家族旅行 二日目、隊商宿を出立し
・久々に名前が出たキャラ紹介
・サーヒィ
鷹人族の狩人、男。三人の嫁候補と共にイルク村に滞在中、狩りは勿論、空からの見張りや関所との連絡役も務めてくれている。
・ベン
ディアスの伯父、神官、男。老齢でディアス不在のイルク村のまとめ役、狙った相手に毒? を付与出来る短剣を所持しており、狼藉者が来ることがあれば容赦なくそれを使うつもり。
・ナルバント
洞人族の鍛冶師、男。頑丈で力が強く、フレイムドラゴンとの戦闘でも活躍をした。
今はディアスの鎧を作っている途中だが、それ以外にもあれこれ作っているようで……いざという時があれば、それらを使ってやろうと目論んでいる。
何があっても手元に戻ってくる投げ斧、というなんとも不思議な武器を手に入れることになったことを、誰より喜んだのはアルナーだった。
「あの戦斧は騎乗中に使うには不向きだったからな! これなら手綱を操りながらでも投擲出来るし、御者台の上なんかでも使う事ができるだろう!」
なんてことを言いながら満面の笑みで喜んでくれて……そうして部屋に戻るなり、馬車に積み込んであったらしい鞣し革と革細工用の針と糸を取り出しての、投げ斧の革鞘を作り始めてしまった。
「そんなものまで持ってきていたんだなぁ……なんだか他にも色々荷物があったようだが……」
水浴び用の一画でフランシス達にブラッシングをしてやりながら私がそう言うと……ソファの上であぐらに足を組んだアルナーは、革に針を通しながら言葉を返してくる。
「当然だろう、裁縫道具無しで旅先で服や靴が破れたり壊れたりしたらどうするつもりなんだ?
それにだ……本音を言えばユルトまるごと、全てを持ってきたかったくらいなんだぞ?
そもそも私達は『旅』という行為をしないからな……何処かに行く時はユルトも家畜も家具なんかも全て持って行くのが当たり前、財産と言えるものは常に側に置いておくものなんだ。
家畜や財産が持ち歩けない程に多いなら、宝石や金糸や銀糸などに変えて、そして髪飾りや首飾り、腕輪や服として全てを身に着けておく。
そうしておけば遊牧のための移動の際には楽が出来るし、いざ敵が来たなんて時にも、財産全てと一緒に逃げることが出来る訳だな。
今はそういう家は減ってしまったが、昔の……豊かだった頃は誰もが金糸や銀糸をたっぷりと使った服で身を包み、数え切れない程の宝石を身につけていたそうだ」
「それは……なんというか、とても合理的なんだな」
「私達からすればそれが普通のことなんだがな。
……今回イルク村に色々なものを置いてこられたのは、マヤやベン伯父さんを信用してのことで……本当はこう、なんだ、今でも落ち着かないソワソワとした気持ちがあったりもするんだ」
「なるほどなぁ……。
まぁ、うん、何かがあればサーヒィ達が報せに来てくれることになっているし、伯父さんにはあの短剣があるし、ナルバント達も居るのだから心配をする必要は無いさ。
旅行中はそこら辺のことはあまり気にせずに、気楽に構えているくらいの方が旅を楽しむことが出来ると思うぞ」
なんて会話をしながら私はフランシス達全員のブラッシングを終わらせ、アルナーは革鞘をしっかり作り上げ……セナイとアイハンはエイマと一緒に勉強をして時間を過ごした。
そうしていると職員達が水浴び用の桶やら石鹸やら程よい温度のお湯を持ってきてくれて……順番に水浴びを済ませた私達は、これまた職員が用意してくれた寝間着を身に着けて、ベッドへと潜り込み……慣れないベッドにソワソワとしてしまうセナイとアイハンが寝付くまで昔話をしてあげて……そうしてから私達もすぐに夢の世界へと旅立ったのだった。
翌日、早朝。
窓から朝日が降り注いで来て目が覚めて……既に目覚めていたらしいアルナーやセナイ達が着替えやら身支度をすっかりと終えているのを見て、私もやらなければなと起き上がり……着替えて顔を洗って髭を剃ってといった身支度を整えていく。
私がそうこうしているうちにアルナー達は、フランシス達を外に連れていっての世話をしてくれて……隊商宿が職員達やカマロッツ達の声で賑やかになっていき、そうして程良く腹が減ってきた頃に、職員がやってきて「朝食の用意が出来ました」と声をかけてくれる。
それを受けて皆で食堂へと移動していくと……食堂に近づけば近づくほど、なんとも言えない良い匂いが漂ってくる。
香辛料と野菜を煮詰めたような匂いと、それと良い肉の匂い。
昨晩の料理とはまた違ったその匂いはなんとも腹が減るもので、腹をさすりながら食堂の中へと入っていくと……満面の笑みのネハが出迎えてくれる。
「皆様、おはようございます!
