それぞれの戦い方
――――自分のユルトの机で、各地の地図を眺めながら ディアス
アースドラゴンを関所予定地まで誘導する、と言ってもまさか避難民にその役目を負わせる訳にもいかないので、誘導に関してはペイジン達が行うことになった。
なんでもペイジン家の中でもペイジン・ドが特別にそういったことを得意としているとかで、一定距離を保ちながら走り続けることも、アースドラゴンが吐き出す火球を回避することも、意識が他に向かないように遠距離攻撃することも、全く問題なく行えるらしい。
避難民には事前に避難してもらい、避難民達の村から距離を取る形でアースドラゴンを関所予定地まで誘導してもらったなら……討伐はモントが率いるジョー達が行うことになる。
指揮官はモント、ジョー隊、ロルカ隊、リヤン隊が正面に立って戦い、リオード、クレヴェはモントの側で見学。
ナルバント達洞人族は後方で武器や道具の準備や運用を行い、ヒューバートが物資などの管理、避難民の世話はベン伯父さんが中心となって行う。
他での動きとしてはサーヒィ達鷹人族は各地を飛び回っての偵察と連絡係、隣領で何が起こるか分からないのでクラウスは引き続き関所を守り、イルク村はアルナーやエイマを始めとする婦人会が守り、ゴルディアやエリー達は物資の運搬や補充をしてくれて……そして私はほぼ単独で草原にやってくるアースドラゴンと戦うことになる。
一応私の戦い方を学びたいからとスーリオが同行するが戦うことはなく、アースドラゴンが放つ瘴気の影響を受けないように相応の距離を取っての見学に徹することになっている。
以前戦った時には全く気付かなかった、かなりの広範囲に及ぶらしいアースドラゴンの瘴気魔法……。
それに耐えられるのは魔力を持たない者か、洞人族特製のお守りを持つ者だけなんだそうで……その両方を満たしている私と違ってスーリオは、近くにただ居るだけでも立っていられない程の目眩を起こしてしまうんだそうだ。
ある程度の距離を取れば軽い頭痛や寒気程度で済むそうなのだが、それでも影響が出るというのだから恐ろしい話だ。
そんな相手と戦うジョー達もまた頭痛や目眩に悩まされる可能性がある訳だが……モント曰く、基本的に距離を取って戦う予定だから問題は無いらしい。
更にはナルバント達が全員分ではないが、いくつかのお守りを作ってくれていて……それらがあればどうにでもなるだろうとのことだ。
私達はそれで良いとして他の場所……隣領や獣人国、王国各地で戦う人々はどうするのかという問題があったが……それに関してはなんとも驚いたことに、マヤ婆さんがなんとかしてくれたようだ。
なんでもマヤ婆さんは魔法に詳しいんだそうで、洞人族のお守りの仕組みというか、力というか、それを研究することで似たような効果を発揮する魔法を生み出すことに成功した……らしい。
魔法の知識が無さ過ぎて私にはその凄さがよく分からなかったのだが、とにかくその魔法があればお守り程の効果は無いが、アースドラゴンの瘴気にどうにか耐えられるようになるんだそうで……最近マヤ婆さんが忙しそうにしていたのは、ただ占いをしていただけではなく、エルダンに頼んでその魔法の使い方を王国各地に広めていたから……なんだそうだ。
その魔法の力があれば各地でも有利に戦えるはずで……いやはや全く頼りになるというかなんというか、今回一番の手柄はマヤ婆さんかもしれないなぁ……。
とまぁ、そんな風に皆の力を借りながら準備を整えて数日後。
サーヒィ達からの、アースドラゴンがもう少しで……ほぼ同時に関所予定地や草原に到達するとの連絡を受けて、動き出した私達はそれぞれの戦場での戦いに備えるのだった。
――――草原北の荒野で スーリオ
何人かの犬人族達と共に岩陰に隠れたスーリオは、目の前で起きている光景をなんとも言えない気分で眺めていた。
赤みを帯びた金色の全身鎧を身にまとった男が、
「ほっほっほっほっ」
