サーヒィと共に
まずは一匹、真っ二つになったウィンドドラゴンが地面へと落下していく。
そんな奇襲を受けてウィンドドラゴン達はすぐさまに散開し、空中を縦横無尽に飛び回りながらこちらのことをその大きな目でもって睨みつけてくる。
透明な羽根、紫の甲殻、大きな顎。
その体の造りは本当にトンボそっくりなものとなっていて、その飛び方までもがトンボそっくりなものとなっている。
(ディアス、奴らはまだあれが戻ってくることを知らないからな……どうせなら上手いこと狙って戻せないか?)
そんなトンボ達の動きをじぃっと睨んでいると、私の肩から離れて背後の方を飛び回っていたサーヒィが、私の背中というか後頭部に張り付くように降り立ちながらそんな小声をかけてきて……私は頷いて、それを受けてすぐさまに飛び立ったサーヒィの言葉通りに、残る四匹のうちの一匹に狙いを定めて……トンボと共に地面に落下していた投げ斧を手元に戻す。
すると投げ斧はなんとも不思議な力で飛び上がり、私が投げた時のように回転しながらこちらに戻ってこようとして……その道すがら、私だけに注視していたトンボの胴体に直撃する。
私が投げた時よりは勢いもなく威力もないが、それでも良い当たり方をしてくれたのかトンボにかなりのダメージを与えてくれたようで……地面に落下した投げ斧にもう一度戻ってこいと念じた私は、戻ってきた投げ斧を引っ掴み……明らかに動きを鈍くさせて今にも地面に落下してしまいそうなソイツに投げつける。
「はっはー! 二匹目! 上手く当てるもんだなぁ!!」
結果は真っ二つ、後方で待機しているサーヒィがいつになくご機嫌な様子で大きな声を上げてくる。
「槍を投げたり弓矢で射ったりするのは苦手なんだが、どうしてだか斧は上手くいくんだよな。
戦斧を投げた時もほとんどの場合で当たってくれていたしなぁ」
私がそう言葉を返すとサーヒィは、途端に声のトーンを落とし……、
「え、あれを投げたの? あのでかさの戦斧を?
一体全体何をどうしたらアレを投げようなんて発想になるんだ?」
なんてことを言ってくる。
私がそれに返事をするよりも早く、残り三匹のうちの二匹がこちらへ、様子見するのを止めたのか突撃せんばかりの勢いで迫ってきて……投げ斧を戻すには間に合いそうにないなと決断した私は、ナルバントが作ってくれた鎧を信じることにして防御も回避も考えずに戦斧へと手を伸ばして、戦斧の柄を引っ掴む。
柄を掴むなり構えを取ろうとした……のだが、それよりも早く二匹のトンボは私の眼前へと迫ってきて、そしてその大きな顎でもって噛みつこうとしてきて―――瞬間、鎧が一瞬、ほんの一瞬の閃光を放つ。
閃光と衝撃があり、衝撃を受けたトンボの甲殻がきしむような音が周囲に響き渡り、トンボ達が強く弾き飛ばされ……慌てて羽根を激しく動かし、どうにか体勢を整えようとし始める。
そんなトンボのうちの一匹に向けて掴んだ戦斧を下から上へと、思いっきり振るい……まずはそれを真っ二つに。
振り上げた形となった戦斧をそのままの形で振り下ろすが、流石にそれは避けられてしまって……何を思ったかトンボは私の背後のサーヒィへと狙いをつけようとする。
しかしサーヒィもそれを予想していたのか、私を盾にする形で飛び回ってトンボのことを翻弄し……トンボは私を迂闊に攻撃してしまうとまたあの閃光を食らってしまうと警戒しているのか、こちらに近付くことすら出来ずに、私達の前方をウロウロとし始める。
直後、最後の一匹……どういう訳かかなりの距離を取った状態で、上空からこちらを見下ろしているトンボが大きな音を立ててくる。
金属片を革袋につめて振り回した音とでも言うべきか、その革袋を何かに叩きつけたり握りしめたりした音とでも言うべきか。
金属音によく似ていて甲高くて不快で……と、そんな音をギチギチと周囲に響き渡らせる。
すると目の前の一匹が慌てたように激しく動き始める。
まるで誰かに叱責されたというか脅されたというか、そうして仕方なく嫌々こちらに向かってくるような動きを見せて……私はそんな目の前の一匹に対して、戦斧を持つ手に力を込めて振り上げて、全力で持って振り下ろす。
トンボはそれを予測していたとばかりに見事な回避し、その隙を狙って攻撃しようとしてくるが、またも鎧が閃光を放ちトンボを押し返す。
そうして怯んだトンボに対して私は地面に突き刺さってしまった戦斧から手を離し、少し前に戻れと念じておいた投げ斧をしっかりと掴んで……投げるのではなく手斧として叩きつける。
