずは力のことからと、自らの持つ不思議な力のことを説明してくれたのです。
お読み頂きありがとうございました。
次回は、引き続きこのキャラの視点で、この話の続きをやる予定です。