と、声を上げながら背筋をピンと伸ばした姿勢でズダンズダンとなんとも不格好に地面を蹴って駆けていて……そんな男に向けてあのアースドラゴンが必死の形相で火球を吐き続けていて。
片手で戦斧を担ぎ片手を元気良く振って、疲れを見せずに駆け続けるその男は、何発かの火球を見事に回避していたのだが、その倍以上の数の火球の直撃を受けてもいて……だけれども一切のダメージは無く、はためくマントが焼けるような様子も見られない。
常識的に考えれば戦斧も鎧も物凄い熱さとなっているはずなのだが、気にした様子もなく駆け続け、回避のためなのか少しだけ遠回りな進路を取り、それでも確実に距離を詰めていって……。
そんな風に駆け続ける男、ディアスによると目の前にいるアースドラゴンは以前倒したものよりもかなり大きいらしい。
大きく力強く、以前はほとんど吐いてこなかったらしい火球をこれでもかと吐き出してきていて……そうした様子を見るにかなりの強敵であるはずなのだが、その火球がディアスを焼くことはない。
ディアスに火球が近付いた瞬間、火球が弾け、熱とともに火が霧散し……それはその鎧の力によるものだったのだが、スーリオはその力のことを知らず、遠目で見ているせいか火球が弾ける様子がまるで直撃しているかのようにも見えていて……スーリオにはディアスが、ただただ火球の直撃を受けつつも耐えているように見えていたのだった。
驚いたら良いのか、戦慄したら良いのか、呆れたら良いのか、尊敬したら良いのか。
視線の先で起きている夢かと思うような光景のせいで冷静になることが出来ず、考えがまとまらず、混乱と言っても良いような状況になりながらスーリオは、それでも真っ直ぐにディアスへと視線を向けていて……そんな中ディアスはアースドラゴンへの接近に成功し、駆けながら戦斧を両手で構える。
構えて駆ける勢いを乗せて戦斧を横に振るって……慌てて甲羅にこもったアースドラゴンへと凄まじい一撃を放つ。
そうやって凄まじいまでの轟音を周囲に響かせたディアスは、駆ける足を止めて両足をしっかりと踏みしめて構えて……今度は一撃ではなく連撃を放つために、がむしゃらといった様子で戦斧を振るい続ける。
戦斧で殴って殴って、何度か殴ったなら甲羅へと飛び乗って駆け上がって……ゴツゴツとした甲羅の中から立ちやすい位置を見つけて、そこで踏ん張ったならまた戦斧を振るい始めて……そうしていると段々と甲羅が削れていって、周囲に破片が飛び散り始める。
更に戦斧で殴り続けていると砕けるだけでなくバキリと甲羅の一部が割れて、ヒビが入って、甲羅の一部が脱落して……それを受けて甲羅にこもっていられなくなったらしいアースドラゴンが慌てて首を外に出してきて、直後それを待っていたとばかりにディアスが、甲羅を蹴って飛び降りながら戦斧を振り下ろす。
それを受けてアースドラゴンは首を甲羅の中に引っ込めようとするのだが、ディアスの一撃はそれよりも速く、戦斧がアースドラゴンの首にぶち当たり、ザクンと致命的な音が響き……アースドラゴンの首が落ち、地面に転げる。
「甲羅の動きは以前に見たからなぁ! 二度目ともなれば流石に対応出来るぞ!」
その首に対しそんな声をかけてからディアスは……唖然として大口を開けているスーリオ達に勝ったことを示すために、手にしていた戦斧を大きく振り上げるのだった。
――――関所予定地で リオードとクレヴェ
深緑の衣と覆面を身にまとい、鉄製の何かを何度も何度も投げ当てて……そうしながら何人かの亜人達が、大きく足を動かしズンズンと突き進むアースドラゴンから逃げる形でこちらへとやってくる。
駆ける亜人達の足の動きはそこまで速くないのだが、一歩一歩がとても大きい跳躍交じりのような独特の駆け方は凄まじい速度を生み出していて……アースドラゴンがときたま放つ火球も、力強く飛び跳ねるか地面を転げ回ることで華麗に回避をしてみせている。
