東西からの来訪者
・登場キャラ紹介
・スーリオ
隣領の住まう獅子人族の若者、ディアスが隣領に旅行にいった際、様々な想いからディアスに力比べを挑み、敗北。
その件をきっかけにネハが身柄を預かることになり、ネハの下で礼儀などに関するお勉強をすることになっていた。
・ネハ
エルダンの母親で象人族、大柄な体格で温かい性格……豪快または雑な部分もある。
大声を上げた犬人族……シェップ氏族の若者は、私の方へと一直線に四足で駆けてきて、そうしてフラニアの不機嫌そうな表情を見て、驚いてしまったのか怯んでしまったのか、駆ける勢いをさっと殺して足を止める。
足を止めたならフラニアのことを目を見開きながら見やり、そんな若者の態度を受けてフラニアは、しょうがないなぁという感じで笑みを作り上げる。
すると若者は余計に驚いて、おっかなびっくりといった様子でこちらに近付いてきて……そうしてから二足で立ち上がり森の方を指差し、元気な声を張り上げる。
「あっち……じゃないや、森の方から遠吠え連絡でお客さんが来たそうです!」
次に反対側の、西側関所のある方を指差し言葉を続ける。
「そしてこっち……じゃなくて、お隣の国からもお客さんが来たみたいです!
両方から遠吠えが聞こえてきてます!」
「んん……そうか、分かりやすい報告ありがとう。
遠吠え連絡でその両方に、どんな客が来たのか質問することは出来るか?」
そんな若者の報告を受けて私がそう返すと、若者は地面に両手をついてぐっと顎を突き出して……、
「わおーーーーん!」
と、周囲一体に響き渡る声量での遠吠えを喉の奥から振り絞る。
するとすぐに返事が来たようで……私には聞こえないが若者には聞こえているようで、耳をピクピクと動かした若者は、立ち上がってから居住まいを正し、今度は西側関所の方を指さして報告をし始める。
「こっちの関所の方はいつもの商人さんみたいです、なんかこう……お金のお話があるみたいです。
あっちの森の方はエルダン様のお使いが来たみたいで、えぇっと多分、大事な話があるみたいです。
なんか両方……ディアス様に来て欲しいって言ってるみたいです」
商人はペイジンで、お使いはカマロッツだろうか? そうすると……両方に向かうなんてのはどうしたって無理なので、ペイジンに関してはエリー達に任せることにして、私はカマロッツ達の方に向かう方が良いのだろうか?
なんてことを考えた私は改めて若者に礼を言って、その頭を軽く撫でてやってから、遠吠えを聞きつけてやってきたエリーやエイマに、東西両方から客人が来たことを報告する。
するとエリーがペイジンの相手は任せて欲しいと胸を叩き……そんなエリーに礼を言ってから、エイマに懐に入ってもらい……厩舎へと向かい、ベイヤースに跨って森へと向かう。
そうやって私が駆けていると、完成しつつある隣領からの道や、道脇の休憩所、迎賓館の辺りにいた犬人族達が、私とベイヤースを見つけるなり、何とも楽しそうな表情で一緒になって駆け始めて……ある程度の距離を駆けると疲れたのか、それとも持ち場を離れる訳にはいかないと思っているのか、駆けるのをやめて尻尾を振り回しながら私達のことを見送って……そうかと思ったらまた別の犬人族が一緒になって駆け始める。
道があり休憩所があり……それらのおかげで皆の活動範囲が広がって、広がったことでそんな遊びというか、追いかけっこというか、そんなことが行えるようになって……この草原も少しずつだが変わってきたのだなぁと、今更ながらの実感が湧いてくる。
しっかりと道が出来上がって人の行き来が活発化してきたなら、この草原に来たばかりの時のように、どこを探しても人の気配がしないなんてことはもう起こらない訳で……ただただ広くて何も無かったあの草原の光景も、いつしか思い出せなくなるのかもしれない。
そんな事を考えながら駆けていって……森に入ると関所勤めのマスティ氏族達が先導する形で私達の前を駆けてくれて……そんな皆と一緒に関所に到着したならベイヤースに礼を言い、その首や顔を撫でて労い……マスティ氏族に世話を頼んでから、クラウスがいるらしい関所の向こうへと向かう。
関所の扉は大きく開かれていて、その向こうから何人かの会話が聞こえてきていて……足を進めると随分と大きな馬車の姿が見えてきて……見慣れないその馬車と声の感じからどうやら来客はカマロッツではないようで……では一体誰が来たのだろうか? と、訝しがっていると、立派なたてがみを揺らす見たことのある顔……獅子人族のスーリオの姿が視界に入り込む。
