サーヒィと共に
・登場キャラ紹介
・セナイとアイハン
森人族(秘密)の双子、ディアスとアルナーの育て子。イルク村の皆のことは大好きで、鬼人族の村の皆のことも大好き。
・ゾルグ
鬼人族、アルナーの兄。サーヒィに対し熱視線を送り続けている模様。セナイとアイハンのことは姪っ子として大好き。
・エイマ
大耳跳び鼠人族の女性、手乗りサイズ。今回は出番少なめ、次回はそれなりの予定。セナイとアイハンのことが大好き。
・サーヒィ
鷹人族の男性。大柄の鷹といったような見た目で、同族からはさっぱりとモテなかった模様。同族の女性皆が大好きだった。
――――さらっとした雪を踏みしめながら セナイとアイハン
「鷹狩りといったらやはり狐だろうな。
肉としてはいまいちだが毛皮がペイジン達に高く売れるからな、春までに鞣して洗って綺麗にしておけば良い金になるはずだ」
鷹人族のサーヒィが領民となってから数日が経ち、雲ひとつ無い青空の下という絶好の狩り日和となって……セナイとアイハンは早速とばかりにサーヒィを連れての鷹狩りへと出かけていた。
「サーヒィ程の体躯があるなら狼もいけるだろう、狼も肉としてはいまいちだが毛皮が高く売れるから、悪くない獲物だ。
美味い肉が欲しいならウサギか鳥か、後はサーヒィや犬人族に手伝ってもらいながら弓矢でもって鹿を狩るという手もあるな」
と、そんな風に先程から熱心に鷹狩りについて教えてくれているのは、鷹狩りするなら今日のような日和が良いと、そんな声を上げながらイルク村へと駆け飛んできた、セナイ達にとっての義伯父であるゾルグだった。
ゾルグにとってセナイとアイハンは、愛しい妹の育て子……養子であり、血の繋がりをあまり重要視しない鬼人族の気風もあって、彼にとっては我が子にも等しい程に大切な、なんとも愛おしい存在となっていた。
セナイとアイハンにとってそんなゾルグは、良き義伯父であり、良き狩りの師でもあり……なんとも楽しげな笑顔を向けながらうんうんと素直に頷き、その言葉に聞き入る。
セナイ達はアルナーがゾルグに対し、厳しい態度で接している様子を目にしていたのだが……同時にアルナーがゾルグの為に弓矢を作ったり、料理を作ったり、疲れを癒やす薬湯を作ったりしている様子も目にしており……そんな様子からアルナーがゾルグのことをそこまで悪く思っていないことを、なんとなしに理解していた。
子供心ながらに二人の間に何かの壁があるのだろうと察しつつも、それが致命的な縁を切ってしまうような壁ではないとも察していて……その笑顔には一切の警戒心がなく、そんな笑顔を向けられてしまったゾルグは、ますます張り切って鼻息を荒くして、鷹狩りについてを上機嫌で語っていく。
そんなセナイ達の周囲には護衛をするためにと何人かの犬人族の姿があり……またセナイの帽子の上には冬服を身に纏ったエイマの姿もある。
そしてセナイとアイハンの手には大きな止り木のような形の一本の杖が握られていて……その杖の先端には、今回の狩りの主役であるサーヒィの姿があった。
出来るだけ高い位置から見渡した方が獲物を探せるからと、サーヒィの希望で用意されたその杖の上でサーヒィは……真っ白な雪で覆われた周囲一帯をその目でぎょろりと睨みつけながら、同時に一団の先頭を進むゾルグのことをこれでもかと警戒していた。
しつこいまでに一緒に狩りをしようと声をかけてきたゾルグ。
フレイムドラゴンの解体も終わり、もうイルク村に用事も無いはずなのに……手に入った素材の分配やら何やらで忙しいはずなのに、未だにイルク村に留まり続けている警戒すべき男。
自分を説得することはどうにか諦めてくれたようだが……同族が住まう里を、鷹人族達の巣をどうにか探ろうとしている節があり……そんなこと言えるはずがないだろうと、何をされても絶対に喋られないぞと、そんな態度をサーヒィは取り続けていた。
ゾルグはゾルグでアルナーやセナイとアイハンに嫌われたくないと、ある程度の自重はしていたのだが……それでもやはりサーヒィのような鷹がいれば、ぐんと男気を上げられると、冬の稼ぎが段違いになるとの思いがあり……そうしてゾルグとサーヒィの間には独特の……なんとも言えない緊張した空気が流れていた。
