只人と洞人を繋ぐお髭
・登場キャラ一覧
・ディアスとアルナー
いつもよりもちょっとだけ距離が近い
・オーミュン
洞人、白髪、白髭、皺の深い老婆といった見た目
・サナト
洞人、茶髪、茶髭、皺は無く筋骨隆々
「アルナー。魔法なんてのはただの道具だ。
確かに便利なものかもしれないが、通じなくなったとしても、使えなくなったとしてもなんとかなるものだし……私なんて生まれてから今日までの間ずっと、そうしてきたんだぞ」
私がそう言うと、アルナーはようやく顔色を変えて驚いたような表情をこちらに向けてきて……そうしてから私の顔をじぃっと見つめてきて、そうかと思ったら唐突に小さく吹き出し、何があったのか表情を一転させてからからと笑う。
「た、確かに……確かにディアスの言う通りかもしれないな……!
ディアスが何を考えているかは、今みたいにその顔をひと目見ればそれで分かるし……魔法なんか使わなくても、それで十分なのかもしれないな……!
魔法なんかなくても、その顔で……嘘のつけないその顔でディアスはこれまでを生き抜いて来たのだからな……!」
笑いを含んだ声でそう言って、更に大きく笑って……一体全体何がそんなにおかしいのか笑いに笑って、そうするうちに洞人達……オーミュンとサナトが荷車を引きながら私達の側までやってくる。
「あんらあらぁ、物凄い顔をしたかと思えばすっかりと良い笑顔になっちゃって、お二人はとっても仲良しなのねぇ。
それでも謝らせて頂戴ねぇ、アタシのお髭が失礼しちゃって驚かせちゃったわねぇ、ごめんなさい。
えぇっと……名前を知らない只人さんと、石……じゃなかった、宝石のお嬢さん?」
そう言ってその太い首を傾げるオーミュンに、私は慌てて自己紹介と私が領主であるとの説明をし、アルナーの紹介も一緒に済ませる。
「そう、アナタはディアス・メーアバダルさんと言うのね。
そしてそちらがアルナー・メーアバダルさん……。
アルナーさん、改めてごめんなさいと言わせていただくわねぇ。
……アタシ達のお髭は、そこにあるだけで魔法を弾いちゃうというか、受け流しちゃう性質なのよ。
だからアタシ達にそういう魔法を使う時は、アタシ達のお髭の毛先に注目すると良いわよ」
そう言われてオーミュン達の髭の先に注目してみると……その先端部分が宝石の粉を散りばめでもしたかのように、キラキラと煌めいていることに気付く。
更によく髭を見てみれば、その表面を滑るかのようにして光が走り、髭の先端へと集まっていて……これが魔力の光なのだろうか? と、私が顔を近づけると、オーミュンがそのゴツゴツとした手の平をぐいと私の顔の前へと突き出してくる。
「こらっ、魔力を持たない子が、そんな迂闊に魔力に近づこうとしちゃ駄目でしょっ」
オーミュンのその言葉を受けて、私がアルナーに「そうなのか?」との視線を送ると、アルナーは首を左右に振って「何のことだかさっぱり分からない」と伝えてくる。
するとオーミュンは大きなため息を吐き出してから、母親が幼子を嗜めるかのような調子で言葉を続けてくる。
「魔力を持たない子はね、魔法にとっても強い反面とっても弱いから、魔力そのものに近づかない方が無難なのよ。
……ってもう、二人して全然意味が分からない顔をしちゃってまったくもう……。
えーと、そうねぇ、どう話したら分かりやすいのかしらねぇ」
そう言ってオーミュンは、その人差し指で顎……のある辺りの髭をトントンと叩いてから、身振り手振りを混じえての説明をし始める。
「んー……毒の魔法を知っている?
あれは毒そのものを相手に付与するのではなく、相手の体内にある魔力をかき乱すことで、まるで毒を受けたかのような症状を引き起こす魔法なのよねぇ。
で、魔力の無いディアスさんは、そういった魔法全般にとーっても強いの、乱れる魔力がそもそも無いから。
逆にさっきアルナーさんが使ったような、魔力ではなく相手自身……その肉体や魂に干渉するような魔法には、抵抗する魔力が無いせいで全くの無防備になってしまうの。
下手をすれば赤ちゃんのお遊び魔法で命を落としかねない程に……ね。
その弱さと儚さは神々が深く同情し、只人にしか扱えない神具と、只人の為の神域を用意してくださる程で……そ・し・て、そんなにも弱々しい同胞の為に、アナタみたいな子の為にってあの只人が約定を遺した、という訳なのよ」
その説明を受けて……私が分かったような分からないような、そんな表情で首を傾げる中、『命を落とす』という部分に特に強い反応を示したアルナーが険しい表情でオーミュンのことを睨みつける。
「あらあらまぁまぁ、ディアスさんは愛されているのねぇ。
でも大丈夫、もう大丈夫! アタシ達が来たからにはもうそんなことにはならないから!
アタシ達の洞人のお髭はね、洞窟の中で暮らしていく為の特別な力を持っているの。
暗闇でも鋭敏に反応することで目の代わりになってくれて、山の中に埋もれる毒気や瘴気を感知することが出来て……そしてそれを口鼻から吸い込んでしまう前に吸収して無毒化することが出来るものなの。
そうした特別な力のついでに、ついさっきやってみせたように魔力を受け流すことも出来て……そしてこのお髭を上手く使えば、只人を危険な魔力から守ってくれる『お守り』を作ることが出来るって訳なのよ。
早速とばかりに夫がそのお守りを作り始めてるはずだから……アタシ達も合流して手伝わないとだわねぇ、一刻も早く愛深いアルナーさんの心配を取り除いて上げないとだわねぇ」
そう言ってオーミュンは、荷車の持ち手を掴み、のっしのっしと歩き始める。
その側で成り行きを見守っていたサナトは、オーミュンを追いかける形で足を進めていって、横目で見やりながら私達に声をかけてくる。
「オレとしちゃぁ、古臭い約定なんてもんは知ったことじゃぁないんだが……あの石頭親父がアンタを認めたようだし? お袋もこうして乗り気だからな、仕方なくだが力を貸してやるよ。
だが良いか! 勘違いはするなよ! オレにとっちゃぁ只人なんて知ったことじゃないんだからな!
……只人の作る酒が、洞の中の酒よりも美味いって聞いて以来、洞を出る機会を待ってたとかじゃぁないからな! オレは誇りある洞を愛する洞人だ、そこんところを勘違いするんじゃないぞ!!」
そう言ってのっしのっしとオーミュンを追いかけていくサナトの背中を見送っていると……アルナーがぼそっと、私だけに聞こえるように言葉を漏らす。
「……本当に魔法は必要ないのかもしれないな。
今のがちょっとした嘘で、そしてサナトが青であることは、鑑定するまでもなく明白なのだからな……」
そんなアルナーの言葉を受けて、私は思わず吹き出してしまい、先程のアルナーのような笑い声を上げてしまうのだった。
お読み頂きありがとうございました。
次回はお守りについてになる予定です
そしてお知らせです。
明日26日はコミカライズ最新話の更新日です!
ニコニコ静画での更新と、アース・スターコミックでの更新と
外伝集での告知SS更新にご期待ください!
4巻についてはー……4月頭に新たな情報が出るかと思いますので、それまでお待ち頂ければと思います。




