草原南の荒野へ
・登場キャラ紹介
・ディアス
主人公、領主、人間族。体力と力には自信あり、素早さはそこそこ、器用さと賢さは今ひとつ。
・ヒューバート
内政官、人間族。体力も力も素早さもからっきし、器用さはそこそこ、賢さは群を抜く。
・サーヒィ
狩人、鷹人族。(鷹人族の中では)体力も力も素早さも器用さも賢さもかなりのもの。
・犬人族達。
どの犬人族達も直感と反射神経はかなりのもの、基本的な身体能力はどれも普通の犬よりやや上くらい。
翌日。
南の荒野を私達の領地にするにはどうしたら良いか。
そう尋ねてヒューバートから返ってきた答えは「出来る限りのことをする」という、なんともふわっとしたものだった。
まずは荒野に本当に誰もいないのか、荒野を住処としているものがいないのかを調査する。
次に荒野がどんな地形となっているのか、どれだけの広さとなっているのか、岩塩以外に何があるのかを調べ上げて……荒野の地図を作り、それらの情報を記載する。
地図が出来上がったならそれを王様の下へと送り、王様に領地を獲得したとの報告をする。
そうしたなら私が言ったような看板を立てるなり、岩塩採取用の小屋を建てたりして、荒野を私達が領有しているということを、普段から利用しているということを出来る限りのことをして分かりやすく示しておく。
「いくら王国の法でここを我々の領地だと定めようとも他国からしたらそんなことは知ったことではありません。
そこが他国の領地であると承知した上で、欲のままに奪いに来るような連中もいるのがこの世の中なのです。
……が、そうだとしても大義名分というのは重要なものでして……それがあることで戦前、戦後交渉が有利に進んでくれたり、自国兵の士気に影響したり、あるいは敵国民の民心に影響したりするのです」
ナルバントが作ってくれたソリと車輪の切り替え可能な荷車に乗って、何人かの犬人族達に牽いてもらって……そうしてたどり着いた草原の南。
雪が薄まり枯れ草が顔を出し、ゴロゴロとした石や岩が転がる荒野の入り口で、荷車から降り……荷車の振動がきつかったのか震える足でどうにか立ったヒューバートが私に向けての説明を尚も続けてくる。
「日々の生活に利用している我らが領地に暴虐なる侵略者がやってきた。
他国の領地だった場所に自国の兵士達が無理筋な理屈をつけて侵入した、奪い取ろうとし……その結果戦争になるかもしれない、多くの人が死んでしまうかもしれない。
こういったことによる士気の増減、民心の乱れは侮れないものがあります。
侮れないものがあるからこそ、出来る限りのことをして、ここを無人の荒野ではなく、我々の領地であると内外に向けて主張しておく必要があるという訳です。
そうしておけば他国の野心を抑え込めるかもしれませんし……いざ何かがあってもこの荒野を失わずにすむかもしれません。
実際にそういった事態が起きた際には様々な交渉をしたり、軍を動かしたりする必要も出てくる訳で、そう単純な話でもないのですが……それでも手を尽くしてここが自分達の領地であると、強く主張出来るようにしておくということは、今後のためにとても重要なことなのです」
随分と長かった……早朝にイルク村を出てから、ここに到着するまで延々と続いた、そんな説明をどうにかこうにか飲み込んだ私が「なるほど」とそう言いながら頷くと、分厚い革のマントとフードに身を包んだヒューバートはなんとも満足気な笑顔で頷き、マントの下に背負っていた革鞄をそっと下ろし、その中から紙束や炭片と……それと以前ペイジンが譲ってくれた地図やら遠眼鏡やら色々な道具が入っていた箱を取り出す。
「……ご納得頂いたところでまずは、自分達が暴虐なる侵略者になってしまわない為に、この荒野が本当に無人なのか、その調査を進めていくとしましょう。
そうしながら大雑把な地図を作っていって……調査が終わり次第にその地図を見ながら本格的な地図作りを始めて……この荒野がどのくらいの広さなのかにもよりますが、草原に春がやって来るまでには大体の作業を終えられるはずです。
ああ、ご安心ください、それらの作業は自分が中心になって行いますので、毎回毎日ディアス様にご足労いただく必要はありません。
今回ご足労頂いたのは、領主として一度は足を運んで頂きたかったのと、今ほどしたような説明を、現地を目にしながら……その実感を確かなものとしながら聞いて頂きたかったからです」
そう言って説明を終えたヒューバートが私のことをじっと見つめてきて……私はもう一度「なるほど」と、そう言いながら頷く。
するとヒューバートは先程と全く同じ笑顔で頷いてくれて……そうしてから鞄から取り出した箱の蓋を開けて、その中にある様々な道具を……名前はもちろん、使い方も、どういう道具なのかも分からなかった品々をそっと撫で始める。
