家族旅行 二日目、到着
・久々に名前が登場するキャラ紹介。
・ジュウハ
人間族、男、ディアスの元戦友で自称王国一の兵学者、今はエルダンの軍師。
黒髪黒目、割れた顎の濃ゆい顔をしていて……酒や賭け事などが大好き。
兵法、軍学などなどに詳しいが、戦争自体は非効率的だと嫌っている。
平和的なこと文化的なことを好み、『遊び』という文化を楽しめる場、公園をエルダンが作っているのを見てエルダンに仕官することを決めた。
箱馬車となった馬車の中には、馬車と前部と後部に向かい合う形での椅子が作られていて……そこにアルナーが持ってきてくれた敷布を敷いてから座り、御者に関してはカマロッツが手配してくれた人間族の男性に任せてある。
馬車の中の私の服装は、ズボンだけはいつものもので、何の意味があるのかごちゃごちゃとしたヒラヒラのついたシャツを着て、黒地のやたら派手で豪華な刺繍のされた上着を着て、上等な作りの革靴を履いたものとなっている。
更にその上に短めの、上半身を覆うくらいの青地のマントを羽織っていて……アルナー、セナイとアイハン、エイマも似たような形で赤色や黄色、緑色などの鮮やかな色の質の良い布のショールのようなものを、旅装の上に羽織る形で肩からかけている。
そして私の腰のベルトには昨晩アルナーが作ってくれた革鞘が下げてあり、その中にはあの投げ斧が納められていて……戦斧の方もすぐ側の壁に立て掛け、いつでも持ち出せるようにとの準備がしてある。
馬車に積んでいた荷物のほとんどは馬車の天井か、椅子の中にある収納に納められている訳なのだが、何故戦斧だけがそうなっていないかというと……その理由はこれらの服と一緒に用意されていた、ジュウハからの手紙にあった。
ジュウハらしい軽い言い回しが目立つ手紙によると、どうやらジュウハはここの領民達の前で、領主エルダンと救国の英雄である私の再会劇なるものを演出しようとしているらしい。
だが私の顔というか、容姿についてはそれ程知られておらず……いつもの格好でただエルダンに会っただけでは、演出の効果が薄いというかなんというか、見学に来ていた人々が盛り上がるに盛り上がれないんだそうで……派手なマントやらを身にまとった上で、それなりに知れ渡っているらしい戦斧を構えた姿を見せることで、救国の英雄ディアスここに在り、とのアピールをして欲しいんだそうだ。
ジュウハのためにそんなことをするというのはなんとも乗り気になれない話だったが、これまで散々世話になってきたエルダンのためなら、そのくらいのことは何でもないことで……アルナー達もまたエルダンのためならと協力的な態度を見せてくれている。
「えーっと、もう一度確認すると……まず馬車が停まったら、御者がドアを開いて足場を用意してくれるらしい。
そうしたら私が戦斧を持ちながら馬車から降りていって……次にアルナー、セナイ、アイハンの順で降りてもらって……その際に私がアルナー達の手を取って安全に降りられるようにする。
エイマは私の肩に乗ってもらうか、アルナーの手の上に乗ってもらうかして……フランシス達は馬車が屋敷の中に入るまでは馬車の中で待機してもらう。
後のことはエルダンが上手くやってくれるらしいが、力を込めた握手は絶対に忘れないようにして……エルダンの名前を呼ぶ時は、マーハティ公と呼ぶか、マーハティ公エルダンと呼ぶようにする、とのことだ」
手紙を手に私がそう説明すると……ガラス窓から外の光景を眺めていた向かいの席に腰掛けたアルナー達は、私の方に視線を向けてくれて、こくりと頷いてくれて……そしてまた外の光景へと視線を戻す。
……そう、なんとも驚いたことにこの馬車にはガラス窓がはめ込んであるのだ。
車体の左右にしっかりとした窓枠があり、驚く程に出来の良い大きなガラスがはめ込まれていて……そこから外の光景を好きに見ることが出来る。
おかげでアルナーもセナイもアイハンもエイマも、そしてフランシス達も外の光景に夢中になっていて……六つ子達が窓の外を見られるようにと、私の席の隣に置かれた足場代わりの木箱の上には、六つ子達が代わる代わる、もみ合い押し合いといった様子で群がっている。
時折その押し合いに負けた子がこてんと椅子に転がったり、床に転がり落ちてしまったりするので、その度に拾い上げてあげて「怪我をしないようにな」と注意をするのだが……どの子もそんなことよりも外の光景だと言わんばかりの表情を見せるなり窓へと顔を向けて、注意を全く聞き入れようとしない。
