ザリガニとの激戦
「まずは私が様子を見る! 皆は離れていてくれ!」
そう声を上げて振り上げた戦斧を構えていると、私の言葉通り皆が離れていく。
「本来なら前に出ちゃいけない立場なんですけど、ディアスさんは洞人のお守りにこの鎧がありますからね……実力的にもディアスさんが前に出るのが一番良い手なんですよねぇ」
一人離れず懐に残ったエイマがそんなことを言ってきて……私は頷いてからザリガニの方へと足を進める。
「戦い方に関してはボクから言えることは何もありませんが、どんな見た目でもドラゴンはドラゴンなので油断だけはしないように。
苦戦しそうなら撤退して皆と合流するのも有りですからね」
更にエイマが言葉を続けてきて、私は頷き……一切の油断なく、本気で戦うために一気に駆け出す。
先手必勝、相手が何かする前に叩き潰せば良い。
そう考えて駆け進み、ザリガニまでもう少しという所まで来たなら敵の攻撃に警戒しながら加速し、正面から右へと駆け抜けながらザリガニが構えた角というか鞭というか、二本の長い触角に戦斧を叩き込むと、思っていた以上に簡単にと言うか、あっさりと触角が砕け折れ、甲殻や肉、血なんかが周囲に飛び散る。
「なんだ、脆いな」
アースドラゴンには全く及ばないしフレイムドラゴンより脆い印象で、駆け抜けた先で体勢を整えた私の口から、思わずそんな言葉が口から漏れる。
これなら簡単に勝てるだろうとそんな考えまで浮かんできて、それでも油断せずに戦斧を振り上げているとザリガニは、口……と呼んで良いのかも分からないような奇妙な、多数のブラシのような何かが蠢くそこから大きな声を張り上げる。
『ギィィィィィィィ!!』
金切り声というかなんというか、聞くに堪えないその音はまず間違いなくエイマが嫌がるもので、さっさと倒すかともう一度駆け出そうとすると、その前にザリガニがその……数え切れない程の数の脚をシャカシャカと動かし、そのでかい図体からは全く予想も出来ない素早い動きでもって、私の周囲で円を描くように動き始める。
「ザリガニってこんな動きをする生き物だったか!?」
「だから相手はドラゴンなんですってば!!」
私の上げた悲鳴のような声にエイマがそう返してきて、私は何とも言えない気分になりながらも視線を外すことなく、グルグルとザリガニの動きを追いかけ続け……ここだという機に投げ斧をぶん投げる。
あの脆さならいけるだろうと考えての攻撃だったが、見事狙いは的中し、相手の脚の一本を砕いた手斧は、その勢いのまま別の脚にぶち当たる。
二本連続という訳にはいかなかったが通用するならそれで十分、すぐさま力を込めて手元に戻したなら、尚もシャカシャカと動き回っているザリガニへと投げ斧を投げ当てる。
するとザリガニは先程より大きな声を、
『ギィィィィィィィィィ!!!』
と、上げながらその触角を持ち上げ……鞭のように振るうと思っていたそれを振り上げ、まさかのまさか槍のように突き出し、私を貫こうとしてくる。
鋭い一撃、それが連続して繰り返されていて、その間もシャカシャカと動き回り続ける。
「一本砕いておいて良かったよ!?」
鋭さはクラウスの一撃には及ばないものの、思わずそんな悲鳴が出る程にその攻撃は絶え間がなく、懸命に避けてはみたものの……一歩及ばず私の腹に命中しかけ、鎧の力が発揮され触角が大きく弾き飛ばされる。
もしこれが二本だったらどうなったことか、そんなことを考えながらその隙に一気にザリガニの方へと飛び込んで……私から逃げようとシャカシャカ動く脚の束を戦斧でもって薙ぎ払う。
力を込めて出来るだけ大きく。
結果、何本もの脚が砕け……ザリガニの動きは一気に鈍り、そうやって生まれた新たな隙を逃さないよう戦斧を振り上げて、その頭に叩き込んでやろうとした―――のだが、またも私の腹が突かれ、その攻撃自体は鎧が防いでくれたものの、思わぬ所で衝撃を受けてしまったことで狙いが狂い、戦斧はザリガニの甲殻の一部をほんの少しだけ砕いて地面へと突き刺さる。
一体何で攻撃されたのか? 脚で突いてきたのだろうか?
