水源小屋とか氷とか
・ディアス以外のキャラの近況紹介
・ベン伯父さん(人間族)
新しい宗教、メーア教を作るため教義を練ったり、神殿の建設計画を練ったりしていた。
・サーヒィ(鷹人族)
ディアス達が不在の間、イルク村を守るために懸命に見張りをしたり狩りをしたり……婚約者のリーエス達と交流していた。
・ナルバント(洞人族)
イルク村の住民のリクエストに応えての物作りをしながら、ディアスの鎧を完成させようと励んでいた。
その鎧には謎のメーアから託された不思議な石が材料として使われており……加工が難しいその石のせいで中々完成させることが出来ず、苦戦していた。
セナイとアイハンの両親の若木が綺麗な花を咲かせて、そのことを祝う宴を盛大に開いて……翌日。
身支度を終えて朝食を終えて……一切の隠し事をする必要がなくなったセナイとアイハンが、いつも以上の元気さでイルク村の中を駆け抜けていく。
村の外から客や商人が来ている時にはこれまで通りその力のことを隠す必要があるが、イルク村の皆の前はそうする必要はなく……これからはその力を好きに、二人の思う通りに使うことが出来る。
そうやって村の畑や森の中を……セナイとアイハン曰く『賑やかにしていく』ことで皆の役に立ちたいんだそうで、早速今日からその作業が始まるらしい。
そんな二人の側にはエイマがいて護衛の犬人族達がいて、エイマが力を使いすぎないように、犬人族達が力を使う様子を誰かに見られないように見張ってくれるそうなので……まぁ、問題は無いのだろう。
他所から誰かが来たりしたなら関所のクラウス達や、空を舞い飛ぶサーヒィ達が報告をしてくれる手筈になっているし……不測の事態ということも起こらないはずだ。
そういう訳で、私は私で安心して仕事が出来る訳で……セナイとアイハンの背中を見送ったなら、水汲みやら荷物運びや整理といった、いつも通りの仕事をこなしていく。
いつもと違う点があるとすれば、それはアイセター氏族のためのユルトが増えたということと、軍馬達が増えて厩舎の近くが賑やかになったということで……それともう一つ、私の腰にあの投げ斧とそれを包む鞘がぶら下がっているということだろうか。
戦斧と違って持ち歩くのに便利で、ちょっとしたナイフ代わりに使うことも出来て……今のところ投げ斧としての活躍は全くしていないのだが、それでもなんだかんだと便利に使えている。
戦斧のように修復したりはしないはずなので、刃こぼれしないように気をつけて使っていく必要はあるだろうが……手入れに関してはナルバント達がしてくれるそうだし、多少は雑に扱っても構わないだろう。
そもそもの使いみちが投げることだからなぁ……投げていればどうしたってガタがくるものだし、使い潰すくらいのつもりでいたほうが良いのかもしれない。
……と、そんな事を考えながら仕事に励んでいると、結構な数の犬人族を引き連れたベン伯父さんとナルバントが軍馬に荷車をひかせながらこちらに歩いてくる。
その荷車にはナルバントが加工したらしい木材と、石材が山積みとなっていて……どうやら伯父さん達はそれらを何処かへと運び、何かを作る腹積もりでいるようだ。
そんな伯父さん達のことをじぃっと見ていると、伯父さんが声をかけてくる。
「水源に小屋を建てようと思ってな、お前がいないうちにナルバント殿に支度の方を頼んでおいたんだ」
「えーっと……水源に小屋を、か?」
私がそう言葉を返すと伯父さんは、北の山の方を指差しながら言葉を続けてくる。
「うむ、村の側を流れておるあの小川の水源を守る形で小屋を、だ。
井戸があるとはいえ、洗濯に水浴びに畑にとあの小川も生活に欠かせないものとなっておるからな。
その水源が何かの拍子で落石や泥に埋もれたりするのを防ぐために石材を積んで囲んだ上で小屋……というか囲い屋根のようなものを建てておくんだ。
そんな小屋を建てたら小屋から村までの間を、野生の獣が小川を汚すことのないように犬人族達に巡回してもらうつもりだ。
とはいえ、野生の獣達の飲水を奪うのも可哀想だからな、そこら辺に関しては畑の近くにある溜池のようなものや、支流を作ることで解決しようと思っておる」
「ああ、なるほど……」
「水源の保護も治水の一環だからな……本来はもっと早いうちにやっておくべきだったんだが、色々とやらなければならないことが多くてな、そこら辺で忙しかったせいでこんなタイミングになっちまったって訳だ。
小屋が出来たら、更にその近場に石材を積み上げての氷の貯蔵庫を建てる予定だ、山の方にはまだ当分は氷が溶けずに残っておるそうだからな、犬人族達の力を借りればそれなりの量を溜め込むことが出来るはずだ」
「氷を? なんでまた?」
「……夏の暑い時期に様々なものを冷やすために使おうかと思ってな。
それと……儂としてはそうやって自分達で使うだけで十分だろうと思っていたんだが、ヒューバートとエリーが、氷を今のうちに溜め込んでおけばこことは比べ物にならんくらい暑くなる隣領に売れるんじゃないかってそんなことを言い出しおってな……いくらかを売却用に貯蔵することになっておる。
それが上手くいったならこの辺りでも氷を作れるようにして冬の間に貯蔵して、来年の夏になったら大々的に売っぱらう腹積もりのようだぞ」
「……この村で使うならまだしも、隣に売り込むっていうのは……いくらなんでも無理なんじゃないか?
