再来の……
・登場キャラ紹介
・セナイとアイハン
ディアスとアルナーの育て子、森人族(秘密)、お肉の解体などは普段から手伝ってます。
・ゾルグ
アルナーの兄、鬼人族。最近は真面目なんですよ、最近は。
・サーヒィ
鷹人族、綺麗で格好良い翼の模様……俗に言う鷹斑が自慢。
・エイマ
大耳飛び鼠人族、セナイとアイハンの教育係と保護者的な役目を普段から担ってる。
・犬人族達
狩りに参加できなくてちょっとだけ残念な気持ち。
決着は一瞬でついた。
狐へと襲いかかったサーヒィの鉤爪がその首と胴体をぐわりと鷲掴みにし……苦しませることなく痛みが伝わる間もなくその首を折り砕く。
悲鳴もなく抵抗もなく、狐はすっと力を失い……そのまま雪の中へと倒れ伏す。
そうして狐を見事に狩ったサーヒィは、狐の側に立ち翼を器用に腕のように折り、胸に当てて……その生命と最後まで立ち向かわんとした勇猛さに敬意を評する。
するとそこにゾルグとセナイ達と犬人族達が駆け寄ってきて……彼ら彼女らもそれぞれの方法で手を組んだり、サーヒィのように胸に手を当てたりして祈りを捧げて……そうやってからすぐ様に、革袋とナイフを取り出し、ゾルグが中心となってセナイとアイハンも手伝いながらの解体が始まる。
そんな中サーヒィはセナイとアイハンが雪に突き立てた杖の上へと移動しながら……解体を手伝うセナイとアイハンのことを見やりながらぼつりと呟く。
「……まぁ、一緒に狩りに来てる時点で今更ではあるんだが、解体だとかを嫌がったりはしないんだな……」
それはあくまで独り言、誰に向けた言葉でもなかったのだが、その長い耳をピクピクと動かしその言葉を聞き取ったセナイ達は、サーヒィのことを見上げて言葉を返す。
「嫌じゃないよ、大事なことだから! 命は巡ってるから!」
「だいじに、むだなく、けいいと、かんしゃを!」
セナイとアイハンのその言葉に、サーヒィがなんとも言えない表情をしていると、ナイフを器用に動かし、狐の血抜きをし始めたゾルグが声を上げる。
「アルナーからしっかり教わり身につけているようだな……よしよし、良い子達だ。
……この狐は雪の中の鼠を狩って自らの血肉としていた、そして俺達もまたこの狐を狩って自らの血肉としていく。
俺達も命を失えば大地に還ることになり、そこから草が生えて、生えた草をメーアやギー達が食んで……そうやって命は巡っていて、巡っているからこそ無駄な命なんてのは一つもないんだ。
全ての命に意味があり、全ての命は大事なもので、そこに優劣は無い……無いからこそ敬意と感謝を忘れてはいけない。
そして俺達も、いつかこの狐のように狩られる時が来るかもしれない……奪われる時が来るかもしれない。
……だからこそ強くなければならない、戦う力を持たなければならない……生きるっていうのはそういうことなんだ」
これまでに何度も口にしてきたのだろう、まるで呪文をそうするかのように流れるようにその言葉は読み上げられていって……セナイもアイハンもエイマも周囲の犬人族達も、神妙な態度でその言葉に聞き入る。
そしてサーヒィもまた、その言葉に思う所があったのかこくりこくりと頷いて聞き入り……そうしている間にもゾルグの手は動いていて解体が順調に進んでいく。
毛皮と肉は別の革袋へとしまい、食用に向かない内臓は土の中へ、食用に向くのはまた別の革袋へ。
そうやって解体が終わったなら、手の汚れを雪で落とし、革水筒にいれておいた薬湯で洗い……そうしてからゾルグがハッと何かを思い出したような表情をし、サーヒィへと声をかける。
「そう言えばサーヒィへの狩りの謝礼を忘れてたな。
……解体したばかりの生肉を食うか? それとも内臓が良いか? 鷹ってのは肉だけじゃなくて内臓も食べておかないといけないものなんだろう?」
そんなゾルグに半目での視線を返したサーヒィは、ため息まじりの言葉を返す。
「いや、何度も言うけどオレは鷹じゃねぇからな?
オレは鷹人族で……生肉や生の内臓もいけないことはないが、普通に調理した肉だって食べられるからな?