その光景自体は目を奪われ、感嘆する素晴らしいものだったのだが……モントの側で与えられた大盾を構えながらしゃがみ込んでいるリオードとクレヴェの二人は、胸中で大きく膨れ上がる不安に押しつぶされそうになっていた。
視線を上げてすぐ側に立つモントのことを見てみると自信満々の顔をしていて……前方の、踏み固めた剥き出しの地面で陣を組んでいる兵士達もまた似たような顔をしていて……だけども兵士達が構えているのは、風変わりな木の棒と槍でしかなく……あんなものが一体何の役に立つのかと、リオードとクレヴェはその体を震わせる。
「ありゃぁ槍をぶん投げるための道具、投槍器ってんだ、受け皿のようなフックのような所に槍の石突を引っ掛けて、槍投げの要領で構えて……後はテコの原理でぶん投げる。
あんな見た目だが効果はとんでもねぇものでな……ディアスが全力で投げたのと同じ距離を、全く訓練していねぇ、お前らみたいな連中でも軽々飛ばせるようになるって代物よ。
飛距離だけでなく速度も威力も同様に向上するもんで……それを訓練されたジョー達が使ったならそりゃぁもう凄まじい飛距離、威力になるってもんだ」
そんなリオード達にモントがそう声をかけてきて……リオードが震える声を返す。
「あ、あの……お言葉ですが、仮に威力などが向上したとしても、それでアースドラゴンが倒せるとはとても思えないのですが……」
するとモントはその顔全体をくしゃりと歪めて、怒っているのか笑っているのかよく分からない顔で言葉を返してくる。
「確かに投槍器だけじゃぁ倒せねぇ、槍だって甲羅に突き刺さるのが精一杯で貫くことも割ることもできねぇ。
だがそれでも意味はあって……まぁ、そこら辺は見てりゃぁ分かるさ。
……よぅし、お前ら、構えろぉ!!」
話の途中で駆ける亜人達とアースドラゴンとの距離が縮まり、モントがジョー達に号令を出す。
すると横に並んだジョー達が一斉に投槍器に引っ掛けた槍を構え……続くモントの、
「放てぇ!!」
との合図で、矢のように矢羽根のついた細く鋭く作られた鉄製の槍を一斉に投げる。
事前にそのことを知らされていたらしい亜人達は驚くこともなく駆け続け、それを追いかけるアースドラゴンに30本程の槍が降り注ぐ。
投げられた槍全てが命中した訳ではなく、命中したのがだいたい半分程で、更にその半分が弾かれて甲羅に突き刺さったのは7本といった所で……その結果を見ながら次の槍を構えたジョー達は二度目の、
「構えろぉ! ……放てぇ!!」
とのモントの合図を受けて、槍をぶん投げる。
それが何度か繰り返されて、アースドラゴンの甲羅が槍だらけになって……針山のようになった頃、それなりの速度でこちらへと突き進んでいたアースドラゴンの足がなんとも不自然な形で鈍り……それを見たモントが笑みを浮かべながら声を上げる。
「はっ、重いだろぉ、重いよなぁ? ただでさえ自前の甲羅が重いってのにそんなに槍を刺されたんじゃぁ重過ぎてたまらんよなぁ!
……その昔、木の盾を使ってた頃には戦争でもこんな光景が見られたらしいな、槍を投げて相手の盾に突き刺して……重くすることで盾を構えられなくするってぇ訳だ。
まー、この程度で完全に動きを止められる訳もねぇだろうが、それでも動きが鈍ってくれりゃぁ次の一手が楽になるってもんだ!
せめて背中に手が届けば自力で引き抜けるのになぁ……!
……よぅしお前ら、次は大盾を構えろぉ!! そろそろ火球が飛んでくる距離だぞぉ!!」
モントの放った号令を受けてジョー達は大盾を構え……大盾を構えた所に亜人達が駆け込み、それを受けて何人かが……5人程がその場を離れて亜人達と一緒になって後方へと下がっていく。
そんな動きを見てリオードとクレヴェは、今度は一体全体何をするつもりなのかと、恐怖半分興味半分といった様子で、視線を戦場のあちらこちらに巡らせるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回はこの続き、モント達の戦いになります。