「それにしてもまさか倉庫の目録作りをしていたら、こんなにも精度の高い測量道具を見つけることになるとは思ってもいませんでしたよ。
方位磁石に遠眼鏡に、刻まれている文字は読めないものの正確な目盛りのついた象限儀にものさし……これだけあればかなりの精度の地図が書けることでしょう。
その上我々にはサーヒィ殿という空からの目もある……ふ、ふ、ふ、胸が踊りますね」
どうやらそれらの名前と使い方を知っているらしいヒューバートはそう言って……今から使うらしい遠眼鏡などを手に取り、口元をくいと上げてなんとも言えない笑顔を作り出していく。
「……おい、ディアス。
アイツの笑顔……なんだか物凄いことになってないか?」
それを見てなのか荷車のふちに足をかけ、羽繕いをしていたサーヒィがそんなことを言ってくる。
今回荒野の調査にやってきたのは、私とヒューバートとサーヒィ、それとマスティ氏族を中心とした犬人族達で……ヒューバートはその知識で、サーヒィはその目で、犬人族達はその鼻で、活躍してくれるに違いない。
そうなると正直、私の出る幕は無いと言うか、私に出来ることは一つも無さそうなのだが……ヒューバートの話によると一度は来る必要があったようだし、仕方ないと思って今日の所は皆の手伝いに徹するとしよう。
「……と言うかディアス。
お前ずっと……イルク村からずっと考え事をしてるっていうか、何か悩んでるみたいだけど、一体全体どうしたんだ?」
サーヒィが更にそんな声をかけてきて……色々と頭を悩ませていた私は、ため息を吐き出しながら言葉を返す。
「はぁー……。
いや、ほら、メーア達の名前が未だに決まってなくてな……ヒューバートの話を聞いている間もずっと考えていたんだが……どうにもさっぱりでなぁ」
「い、未だにそのことで悩んでいたのか?
ど、道理で言葉が少ないというか『なるほど』としか言わない訳だ。
……とりあえずそのことは後回しにして良いんじゃないか? 今は領主として色々考えることがあるだろう?」
「……そうか?
ヒューバートに任せておけばそれで良いというか、私の出る幕は無さそうに思えるんだが……。
そんなことよりも名付けの方が重要というか、疎かにする訳にはいかないというか……。
メーア達が村に馴染む為にも重要なことだしなぁ……出来るだけ早く名付けてやりたいのだがなぁ……うぅむ」
「た、確かに名付けも重要だけどよぉ……。
たとえばオレ達が調査をした結果、この荒野に住人がいました、誰かの住処でしたってなったら、どうするんだよ?
その時はやっぱディアスの出番っていうか、群れの長としての決断が必要になってくるんじゃないか?」
「うん? 決断も何もその時は隣人として仲良くしていこうって挨拶をするだけの話だろう?
岩塩に関してはメーア布か食料との交換で貰えば良いのだろうし……本当にこんな寂しい土地で暮らしている者がいるとしたら、食料や衣服は喜ばれるに違いない。
……この荒野で暮らしていけるような、私達の知らない知識とか技術とかを持っているかもしれないし……いっそ誰かが住んでくれていた方が私達にとってはありがたいのかもしれないなぁ」
ぼんやりと荒野を……石と岩と剥き出しの土だけの、なんとも寂しく寒々しい光景を眺めながら私がそう言うと、サーヒィは何故だかぽかんとした顔をし、クチバシを大きく開けて黙り込む。
それから少しの間があってからサーヒィは「ふはっ」と吹き出し、カチカチとクチバシを鳴らしながら笑い声を上げる。
「ふへっへっへっへっへ……な、なるほどな、それがお前の考え方って訳だ。
オレはまたなんだってこんな少人数で行くんだって不思議で仕方なかったんだが……そうか、アルナーもクラウスもそこら辺のこと理解した上でついて来なかったのか」
そう言って畳んだ翼をバサバサと揺らしながら私のことを変な目で見やってくるサーヒィに……私はなんと返して良いものやらと首を傾げる。
そのまま私が言葉を返せないでいると……何かの準備が終わったらしいヒューバートが、箱を荷車の荷台へと戻し……遠眼鏡と方位磁石とやらをしっかりと握りながら声をかけてくる。
「……では、まずは普段から岩塩を採取しているという、岩塩鉱床へと向かうことにしましょう。
その鉱床にどれくらいの岩塩があるのか、何年先まで採掘出来るのか……それによってこの荒野の重要度が変わりますからね」
その言葉に私が「分かった」と頷くと、同じく頷いたサーヒィは空から周囲の様子を確かめるために翼を広げて高く飛び上がってくれて……そうして私達は既に何度か岩塩を取りに言ったことがあるという犬人族達の案内に従い、岩塩鉱床へと向かうのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回岩塩鉱床についてのあれこれとなる予定です。




