本格的な
登場キャラ紹介
・ディアス
主人公、比較的温暖な王国の冬しか知らない。
・ナルバント
洞人族の鍛冶職人、いつもは洞の中での冬越えをしている……?
・オーミュン、サナト
ナルバントの妻、息子
・フランシス一家
ユルトの中でずっとぬくぬく。野生? なにそれ? 状態。
ナルバントと共にイルク村へと戻り、竈場で訓練をしていた皆に挨拶をし、アルナーにこれでもう薪を使う必要はないそうだとの報告をし……そうして私達は村の南の工房へと足を運んだ。
途中ナルバントから持ってくるようにと言われた私の鎧……ディアーネ達とのあれこれでボロボロになってしまった鎧を荷車に積み込んで、工房に到着するとすぐにオーミュンとサナトがどすどすと駆けてきて、トレントの素材や魔石を回収し、魔石炉に火を入れる為か慌ただしく動き始める。
その様子を見て満足そうに頷いたナルバントは、荷車の上から私の鎧の、ブーツの部分を手に取って……爪先の辺りを触ったり叩いたりし始める。
「随分とまぁ雑な造りをしておるんじゃのう。
これではガタガタと歩く度にやかましかったろうに?」
適当なトレント材の上に腰を下ろし、片目を瞑ってブーツのことを睨みながらそんなことを言ってくるナルバントに私は首を傾げながら言葉を返す。
「それはまぁ……鉄の鎧なんだから音くらいはするものだろう?」
「何を言っておるんじゃ、真っ当な鎧ならば余計な音などしないのが当たり前、音を立てている時点でそんなもんは三級品じゃ。
音を立てているということは、それだけ余計に部品がぶつかりあっているということにもなるからのう、余計な音で敵に見つかってしまうということも考えればまともな品とは言えんのう」
と、そう言ってナルバントは手にしていたブーツを投げ出し、肩当てや膝当て、胸当てを手にとって確認し……大きなため息を吐き出す。
「坊はこれを長い間愛用してきたとか言っておったが、よくもまぁ長い間これを使えていたと感心するばかりじゃのう。
造りが悪いだけじゃなく鉄の質も良いとは言えん、これではギリギリ鎧の形をした鉄板を身につけていたのと大差ないわい」
ため息の後に続いたそんなナルバントの言葉を受けて私は……それこそが鎧なのでは? と、鉄板を身につけたものこそが鎧なのでは? と、首を右から左へ、左から右へと傾げる。
するとそんな私の態度を見たナルバントは大きなため息を吐き出し……手にしていた鎧の部品を雑に投げ出し、工房中央にあるユルトへと足を向けて……ユルトの中から不思議な形をした鉄製の何かを持ってくる。
「これは手すさびに作った品じゃが、こういったしっかりとした造りのもんを真っ当な防具と、真っ当な鎧と呼ぶんじゃ。
手にとってみて、これを鉄靴として履いたらと想像してみるが良い」
そう言ってナルバントは鉄製の……靴の爪先といった形の物を差し出してきて、私はこれがそれ程の物なのか? と訝しがりながら手に取り……その仕組みというか、出来具合を確かめる。
何枚もの薄い鉄板を重ねて鋲を打って固定し、まるで蛇の腹のようになめらかにというか、うねるかのように動いてくれて……更に鉄板一枚一枚に模様のようにも見える溝が作られていて、その溝のおかげで何重にも重ねられた鉄板が、溝に促されるまま、滑るかのように音を立てずに動いてくれる。
これだけではただの爪先だが、同じ造りのものを何個も組み合わせていって、靴にし、ブーツにし、全身鎧にしたなら……それはもう滑らかに動く、動きの邪魔になることのない、かなりの出来の鎧になるだろうことが想像出来る。
「どうじゃ? 中々のもんじゃろう?
何かを作る際に大切なのはな、既に存在している物を参考にし、そこから習うことなんじゃ。
蛇やトカゲにドラゴンに、この世界には鱗という名の鎧をその身にまとった状態で生まれてくる生き物がたんとおるからのう。
奴らを解体する際に鱗がどう生えているのか、どう組合わさっているのかを観察すると……まぁ、こういうもんが出来上がるということじゃ。
これに比べたら坊の使っていた鎧がいかに雑な品なのかが分かるじゃろう。
……アレを直すくらいならば、いっそ鋳潰して一から作り直した方が良いかもしれんのう」
「……そう言えば犬人族達のマントも、アースドラゴンの素材を魚の鱗のように張り付けていて、無理なくしなやかに動けていたな。
鎧がそうなったら……確かに動きやすいのだろうし、楽になる部分も多そうだ。
……その鎧を鋳潰すのは全く構わないから、ナルバントがしたいように、作りたいように作ってくれて構わないぞ」
と、私がそう言うとナルバントは「おうさ」とそう言って、ふさっと髭を揺らしてにっこりと笑い、荷車を引いて火入れが始まった魔石炉の方へと足を向ける。
それから少しの間、ナルバント達の作業を見守っていた私は……これ以上ここに居てもやることは無さそうだと、ナルバント達に一声かけてからその場を後にする。
当分の間の魔石が手に入り、鎧が直せるようになり……鉄製品が色々と作れるようになれば、これまで鬼人族達に頼っていた部分が自分達で出来るようになって、色々なことが楽になるだろう。
更にあんな奇妙な仕掛けを作り出せるナルバント達のことだ、私達が思いもよらぬ物まで作ってくれそうだなと、そんなことを考えながら広場の方へと歩いていると……一際冷たい風が拭いてきて、すっと目の前を白い何かが通り過ぎていく。
それからまた風が一弾と冷たくなり……もしかして? と空を見上げると、空から小さなサラサラとした雪が降ってきていて……私は思わず「おお……」と声を上げる。
雪が降るのはもう少し先のことだと思っていたのだが、もう降ってくるとは……いつの間にか本格的な冬が始まっていたらしい。
アルナーの話によるとここらの雪は一気に降るのではなく、少しずつ薄っすらと積み重なっていって……ふと気が付いた時には厚く地面を覆っているものらしい。
これからこの冬枯れの光景もそうやって白くなっていくのかなと、そんなことを思いながら私は……自分達のユルトへと駆けていく。
服にうっすらと積もった雪を綺麗に払ってからユルトに入ると、尚も火に当たったままのフランシス達と、先に戻っていたらしいアルナーとセナイとアイハンとエイマの姿があり……私は、
「雪が降ってきたぞ、すっかり冬だなぁ」
なんてことを言いながらいつもの定位置に腰を下ろす。
するとアルナー達は一斉に手にしていた裁縫道具や、編み針を掲げて見せて……エイマまでもがいつの間に用意したのか自分サイズの編み針を見せてきて、そんなことは分かっているぞと、自分達はとっくのとうに冬仕事を始めたぞと、示してくる。
それを見て私は、頭を一掻きしてから……自分も何か家の中で出来る仕事を見つけるべきかと、そんなことを思うのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回は雪が降る中の生活やら何やらになる予定です。




