春
・登場キャラクター紹介
・ディアス
主人公、人間族。今回から35歳→36歳。
金髪青目の筋骨隆々、物語開始時は年相応に老いていて、年相応の体臭がしていたが、サンジーバニーを口にしてからはそれらが改善したとの噂、お肌も髪もツヤツヤに。
戦争生活から脱却したのもあって体格が更にがっしりとしてきた。
・アルナー
ヒロイン、鬼人族。今回から15歳→16歳。
褐色肌、銀髪、赤い瞳、額には青い角、サンジーバニーは口にしていないが馬油や薬湯などでお肌の手入れは欠かさない、洗濯や炊事が終わったら婦人会の皆や老婆達と一緒に手荒れのケアも行っている。
・フランシスとフランソワ
メーアの夫婦、ふわふわの体毛にしっかりとした蹄、くるりとした巻角にまるっとした尻尾。
イルク村の最初期メンバー。
元々は鬼人族の村に所属していて、ディアスの下に来る際にはそれなりの覚悟と緊張をしていたが、しっかり世話をしてくれるし、仲良くしてくれるし、子供も生まれて仲間も増えて、今では来て良かったと、夫婦共々毎日のようにしみじみ思っている。
春風が吹くと雪解けはあっという間で、ふと気がつけば真っ白な雪景色だったはずの草原から雪が消え去っていて……雪解け水で湿った茶色の枯れ草の中に、青々とした草の新芽が顔を出し始めた。
すると冬服からいつもの服に戻ったアルナーはそんな光景を見て一言。
「新しい年の始まりだ!」
と、そう言ってなんとも慌ただしく新年を祝う宴の準備をし始めた。
王国では星見の学者達が定めた暦に沿って一年を過ごしていたのだが、この草原では暦ではなく自然の……草原の光景の移り変わりによって暦……のようなものを定めているようで、冬に積もった雪が溶け新芽が出たなら新たな一年の始まり、新年となるようだ。
そんな新年と春の到来を誰よりも喜んだのは、メーアを始めとした草を食む者達だろう。
冬の間は干し草や草のチーズばかりを食べていた。
それはそれで美味しく、栄養もあって文句は無いそうなのだが……それでもやはり生えたばかりの柔らかくて瑞々しくて、新鮮な草の美味しさは別格で、地面に生えている草を噛みちぎり引きちぎりながら食べる食感は格別で……たまらないものがあるらしい。
生え始めたばかりの新芽を見るなり駆け出して、まだまだまばらにしか生えていない、ほんの僅かしかないそれに食いついて……ちょっとずつ噛みとり、口の中に溜め込み、春の日差しのもと、目を細め恍惚の表情を浮かべながらゆっくりと食み……その味を、食感をこれでもかと堪能する。
その表情はなんとも幸せそうで、あまりにも美味しそうに食べるものだから、そんなにも美味しいものなのかと私もついつい食べたくなってしまうが、去年口にした時のことを……それはもう酷い味だったことを思い出し、我に返る。
「……あくまで草の味を楽しめるのはメーアと、馬と、白ギー達だけってことか」
昼食を終えての昼過ぎ。
冬服ではなくいつもの格好でメーア達と一緒に草原に出て、メーア達が安心して食事が出来るようにと、周囲を警戒しながらそんな独り言を呟いていると……そこに馬や白ギーを連れた犬人族達がやってくる。
馬達もまた生えたばかりの新芽が食べたいのだろう、一生懸命に青々とした草を食んでいて……白ギー達は食べられればそれで良いのか、新芽も枯れ草も区別せずに、とにかくそこら辺にあるものを手当り次第にむしゃむしゃと食んでいる。
オスの白ギーと、メスの白ギーとが並んで、とても仲睦まじい様子で……メスの白ギーのお腹は大きく膨らんでいて、今にも生まれてきそうな様子だ。
冬の間に生まれるかと思った白ギーの赤ちゃんは未だにそうやってお腹の中に居て……いくらなんでも遅すぎないかと少し心配になってしまうが、白ギーの出産ではこういうことはよくあることなんだそうだ。
のんびりな性格をしている白ギーらしいというかなんというか……母親白ギーは重いはずのお腹のことを一切気にする様子もなく、呑気な顔で草を食んでいて……なんというか、ここまで来ると尊敬の気持ちすら湧いてきてしまうなぁ。
……そうだ、出産と言えば……。
「なぁ、ガチョウは全部で何羽になったんだ?
