二人の絆
・登場キャラ軽く紹介
・エイマ
大耳飛び鼠人族の女性で、イルク村の子供達の教育係、たまにディアスに飛びついて張り付いてディアスの参謀役を務めることも。
・ヒューバート
人間族の男性で、元王宮務めの内政官。
イルク村に来てからも内政官のような仕事をしていて、地味ながら堅実に活躍をしている。
オーミュンが作った不思議な水瓶は、まだ効果を実感出来る季節ではないものの、それでも夏になったらこんなにありがたいものはないだろうと、アルナー達に歓迎されて……そしてそれを見たヒューバートとエイマからほぼ同時にこんな声が上がった。
『ん? もしかしたらこの水瓶、少しの改良と工夫で色々な物が冷やせるようになるのではないですか?』
『あれ? この仕組を利用したら、水以外の物も冷やせるようになるんじゃ?』
そんな二人の頭の中に生まれたアイデアはどうやらほぼほぼ同じようなものであるらしく……それからヒューバートとエイマと、それとオーミュンも参加しての話し合いが何度か行われることになり……そして三人のアイデアを組み合わせての、不思議な水瓶を改良した、不思議な冷却ツボなるものが完成したのだった。
まず大きいツボと小さなツボを用意する。
大きいツボには釉薬を塗らず、小さなツボにはしっかり釉薬を塗って……そして小さなツボを大きなツボの中に入れる。
そうしてから大きなツボと小さなツボのすき間に水を流し込んでおけば……大きなツボの外側にどんどんと水が染み出て蒸発して、不思議な水瓶と同じ理屈で、小さなツボとその中身がうんと冷える、というものだ。
小さなツボの中に水を入れておけば水が冷えるし、水以外の……たとえば木の実とか果物、野菜なんかを入れておいてもそれらが冷えてくれる……らしい。
ただこの構造だと小さなツボがとても不安定というか、水の中で揺れてしまって中の食べ物が傷んでしまうことがあるので……水を吸い込む何かを隙間に詰め込んだ方が良いとなり、試しにということでメーア布を使ったりもしたのだが、高く売れるメーア布よりももっと良いものがあるということで様々な検証がされて……そうして最終的に『砂』が使われることになった。
どこにでもありいくらでも手に入る砂を、虫などの混入を防ぐために一旦焼いてから、大きなツボと小さなツボの隙間に入れて……その砂にたっぷりと水を吸わせる。
そうしておけば小さなツボが揺れることはないし、しっかりと効果は発揮されるしで、全く問題なしということになった。
更に色々と試した結果、水に濡らした布……メーア布ではない麻布辺りを蓋として被せておくと効果が上がるということも分かり……作るのもそこまで難しくないということで、夏に向けての不思議な水瓶と不思議なツボの量産が始まることになった。
やりようによっては交易なんかにも使えそうだし、より多くの食料を保存出来るようになりそうだし……オーミュンが思いつき、ヒューバートとエイマが改良したこのツボは、結構な恵みをイルク村にもたらしてくれそうだ。
そうやって工房周辺が賑やかになっていく中、私はアルナーに贈るアクセサリー作りに励んでいた。
金をナルバント達に溶かしてもらって、手のひらほどの大きさの円の板状にしてもらって……それを綺麗に磨いたら、削るなり穴を開けるなりして模様を作り出していく。
模様に関しては……色々と悩んだのだけど、私にはあまり複雑な模様は作れないだろうということで、簡単なものにすることにした。
まず私達の家名であるメーアバダルを示すメーアの横顔紋章を全体に描く。
その上というか、中というか横顔の頬辺りに私の名前の頭文字と、アルナーの名前の頭文字、それらを並べて描き……これで私達が将来夫婦になる婚約者であるということを示す。
更にその下に二つの花……セナイ達の両親の花に見えなくもない模様を刻み込んで、セナイとアイハンの名前の頭文字も小さく刻み込む。
私の子供と言うのなら、エリーやアイサ、イーライも含まれるのだけど、私とアルナーの子供となるとセナイとアイハンだけとなる訳で……くすみはしても劣化しない、金で作り上げたこれは、私達の絆を示す良い品……になってくれるはずだ。
結局は受け取るアルナーがどう思うかが問題ではあるのだけど、それでも私の思いを精一杯に込めて作ってあり……きっとしっかりと受け止めてくれる……はずだ。
後はこれに穴を開けて首にかける紐を通せば完成で……そういう訳で、数日後。
ようやく婚約の証となるアクセサリーを完成させた私は、犬人族に伝言を頼み、アルナーを工房へと呼び出したのだった。
「ふむ、それがディアスの作ったアクセサリーか。
当たり前だが村人の証とは全く違った雰囲気だな」
工房へ入ってくるなり第一声、アルナーがそんな言葉を口にする。
「あ、ああ、私なりに想いを込めて作ってみたんだが……」
机の側に立つ私がそう返すとアルナーは、つかつかと足を進めてきて……机の上に置かれていたそれを手に取り、しげしげと眺める。
「メーアの横顔にこの文字は……ああ、私達の名前か。
そうするとこの下のは……セナイとアイハンで、花……なのか?」
そんなことを言いながら顔に近付けて、傾けて角度を変えたりしてみたりもしながらじっくりと眺めて……そうしてから首に下げてみて、揺れるそれを指でピンと弾く。
「しかしこれは、普段遣いにするには少し大きいな、金だからか重くもあるし……」
「ああ、うん、普段から使うというよりも、宴の時とかよそに出かける時とか、後はこの前みたいにお客さんが来た時とか、そういう時に使ってくれたら嬉しいかな。
イルク村の皆はわざわざ示さなくてもそこら辺のことを分かっている訳だし……普段から使う必要はない……よな?」
続くアルナーの言葉に私が、恐る恐るというか、お伺いを立てるような気分でそう返すと、アルナーは目をつむり小さく笑ってから……「うん」と声を上げて頷く。
その声は今までに聞いたことのないくらいに弾んだもので、とても嬉しそうで……よく見てみれば小さく拳まで握って、嬉しさを表現している。
「……また来年になったら何か贈るよ。
約束の三年が経つまでは……それでどうにか、許してくれたら嬉しい」
と、私がそう声をかけるとアルナーは、もう一度「うん」とそう言って頷いて、目を開けて私のことをじっと見つめてから……声以上に弾む足取りで工房を駆け出ていく。
そうしてその勢いそのままに駆けていって、駆けていきながら嬉しそうな声での鼻歌を響かせて……どうやらそのまま村中に自慢をして回るつもりのようだ。
……これはしばらくの間、村の皆からからかわれることになるのだろうが……うん、仕方ない。
アルナーが喜んでくれたのだからそれで良し……そもそもの目標は達せたのだから、そこら辺は受け入れるしかないだろう。
ともあれ一段落。
まだまだすべきことは多いが、ひとまず一番大事なことが片付いて良かったと私は、両手を振り上げて、凝り固まった背中を解すために思いっきり伸ばすのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回は前回登場したキャラの誰かが……となります。