……だがまぁ、そうなってしまうのも仕方のないことかもしれない。
エルダンの領地、マーハティ領には、草だけのイルク村周辺と違って多種多様な、目を奪われてしまう程の光景が広がっているからなぁ。
隊商宿までの道中と同じように、何も無い荒野を通ったと思ったら、今度は大きな畑が広がっていて、森があり草原があり、大きな川があり……更にはエルダンの屋敷へと向かっているらしい横に広い街道には私達以外の姿が無数にあり……大きな馬車や小さな馬車、徒歩の者、馬に乗った者、ロバに乗った者、牛に乗った者など、様々な姿を見る事ができる。
エルダンの領らしいというかなんというか、様々な姿をした獣人の姿も多く……地面を揺らす程に力強く歩いている者もいれば、馬かそれ以上の速さで駆けている者までいて……一日中眺めていたとしても飽きることは無いのだろうなぁ。
街道を行く人々は、護衛に守られながら……箱馬車になっても変わらずメーアの横顔バナーを掲げている私達のことが気になるのだろう、目を丸くしながら視線を向けてくれて、セナイとアイハンが手を振ると笑顔で手を振り返してくれて……そうした交流もまたこの馬車旅を心の弾むものとしてくれていた。
そんな風にしてしばらく進むと、段々と街道脇に石造りの建物や土造りの建物……木の柱を立てて布で屋根を作った露店などがちらほらと見えるようになってきて、そこで私の背後の壁にある、御者台と繋がっている窓……声を通りやすくするためかガラスはなく、開閉可能な小さな引き戸のある窓が開かれ、その向こうから中年くらいのくすんだ金髪の御者が声をかけてくる。
「もうそろそろメラーンガルの街に入ります。
街に入ればお屋敷まではすぐとなりますので、そのつもりで準備をしておいてください。
……それと、お楽しみの所申し訳ないのですが、屋敷に到着するまではカーテンは閉めておいてください。
誰が乗っている馬車なのか、どんな人物が降りてくるのか……そんな期待感で領民達を盛り上げるための演出だと、ジュウハ殿が言っておりましたので……。
街の案内に関しましては後ほど、エルダン様やカマロッツ様がしてくださると思いますので、どうぞよろしくお願いします」
「ああ、分かったよ」
御者の声にそう返した私が窓の脇で縛られていたカーテン紐を解くと、カーテンがさっと広がって窓を覆ってくれる。
アルナーもセナイとアイハンも渋々ではあるがそれに続いてくれて……向こうの席で交代しながら窓を覗き込んでいたフランシスとフランソワも、大人しく窓から離れて床に移動し……床の上にアルナーが敷いた布の上へと移動し、足を畳み込んでちょこんと座る。
そんな中、六つ子達だけは嫌だ嫌だと、カーテンの隙間からでも窓を覗いてやると抵抗をし始めて……私と立ち上がってこちらに来たアルナーでそんな六つ子達のことを捕まえて、わしゃわしゃと撫でてやって、体をくすぐってやって……そうやって六つ子達を油断させた所でメーア布でくるりと包んで、フランシス達の側に準備しておいた、大きな蓋付きのバスケットの中にしまい込むというか、閉じ込める。
食事はしてある、用足しなども道中の休憩時間に済ませてある、そしてつい先程までこれでもかとはしゃいでいた。
そんな状態で柔らかな布に包まれて、暗いバスケットの中に閉じ込められた六つ子達がどうなるのか……その答えは熟睡だった。
バスケットの中で抵抗しているような様子はなく、外から賑やかな生活音や人々の声、がらごろと響く車輪の音が聞こえてくるので聞き取ることは出来ないが、恐らくはぷひんぷひんといつもの寝息を立てているはずで……私達はそんなバスケットの様子を見て小さく笑ってから、それぞれの服に問題が無いかの確認をしていく。
変にシワが寄っていないか、汚れていないか、メーアの毛がついてしまっていないかなどの確認をして……そうしたらいつでも馬車の外に出られるようにと心構えをしておく。
するとだんだんと馬車が速度を緩め始めて……護衛達が駆け出したのか鎧などの音を響かせる中、馬車が停車し、御者台で動きがあり……そうして馬車のドアが開かれると、人々のどよめきと眩しい太陽の光が馬車の中に入り込んでくるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回エルダンやジュウハとの再会などなどとなる予定です。