どうやっても運搬途中で溶けてしまうだろうし……」
「儂もそう思ったんだがな、ヒューバートのやつが面白いことを言い出しおってなぁ。
メーア布で包んでおけば多少は溶けるだろうが、隣領までなら問題なく運搬できるはず……とかなんとか。
温かさを内側に溜め込めるってことは逆に、冷たさを封じ込めることも出来るそうでな……メーア布と鞣し革で包んで持っていって、氷ごとメーア布も鞣し革も売り払うって寸法らしい。
まぁ、駄目で元々……氷が溶け切っちまったとしても大損するような話でもないからな、やるだけやってみても良いだろうよ」
「まぁ……確かに、隣領に売れなかったら売れなかったで、イルク村で使えば良い話、か」
……と、そんな会話をあれこれと、しばらく続けてから納得した私がこくりと頷くと伯父さんは、それを了承の合図として受け止めたのだろう、ゆっくりと歩き出して……犬人族達とナルバントと共に北の山へと向かって歩いていく。
北の山というとモンスターがいる一帯でもあり、伯父さん達だけでは危険なのでは? とも思ったのだが、そこら辺に関しても伯父さんはしっかりと対策をしているそうで、事前に鷹人族のサーヒィ達に偵察を頼んでおいたとかで……サーヒィ達が安全だと判断したルートだけを通って水源のある場所へと向かうつもりなんだそうだ。
もしサーヒィ達が安全なルートを見つけられないようなら明日以降にするか、私達にモンスターの駆除を頼むかするつもりだとのことで……まぁ、そこまで対策を練っているのなら、大丈夫なのだろう。
ナルバントもいるし、犬人族達もいるし……伯父さんにはあの毒の短剣もあるし、ドラゴンでも出てこない限りはなんとかなる……はずだ。
なんてことを考えながら伯父さん達を見送ろうとしていると……伯父さん達が進む先、北の方からサーヒィと、サーヒィの婚約者達……リーエス、ビーアンネ、ヘイレセの三人が物凄い勢いでこちらへと飛んでくる。
「だ、駄目だ駄目だ、今は行くな! ドラゴンだ、ドラゴンが出やがった!」
こちらに飛んできながら先頭のサーヒィがそんな大声を上げてきて……私はがくりと肩を落とす。
ドラゴンが出てこない限りなんとかなると考えた矢先に出てくるとは……タイミングが良いというかなんというか……。
肩を落としため息を吐き出し、面倒なことになったなぁと頭を一掻きした私は、サーヒィに向かって大声を上げ返す。
「どんなドラゴンだ! まさかまたフレイムドラゴンじゃないだろうな!」
「いや、ウィンドだ! ウィンドドラゴンが5匹! こちらに向かってきてはいないが、北の山の辺りをうろうろと飛んでやがる!」
そんなサーヒィの言葉を受けて私は……「うぅむ」と唸り声を上げる。
ウィンドドラゴン自体は弱いというか、他のドラゴンよりもかなり脆く、おそらくはこの投げ斧でも倒せてしまうような相手なのだが……過去に戦った際に私は、いくつかの切り傷を負うことになり……その切り傷が酷く膿んでしまい高熱にうなされたという経験をしてしまっている。
その時はセナイ達がサンジーバニーで助けてくれた訳だが……まさかまたセナイ達がそうしてくれることを期待して戦いを挑むなんていう馬鹿な真似をする訳にはいかないし、かといって危険なドラゴンを放置する訳にもいかないし……さて、どうしたものだろうかと唸り声を上げ続けていると、これまでずっと黙っていたというか、静かにしていたナルバントが、その顔をギラギラと輝かせながら、いつになく大きな声を張り上げてくる。
「そうか! ドラゴンか! ドラゴンがでおったか!!
であれば、オラ共の出番よ! オラ共が拵えたあの鎧の出番よ!!
ディアス坊! オラと一緒に工房まで来い!! ようやっと完成したあの鎧さえあればウィンドドラゴンなぞ相手にもならん!!
かすり傷一つ負うことなく蹴散らせることだろうよ!!」
そう言ってナルバントは私の返事を待つことなくドスドスと、大股で工房の方へと駆けていき……伯父さんと、近くのユルトの屋根で体を休めるサーヒィ達に視線を送った私は……視線でもって「少しそこで待っててくれ」と伝えてから、ナルバントを追いかけるべく駆け出すのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はディアスの新鎧お披露目と、新鎧と新武器を使ってのVSウィンドドラゴンです。




