帰還
・登場キャラ紹介
・ディアス
主人公、人間族、男。35歳。一時期加齢臭がひどかったが、サンジーバニーのおかげで改善したとの噂。婚約中。
・サーヒィ
狩人、鷹人族、男。?歳。鷹人族としてはそれなりの年だが、何らかの理由があってずっと独身。
・ヒューバート
内政官、人間族、男。30代。基本裏方のため目立たないが毎日一生懸命働いている。独身。
・マヤ婆さん達。
人間族、全部で12人で当然全員女性、全員高齢。チルチ、ターラ、セリア、アリダ、チーマまでが作中で明らかになっている名前、勿論ディアス達は全員の名前を知っています。独身?
・ゾルグ。
鬼人族の次期族長候補、鬼人族、男。18歳。最近真面目になりつつあったが、姪達にメロメロで緩みつつもある。独身。
・セナイとアイハン
森人族の双子、女性。?歳。元気にすくすく育ってます。まだまだ結婚とかは出来ないお年頃。
・アルナー
ヒロイン、鬼人族、女性。15歳。婚約中。
翌日。
よく晴れた冬空の下、新しくイルク村の仲間となったメーア達のユルトを村の北側に6軒……6家族分建て終えた私は、それぞれのユルトに住むことになるメーア達の名前を……広場のあちこちで日光浴をしている彼らの姿を眺めながらぼんやりと考えていた。
エゼルバルド達の時でさえ大変だったのだが、まさか18人同時の名付けをすることになるとは……と、頭を悩ませていると、フランシスとフランソワの六つ子達が、弾む足取りでなんとも楽しそうに広場を駆け回っていって……新たな仲間となったメーア達に鼻を押し付け、体を押し付け、挨拶をしていく。
「ミァーミァー!」
「ミァミァ!」
「ミアッ!!」
「ミァ~~ミァ~~」
「ミ~……」
「ミ~ァ~」
今回野生のメーア達が仲間になったことを誰よりも喜んだのがこの六つ子達だった。
純粋に仲間が増えたということも嬉しいのだろうし、父親が長の群れが大きくなったということも嬉しいのだろうし、構ってくれるというか遊んでくれる相手が増えたことも嬉しいのだろう……以前は外の寒さを嫌がってユルトの中に籠もってばかりだったというのに、寒さなどまるで感じないとばかりに元気に駆け回り続けている。
そして元野生のメーア達もなんとも嬉しそうに六つ子達のじゃれつきを受け止めてくれて……鼻と鼻をくっつけあったり、毛繕いをしてくれたりと、様々な方法で六つ子達と触れ合ってくれる。
そんな微笑ましい光景を尚もぼんやりとしながら眺めていると……イルク村の上空を、優雅に飛んでいたサーヒィがゆっくりと高度を下げてきて、広場に立てられたままになっている止り木杖へとばさりと降り立つ。
「周囲にこれといった変化や異常は無し、空気も良い感じだし……当分は晴れの日が続くだろうな。
……で、名前の方は決まったのか?」
降り立ち翼を畳み込んだサーヒィにそう言われて、私は頭を左右に振ってから言葉を返す。
「それが中々上手くいかなくてな。
全員を同じメーアだからとひと括りにして名付けてしまえば簡単なのだろうが……それぞれ家族が違うからなぁ。
家族の繋がりを感じられるように、分かりやすくする為に、家族ごとにそれぞれの名付けを行うべきだと思うのだが……ここまで数が多いとそれも簡単ではなくてなぁ」
「元々名前がなくても暮らしていけてた連中なんだから、そこまで悩まなくても良いと思うが……。
まぁ、うん、そのうち子供も出来るんだろうし、そこら辺を見越した上での名付けをしておけば今後が楽になるんじゃないか?」
「うーむ……改めて本人達に希望を聞いてみて、後は村の皆の意見も聞くとしようかな。
誰かが良い案を持ってるかもしれない」
「誰か、ね。
それなら領民が増えて嬉しそうにしてる連中に聞いてみたらどうだ? きっとご機嫌で良い案を考えてくれるだろうよ。
空から見ていたが……あの細っこい奴、ヒューバートだっけ?
アイツはやることが尽きないのが楽しいって感じで休むことなく村中を駆け回っていたし、婆ちゃん達もメーアの毛を両手で抱えて忙しそうにしながら仕事が増えて楽しいって、そんなことを言い合ってたぜ?
