寒い日の朝
・登場キャラ紹介
・ディアス
人間族。王国は比較的温暖なので、雪が降る前から既に寒がりモード
・アルナー
鬼人族。アルナー的にはまだまだ秋の終わりという感じ、雪が降ってからが本番
・フランシスとフランソワ
寒くなったことにより六つ子達が少しだけ大人しくなって、育児がほんの少しだけ楽になってきた
・ナルバント一家
洞人族の一家。イルク村の工作担当、南の工房で何かしているらしい。
「おう、朝だぞ、起きろ」
寒い日の朝は、そんな伯父さんの声で一日が始まる。
すっかりと火付け杖係となった伯父さんが、いつものように竈に火を入れに来てくれたのだ。
そうやって伯父さんは村中の竈に火を入れて、竈場に火を入れて、時には広場や倉庫の側に焚き火を作ってくれたりもしていて……それらの火の熱があるおかげでこの寒さの中でも、冬の季節の中でも頑張っていこうという気分になることが出来る。
ちなみに竈が無いユルトの場合は、床布を切り取って地面を露出させて、そこを軽く掘って鉄の枠を置くことで火をおこす為の場を作るんだそうだ。
脚付きの丸い鉄枠といった形のそれを掘った地面の上に置いて、その枠の中に薪を置いて火を点けて、枠の上に鍋やポットを置いたりもする。
後は換気に気をつけながら一日が終わるまでその火を絶やさないようにするか、ユルトから出かける際に土をかけることでしっかりと火を消し、ユルトに戻る際に何処かから種火を貰ってきて再点火し……春が来るその日まで毎日それを続けて、身体を冷やしすぎないように気をつけることが、ここでの冬の暮らしにおける何よりも重要なことなんだそうだ。
『身体を冷やせば身体が弱るのは当然として、心まで弱くなってしまう。
身体も心も弱り切ると、寒さに勝てなくなってしまう』
とのアルナーの言葉を思い出しながら、伯父さんが点けてくれた竈の火の熱さをたっぷりと浴びて……そうしながら冬服に袖を通し、隙間が出来ないように、変に着崩さないようしっかりと整える。
そうやって私が冬服を着終えると、それを待っていましたとばかりに竈の前にフランシスとフランソワと六つ子達がサササッとやってくる。
竈の熱を受けるのに丁度いい、程々に距離を取った場所に並んで座り、その毛をわさわさと揺らすことでその中に竈の熱を取り込んで……そうやって全身を温めたならほふぅとため息を吐く。
本来メーアは雪の降る寒空の下であってもその毛のおかげで耐えることが出来るのだが……それはあくまで寒いのを我慢しているだけであり、火の力で暖が取れるならばそれにこしたことは無い、とのことだ。
しかもその毛は、一度取り込んだ熱を溜め込んでおける力があるとかで……竈の熱や太陽の熱を取り込むことで結構な時間、体を温めてくれるんだそうだ。
火を恐れるのではなく、上手く利用し、利用しながらも適切な距離を取れるのはメーアの賢さがあってのことなのだろう。
たまにではあるが、火に近付きすぎたせいでその髭や尻尾の毛を焦がしてしまった犬人族の姿を見かけることがあり……その姿を見る度、メーアは本当に賢いのだなぁと痛感する。
あるいは犬人族達のうっかりが過ぎるという考え方も出来るが……まぁ、その両方なのだろうなぁ。
「フランシス、フランソワ、少し出てくるから、火を見ておいてくれ」
冬服のフードをしっかりと被った私がそう言うと、フランシスとフランソワが同時に、
『メァ~~』
と、血色の良いほくほく顔をしながら声を返してくる。
何かがあった際、フランシス達が火を消すことは難しいだろうが、大きな声を出すことは出来る。
そしてイルク村には耳の良い皆が居る訳で……フランシス達の大声を聞きつけてすぐに駆けつけてくれることだろう。
こういったことを頼めるのも、メーアの賢さあってのことだなと、そんなことを考えながら……ユルトの中に残りたいという気持ちをぐっと抑えながらユルトの外へ出て、井戸の側へと向かう。
冬でも一定の温度を保っている井戸の水で顔を洗い、身支度を整えてから水くみを始めて……寒い外と暖かいユルトの中を何往復かして、そうして瓶をいっぱいにしてから竈場へと向かう。
今このイルク村の中で一番賑やかな場所はこの竈場だ。
