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領民0人スタートの辺境領主様  作者: ふーろう/風楼
第六章 春を待ちながら

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侵入者

・登場キャラ紹介


・アルナー

 ヒロイン、鬼人族。去年の冬は雪の中、馬無しに狩りをしていた。

 今回はアルナー視点。


・犬人族達

 ディアス不在、クラウスが多忙の為、居残り組であるシェップ氏族、センジー氏族が中心。


・謎の侵入者

 以前(145話)ちらっと登場した。



 ――――雪原で アルナー


 

 冬服を身にまとい弓を手に取り、愛馬のカーベランに跨り、10人程の犬人族を従えて、何者かがやってきたという東へと向かう。


「やはり馬がいてくれると楽で良いな。

 雪に足を取られることもないし……寒さに震えることもない」


 馬上で白い息を吐きながらアルナーがそう呟くと、カーベランがピクリと耳を震わせて、嬉しそうに細めた視線をアルナーの方へと向ける。


 それを受けてアルナーはカーベランの首筋を撫でてやって……カーベランは張り切って脚を振り上げ、ずんずんと雪の中を突き進んでいく。


 するとカーベランの体が熱をもっていって、その熱がアルナーを温めてくれて……アルナーはほっと息を吐き出す。


 そんな風に白一色の景色の中を進んでいると、


「アルナー様! もう少しで見えてくるはずです!」


 と、雪を踏み越え、飛び越え進む犬人族の一人が声を上げる。


 すぐさまアルナーは目を細めて……空を舞い飛ぶ鳥に正確に狙いをつける目でもって正面の一帯を見つめるが……まだ何者の姿も見えてこない。

 だがそれでも犬人族達はその位置を正確に把握しているようで、ずんずんとそちらの方へと突き進んでいく。


 ……大地がこんな風に雪に覆われてしまうと生命感知魔法が上手く働かないことがある。


 そうなると侵入者やモンスターの来襲に気付けないことがある訳だが……今は冬、人もモンスターも巣に籠もり、わざわざこんなところまでやって来るなんてことはそうそうあることではなく、これまでは生命感知魔法が上手く働かなくとも特に問題はなかった……のだが、ディアスがやってきたことにより、そういった事情は変化を迎えつつあるようだ。


 これからは魔法に頼ることなく、今までとは違うやり方でこの広い領地を守っていく必要があるようで……そういった意味では犬人族達の存在は本当に頼りになる存在だと言えるだろう。


 大地が雪に覆われてもその鼻の力は健在で、雪の中だろうが奥底だろうが、何かがそこに居るならば正確にその位置を嗅ぎ取ることが出来て……雪の中に身を隠しながらの追跡をすることも出来る。


 その上、雪上の戦闘も苦にしないようで、訓練を兼ねての模擬戦で雪に足を取られてしまったクラウスを圧倒したこともあり……雪上で犬人族の集団に優位に戦えるのはアルナーの知る限り、ディアスくらいのものだろう。


 ……と、そんなことを考えていると、アルナーの周囲を囲うように雪中を進んでいた犬人族達が、ささっと前へと進み出て、雪の中に伏せて……尻尾をゆらりと垂らす。


 そうして犬人族達は雪の中に伏せたままの、いつでも奇襲出来るという状態で、雪をかき分けるようにして進んでいって……雪にうつ伏せで倒れている何者かの周囲を囲うようにして構えて……アルナーの方をちらりと見て指示を待つ。

 

「……死んだか」


 ぽつりとそう言ったアルナーは、カーベランの背から降り、念の為にと持ってきた短刀に手をやりながら、慎重にその何者かの方へと近づいていく。


「あ、一応生きてるみたいですよ、弱々しいですが呼吸してます」


 アルナーを守ろうと側についた犬人族の一人がそう報告してきて……何者かの姿をじっと見つめたアルナーは、魂鑑定魔法を使おうとして……使わずに踏みとどまる。


(ナルバント達のように何らかの対策をしているかもしれない……。

 それに今のこの状況……仮にこれが敵なのだとしても、何かを企んでいたとしてもこの状況なら制圧は容易だ。

 ならば一度くらいは魔法に頼らずに、相手の思惑を見極められるのかどうか……試してみるべきか?)