普通は暇な方が良いって、忙しくなったことを嫌がるもんだろうに……この村の連中はそこら辺がかなーり変わってるよな。
怠け者がいないっていうか、怠けることなんてそもそも頭に無いっていうか……うん、オレの目に入り込んだ怠け者は、あそこにいるアイツだけだったな」
と、そう言ってサーヒィはその翼でゾルグを……昨日一旦鬼人族の村に帰り、今朝になってまた遊びにきたゾルグを指し示す。
ゾルグは広場の隅でセナイとアイハンを前にして……狩りのなんたるかを、鷹狩りのなんたるかを楽しそうに語っていて……セナイ達もまた楽しそうにその話に聞き入っている。
「ま、まぁ、セナイ達に色々なことを教えてくれているって意味では、怠けているとは言い切れない……と、思うぞ」
その様子を見ながら歯切れ悪く私がそう言うとサーヒィは、その頭を左右に振りながら言葉を返してくる。
「いやいや、アレは駄目だろ。
セナイ達と話すのが楽しくて仕方ないっていうか、オレはこんなことを知ってるんだぜっていう知識自慢をしたいだけっていうか……少なくともアレは働き者が見せる光景では無いと思うぞ?
そもそもアイツの仕事場は向こうの村な訳で……それなりの責任者でもあるんだろ?
……そんな奴がここで何をしてるんだよって話だよ。
オレ、狩りに行く前にアルナーから、アイツは女絡みでやらかしたことがあるような奴だから気をつけろって、そんな話をされたんだけどさ……なんか、今まさにその再現があそこで起きようとしてるんじゃないかって、不安になってるよ」
そう言って細めた目でゾルグを見やるサーヒィ。
その言葉を受けてゾルグのことをじぃっと見つめた私は……その場へとズンズンと大股で近付いていくアルナーの姿を見て、声を上げる。
「……いや、まぁ、大丈夫だろう。
イルク村にはアルナーがいるし、鬼人族の村には族長のモールがいる。
いくらゾルグが怠け心に負けてそうしたいと思ってしまったとしても……本気で叱って止めてくれる人が側にいればそうはならないはずだ」
私がそう言った瞬間、アルナーの怒声が……本気で怒っているのではなく、ゾルグの為を想って張り上げているらしい大きな声が周囲一帯に響き渡って、なんとも楽しそうに語り続けていたゾルグの表情が一瞬で恐怖のそれへと変貌し、その身を震え上がらせる。
こんな所で何をやっている。
鬼人族の村にいなくていいのか。
重要な仕事を任されたんだろう。
その期待に応えなくてどうするんだ。
両手を腰にやって、大きく肩を怒らせて……真っ直ぐにゾルグのことを見つめながらアルナーがそんな感じの言葉を投げつけると、それを受け止めたゾルグは、セナイとアイハンに一声かけて……そうしてから大慌てで駆け出し、鬼人族の村の方へと逃げるように走り去っていく。
するとセナイとアイハンが、何処か申し訳無さそうな顔をしてアルナーに謝ろうとする……が、すぐにアルナーは二人に叱った訳じゃないと、二人が悪い訳じゃないとそう言って……最近少し背が伸びて大きくなった二人の頭をそっと撫でてやり、二人の手を取って竈場の方へと歩いていく。
「……な? 大丈夫だったろう?」
その光景を見やりながら私がそう言うと、サーヒィは「まいったまいった」とそう言って、翼の手入れをし始める。
そのクチバシで丁寧に翼を整えていって……何度かバサリバサリと翼を振るって形を整えて……そうしてから羽ばたき再度空へと飛び上がったサーヒィは……そう時間が経たない内にバサリと羽音を上げて止り木杖へと舞い戻ってくる。
「おい、ディアス。
なんか変な連中が東の方からやってくるぞ。
犬人族と荷車と……なんかこう、変な格好をしたオッサンが率いる感じで!
……あれは知り合いか? それとも余所者か? 余所者なら皆に知らせた方が良いか?」
止り木杖に戻ってくるなりサーヒィがそんなことを言ってきて……少しの間考え込んだ私は、その一団が何者であるかに思い当たって「ああ!」と声を上げて手を打つ。
「サーヒィ、その一団に関してはイルク村の仲間だろうから、皆に知らせたりはしなくて良いぞ。
……それと……その、なんだ、サーヒィが変な格好をしていると思った……思ってしまった子は、おっさんとかそういう言葉を投げかけると本気で、全力で激怒するだろうから、決して言わないように気をつけてくれ」
私が真剣な表情で真剣な声でそう言うと、サーヒィはその深刻さが伝わったのか、何も言わずにごくりと喉を鳴らし……真顔でこくりと頷いてくれる。
そうして私がサーヒィに、エリー達のことを……隣領に商売にいっていた面々のことを詳しく話していると……東の方から「わぅーん!」と犬人族達の遠吠えが響いてくる。
イルク村を見たことで気持ちが抑えられなくなってしまったのか、早く我が家に帰りたいとの気持ちが溢れてしまったのか……あるいは帰還を報せる合図なのか。
その遠吠えは一団がイルク村に到着するまで、何度も何度も途絶えることなく繰り返されるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回はこの続き、エリー達が持ち帰った品々関連となります。