一段落
・登場キャラ紹介
・ディアス
主人公、どうやら弱点があったらしいが……?
・アルナー
ヒロイン、色々あって色々な模索をする契機となった。
・クラウス
新婚の領兵長、人間族。見回りと鍛錬で忙しかった。
・エリー
元商人、ディアスに育てられた元孤児、今回一番の功労者。
・ペイジン・ミ
フロッグマンの商人、帽子とベスト、首さげ鞄姿のペイジン家三男。
・キコ
血無しの子を持つ母親、狐人族。
・ナルバント、オーミュン、サナト
新しく領民となった洞人の一家、全員立派な髭を生やしている、背は低く筋骨隆々。
オーミュン達と共にイルク村へと戻り、村の案内と行き交う皆への紹介をしながら村の西端へと向かうと、セナイとアイハンに見守られながら細工仕事をしていたナルバントが、手元に視線を落としたまま声をかけてくる。
「おうおう、やぁっと戻ってきたか。
坊の分の細工はもう少しで仕上がるからのう、そこで待っておれ」
そう言って手にしていた小さな槌を振り上げ、手元の何かをカツンカツンと叩くナルバント。
その様子を見て、先程見かけた鉄や銅の地金のことを思い出し……まさか火も炉も無しにそれらの加工をしているのだろうか? と、ナルバントの側までいって手元を覗き込むと、そこには小さな金敷があり……その上に手の平ほどの大きさの銅製の丸板が置かれていた。
その丸板には月の満ち欠けを表現しているらしい、複雑な模様が刻み込まれていて……ナルバントが槌を振り落とす度に、鮮やかな色の火花を散らし、模様がよりはっきりとしたものへと変化していく。
火も炉もなしに、ただ槌で叩くだけでどうしてそんな変化が起こるのだと困惑していると、そんな私の様子に気付いたらしいオーミュンが声をかけてくる。
「あれはね、銅によく似ているけど銅では無いのよ。
というかさっきも言ったでしょう? お髭を使うことでお守りを作ることが出来るって。
あれの正体はね、魔力で精錬をすることで魔力での加工をしやすくした私達のお髭と、いくつかの金属を混ぜ合わせたものなのよ。
鉄のように見えるものも同じものね。混ぜる金属の違いでああいった色の違いが出るのよ」
その言葉を受けて私と、私の側で様子を見守っていたアルナーがなんとも言えない複雑な表情で驚いていると、オーミュンはそう反応することは分かっていたとばかりに笑って、言葉を続けてくる。
「他の種族達にこの話をすると、毎度毎度そういう反応をされちゃうのよね。
でもね、よぅく考えてみて、貴方達だって普段から獣達の毛を服にしたり、骨や牙を装飾品にしたりして身につけている訳でしょう?
お髭だってそれと同じこと……加工のしやすさと便利さを思えば利用しない方が嘘ってものでしょう?」
確かに今着ている服はメーアの毛を紡いだもので、それと同じことかと私が納得している中……アルナーは納得しきれていないのか、微妙な顔をし続ける。
それを見てオーミュンはくすりと笑う中、ナルバントが槌を激しく叩きつけながら大きな声を上げる。
「むっはっは! ま、今は無理でもそのうち慣れる!
……その点、こっちの娘っ子共は順応が早いのう!
素材が何であるかなんぞ気にもせんで、魔力で加工できるのなら自分達にも出来るはずじゃと、儂の技法を盗んでやろうとさっきからずっと目を輝かせておるからのう!」
言葉の通りセナイとアイハンの目はキラキラと、今までにない程に輝いていて……その目をじっと見つめたアルナーは、ふっと表情を柔らかくし、二人の側へと近付いていって、魔力がどうとか、あの模様が二人のリクエストによるものだとか、そんな会話をし始める。
それに続く形でオーミュンとサナトもナルバントの側に近付き、親子夫婦の会話を始めて……その様子を見つめながら、さて私はどうしたものだろうかと頭を掻いていると、市場の片付けを終えたらしいペイジンが、ペタペタと足音を鳴らしながらこちらへとやってくる。
「ドウモドウモ、挨拶が遅レテシマイマシテ。
ペイジン・ミ、ト申ス者デス、ドウゾヨロシクオ願イシマス。
……ソレト、コノ度ハ本当ニオメデトウゴザイマス」
両手を揉み合わせながら、ペイジンの一族の中でも一段と聞きづらい声でもってそう言って来たペイジン・ミに、私は首を傾げながら言葉を返す。
「あ、ああ。こちらこそよろしく頼む。
……それでその、おめでとうというのは一体……?」
「ンン? アチラノ鍛冶師殿ヲ雇ワレタノデショウ?