が、トンボはそれをまたも見事な動きでもって回避をしてみせて……それを受けて私はすぐさまに投げ斧を投げつける。
投げつけたなら戦斧を掴んで引き抜いて、引き抜いた勢いでもって戦斧を振るい……振るいながら投げ斧を戻し、戻ってきた投げ斧を片手で引っ掴みながら、もう片手で戦斧を振るい……投げて振るって、投げ斧と戦斧での連続攻撃を仕掛ける。
こういう時は深く考えない方が良い、ただ目の前の敵にだけ集中してとにかく直感でもって攻撃を繰り出せば良い。
防御を鎧が勝手にやってくれるなら尚の事、攻撃だけに意識を向けて、相手がバテるか、回避に失敗するまでただただ攻撃を繰り返していれば良い。
余計なことを考えなければ考えない程、体は速く鋭く動いてくれて、余計な事を考えなくて良いので疲労感も少なくて……そうして攻撃を繰り返しているうちにトンボはどんどんと勢いを失って消耗していって……一旦呼吸を整えようとでもしたのか、飛び上がってこちらから距離を取ろうとする。
「させるかよ!!」
瞬間、そんな声が響き渡る。
それはサーヒィの声で……いつのまにか上空に飛び上がっていたサーヒィがトンボの背中へとそこらから拾ってきたらしい結構な大きさの石を叩きつける。
投げつけるのではなく、石ごと落下するような形で、勢いと体重を乗せての叩きつけで……ダメージはないものの、それで怯むことになったトンボの羽根に、ここぞとばかりに私が投げつけた投げ斧がぶち当たる。
そうしてトンボは落下をし始め……地面に落下すると同時に、私が叩きつけた戦斧がその体を……甲殻を粉砕する。
「……ふぅ、助かったよ、サーヒィ」
「い、良いってことよ」
そうやって四匹のトンボを倒した私が感謝の声を上げると……サーヒィは私の肩にとまりながらそんな声を返してきて……恐怖で震えているのか武者震いなのか、震える爪でもって鎧をひっかき、ガチガチと音を立てる。
見ようによってはこれも一つの攻撃であるはずなのだが、鎧は特に反応を見せず……うぅん、一体どういう基準で攻撃かそうでないかを見分けているのだろうか?
敵味方を見分けている……なら、ナルバント達の槌を弾かないはずだし、衝撃の強弱……なのだろうか?
なんてことを考えていると……最後の一匹、未だに上空で待機している一匹が、またもあの音を……先程とはまた少し違った調子で放ってくる。
「……アレは一体何をしようとしているんだ? 威嚇なのか、仲間への連絡みたいなものか……」
「さてなぁ……こんな状況になったんだから、さっさと逃げちまえば良いものを、あんな所でいつまでも何をやってんだろうなぁ……。
そもそも仲間が戦ってるってのに、援護もしないであんなとこから見下し続けるってのもなぁ、胸糞悪いっていうか、気に食わねぇな」
息を整えながら手元に戻した投げ斧を鞘に納め、しっかりと両手で戦斧を構え直しながら私がそう言うと……未だに震えが止まらないらしいサーヒィがそう言葉を返してくる。
「ああ、瘴気に支配されたモンスターは逃げたくても瘴気がそれを許してくれないらしい。
ナルバントが以前、そんなことを言っていたよ」
「……へぇ、逃げたくても逃げられないって、せっかく空を飛べるのに勿体ないっつーかなんつーか……せっかくの強みを失っちまってる感じがするなぁ」
更に私達がそう言葉を続けていると……最後のトンボが動きを見せてくる。
逃げられない以上はこちらに向かってくるしかない訳だが……トンボはこちらに向かってくることなく、真っ直ぐに飛んで、私達の上空を素通りしようとしているような動きを見せていて―――その動きを見るなりサーヒィが飛び上がり、私も慌ててそのトンボへと向けて投げ斧をぶん投げる。
瘴気に支配されてしまっているモンスターは、生物を目の前にして逃げることは出来ないそうだが……更に前に進む形で、私達の背後に向かって……私達の背後にあるイルク村への『進軍』は出来てしまうらしい。
そのことに気付いたサーヒィがまず行動を開始し、私が慌ててそれに続くことになり……そんな私達の動きを見てなのかトンボは、凄まじい軌道での……鳥には決して出来ない動きでの切り返しをして、追撃を仕掛けようとしていたサーヒィへと襲いかかる。
「なめんじゃねぇぞ、この野郎!!」
そんなトンボに向かって大声を張り上げたサーヒィは……そのままトンボとの空中戦を繰り広げるのだった。