 ナルバント達と邂逅した際の一騒動のことを思い出し、そんなことを考えたアルナーは……短刀を抜き放ち、犬人族達へと目配せをしてから……うつ伏せになっている何者かの肩をぐいと掴み、ひっくり返す。


(なんだ? 随分軽いな? そして男か……。

 痩せ細って手も脚も貧弱……まだまだ働き盛りの年だろうに、情けない)


「……おい、起きろ、お前は誰なんだ」


 内心で呟き、そう声を出し、げしりと外套に包まれた男の肩を蹴りつけるアルナー。


 それから何度かの蹴りを受けて男は……いつでもその手足を噛めるようにと犬人族達がすぐ側で構える中、目を覚まし、口を開く。


「……ぐお……ど、どなたか知りませんが……火、火を……水を……」


 凍えている、渇いている、助けて欲しい。

 声を振り絞ってそう訴えかけてくる男にアルナーはため息を吐き出してから……カーベランを呼び、侵入者が遭難者だった時の為にとその背にかけておいた毛皮と薬湯入りの革袋を手に取り……犬人族達に手渡す。


 すると犬人族達は即座に、クラウスに習った『いざという時の対処法』に従って行動を取り始める。


 まずは雪の上に毛皮を敷き、男の体をその上へと移動し、毛皮で包み込んで……何人かが毛皮の中に潜り込み、その体温で男を温めてやる。


 そうしながら革袋を口に当て、中身を飲め飲めと声をかけて……飲めないならば仕方ない、クラウスに習った通り口移しでいくかと、そんなことを言い始めて……その言葉を認識したらしい男が慌てて、残り少ない力を振り絞って薬湯を飲み始める。


 そうやって体を温められて、薬湯を口にしたことによりいくらかの活力を取り戻した男は……改めて意識を覚醒させ、そうして声を上げる。


「ど、どなたかは知りませんが助けて頂き本当にありが……い、犬!?

 い、いやさっき喋っていたからまさか……!? そ、それに、あなた……それはつ、角ですか!?」


 すぐ側にいる犬人族達を見て、アルナーのことを見て狼狽し、哀れになるくらいに困惑しながらそんなことを言ってくる男に、アルナーは半目での視線を返す。


 似たような状況下にあったディアスは、もう少し落ち着いていたと言うか、冷静だったぞと男への評価を一段落としたアルナーは、雑な態度で言葉を投げかける。


「質問をしているのはこちらだ。お前のどうでも良い疑問は後にしろ。

 ……お前は一体何者だ、どうして冬だというのにこんな所までやってきた?」


 その態度と言葉を受けて、男はごくりと喉を鳴らす。

 そうしてから改めて周囲の様子を観察し……殺意を持たないまでも、相応の警戒心を持って睨んでくる犬人族達と、アルナーの手にある短刀を目にして……何処か諦めたような態度で言葉を吐き出す。


「じ、自分はサンセリフェ王国王宮の……あ、いや、今は無官だった……。

 さ、サンセリフェ王国民のヒューバートと言います。

 冬にここに来た理由は……陛下よりこの地の領主であるディアス殿を支えろと仰せつかり……陛下の想いを無下にしないためにも、一刻も早くディアス殿の下へと向かおうとした結果です。

 紆余曲折を経たのと、ここがこんなに寒い所だとは知らなかったというのもあってのことですが……」


「王国の……か。

 本当か? お前は本当にディアスを支えようとしているのか?」


「う、嘘をつく理由がありません。

 こんなところまで来て死にかけて……それでこんな嘘をついてどうなるっていうんですか……」


「ディアスを騙して接近し、害してその地位を奪うことを企んでいる……とか」


 そう言いながらアルナーはヒューバートのことを改めて観察していく。

 