前からちょこちょことヒナが生まれていたよな?」
ふと思いついたことがあって私がそう尋ねると……犬人族はその手を頬に当て、首を傾げながら言葉を返してくる。
「えっと確か……ヒナを含めてなら20羽くらい、だと思います。
小屋をメーア布で覆って暖かくしてあげたのが良かったのか、寒くても皆元気で、どんどん卵を産んでて……最初の頃に生まれたヒナも結構大きくなってきて……もうヒナじゃなくなってるって感じですね」
「お、おお……もうそんなに増えたのか。
もう少し増えたら……肉として食べられるかもしれないなぁ」
と、私がそう言うと、犬人族はその目をぎらりと輝かせ……口の中でじゅるりと音を立てる。
「なら、お世話を頑張らないとですね!
元気にどんどん増えてもらわないとですね!!」
音を立てたかと思ったらそんなことを叫んで尻尾を振り回し始める犬人族。
もう少し数が増えて、ヒナ達が成鳥となって卵を産むようになったなら……一羽か二羽を肉にしてみるのも良いかもしれない。
白ギーの赤ちゃんが生まれたらそのミルクをいくらか分けて貰えるようになるだろうし、そうなったら色々な乳製品が作れるようになるのだろうし……食卓がより豪華になっていくことになるのだろうなぁ。
そう思うと私もガチョウの世話を手伝いたくなるというか、肉のために頑張りたくなるが……私は私で厠の新設やユルトの布替えや、畑の土起こしや溜池の手入れなど、やらなければならない仕事が山積みになっているので、そこら辺のことにまでは手を出す訳にはいかないだろう。
これからアルナーが進めている宴の準備の手伝いもしなければならないし、ナルバント達が作っている鎧の合わせなんかもしなければならないし……いやはや、まったく、忙しいったらないなぁ。
それでも最近のイルク村では役割分担が進み、それぞれの管轄がはっきりとしてきて……色々なことが私の手から離れたというか、私がいちいちあれこれと動かなくても問題無く前に進むようになってきた節がある。
たとえば商売や隣領とのやり取りや金の管理に関してはエリーに任せているし、荒野のことや王都に出す書類のことはエイマとヒューバートに任せているし、関所や本格的な作業が始まったらしい街道作りに関してもクラウスに任せている状態にあり……それらに私は全く関わっていないし、細かい部分に関して報告されたとしても正直な所、理解しきれないだろう。
メーア布のこともマヤ婆さん達に、家畜のことも犬人族達に任せていて……メーア毛の収穫量やメーア布の生産量、それとガチョウの卵の収穫量がどうなっているかなどの、身近な細かい部分なんかもほとんど把握していない状態にある。
それでも問題なくイルク村は動いていて、問題なく日々を送ることが出来ていて……一年が経ち、一歳になったというか一周年を迎えたイルク村もまた成長し、次の段階に進めたような実感があるなぁ。
とは言えまだまだ人手は足りず、忙しさは全く無くなっていなくて……村の完成には程遠い状態だ。
これからもっともっと村人が……領民が増えていって、皆で協力し合えるようになって、皆の生活が楽になってくれたらどんなに嬉しいか……。
それこそが私の、領主としての目標で……目指すべき理想郷なのだろう。
二年目もまた頑張ろうと……今まで以上に頑張ろうと心に決めて、心の奥底から湧き出てくるやる気に満ちていると……そんな私の様子を見てか、にっこりと微笑んだフランシスとフランソワが声をかけてくる。
「メァー、メァメァ、メァー」
「メァン、メァメァ、メーア」
すると私がその言葉を解読するよりも早く、先程から言葉をかわし合っていた犬人族が大きな声を張り上げる。
「あっ、そう言えばそうですね!
新しい年になったってことはつまり、村の皆も一つ歳をとったことになって……ディアス様とアルナー様の結婚まであと二年になったっていうことになるんですね!
いやー、楽しみだなー、ディアス様とアルナー様の結婚式!
クラウスさん達の時より豪華になるんでしょうねー!」
その声を受けて周囲の犬人族達やメーア達がなんとも楽しげに声を上げる中……私はそう言えばそうだったなと、なんとも懐かしく思える一年前の約束のことを改めて思い出し、ぴしりと硬直する。
今日までの日々はあっという間で、恐らく二年後もあっという間に来てしまう訳で……。
……そのことに関しても何処かのタイミングで……二年後が来てしまう前に、しっかりと考えておかないといけないのだなぁと、そんなことを考えた私は、フランシスとフランソワが露骨な態度でため息を吐き出す中、硬直し続けてしまうのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回は宴やら何やら、春にやることを忙しくやっていく感じになります。
そして新年のご挨拶をば。
あけましておめでとうございます。
皆様の応援のおかげでここまで連載を続けることが出来ました!
これからも皆さんに楽しんでいただけるよう、頑張っていきますので、引き続きの応援をしていただければと思います!
今年もどうか、領民0人スタートの辺境領主様をよろしくお願いいたします!!