なんてことを考えながら体勢を整えてザリガニを見やると、砕いたはずの触角が治っている―――というか、新しく生え変わっていて、生え変わったばかりだからかわずかに赤みを含んだ白い触角が、何度でも私を突いてやるぞとばかりに鋭い動きを見せている。
よく見てみると無傷の触角よりは短い、短く白く硬さも今ひとつなのか、動く度にしなっていて……砕いた脚も同様に新しく生えてしまっていた。
いや、違う……新しく生え変わったのではなく、傷口から再生していっているようだ。
よく観察したら分かる、今も脚や触角がジワジワと長くなっていっている。
正確に言うのなら元の長さに戻ろうとしている訳か……全く、確かにこれは苦戦しそうな相手だなぁ。
だけどもやることは変わらない、再生にだって体力を使うのだろうし、再生出来なくなるまで砕いて砕いて砕き尽くせば良いだけの話だ。
そうと決まったならと戦斧を振り上げて振り下ろし、脚が再生しきってまたそこらを駆け回られないようにと脚を中心に攻撃を繰り返し……そこら中にザリガニの甲殻をばらまいていく。
もちろんその間、ザリガニも攻撃をしてくるが、鎧の力がそれを防いでくれて……いやはや全く、この鎧がなかったらどんなことになっていたやらなぁ。
「ディアスさん! ドラゴンが瘴気魔法を使い始めたみたいです! こちらをなんとか弱らそうとしているみたいですが、お守りのおかげで問題なしです! ボクもついでに守られています!」
そんな攻防の最中、エイマがそう報告してくれて、私は、
「皆! 魔法の影響を受けないよう、距離を取ってくれ!!」
と、声を上げながら更に力を込めて戦斧を叩き込んでいく。
攻撃して攻撃して攻撃して……鎧のおかげで攻撃だけに集中出来て、一体何回攻撃を放っただろうか、そこら中にザリガニの甲殻が散らばった所でザリガニの口が動き、そこから凄まじい勢いの水流が放たれる。
忘れていた訳ではなかったし、一応の警戒をしていたのだがまさかこれ程の勢いとは……鎧が力を発揮して水流を弾いてくれているが、それでも私の体は後ろへと押されていき……同時に水流を弾く力が弱まってくる。
鎧に込められた魔力には限度があり、大量の水を弾こうとしているせいで一気にそれを消費してしまっているようだ。
視界全てが激しく流れる水流で埋もれる中、どうしたものかと頭を悩ませていると、そこに誰かの声が……水流の凄まじい音のせいで聞き取れない何人かの声が響いてくる。
そして鎧の魔力が切れた瞬間、私の胴体を何かがくるりと巻き付くようにして掴み、真横へと凄まじい力で引っ張り、水流の中から救い出してくれる。
「ディアスどん! こっちだでん!」
どうやら私を引っ張り出してくれたのはペイジンの舌だったようだ。
ペイジンは私を舌で引っ張りながら器用に声を上げ……一体どこにそんな力があるのだろうという勢いで自分の側へと私を引き寄せてくれる。
「ディアスどん、怪我はないでん!? 無事だでん!?」
そんな声を上げながら私のことを心配してか鎧をペタペタと触り……私が、
「助かったよ、ありがとう」
と、返すと無事だと理解したのか、呆れ混じりの声を上げてくる。
「よくもまぁあの中で怪我一つなく……そのきんきらの鎧のおかげでん?
……ああ、この鎧魔力でなんかしとって、その魔力が切れて力を失ったと……?
そういうことなんら、あっしの方で魔力を注いでやるでん、ドラゴンの方は一旦彼らに任せておくでん」
そう言われてペイジンからザリガニの方へと視線を移動させると、スーリオ達とゴブリン達がザリガニに襲いかかっていて……スーリオ達もゴブリン達も中々良い戦いをしている。
スーリオ達は攻撃よりも相手の注意を、触覚での攻撃を引き寄せるための素早く鋭い動きを見せていて、ゴブリン達はどっしりと構えての槍での連撃を放っている。
ザリガニはそんなスーリオ達よりもゴブリン達を厄介と見てか水流を放つ……が、ゴブリン達にとってそれは攻撃にはならないようで、凄まじい勢いで放たれる水流をあえて受けて、その中を泳ぐことでザリガニとの距離を詰めていく。
縦一列に並び、槍を構えザリガニをまっすぐに見据え、全身が一本の槍であるかのようにピンと背筋を伸ばし、それから尻尾を激しく動かし、水流以上の速さで突き進んで……。
「……水中でゴブリン達に勝つのは無理だろうなぁ」
なんて言葉が私の口から漏れると同時に、水流から凄まじい勢いで飛び出したゴブリン達の槍がザリガニの体に突き刺さる。
『ギィィィィィィ!!』
六本同時での攻撃はかなり効いたようでザリガニはそんな悲鳴のような声を上げて……それでもまだまだ動けるのか、ゴブリン達を追い払おうと触角を動かし始める。
それを見て私は、トドメを刺すなら今だろうと戦斧を握り、構え……ペイジンにもう一度礼を言ってから、ザリガニの方へと駆け出すのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はこの続き、VSザリガニその2となります。




