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領民0人スタートの辺境領主様  作者: ふーろう/風楼
第十三章 祝福の秋

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聖地



 エルダンの妻達と同じ部屋にいるというのも問題があるだろうから、神殿の前の……今後会議などで使っていくことになった広場に絨毯を敷いて、そこで茶を飲みながらの雑談をしていると……村の南の方から騒がしい声が聞こえてきて、それからすぐに報告に来たらしい犬人族が、私の目の前にやってくる。


「でぃ、ディアス様! すごいですよ! 水がばーっと! 地面が割れて川ーって感じです!」


 興奮し過ぎているせいか、犬人族の報告は何を伝えたいのかよく分からないものとなっていて……尻尾をブンブンと振り回している犬人族の頭をそっと撫でてやって、落ち着かせてやりながら「もう一度報告してくれ」と頼むと、犬人族はハーフーと深呼吸をしてから、再度の報告をしてくれる。


「えっとですね、荒野から水が出てきました、地面がばーって割れて出てきた水が川になりました。

 川は海まで繋がったそうなので、これでゴブリンさん達もお家に帰れますね!」


 ……そんな落ち着いての報告は、先程の報告とは違って何を伝えたいのかよく分かるものとなっていたが、一体全体どうしていきなり水が湧き出たのか? とか、いくらなんでもいきなり海まで繋がるのは有り得ないのではないか? とか、そんな疑問が湧いてきて……私とアルナーとセナイとアイハンと、エルダンの妻達は同時に首を傾げることになる。


 嘘は言っていないようだし、本当に起きたことではあるようなのだが、何がなんだか分からず、とりあえず立ち上がって村の南の方へと向かうと、次々に犬人族が報告にやってきたり……その報告を受けて鷹人族のサーヒィ達が確認のために飛び立ったりと、イルク村が一気に騒がしくなっていく。


 私も直接確認に行きたかったのだが、荒野はそれなりに遠いし海までなんて確認に行ける訳もないしで、イルク村の南端で待機することにして……話を聞きつけたヒューバートや洞人族や、ゴブリン達も集まってきて……一体何があったのか、報告は本当なのかとソワソワとしながらサーヒィ達の帰還を待つ。


 するとしばらくしてからサーヒィ達よりも先に、荒野に行っていたベン伯父さんやエルダン達が帰ってきて……何故だかそのうちの一人、グリンは良い笑顔で涙を流していたりする。


 一体何事があったのかとヒューバート達が駆け出しての確認をし……そして伯父さんやエルダンの口から荒野で何があったのかという話が語られると、そこら中から驚愕の声が上がる。


 最初はまさかそんなと疑っている者もいたが、サーヒィ達が確認したならそれだけで真偽の分かる嘘を、ベン伯父さんやエルダンが言う理由もなく……すぐに誰もが信じることになり、一帯は大騒ぎとなる。


「まさかまさか……そんな奇跡が! 我らに凱旋せよと神々が仰せということか! 我らのために神々が海までの道を作ってくださったというのか!!」


 騒ぎの中でそんな声を上げたのはゴブリン族のイービリスで……他のゴブリン達も似たような声を上げて、大口を開けての笑顔となって海まで続く川が出来上がったことを大いに喜ぶ。