昨日の晩だって出されたスープを普通に楽しんでたし……野菜や木の実だって気が向けば食うし、頼むから鷹扱いをやめてくれよ」
そう言ってサーヒィがやれやれと首を左右に振っていると……狩りをしてもらったらお礼が必要なんだ! と、力強く頷いたセナイとアイハンが……懐からおやつにしようと思ってもってきた乾燥クルミを取り出し『はい!』と異口同音に声を上げて、サーヒィの方へと差し出してくる。
「……ああ……うん。
クルミは好きだからありがたいが……なんだか餌付けみたいだし、必要ないからな?
村の一員として寝床と飯を用意してくれるならそれで良いからな?」
と、サーヒィがそんな言葉を返すが、それでもセナイとアイハンはクルミをぐいと差し出してきて……サーヒィは仕方なく、二人の手の平の上のクルミを咥えて、かりこりとクチバシで器用に噛み砕き、ごくりと飲み下す。
その様子を見て満面の笑みとなったセナイとアイハンに、サーヒィがなんとも言えない微妙な表情を返していると……突然周囲一帯を力強くて大きい、今までに誰も感じたことのない気配が包み込み……まずは犬人族達が、次にサーヒィとエイマが、そしてゾルグがその気配に反応し、臨戦態勢を取る。
「誰ですか……!?」
ゾルグとセナイとアイハンが弓矢を構え、犬人族がセナイとアイハン達のことをぎゅむっと身を寄せて囲い、サーヒィが大きく翼を広げて周囲を見渡す中……セナイの帽子をぎゅっと掴んだエイマが声を上げる。
だがそれに反応を示す者はおらず、雪だけが広がる周囲一帯にそれらしい姿は見当たらず……警戒を続けながらも一同は困惑する。
確かな、圧倒的な気配がそこにあるのに姿は見えない。何かが迫ってきているのにその姿を捉えることが出来ない。
一体何がどうなっているのか、何が起きているのか……と、一同が固唾を呑んでいると……ぼふりと、雪の下から何者かが姿を見せて、一同に向けて声をかけてくる。
「待って待って、敵じゃないから害意は無いから。
攻撃されても効きはしないんだけど、痛いものは痛いからやめて頂戴な」
それはメーアのような姿をしていた。
白い毛に包まれ、くるりと曲がった角があり、四肢に蹄があり……。
だが纏っている気配がメーアのそれではなく、何より言葉を話してしまっていることがメーアでは無い何よりの証拠となっていて……一同は尚も警戒を続ける。
「あ、アナタは一体何ですか!?
メーア……なのですか!? メーアなのだとしたらその気配は……いえ、何故言葉を話せるのですか!?」
一同を代表する形でエイマがそう声を上げると……そのメーアのような何かはにっこりと微笑みながら言葉を返してくる。
「そうかそうか、君達は私の気配を感じ取れるのね。
うんうん、なるほどなるほど。
……あの男……ディアスって名前だったかな? アイツはまったく、私の気配を感じ取れもしないのに、私が近付こうとする度に野生の勘のような何かで気付いてくれちゃって、今度は捕まえてやると、今度は逃さないとあの目をギラつかせてくるのよ。
……おかげで近付こうにも近づけなくて……それで仕方なくこっちに、君達のとこに顔を出したってわけよ。
以前下賜したサンジーバニーも正しく使っているようだし、ドラゴンを……特に厄介なあのフレイムドラゴンを倒してくれたようだし……今回もまた、正しく生きるアナタ達に我が主の命により褒美を下賜してあげます。
これからも我が主を害さんとするドラゴンを退治し、我が子らを保護するよう務めなさい。
……と、いう訳でこの袋はそこの女の子達……アナタ達の方でディアスに渡しておいて頂戴な」
そう言ってメーアのような何かは、自らの口を自らのふわふわとした毛の中に突っ込み、その毛の中から麻袋を取り出し……その麻袋をくいっとセナイ達の足元へと投げてくる。
雪の中にぼふりと落ちるその麻袋へと一同の意識が向いたその時……突然の目眩が一同を襲い……そしてその目眩から立ち直ると、いつの間にやらメーアのような何かは姿を消していて、一帯を包み込んでいた巨大な気配も綺麗さっぱりと消え失せてしまっている。
今のメーアのような何かは、尋常ではない気配を持つアレは一体何者だったのだろうか。
そんな疑問を抱きながらも一同は、再びその麻袋へと視線をやって……そうして指名を受けたセナイとアイハンが慎重に、恐る恐るといった様子でその麻袋へとその手を伸ばすのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回からはまたディアスに視点が戻り……謎の袋についてのお話となります。
そしてお知らせです。
本日コミックアース・スターさんにてコミカライズ最新18話が公開されました!
色々と盛り上がる、オリジナルシーンも多めの一話となっておりますので、ぜひぜひチェックしてみてくださいな!