「んん? スーリオじゃないか、元気そうで何よりだが……わざわざこんな大きな馬車で来るだなんて、一体全体何事だ?」
スーリオと応対をしてくれていたらしいクラウスの下へと近寄りながら私がそう声をかけると、スーリオは恭しい態度での一礼をしてから、しっかりと胸を張りながら言葉を返してくる。
「はっ、この度はエルダン様とネハ様の代理として足を運ばせていただきました。
用件といたしましては、先日の件の礼と……ネハ様の『お願い』をお伝えするため、となります。
メーアバダル公、ご多忙のこととは思いますが、お時間をいただけないでしょうか」
「ああ、もちろん構わないが……先日の件というと、あの反乱騒ぎのことか?」
私がそう言葉を返すとスーリオは頷いて、馬車の周囲にいた二人の若者……スーリオよりも華奢な体格の獅子人族へと指示を出し……それを受けて若者達は馬車の荷台から木箱や樽や麻袋、豪華な飾りのついたいかにも高価そうなものの入った小箱などを取り出し、私達の前へと並べていき……それを見て頷いたスーリオが、それらに関しての説明をし始める。
「これらは以前我が領内で騒ぎが起きた際に、ご助力頂いたことに対する感謝を示す品々となります。
半分はエルダン様から、半分はネハ様から……主に食料や酒が中心となっていますが、ネハ様からの品は、アルナー様を始めとしたご家族様に似合うだろうとネハ様が選び、用意した服や装飾品となっています。
またエルダン様、ジュウハ様からの書状も預かっていますので、お時間ある時にご確認ください。
……それと、ネハ様からの伝言を預かっておりますのでそちらを―――」
と、そう言って一旦言葉を区切ったスーリオは、咳払いをしてからネハからの伝言とやらを説明し始める。
まず先日の件の礼、そして今回送った品は礼でもあり、ネハのわがままを聞いて欲しいという願いの品でもあり……そのお願いというのは、なんとも驚いたことに、スーリオとその部下というか友人というか、今回同行した獅子人族の若者二人を、こちらで預かって欲しいということだった。
一体全体なんだってそんなことになったのかと言えば……それは隣領で起こった反乱に原因があるらしい。
獣人への差別意識が強い人間族達が反乱を起こした。
鎮圧が早かったため被害自体は軽微だったが、それでも被害が出ていて……人間族への反感が強まっている。
エルダンの部下や、エルダンの善政に感謝する者達など大多数は、以前のように……いや、反乱があったからこそ以前よりも一層、人間族と獣人族の融和を進めるべきだという態度を取っているが……反感を抱く者の数は少ないとはいえず、無視できないものとなっている。
中には過激なことを言う者達もおり、エルダンはその対応に苦慮していて……ネハはそんな状況の解決する鍵は、人間族でありながら反乱鎮圧に尽力した私達にあると考えているらしい。
人間族が率いる、人間族の部隊が反乱鎮圧に動いて……見返りを求めることなく、戦利品のほとんどを被害にあった人々に返してくれた。
このことはきっといつか、何らかのタイミングで活きてくるはずで……今すぐにどうこう出来るとか、良い考えがあるとかではないのだが、それでも今のうちに打てる手を打っておきたいと、そうネハは考えているらしい。
まずはスーリオ達を感謝と親善の使者として送り……スーリオ達にここでの暮らしを経験させることで相互理解を深める。
そして出来ればクラウスとカニスのような、婚姻関係という固い絆を……もっともっと、可能な限り多く結んでいきたいと思っていて、今後どこかのタイミングでそのためのお見合い会のような機会を設けたい。
それとスーリオ達という手駒を領外に置いておくことで『いざという時』に備えたいという想いもあるようだ。
隣領の領主である私が介入しにくい……してはいけないことでも『スーリオとその友人』という形でなら可能になることもあるとかで……生活にかかる品や食費などはネハが用意するから、どうか受け入れて欲しい……とのことだ。
そんなネハの言葉を伝え終えるとスーリオは、懐から銀貨か金貨か……結構な数が入っているらしい革袋を取り出し……これが食費ということなのか、私の方へと差し出してくる。
それを受けて私は懐のエイマと、側に立つクラウスに視線をやって……二人が受け入れるべきだろうと頷いているのを確認してから、
「歓迎するからゆっくりしていくと良い」
と、そう言ってその革袋をしっかりと受け取るのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はこの続きペイジンに関してとなります。




