成長のきっかけ
・登場キャラ紹介
・アルナー
ヒロイン、鬼人族。ディアスの婚約者。ディアス以外は『婚約』のことを忘れつつある、ディアスもたまに忘れている。
・マヤ
人間族、女性。老婆達の長のような存在、90歳でイルク村で最年長……? 様々なことに詳しく、以前はディアスに色々な忠言、苦言を呈していた。
・婆さん達
人間族の老婆達、年齢は様々だがいずれも高齢。色々なものが食べられて、良い服と寝具をもらえて……いつもの冬よりは快適に過ごせている様子。
――――イルク村で アルナー
荒野へと向かうディアス達を見送り、婦人会の皆と家事を済ませ、ディアスがいないからと念の為にぐるりとイルク村の中を見回ったアルナーは……セナイとアイハンや子供達、メーア達や子メーア達に問題が無いことを確認してから、集会所へと足を向ける。
いくつかの地機織り機が壁沿いに、円を描くような横一列に並べられて、すっかりと手狭になってしまったそこにはマヤを始めとした老婆達の姿があり……老婆達がカタンカタンと小気味良い音を立てながら織り機を操る光景を見やったアルナーは、小さく微笑んでからマヤの側へと足を進めて……隣の織り機で精を出していた老婆と交代し、織り機を操り始める。
「ヒェッヒェ、今日も話を聞きにきたのかい? 熱心だね。
……それじゃぁ今日はどんな話をしようかね」
そんなアルナーに対し、そう声をかけたマヤは、織り機を操りながら視線を上げて……頭の中に思い浮かんだ言葉をぽつりぽつりと口にしていく。
「……大昔に滅んだという古代人の話が良いかね、それとも古代人が残した遺跡の話が良いかね、それとも神話……神々の話が良いかね。
何の才も持たない人の為にって凄い力を持った神具を作ってくれた神様の話が良いか、土の中で眠りながら力を蓄えている神様の話が良いか、今も聖地であたし達を見守ってくれている神様の話が良いか……それともやっぱり魔法の話が良いかね?」
マヤのその言葉に対しアルナーは迷うこと無く「魔法の話を」と返し……それを受けて頷いたマヤは、織り機を操る手を休めることなく慣れた様子ですらすらと、自らの知る魔法についてを語り始める。
ナルバント達の邂逅以降、アルナーはそうやってマヤに魔法に関しての知識を教わっていた。
鬼人族達が使う魔法とはまったく違う、マヤが知る魔法のことを……。
今後も魂鑑定魔法が通用しない相手が出てくるかもしれない、そればかりに頼っていては大きな失敗をおかしてしまうかもしれない。
ナルバント達に魔法が通用せず、ディアスに魔法がなくてもなんとかなると言われて、ヒューバートとの邂逅の際には魔法を使わずにその人品を確かめてみたが……本当にそれで良いのか、もっと他に手は無いのかという引っかかりがアルナーの中にあった。
その引っ掛かりは日に日に大きなものとなっていって……一人で悩み、悩みに悩んでから実家の父母に相談し、モールに相談し……そうしてイルク村の相談役であるベンに相談したアルナーは、そこでこんな言葉を投げかけられた。
『焦ってどうこうする前に、まずは色々なことを学んでみると良いのではないかな。
悩むきっかけとなったナルバントさん達に話を聞いてみるのも良い、占いを得意としているマヤさんに話を聞いてみるのも良い。
エリーもあれはあれで全くの無知って訳ではなさそうだから得るものがあるかもしれない。
そうやって広く視野を持ったなら意外な方向から解決策が見えてくるかもしれない、全く新しい魔法を思いつくことがあるかもしれない。
儂は残念ながら魔法に関する素養が無くて力にはなれないが……この村にはこんなにも多くの人が居て、その分だけの知恵が眠っているんだ、それを活かさない手は無いと思うがね?』
微笑みながら優しく響く声でそう言ってくれたベンにこくりと頷き返し……そうしてアルナーは、せっかく冬なのだからと、雪に覆われて仕事が減り、ユルトの中で過ごすことが増える冬なのだからと……すべきことをし終えた手空きの時間を学びの時間として過ごしていたのだった。
「―――王国の魔法は、モンスターとの戦いや他国との戦いを念頭に研究されていたものなんだけど……これが中々難しくてね。
戦いの役に立てる程魔法を極めた者はより深い研究がしたいと戦場に出たがらないし、出た所で戦いの訓練をしていないものだから、肝が座ってなくて結局役に立たない。
かといって研究と訓練を両立させようとすると、どちらも中途半端になっちゃってね、肝心要の魔法の威力がおざなりになっちゃうのさ。
逆に帝国は……早い段階で戦いと魔法を切り離して、魔法は生活や生産の役に立てるものと割り切って、戦いはその為に生涯を鍛錬に費やす軍人に任せることにしたようだね。
そういう訳で帝国では日々の生活の役に立つような魔法の研究が盛んで……鬼人族の魔法はどちらかというとこっちに近いのかもしれないね」
「……なるほど」
話が一段落したところで、そう相槌を打って……今耳にしたばかりの話を頭の中で整理したアルナーは……うん? と、首を傾げる。
「マヤの占いは魔法だという話だったが……今の話からするとマヤは帝国寄りの魔法を使うってことにならないか?」
首を傾げながらそう言ってくるアルナーに、マヤはヒェッヒェッヒェと笑いながら言葉を返す。
「そう見えるかい?