朝食は弱火でじっくり、時間をかけて蒸した野菜とお肉の詰め込み鍋ですよ!
じっくり蒸したおかげでホロホロで……起きたばかりで弱っているお腹でもするっと食べられちゃいますからね!」
そう言ってネハは私達を昨晩と同じ席に案内してくれて……席につくなり料理が運ばれてくる。
一人に一つ小さな鍋がそのまま運ばれてきて、分厚い布を敷いてその上に置いて……蓋を取ればその中には大きな肉と野菜がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
そこから漂ってくる匂いはとても良いもので、口の中でよだれが唸るもので……野菜も肉もネハの言葉通り、長時間煮込まれたものなのだろう、良い具合にスパイスの色が付き、ちょっと触れただけでも崩れてしまいそうにホロホロになっていることが見て取れる。
そんな料理を見ての私の感想はただただ美味しそうという、それだけのものだったのだが……隣の席のアルナーはどうやらまた別の感想を抱いたようで、少し申し訳無さそうな顔をしながらネハのことを見やる。
「……こんなに手間のかかった料理を朝から……本当に感謝します」
そしていつになく丁寧な態度でそうネハに声をかけて、それを受けたネハが柔らかな微笑みを返す。
そこで私はようやくネハがこの料理を作るために……時間をかけて作ったらしいこの料理のために、ほとんど寝ていないのだということに気付く。
一体いつからこの料理を作っていたのかは知らないが……アルナーがわざわざあんな言葉をかけるということはそれなりの時間なのだろう、私達が目を覚ますよりもずっと前に目を覚まし作り始めていたのだろう……まだまだ日が昇らない頃から、私達が熟睡している頃からずっと、私達のために。
その事に気づいた私がアルナーと同じ様な言葉を口にしようとすると、ネハは手をすっと差し伸べることでそれを遮って、そんなことよりも食事をどうぞと、仕草で勧めてくる。
確かにそこまでしてくれた料理に手を付けずに、冷ましてしまうというのは論外だろうと、そう考えた私は、軽く頷くことでネハに応えて……フォークを手に取り今にも崩れてしまいそうな肉の塊を口の中へと運ぶ。
温かく柔らかで、香辛料の香りが柔らかく漂っていて……そして味付けはとても落ち着いていて。
昨日の料理とは違ってほとんど調味料を使っていないようなのだが……野菜の味と肉の味がしっかり出ていて、たまらなく美味い。
「美味しいー!」
「おいしい!!」
そんな声がセナイ達の席から聞こえてきて、そちらへと視線をやった私は……そこでエリー達も含めた一人一人の鍋の中身が違うことに気付く。
野菜の種類も量も、肉の大きさも。
何もかもが違って……どうやらそれぞれの体格や好みに合わせての調整をしてくれているようだ。
昨晩の夕食の様子を見てのことなのか……まさかここまでしてくれるとは、と驚いていると、焼きたてのパンを職員達が持ってきてくれる。
そのパンもまた大きさが違い、焼き方が違い……セナイ達のパンにはカマロッツから聞いたのか彼女達の大好物のクルミまでが入っていて、その気遣いにただただ驚かされてしまう。
エイマの食事も好みの木の実が多くなっていて、フランシス達の食事も早朝に刈り取ってきたのか、青々としたものになっていて……。
「パンはそのままでも美味しいですし、お鍋のスープに漬けても美味しいですよ。
食事が終わったらお茶を用意しますので、飲んでゆっくり休憩して……お腹を落ち着かせてから出立してくださいませ。
その際には用意させていただいた服に着替えるのをお忘れにならないよう……馬車の手入れに関してはカマロッツ達がしっかりとしてくれているはずですので、ご安心くださいませ。
お馬さん達のお世話も勿論しっかりとやらせて頂いてますわ、何か不足のものがあれば言って頂ければ道中で手に入るように手配しますので遠慮なくどうぞ」
驚く私にネハがそんな声をかけてきて……そうして柔らかにまるで母のように微笑み、それからも私達の食事が問題なく進むようにと、あれこれと気を使ってくれる。
食後は勿論、出立の準備を整えている時もそうで……幌屋根を外して、代わりに壁と屋根を組み立て取り付けた馬車の使い方を説明している時もそうで、馬達を馬車に接続している時も、カマロッツ達が用意してくれた服を羽織る時も……。
そうやってあれこれと世話をしてくれて、気を使ってくれて、セナイとアイハンはすっかりとネハに懐き、馬車に乗り込む際には会った時のように、頬と頬をくっつけ合ってにっこりと微笑みあったりもして……姿は全く似ていないのだが、まるで母子のようだとそんなことを思ってしまう。
そうしてネハは、
「アタクシ達もすぐにお屋敷に向かいますので、またその時にお会いしましょうね」
と、そんなことを言いながら私達が隊商宿を出るその時まで、私達の世話をしてくれるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はいよいよ、ディアス達がエルダンの住まう街に到着……するはずです。
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