ゾルグはセナイ達に語りかけながら時折チラチラとサーヒィに視線をやっていて……サーヒィもそんなゾルグに視線を向けて露骨なまでの警戒感を示していて……。
そんな風に時が流れて、ゾルグの鷹狩りに関する話が落ち着いた頃……サーヒィの鋭く、遠くまで見通せる目が、真っ白なはずの雪原に起きているちょっとした変化をしっかりと捕らえる、
その変化をじぃっと睨み……それが獲物の痕跡であるとの確信を得たサーヒィは、ばふばふと雪の中を進み歩くセナイ達に声をかける。
「……そこで一旦止まれ。獲物の痕跡を見つけたぞ。
ってことでオレからも鷹狩りの際に気をつけるべきことを話してやろう。
鷹狩りをするならゾルグが言っていた通り今日みたいな晴天の日にすべきだ、空気が暖かいと軽々と飛べるし、雪の表面が少しだけ溶けて、アレが残りやすくなるんだ。
出掛けにディアスが真っ白な雪の中の狩りは大変だとかなんとか言ってたが……実は逆なんだよな。
何故逆なのかは……アレを見れば分かるだろう」
そう言ってサーヒィはその翼で前方の雪原のある箇所を指し示す。
それを受けてセナイ達は足を止めて指し示された方をじっと見つめて……犬人族とエイマが、何のことやらと首を傾げる中、セナイとアイハンが「アレか!」と何かを見つけてそれをじぃっと見やる。
「やっぱり普段から弓矢で狩りをしてるやつは目が良いんだなぁ。
ゾルグは最初から見つけていたようだし、セナイとアイハンもすぐに見つけたし……。
未だに見えてないらしいエイマ達に説明してやるとだな、向こうに獣の足跡が見えるんだよ。
あの感じだと……恐らくは狐だな。後はアレを追っていけば獲物と出会えるって訳だ。
……ディアスは……なんていうか大雑把な性格っぽいから、ああいった足跡に気づけてなかったんだろうな」
更にそう言ってからサーヒィは畳んでいた翼を広げて、振り回すようにして動かし、いつでも飛べるようにと狩りの準備をしていく。
それからセナイ達にゆっくりと慎重に足跡を追うように指示を出し……その目でもってセナイ達の行く先を、足跡の先を見つめ続ける。
「……獲物を見つけたら高台に上がってくれると狩りが上手くいきやすいんだが……ま、ここらは高台も何もない平らな大地だからな、そこはオレの方で上手くやるさ。
セナイとアイハンはただこの杖をしっかりと構えて、後はオレの邪魔にならないように静かにしてくれたら良い。
犬人族達も吠えたり騒いだりしないでくれよ……静かにあっという間に、奇襲でもって片を付けるのがオレ達の狩りだからな。
……さて、そろそろ獲物が見えてくるはずだ」
そう言ってサーヒィはクチバシを閉じて、その瞳を鋭く光らせ、いつでも飛び立てるようにと体勢を調える。
そうしていると雪を懸命に掘り返す大柄な狐の姿が見えてきて……先頭を歩いていたゾルグの指示で一同が足を止めて、その身を屈める。
(遠いねー)
(とおい、やもいっても、あてられない)
確かに某かの獣がそこにいる姿は見えてはいるのだが、目の良いセナイとアイハン、ゾルグにしか見えないようなはるか遠方で……。
その姿もはっきりと狐であるとは断定出来ない程に小さく朧げで……セナイとアイハンが小声でそう呟くと、杖の上で自信ありげにサーヒィが「フフン」と笑い声を上げる。
(なぁに、見えてさえいれば鷹人に狩れない相手はいないさ。
お前達はそこで杖を掲げて、静かにしていればそれで良い)
そう言ってサーヒィはその翼を広げて、ばさりと大きく羽ばたかせる。
その力によってふわりと浮き上がり、浮き上がったならまたばさりばさりと翼を振って……ある程度の高さまで舞い飛んだなら、翼を大きく広げて……羽ばたかずに滑空し、静かに素早く獲物の下へと向かって一直線に飛んでいく。
(……気付かれた!?)
(にげちゃう!?)
サーヒィがある程度まで近付いたところで、雪を掘り返していた狐はサーヒィの存在に気付き、その毛を逆立たせ尻尾を立ち上げ、こちらまで届くような威嚇の声を上げる。
だがサーヒィは怯むことなく、揺るぐこと無く一直線に狐の方へと向かっていって……そうして戦闘態勢を取る狐へと襲いかかるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回はこの続き、狩りのその後やら何やらとなる予定です。