 更にパトリック達やフェンディア達も涙目になりながら喜び……喜びのままに祈るためか神殿へと駆け込んでいく。


「むう……せっかくの準備が無駄になっちまったが、海までの川が出来上がってくれたってんなら、作業的にはかなり楽になるな……。

 アクアドラゴンが作った大穴から湧き出てくる水をうまーくそこの湧き水んとこまで誘導してやりゃぁ良い流れが出来上がりそうだ。

 村近くの小川もしっかり整備を進めて……そうしたら荒野にため池を作るなんてことも出来そうだな」


 そう声を上げたのは洞人族のサナトで……頭の中に図面というか地図というか、川をどうしていくのかという予定図が出来上がったらしく、それを足元の地面に書き記し始める。


「荒野にため池ができたら凄いよね! ね! アイハン!」

「そうだね! おおあめもおおかぜもしんぱいしなくていい、りっぱなはたけができるかも!」


 そしてセナイとアイハンがそんなことを言い出し……私は2人の下に首を傾げながら近づき、声をかける。


「あの荒野に畑なんて作れるものなのか……? 雑草すらなかったし、あの固い地面は耕すのも大変そうだが……」


 すると満面の笑みを浮かべたセナイとアイハンは元気いっぱい、一生懸命に説明してくれる。


「あのね、荒野はね、ずっと行ってたから分かるけど大雨も大風もないから、畑が駄目にならないの!」

「みずがないからだめだったけど、みずがいっぱいあるならいっぱいやさいがそだつよ! くだものもそだつよ! じめんはみずさえあればなんとかなる!」


「あそこは葉肥石とかがいっぱいあるとこだから、水さえあれば……石ごと耕せば良い畑になるよ!」

「ずっとはれてるから、たいよういっぱいだからすくすくそだつ! ふゆでもなにかそだてられるかも!」


 そんな説明を受けて私は、そう言えば畑に撒いている葉肥石やら何やらは荒野から拾ってきたものだったなと、そんなことを思い出す。


 そうすると……確かにセナイ達の言う通り、荒野は畑向きの土地なのかもしれないな。


 水がないことだけが問題だったが、その水が湧き出したのだから問題解決で……あれだけの広さの土地が全て畑になるのだとしたら、凄いことになりそうだ。


 ……ああでも、岩塩鉱床のある辺りは流石に無理か、塩は畑の大敵だからなぁ。


 なんてことを考えてから「良かったな」なんて声をかけながらセナイ達の頭を撫でてやり……それから視界の隅でこっそり歩くベン伯父さんを見つけた私は、そちらへと足を向ける。


 すると伯父さんは私を誘導するかのように歩いていって……自分のユルトに入り、私もそれに続く。


 ユルトの中で伯父さんは、セナイ達が作ってくれたクッションを二つを引っ張り出してそのうちの一つの上に座り……もう一つをこちらに差し出してくる。


 私がそれを受け取り腰を下ろすと伯父さんは、ゆっくりと口を開く。


「ディアス、お前が何を聞こうとしているのは分かっている、聖地のことだろう?

 ……ああ、そうだ、儂は聖地巡礼の果てに聖地に至り、そこで神々と邂逅した」


「……何故それを今まで黙っていたんだ? 聖地を見つけたなんてことになったなら大発見も大発見、王様からかなりの褒美がもらえたのでは?

 ……事情があって王様とかに言えなかったのだとしても、私達にはそう言って欲しかったのだが……」


 私がそう返すと伯父さんは、私の目をまっすぐに見つめながら、力を込めた声を返してくる。


「お前のためだ、ディアス。

 そこで何があったのか、何を知ったのか、その内容を今のお前が知ることは不利益はあれど利益はなし……その上お前は嘘を言えんし、隠し事もできん、だから村が大きくなり、仲間が増えて……色々なことに備えられるようになるまでは言えんかったのだ。

 ……更に言うのなら、儂はな……聖地に至って酷く落胆したのだ、落胆し絶望し失望した。

 ……そんな聖地のことを可愛い甥っ子にどう話したら良いものやらとためらったというのもある」


「なるほど、聖地に神々はいなかったのか……。

 いや、いるにはいたが伯父さんや……父さんや母さんが考えていたような神ではなかったと……そういうことか?」

 

 私が淡々と返すと伯父さんは少し驚いたような顔になり……それから力なくコクリと頷く。


 そんな伯父さんを見てなんとも言えない気分になった私は、頭を掻きながら言葉を続ける。


「まぁ……本当に神殿で語られているような神々がいるのならあんなひどい戦争は起きなかったのだろうし、もっと早く戦争を終わらせるための何かをしてくれたのだろうし……驚きはしないよ。