コンナ草原デ、鍛冶モ何モ無イダロウト、思ッテイマシタガ、アノヨウナ魔力ノ鍛冶トナレバ話ハ別。
鍛冶トイウ、発展ノ礎ガ整ッタトナレバ、コレハモウ、オメデタイトシカ言イ様ガ無イデショウ!
今回ハ鍛冶師殿ニ品揃エガ悪イト叱ラレテシマイマシタガ、次回ハ鍛冶師殿ノゴ希望ニ沿ウ品モ揃エサセテ頂キマスヨ!」
そう言ってペイジンは首下げ鞄から何枚かの紙束を取り出して私に見せてくる。
それはエリーが書いた注文書のようで……その内容を私が確認し終えるとにっこりと微笑んだペイジンが握手を求めてきて、私はそのしっとりとした手をしっかりと握り返す。
それで契約が成ったということなのだろう、ペイジンは大きな口をぱかりと開けての笑顔となって、まるで宝石をそうするかのように注文書を鞄の奥へとそっとしまい込む。
そうしてペイジンは丁寧な仕草で頭をぐいと下げて、鬼人族の村の方へ行っている者達と合流する為、これで失礼するとの挨拶をしてくる。
もうそろそろ夕暮れ時、一晩くらいゆっくりしていったらどうかとも思ったが、仲間を待たせているということであれば、無理に引き止めることは出来ないだろう。
そしてペイジン達が帰るということは当然、一緒に来たキコも帰るということで……別れの挨拶をする為なのだろう、馬車へと戻っていくペイジンと入れ違いになる形でキコがこちらへとやってくる。
「この度はお忙しい中、個人的な我儘のお相手して頂き本当にありがとうございました」
やってくるなり頭を深く下げてそう言ってくるキコに、私は頭を掻きながら言葉を返す。
「慌ただしいばかりで、あまり話を出来なかったが……キコの子供を思う気持ちはよく理解したつもりだ。
キコの子供達がこちらにやって来たならそのことを忘れることなく……村の子供達と同じように接することにするよ」
「……それはとてもありがたいお話ですが、もう少し厳し目に、きつく躾けてやるつもりでも構いません。
貴殿のお心の有り様は充分に見させて頂きましたし、後はもうただただ信頼し、お任せするばかりです。
……また機会に恵まれましたらお会いすることもありましょう、それまでどうかご壮健であられますよう……」
そう言ってキコはもう一度ゆったりと頭を下げてから馬車へと戻っていって……馬がいななき、ゆっくりと馬車の車輪が回り始める。
そうして鬼人族の方へと去っていく馬車の見送りを終えて……今日はいつになく慌ただしい日だったなと、ため息を吐き出していると……、
「ちょっと! お父様!
荷物の片付けがまだなんだから、そんな一仕事終えたーみたいな空気を出さないで頂戴!」
と、荷物の片付けを頑張っていたらしいエリーの声と、
「坊! 用事が済んだならさっさとこっちへこんかい!
坊に合わせての調整をせんと完成にならんし、まだまだやらねばならんことはたくさんあるんじゃぞ!」
なんてナルバントの声と、
「あーー! キノコ! キノコを料理するの忘れてた!!」
「きのこーーー!!」
セナイとアイハンの絶叫に近い悲鳴と、
「ディアス様! 見回りにいっているうちに領民が3人も増えたそうじゃないですか!
ということは今日は宴ですよね!」
クラウスの声が響いてくる。
それらの声を受けて私は……どうやら慌ただしい一日はまだまだ終わらないようだと、再度のため息を吐き出すのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回は別視点となる予定です。
そして第4巻についてですがー……今回は新情報特に無しです!
4月の頭に公式サイトの公開含め、色々とある予定ですので、ご期待頂ければと思います!