雪原
登場キャラ紹介
・ディアス
主人公。人間族、冬服着用。森の中での狩りは大得意。
・マーフ・ティベ・マスティ
犬人族、マスティ氏族長、今回武器防具は持ってきていない。ディアスとお散歩嬉しいな。
登場語句紹介
・マタビの粉
最初期に登場、多くの黒ギーをかき集めた粉末、効能が凄いだけに……?
冬、というか雪の中での狩りは思っていたよりもずっと難しいものだった。
何しろ一面が真っ白の雪景色だ。身を隠せるものはなく、ただそこにいるだけで目立ってしまうような状況で、警戒心の強い野生の獣を狩るというのは尋常のことではない。
木や岩に隠れられたなら、あるいは弓矢が扱えたならもっと楽だっただろうに……と、そんなことを思いながら、鼻をばふりと雪の中に突っ込み、そこに残る獲物の匂いを探りながら前へと進むマーフの後を追いかけていく。
この雪しか無い雪原で、黒ギーなどの獣が一体何を餌にしているのかというと、その答えは何処か他の……たとえば森なんかに行って雪に埋もれてない木の葉を食べているか、雪の下に埋もれた草を探して食べているんだそうだ。
冷たい雪に覆われた草は腐りきることなく、アルナーが言うところの草のチーズのような状態で保存されていて……冬備えの際にアルナーが飼葉を必要以上に作るなと言っていたのはこれの為なのだろう。
そしてマーフはそんな草のチーズを食べる為に雪の中に顔を突っ込んだ獣達の残り香を探っていて……尻尾をくんと立ててゆらりと揺らしながら、獲物の方へと確実に歩を進めていく。
いっそのこと黒ギーを狩る時に使ったマタビの粉を使えたらと思う訳だが……アルナーによるとあの粉を使って良いのは春先だけなんだそうだ。
雪が溶けて春となって、この草原にたっぷりと草が生い茂った頃に、数を減らしすぎない程度に野生の獣を狩る為のものであり、そうしないと獣達がこの草原の草という草を……メーア達の食べる分までを食べ尽くしてしまうからと特例的に使用を許可されているのだそうで……ある程度まで獣達の数を減らしたら、以降は使うことを禁止されてしまうのだとか。
……まぁ、あれ程の効果がある粉を好き勝手に使っていたら、どんな結果になるのかは想像するまでもない話だ。
この獣狩りは、食料が十分にある時でも他の仕事で忙しい時でもやる必要があり……たったの一日で必要量の半分程を済ませた私の黒ギー狩りは、食料や毛皮といった実入り以外に、狩りに余計な男手を割かなくて良いという意味での利益もあったようだ。
「……しかし何も居ないなぁ、右を見ても左を見ても真っ白で……今日は雲が多いから、空も真っ白……いや、灰色か」
と、そんなことを言いながら、改めて草原の冬の厳しさというものを思い知る。
ただ寒いだけではない、何も無いからこそ何も手に入らないこの一帯は、獣が狩れなければあっという間に飢えてしまう……そういう場所なのだろう。
もし十分な冬備えが出来ていなかったなら、何かを狩らなければ飢えて死ぬという状態でこの一面の雪景色を目にしたなら……その時の絶望感は想像を絶するに違いない。
アルナーが冬備えの際に張り切っていたのも……しっかりと備えが出来ていることを喜んでいたのも、全てはその絶望を知っているからこそのものなのだろう。
改めてこの草原で生きていくということがどういうことなのかを実感し、皆を飢えさせることのないように頑張っていこうと、領主としての覚悟を心に刻んでいると、雪の中に顔を突っ込んでいたマーフが、すっと顔を上げて、さらさらの雪まみれの顔をこちらに向けてくる。
「ディアス様……何か変だ……です。
何かが近くに居るはずなのに。分からない、何処にいるのか……。
それにこの匂い……なんか知ってる匂いな気がし……します」
そう言って首を傾げて……顔と身体をぶるぶると震わせ、毛にまとわりついていた雪を振り落とすマーフ。
その姿を見やり、周囲を見やって……マーフの鼻が間違うとは思えないなと、目を細めながら近くに居るはずの何かを探す。
すると、真っ白な雪原の中に……もこもことした震える何かが紛れ込んでいることに気付く。
真っ白でふわふわで……ああ、なるほど、彼らの毛が白いのはああやって雪に紛れる為なのかと納得をした私は、それに向かって出来るだけ柔らかくした声で優しく語りかける。
「怯えなくても大丈夫だ。お前達のことを襲ったりはしないから」
言葉の意味は通じないだろうが、賢い彼らならばこちらの意図を汲み取ってくれるだろうと思ってのその一言は、しっかりと彼らの耳に届いたようで……雪の中からばふりと二人のメーア達が姿を見せる。
「その様子からすると夫婦か? やはり野生だと痩せてしまっているなぁ……。
……どうだ? 私の村に来るか?」
野生のメーアが人と共に暮らすかどうかは本人達の判断に委ねられる。
強制も無理な勧誘もなし、あくまでメーア達が自分で判断しなければならないのだ。
「メァー……」
夫と思われるメーアがそんな声を上げてなんとも悩ましげな表情を見せる。
私を見てマーフを見て、そして隣に寄り添う妻を見て……うんうんと頭を悩ませる。
その様子を見ながら私は、焦らせることなくメーア達が決断を下すのを見守ろうと……静かに微笑み、じっとメーア達のことを見つめる。
……と、その時、メーア達の背後、雪原の向こうから黒い何かが駆けてくる姿が視界に入り込む。
その勢いは尋常では無く、明らかな殺気を放ちながらメーアに狙いを定めていて……私はすぐさまに駆け出し、マーフに声をかける。
「マーフ! メーア達を守れ!
あれは私がなんとかする!!」
そう言って私は肩に担いでいた戦斧の柄をしっかりと握りながら黒い影の方へと駆け進んでいく。
モンスターか、それとも肉食獣か。
どちらにせよメーア達を雪の中から引っ張り出し、アレの目に触れさせてしまったのは私だ……そうである以上は見てみぬ振りは出来ないだろう。
さらさらした雪を踏み、雪を蹴飛ばしながら突き進み……四つ足で駆ける黒い影を間合いに捉えるなり、戦斧を左から右へと横に振るう。
が、直撃はせず、周囲に雪が舞い飛ぶ中……その一撃を回避した黒い影が私の方へと突っ込んできて、
「ガァァァァ!!」
との咆哮を上げながら私の喉元に食らいついてこようとする。
それを受けて私は……あえて空振った戦斧を全力で、今度は右から左へと振るい、その一撃で黒い影を真っ二つにする。
「その動きはマーフ達との鍛錬で慣れた! お前達では相手にならないからさっさと帰るが良い」
私のその声は、今しがた真っ二つにした黒い影へ向けたものではなく、その後方で唸り声を上げている他の黒い影へと向けたものだった。
黒い毛の狼なのか、それとも狼型のモンスターなのか……その数は8匹で、仮に狼だとするならかなりの巨体となっている。
マーフよりも大きく、立ち上がったらクラウス程の高さがありそうな程の巨体で……その牙も爪も異様にするどく、その見た目からするとやはりモンスターだろうか?
賢い狼であれば今の一撃を見て引くはずだが……その黒い影達は少しも殺気を鈍らせることなく、唸り声を上げながら私のことを睨みつけていて……そうして一斉に私に狙いを定めて飛びかかってくるのだった。