 何年も何年も神々に祈ったが何の変化もなく……いつしか私も神を信じなくなり、父さんや母さんの言葉だけを支えにしていたから……伯父さんの気持ちは分かるつもりだ。

 ……聖地が具体的にどこにあって、どんな場所で、何があったっていう話は、いつか聞けるものなのか?」


 すると伯父さんは顔を上げ……またもまっすぐに私の目を見やりながら言葉を返してくる。


「ああ、いずれは……時が来たなら教える、何だったら聖地に連れていってやっても良い。

 ……だが今はその時ではない、儂が聖地に至ったというのも……話半分、新道派への牽制やメーア神殿の権威を広めるための方便か何かだと思っておけば良い。

 ……儂が神々の力を利用するのもこれが最初で最後となるだろう……もし更にと望むのであれば、お前が更に多くのドラゴンを……神々の敵を討伐するか、聖地に至るしかないだろうな。

 ……だが覚えておけ、あそこはろくでもない所だ、醜悪と言っても良い、変に頼りにしてしまったのなら儂と同じように酷く落胆することになるだろう」


 そう言ってから伯父さんは膝をペシンと手のひらで叩き……膝に突いた手を支えにしながらゆっくりと立ち上がる。


 立ち上がって……しばらく俯いてから顔を上げ、ゆっくりとユルトを出ていく。


「村の皆やお隣さんには儂が上手く話しておいてやる。

 神々の力はそう簡単に頼れるものではなく、儂のように数十年の修行を経てようやく一度だけ頼れるかどうかの厳しいものだとな。

 聖地についても……そうだな、数十年の修業を経た神官にしかたどり着けない……それでもたどり着けるかどうかは運次第という、そういう場所だと話しておこう。

 あんな場所を目指す者が出てしまわないよう、道中が稀に見ぬ程に過酷な場所であるとも話しておかんとな……」


 出ていきながら伯父さんはそんなことを言い……その背中を黙って見送った私は「ふぅむ」と唸りながら考え込む。


 伯父さんの今の言い方……まるで聖地が簡単に、行こうと思えばいつでも行けてしまうような場所であるような言い方ではなかったか?


 数十年の修行が必要で、過酷な道中であるという……そんな嘘を言う必要があるということはつまり、実際の聖地は簡単に行ける場所にあるということにならないか?


 私をいつか連れていってやっても良いって……今まで何人もの人達が、神官だけでなく商人や兵士、貴族までもが挑み、その全員が失敗してきたのが聖地巡礼で、半ば伝説化し、そんな場所は存在しないというのが常識でもあるのだがなぁ……。


 ……一体全体、聖地はどこにあると言うのだろうか?


 神々の住まう場所……あの巨大メーアや今回現れたというトカゲが住まう場所?

 

 ……そう言えば巨大メーアやトカゲは、地面から現れていたな? 地面……地面の中……?


 ……いや、地面の中なんてそんな場所、簡単に行ける場所ではないし違う……はずだ。


 伯父さんの言い方だともっと楽に、あっさりと行けるような場所っぽかったしなぁ……うん、これ以上は考えても無駄なようだ。


 いつ、どんな時に伯父さんが話をしてくれるのかは分からないが、とにかく今は伯父さんを信じるしかなさそうだと一人で大きく頷いた私は……伯父さんと同じように膝を打って立ち上がり、まだまだ騒いでいる皆の下へと向かうため、伯父さんのユルトを後にするのだった。


お読みいただきありがとうございました。


次回はその後のイルク村やら何やらとなります。

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― 新着の感想 ―
[一言] マジで聖地が周辺どころか地元民にもそうだと全く認識されてない可能性も充分高いよなぁ。 認識されてたら観光資源として大々的に宣伝されてるだろうし、信仰の総本山が置かれそうなもんではある。 で…
[一言] 神と言う大きい存在が人間なんて小さい存在頓着する方がおかしい場合もあるしなあ 隔絶しすぎてて理解出来無くてSAN値直葬なシロモノとか 単なる世界維持システムなだけなパターンも無くは無いが
[気になる点] 伯父さんやディアスどんが行けて他の者たちが無理だった……。 というと、やはり“只人”がキーになっているのかな? となると、伯父さんは“只人”についても知見がある? うーむ。謎が出てくる…
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