私よりも早く起きたアルナーとセナイとアイハンとエイマ。エリーとカニスと婆さん達に婦人会の面々、子供達にガチョウまでが集まっていて……そうやって火の絶えない竈場の暖かさを思う存分に堪能しているようだ。
料理や洗い物だけではなく、洗濯も針仕事もちょっとした雑談も、子供の世話もこの竈場で。
夜になれば流石に火が落とされて解散となるようだが、その時まではここが皆の仕事場であり憩いの場という訳だ。
ここが私が想像していた以上に広く作られたのは、こういった用途を想定してのことだったのかもしれないなぁ。
そんな竈場へと到着したら皆と挨拶をし、何か問題は無いかとの確認をし、手伝えることがあるかの確認をして……そうしてから朝食の準備を手伝う。
寒い季節の食事は、それぞれのユルトで暖を取りながら行うことになる。
これまでは皆で一緒に食事をしながら日々の報告を済ませていたので、今のこの時間がその代わりという訳だ。
薪の消費量も食料の消費量も問題無し、体調を崩したものもいないし全てが順調……かと思っていたのだが、手伝いをしている私の下へと、何か話があるのかそっとアルナーが近付いてくる。
「……ディアス、少しだけ気になっていることがある。ナルバント達に関することだ」
近付いてくるなり小声でそう言ってきたアルナーに、私は首を傾げながら「何だ?」と返す。
「ナルバント達が作った南の工房、あそこでの薪の消費量が少し多すぎるようなんだ。
森の木全てを薪にする訳にはいかないし、このまま行くと黒水を使わざるを得なくなってしまう。
……そうなる前に注意しておいて貰えないか?」
「……注意自体は構わないのだが、その黒水というのは一体何なんだ? 今まで見たことも聞いたこともないが……」
「ああ、そうか……。ディアスはそうだったな……黒ギーからいっぱい油が取れたのと、エルダンが良い油を融通してくれたのもあって、今までランプでも使っていなかったものな。
……黒水はこう、南の荒野の地面に湧く真っ黒い油の一種で、ランプに使ったり、専用の道具を使えば暖を取ったりもできるものなんだが……これがまた酷い臭いなんだ。
そのままでも臭いし、燃やしたら尚のこと臭いしであまり使いたいものではないんだ……」
そう言ってアルナーは、竈の隅に置いてあったランプを手に取り、その縁を指で撫でる。
取っ手付きのコップに、細長いクチバシをつけたような形のそのランプは、コップ部分に油を入れて、クチバシ部分に油を吸う麻ひもを乗せて、麻ひもに油を染みさせながらその先端に火を灯すという形になっている。
するとどういう訳か麻ひもはじわじわとゆっくりと油を吸いながら燃えてくれて、それが夜の灯りになってくれるという訳だ。
そして鬼人族達は、十分な量の薪や油が用意できなかった際に、このランプやその暖を取る為の道具の燃料として、その黒水に頼ってきたそうなのだが、それがもうとにかく酷いくらいに臭いらしく、貧しい時にだけ頼る物だということもあって……その臭いは忌み嫌われているんだそうだ。
「……確かにユルトの中にそんな臭いが充満するのは、私も勘弁だな……。
よし分かった、食事が終わったらナルバント達の所へ行って注意しておくとするよ」
と、私が言葉を返すと、アルナーは少しぎこちないながらも柔らかな笑顔を浮かべてくれるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
ちなみに黒水は、そういうものがある地域と文化という紹介が目的での登場ですので、今後そこまでの活躍はしない予定です。
次回はナルバント達がやってるらしい何かについてとなります。
そしてお知らせです。
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コミックアース・スターさんにて読めますのでまだの方はぜひぜひどうぞ。
外伝集のSSや、一話遅れですがニコニコ静画さん、pixivコミックさんでの公開も同日にされていいます。
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