 煤けた長い茶髪を首後ろで縛っていて、垂れた細目をエイマのとはまた微妙に違う、四角い眼鏡で覆っていて、細面で無精髭で。

 年は恐らく三十そこそこ、身長はそれなりのようだがどうにも貧弱な印象が拭えず、ちょっと力を入れたら折れてしまいそうな体をしている。


 そしてその細い身体は小刻みに震えていて……寒さよりも恐怖で震えているらしいその態度は、とても嘘をついているようには見えなかった。


「そ、そんなことしませんし、仮にそんなことをしてしまったら、地位を奪うも何も、自分は王国法の下、死刑ですよ……。

 よ、よその国の民であるあなた達は知らないことかもしれませんが……王国の領主とはそんな単純なものではないのです」


 震えながらなんとも情けない声を振り絞るヒューバート。

 そんな態度を受けてアルナーの半目が更に鋭くなる。


「ふんっ……何を勘違いしているかは知らないが、私もこの犬人族達も立派な王国民、この地の領民だぞ」


「……は? え? はぁぁぁぁ?」


「何しろ私はディアスの妻だからな、当然だろう」


 そんなアルナーの言葉に、ヒューバートは驚きに驚き、愕然とし……口を大きく開け放つ。


 その情けなさの極致にある表情を見てアルナーは、魂鑑定を使うことなく男への評価を決定し……こんなことも知らない、こんな男を警戒していたとはな……と、自分に向けてのため息を吐き出す。


 そうしてヒューバートへの態度を僅かに柔らかくしたアルナーは、目の前の男へのいくらかの同情心を抱きながら言葉を続ける。


「と、言うかだ。お前……ここに来るまでに隣領を通ってきたのだろう?

 そこでディアスの話を聞かなかったのか? ここの話を聞かなかったのか?

 話を聞いてさえいればこんな風にならずに済む、相応の術があっただろうに」


「い、いえ、あの、か、カスデクス領は、獣人に対する差別意識が強い地域でして……。

 じ、自分はこうしているとこれといった特徴もなく、傍目には分からないかもしれませんが、母方の祖父が獣人でして……それでその、カスデクス領に関しては人を雇い、馬車の積荷に隠れてさっさと通り過ぎましたので……」


「……隣領はもうカスデクス領ではない。

 ディアスの友人であるエルダンが領主となり、マーハティ領と名前を変えて……エルダンは獣人が人と仲良く暮らせるようにと、毎日頑張っているそうだ。

 積荷に隠れたりせず、エルダンに一言ディアスに会いに来たとそう言っていたなら……エルダンはお前のことを歓待し、馬と護衛、それなりの装備を用意してくれた上でここまで送り届けてくれただろうな」


 その言葉がとどめとなった。

 ヒューバートは衝撃の事実を知って……余計なことをしたせいで無駄な苦労をした上に死にかけてしまったという事実を知って、それを受け入れきれずに意識を手放してしまう。


 そんな情けない姿を見て大きなため息を吐き出したアルナーは、毛皮の端を引っ掴み……犬人族達に手伝ってもらいながら、一応病人だからとそれなりに丁寧に、ソリの要領でイルク村まで引きずっていくのだった。

 

お読み頂きありがとうございました。


次回はイルク村で……あれこれわちゃわちゃです。



そしてコミカライズ3巻の発売がいよいよ三日後! すぐそこまでやってきました!

早いところでは明日か明後日にも入荷があるはず?

色々オマケ満載ですので、ぜひぜひチェックしていただければと思います!

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― 新着の感想 ―
ヒューバートさん どんな獣人の血が入ってるんだろうね? 細くて気が弱いから草食動物系かな?
[一言] 色々成長してきたと思うんだが、やっぱりまずは蹴るんだ(笑)<アルナー
[一言] マイザー相変わらずろくなことしねぇな!!
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