ただまぁ、あたしの占いは帝国寄りとも王国寄りとも少し違うかもしれないね。
あたしの魔法は魔力で直接何かを引き起こすんじゃぁなくて、魔力で聖地に眠る神様に問いかける魔法……これから起こる事柄について、どうなる可能性が高いですかって尋ねて、その答えを得るって魔法なんだよ。
あくまで可能性を問うだけだから正確とは言えないけども、似た内容の質問をいくつも問いかけることで、その確度を上げることができるんだよ。
たとえば明日の天気を知りたい場合は……明日は雪が降りますか? 明日は太陽を拝めますか? 明日の雲はどう動きますか? 明日の風はどう吹きますか? なんて感じでいくつかの質問をしてその答えを突き合わせて……後は自分の頭で考えて答えを出すって訳だね。
神様が間違うこともあるし、神様にも分からないことがあるから万能とは言えないけども、そこら辺に気をつけながら使ったなら結構頼りになるんだよ」
「……なるほどな!
その魔法を覚えたなら、魂鑑定魔法と合わせて使うことで相手の魂をより正確に見極められるかもしれないな!
今度、時間のある時に教えてもらうことはできるか?」
「教えるくらいはなんでもないけどね。
教えたからってそれで使えるようになるものでもないし、鬼人族の魔力の使い方は独特だからね……どんなに教わっても練習をしても使えないままかもしれないよ?」
「そうなったらなったで構わないさ。
色々なことを学んで視野を広げて……この目で見えるものが増えたならそれだけでも意味がある……そうだからな。
……そうなると私はマヤの弟子ということになる訳か! これからよろしく頼む!」
カタンコトンと織り機を動かしながら明るく笑い、そう言ってくるアルナーにマヤはうんうんと頷いて……静かに微笑む。
そうして二人で調子を合わせて、同時にカタンと音を立てコトンと音を立て、糸を布へと変えていく。
織り機の音が重なり、リズムに乗り……そのまま歌でも歌うかとマヤ達が考え始めた時、アルナーがすっと顔を上げて、声を上げる。
「……ふと思ったんだが、マヤはどうしてそんなに色々なことに詳しいんだ?
神話のことはもちろん、王国の魔法に帝国の魔法に、占いの魔法に……。
どれもこれもそう簡単に学べることじゃぁないだろう?」
その言葉に対し小さく笑ったマヤは、どこか遠くを見るような目をしながら言葉を返す。
「さて……もしかしたら昔どこかお偉いところで働いていたのかもしれないね。
そこで色々な研究をして占いをして……。
ただね、占いは所詮占いでしかないんだよ。予言ではないのだから外れてしまうし、気に入らない結果も出てしまう。
せっかく占ったのに受け入れてもらえないなんてこともあって……嫌気がさしてしまったのかもね。
世の中ディアス坊やみたいに、なんでもかんでも素直に受け入れる子ばかりじゃないってことだね。
……逆に坊やは全く、なんでもかんでも素直に受け止めるもんだから、迂闊に占うこともできやしないよ。
仮に占ってやったなら、占いのことを知ったならあの子は素直にそのまま、その通りに動いてしまうに違いない。
……そうなってしまったら問題だからね、ここで話したことは坊やには内緒だよ」
そう言ってにやついた笑みを浮かべるマヤに対しアルナーは「師の言うことならば」と頷いて、小さな笑みを浮かべて……そうして今日学んだことを頭の中で反芻しながら、織り機をカタンカタンと動かしていくのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回はまたディアス視点に戻る予定です。
そろそろメーア達の名付けが行われる予感?




